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27話 『最後の自由を!!』

生物を縛るな。

生物を支配するな。

生物を―――

―――クラディ 視点―――


俺が、姫様達との話し合いを終え部屋からでると一人の男。この国の兵士の緊急時用の服を着ている男に呼び止められる。


「ククク、久しぶりだなぁ」

「ん?あ!……えぇと、なんて呼べばいいかな?」


気づいたのだが何て呼べばいいのかわからないので一応聞いておく。

この国の兵士になったのなら名前を聞かれるはずだ。

姫様から、兵士になったと聞いてはいたが重要な部分。名前を聞くのを忘れていた。


「ナシル。そう呼んでくれ」

「わかった。で、何か用?」

「あぁ、ククッ、俺もこの世界の終わりってのに興味があってね」


その口調は何処か何かを馬鹿にしているような口調。

そして、俺たちに何かを隠しているような……そんな感じだ。


「まぁ、コイツを持っていきな。一応武器でも持っていたほうがいいからな。ククク」


そう言って、一般兵士用の剣を渡される。

鞘にはこの国の紋章。己の階級が彫られていて、一般兵士は甲冑だ。

その次は、剣。その次が、王冠。

特殊な職業ごとに違う。


「剣術使えないけど、一応もらっておくよ。丁度姫様に武器を調達してこいって言われてたところだし」

「クハハハハ、お前ら最高に面白いな。ククク、世界の終わりが来ても前向きにな。ククク」


そう言って去っていくナシル。

……とりあえず、剣を腰に付ける。


「……似合わないな……」


剣士に見えなくも無いが、動作がまるっきり素人だとわかる。

知識だけじゃやっぱり世界は渡れないな。


「っと、まだまだやる事が残っているんだった」


城はいつでも人を収納できるように準備をしなければいけないし、そのために食糧や寝床、見張りなど、さまざまな人が動く事になる。

見張りがいるのは死ぬ人がでないようにだ。

いつでも最善を尽くすのが現在の王。オリエル王なので、そこに異論は無い。

だが、敵と戦う為の戦力が少なくなるのが痛い。


「しょうがないか。とりあえず、俺は俺でできる事をしよう」


剣術もできる時間があればしたいが、今のところはできる予定無しだ。

大きな人が動くため、能力を使って一気に育つ野菜の種、寝床などを作らなければいけない。

こういった、この世界の平均的な技術でできない事はなるべく避けたいのだが今回は仕方がない。

それに、逃げ場が無くて困るのは国民だ。安心できる場所を提供できる状態にしておきたいと思う。


「ふぅ、さて、無駄に場所を取る闘技場は撤去して……そうだ、ミケの世界で見たマンションとか言うのを建てよう」


アレなら長持ちすると言う話だし、ガスとか何とか色々居るものがあるみたいだけどこっちで料理して出すだけなのでそんなものはいらない。

それに場所を取らずに大人数を収納できる。

ただ、空に伸びていると言うのが危なっかしいのだがたぶん大丈夫だろう。


「俺の能力じゃあ直接攻撃できないしな……」


神そのものの力があれば可能だろうが、生憎と半分しか混ざってない中途半端な今現在の状態では無理だ。

相手は世界の神と同等。世界の神の半分の力しか持たない俺が勝てるはずが無い。


そんな思考にふけていると、闘技場が見えてくる。

とりあえず破壊すると周りに石とか大きな岩とかが飛び散るので綺麗サッパリ文字通りに”消す”。

その後、人が生きていけるだけの設備が整ったマンションとか言うのを建てていく。

途中まで一個一個やっていたのだが、まとめて書けばいいことに気づき一気に終わらせる。

次に、植物の種作りに取り掛かる。

食べ物そのものの時は描写が無いと無味になってしまうので種から作ろうと言うことだ。

一日で育つ野菜作り。

とりあえず、そっちも市場で売られるリストに沿って各種一万個くらい作っていき、備蓄を整える。


「次は畑か。あぁと……場所は日当たりのいい場所」


『適当に探せ』と姫様に言われているが、適当と言っても訓練場では訓練の邪魔になるし、城門のところでは行き来に邪魔になる。

すると必然的に中庭になるのだが、現在何も知らない庭師さんがいじくっているので勝手にやるのは憚られる。

と言うわけで、日当たりのいい場所を文字通り”作る”。と言うのは嘘であり冗談で。

マンションの上を畑にすることで日光が当たる場所を作ることにしている。

ハルクを筆頭に数人の若者が集まって働かざるもの食うべからずの精神で国民に野菜作りを頑張ってもらう。

一日で野菜がでるので驚かれるだろうが、もうそこはハルクの技術ですと言う嘘を国民に叩き込んでしまおう。


「さて……次は……」


メモしておいた紙を見る。

急いで書いたので内容は覚えていないし、現代文字で書いてあるので能力も発動しない。


「便所掃除?姫様、雑用までやらせないでよ」


と言っても、姫様はやらないだろうから俺がやっておく。

コレぐらいは能力も必要ないので自分でやる。

……女子の方はさすがに能力を使ってしまったが……。


終わると、もう一度紙を見る。


「……これ、完全に俺の仕事じゃないよ!!」


そこには『闇商人摘発』と書かれていた。

何故か詳細まで書かれている。


「ハッ!?」


まさか……。


ジロリと後ろを向く。


「……おっほん……人間、動く事をやめちゃいかんよ君」

「そうですね。じゃあ、姫様も頑張って」

「お、おぉい!!クラなら簡単にできると思って!!っていうか、父上もコレには困っているんだ」

「じゃあ、親孝行してくださいね。はい、頑張ってください。俺はまだまだ仕事があるので」

「……口ではお前に勝てん。大きな戦力となりそうだ、ではいくぞ」

「……ちょっと、はいって言っちゃいそうになっちゃったじゃないですか!!」

「悪魔の誘いに乗ればいいものを……」


いや、天使の方だと思う。

明らかに姫様は悪魔が、俺は天使が動かされているよ。

って言うか、俺の中の天使!悪魔に騙されちゃダメだ!!


「じゃ、そういう事で」

「酷い!あんなに中のいい夫婦だったのに……。私には冷めてしまったの?」

「何を言っているんですか姫様」

「そう。権力が目的だったのね。じゃあ……死ん―――」

「さぁ、行きましょうか。愛する妻の為に」

「ふふふ、忠実な良人たるもの妻の願いの一つや二つ、全て叶えるべきなのだ」


一つや二つじゃなかったの!!

最後に全部って言ってますよ!!


全力でそう言いたかった。





来る途中に聞いたのだが、オリエル王が『最後になるかも知れないのだ。せめて最後くらい自由を与えてやりたい』系統の事を呟いていたのを聞いていたらしい。

親孝行にまだ結婚していない良人を巻き込まないで欲しい。

それと、系統って何?

的なじゃないの?


「さて、悪質な人類……いや、女の敵め!!」


うわっ、範囲が小さくなった!!


「今こそ、この女の味方、女の正義、女の奴隷のクラがキサマらの解放を―――」

「ちょっと待ってください。最後の奴隷って何ですか!!俺は奴隷じゃない!!すごく酷い!!ッてことで、帰ります」

「なぁに、ここまできたのだ。そして、店の前で騒いだのだ。なら、捕まって当然だろう?」


……ちなみに、俺は周りを見ていなかったのでわからないが、いつの間にやら筋肉質の男たちに囲まれていた。


「……撃破―――」

「しないでください。話し合いで解決。そう、武器は拳でなく言葉にしましょう。えぇと、うぇぽんちぇんじ!!」

「……殺!!」


言葉だけ言ってるよこの人。


段々と、人がこの道路から少なくなってくる。

争いに巻き込まれたくないからだろう。


俺が姫様に全神経を注いでいると、顔を全て兜で包み、上半身は鎖だけで、下半身は布製のズボン一枚の男が声をかけてくる。


「おい、お前達」

「クラ、お前がグズグズしているから変態に絡まれてしまっただろう!!私が汚れてしまった!どうしてくれるのだ!!……責任……取ってくれる……?」


何か涙目でこちらを見てくる姫様。

当然、俺は避けその涙目は変態と呼ばれた男に当たる。


「うぐぁああああ!!」


何故か倒れる男。

そこへ、周りの男たちが集まり「御頭ッ!!」とか「大丈夫ですかい!!」とか叫んでいる。

姫様は道端で落ち込んだようにのの字を書いている。

そんな姫様を見ていると急に男たちの一人がこちらに声をかけてくる。


「キサマ!!今回の仮は必ず返してやるからな!!」

「いや、あげるから。返さなくてもいいから」


痛いのは嫌だ。


だが、俺を気にせず御頭、時々変態と呼ばれる男を担いで何処かへ走っていく。


「姫様。大丈夫です。今のは完全に俺が悪かったです」


俺を動かした理由は半分以上があの涙目だけれども!!

それでも、俺が悪かった。


とりあえず土下座はせず姫様の肩を叩く。

何だか泣きそうになる姫様。

……何だか調子が狂うな……。


ひゅ~ひゅ~吹いていた風も止まり、何だか世界に姫様と二人きりみたいな状態になる。

が、まだ異常事態は起こった。

姫様が泣き出したのだ。


「くらぁ……、酷い。わたしがぁ……。わらわがぁ……」


何だか知らないけど、口調が……。


「わらわがないているのに……くらのばかぁ……、しんじゃえ!」


と、声に似合わない速度で拳を容赦なく鳩尾と呼ばれる基本的に本気で殴られると気絶しちゃう場所へとボスボスという音を立てながら吸い込まれては離れ吸い込まれては離れを繰り返している。

何だか知らないが、怪我のしすぎで(たぶん)ついた耐性を何故かここで発揮し、姫様の拳を止める。


腕が折れるかと思った。


攻撃力に耐え切れず思わず飛びのいて避ける。

すると、姫様の拳が地面にあたり……抉れる。


俺の腹……。


その時、姫様以上に落ち込んだのは言うまでもない。





何とか二人とも立ち直り店に入る。

すると、鼻につく臭いが俺たちを襲う。

臭いの元は部屋にいくつか置かれているビンからだ。

良く見ると、僅かに発光している。

植物図鑑でしか見たことがなかったが、たぶんエシビアだろう。

高揚感と満足感を人間に与える一種の薬品だ。

薬にして塗ると傷の治りが早いと言われるので薬品として使われるが、そのまま……直接臭いを嗅ぐと普通なら狂って自我を破壊する。

自分の自我以上の満足感が自分を支配し、高揚感が己の体を突き動かし暴れまわる。

ただ、ここにあるのは数で言えば多いが、そこまでのものではない。っていうか、腐りかけだ。


「微妙に酸っぱい臭いが腐りかけだからですね。っていうか、姫様!!」

「ふふふ、クラ。未成年の禁断の恋じゃぁああ!!」


……麻美に熱いお灸をすえておこう……。

っていうか、こっちの世界では姫様ぐらいが結婚の適齢期。

しかも、姫様はその……比較的美人の部類だし、他の国から結婚の相手がくると思うんだけどな……。

まぁ、姫様の性格を考えたら無理そうだけど……。


「おぅおぅ、クラがクラが……」


……ふと、思う。

この人の自我。崩壊寸前じゃない?


酔っ払いのような行動に。何か意味のわからない危ない妄想。

それに、店に飾ってある鎧に抱きついてキスをしようとしている。

その時「クラ……強引なんだな……」とか、妙にはっきりと言ったので物凄い悪寒が俺の体を三週半ぐらい無駄に走ったが、とりあえず姫様を気絶させる。

隙だらけなので意外と簡単だった。


「……無駄な知識だと思ってたけどここで役に立つとは……」


医療関係の本も結構読んでいるから人間の体とかにも意外と詳しい。

ミケの世界ではもっと技術が進んでいるからわからない事だらけで結局学べないが、こっちではこのように姫様でも一発で気絶させられる。

って言うか、姫様は対人戦ばかりやっていて、己の才能からか打たれ弱い。


「おぉう、何か姫様を熟知している俺が居る……」


まぁ、この人と付き合っていく上で最低限の知識と思っておこう。


自分自身を納得させて、奥へ進む。

すると、一人の女性が比較的露出が多い服を着て扉の前に立っていた。

一本道のようで扉もそこしかない。


「……はて?」


その人は、機械的な動きで首を傾げると、俺たちを見る。

だが残念な事に、俺は無視して扉を開け、中に入る。

扉はその女性の三倍……いや、四倍くらいあったので重いと思ったのだが簡単に開けることができた。

姫様を一度降ろし、部屋を眺める。


「……悪趣味だ」


鹿のはく製に熊の毛皮。虎の牙に竜の鱗まである。

何だかわからないが、ここには強烈に怪しげな銅像が置かれている。


「……誰も居ない……?」


とりあえず、強烈に怪しげな銅像は罠だと判断し、壁を探して隠し通路を見つける。

残念な事に部屋を一周してもそれらしきものは無く、椅子は無いが机があると言う不思議な場所も調べてみたが何処かに秘密の部屋を出現させるスイッチは無かった。


「……銅像……なわけないよね」


上半身裸で、肉を垂れ流し、口からよだれをたらしている銅像はなにやら押してくださいと言わんばかりに名前の彫ってある場所に何か膨らみがあった。


「…………」


俺は無言でそのふくらみの周りに貼り付けられたような四角い紙を剥がす。

すると、スイッチが現れる。

何故か髑髏が描かれているが、歯の部分が無く豚の鼻のようになっている。

何故なのか髑髏かと言うと下に『押した場合、この髑髏が貴方の指を噛み千切ります』と書かれているからだ。

残念ながら歯の無い髑髏に噛み千切る事は無理なのだ。

姫様を抱きかかえ、体に寄せスイッチを押す。


ごごごごごごご。


目の前の銅像が後ろへ動き隠し通路が現れる。

それと同時に髑髏に歯が現れる。


「……無駄な努力をご苦労様です」


スイッチを押すと出る仕掛けになっていたんだろう。

しかし残念なことに、それを笑うような……姫様は眠っているので反応は無しだ。


「さて、この空間から出られるのなら地下にでもいきましょうかね」


地下へと繋がる階段を降りていきまたもや扉が現れる。


「……は―――」


双子なのか知らないがとりあえず無視して通る。

残念ながら姫様の足を捕まれる。


「……無視ですか?人間のクズですね」


何だかわからないが、力が強い。

とりあえず両手を持って引っ張る。


「さっきも同じ人に会いましたよ。瞬間移動ですか?」


とりあえず、有り得ない可能性を言ってみる。


「…………」


何その無言!!

しかも何でバレたの!?って顔しているし!!

いや、俺は基本的に顔見知りなので(姫様の性でかなり強引に社交的になっているが)無表情だ。

旅人は皆顔見知りだろう。あまり現地の人と関わると出発しにくくなる。

だから、旅人仲間、もしくは武器屋などの人間以外には関わらないようにしている。

その癖で、俺は顔見知りなのだ。


「ふ、双子なんですよ?」


何だか安心する俺。

瞬間移動するなんて……能力でもないし……。

それに、魔法だってそういう系統はあるが公表していないし……魔法?

……そういえば、何でクロは魔法を使うんだろう。

変身の魔法。それも猫だけに。いや、黒猫だけか。

……魔族?

そういえば……ルーさんが言っていたような……。

魔族は体に魔方陣を刻んでいるとか何とか……。

だから、詠唱なしで魔力とか言うのを体全体に充満させるだけで魔法が使えるとか……。


おぉ、何ていうかこんなに近くに答えがあったのか。

って言うか、ルーさん何者なんだろう……。


「っと、考えている場合じゃない!!」


姫様を奪還しなくては。


思いっきり引っ張るが全く動かない。

腕力が常人のそれを上回っている。


「……魔族……」


ビクンッと、体を震わせる女。

……的中?


「どうして人間の……闇商人に味方をするの?」

「……貴方に話す義理は無い」

「だったら―――」


下から声がする。


「私には聞く権利があるな。うん」

「……貴方にも無い。人間が―――」

「おいおい。私はたぶんお前なんかよりもっと複雑な関係の中にいる魔族……と人間の子だぞ?」

「……ミーシャの子か……」


何だかわからないが敵意丸出しの女。

姫様は……と言うよりお母さんが何かやったという感じだ。


「……あいつは……魔族の埃を汚したんだ……」


記憶喪失の人に埃とかあるんだろうか?

過去の自分を知りたいと思うのが普通だろう。

なら、人間と触れ合うのも仕方がない。

俺はそう思う。


だが、女は俺が考えている事とはだいぶ違う事を言ってくれた。


「あの女は……。魔族……魔族の血が流れている人間だ」


……少し待て。

時間をくれ。


俺は考える。

体の血液。しかも、他種族の物を入れ替えられたっけ?

無理だ。


「冗談もいい加減にしろ。そして、もう引っ張るな」

「背が伸びると言う噂が―――」

「敵だか何だか知らんが引っ張るがいい。さぁ、胸が小さい分背が高い女性になるのだ!!」


本音を話してくれたところでいきなりだが放す。

勿論、俺には悪気しかない。


「さて、何か異常事態なので姫様仕切ってください」

「つぅ……ん?何か足の下に……」

「さっきの片方引っ張っていた人です」

「……なぁ、処理方法って何がいい?」


何の処理かは聞かないでおこう。


「とりあえず放置でいいんじゃないですか?」

「……つまらん……」


姫様は女の腰まで伸びた髪を肩のところで切ると戦利品を袋の中に入れておく。

……意外に酷いな……。


何ていうのは出会ったときから認識済みで、そのまま全速力で突き進んでいくと一つの扉がまた見えてきた。

勿論、姫様の勢いに勝てるはずも無く破壊させ、吹き飛んでしまった。

そこには金、銀、財宝……なんて物は無く、俺から見て右側に牢屋が永遠と続いていて突き当たりに部屋があるだけだった。

たぶん、あそこが看守室。


呻き声や、叫びなどが聞こえる牢獄の前を耳を塞いで通過する。

すぐに出してやると一々説明するのも面倒なので、一気に看守室へ行って鍵を手に入れてしまおうという作戦だ。


バガンッ!!


そんな豪快な音と共に部屋へ突入する俺たち。

何故か俺が先頭だ。


「な、誰だ!!」

「正義の使者!!じゃすてぃーーーす仮面!!」


……俺が含まれていないことを祈る。


姫様の言葉に俺が後悔しているという意味が不明な状態でも、少しは敵を観察しておこうと前を見る。

そこには、小太り、だが装備はしっかりしている男と、いかにも戦場で育ってきましたと言う男(?)が居る。

赤い鎧に包まれているので顔に傷のある凶暴そうな奴は判断ができないが、たぶん男だろう。

って言うか、姫様みたいな人が何人もいたらとっくに世界は崩壊している。


「じゃすぃーーーす仮面?」

「マジメに考えないでいいですから。妄言に付き合っていられるほど暇じゃないでしょう?」

「そ、そうだ。キサマら!!どうやってここに入ってきた!奴隷に門番をさせていただろう!!」

「フッ、コレか?」


そう言って姫様が髪の束を見せる。

このときの為にこの髪は持ってきたのか。


関心していると、姫様はその髪をまた袋へ仕舞う。

……捨ててもいいんじゃ……。


そんな俺の心の中とか無視して会話は続けられる。


「ま、魔族を!!アレフ!!コイツ等を倒せ!!」

「……了解したよ。我が名はアレイルフ・ディバイン!!根っからの傭兵なんだよ……ニヒッ」


そう言って白い歯を見せてくるアレフと呼ばれた男。

とりあえず、この会話で把握できたのは彼(?)の名前と性格だ。

何だかこの手の相手は信じきったら猛突進するタイプだと俺の勘が告げている。

つまり、話しをして彼の中の悪の方向性をグッチャグッチャにしてやればいいのだ。


「アレフ君……だっけ?」

「何だ?」


白い歯を見せてくるアレフ。

とりあえず姫様の背中を擦りながら話を続ける。


「俺たちは国の……騎士なんだよ?攻撃したら不味いと思うんだけどなぁ」

「む?では、攻撃する必要がないのか?ならいい。依頼主、攻撃する必要は無いぞ。商人の味方。町の巡回兵の人か何かだろう」

「お前は馬鹿かッ!!」


アレフの頭を殴る依頼主の小太り。

姫様は立ち直ったのか前を向き剣を抜いている。


「剣を抜くのは早い!!」

「何を言う。目には死を!歯にも死を!悪徳商人にも死を!」


……理不尽って言葉を知っているかな?

いや、知らないね。


「とりあえず、戦う為に来たんじゃないんでしょ。とりあえず、人身売買は法に触れています。と言うわけで差し押さえ、もしくは営業停止になるかも知れませんが……文句はないですよね?」

「……コイツらを始末しろ!!」


キィィィィイイ。


後ろの扉が開き、さっきの魔族の女が現れる。

露出度が元々高い服がよれよれでなんか色気が倍増されている気がする。

髪が乱雑に切られているのがアレだが……魔族って結構綺麗な人が多いのかも知れない。


「ムッ……敵にも死を……」


何かを感じ取った姫様が女を見て言う。

……そろそろ暴走するのは……暴走?


見ると、部屋のいたるところにエシビアの臭いのビンが置かれていた。

姫様は耐性が無さ過ぎる性で混乱しているのだろう。

この部屋から早く出ないといけない。


「……でもなぁ……」


入り口を塞がれているので無理だ。


「……一時休戦。奴隷として働くのは飽きた。と言うか、協力者が欲しかったところだ」

「仲間ってこと?」

「一時的に敵対関係を消した……と言う事だ。お前達に協力してやって貸し二つだな」

「……姫様、二人で倒すよ!!」

「お、おぉ……!」

「……あぁもう。わかった。貸し一でいい」

「姫様、たぶん弱点は心臓だよ」

「生物だから当たり前だろう?」

「……奴隷だからって甘くみるなぁああ!!」


軽視しているつもりは無い。

ただ、借りは作ると面倒なだけだ。

金で何とかできるうちはまだいいほうだ。

コレは経験が物語っている。


「ちょっと待て。私はどうしたらいい。依頼主が攻撃されそうなのだが……」

「一緒になって殴れ!!」

「了解!!」


姫様の声は特殊な超音波とかじゃないだろうか?

最近思う。


その後、さんざん殴られた闇商人は殴った本人がこの国のお姫様だと教えられ顔を真っ青にしていた。

騎士さん達も入り乱れて奴隷解放などやっていて、それを見た他の闇商人のしたっぱとかからの密告などがありだいぶ解放作業は進みそうだ。


「何だか、面倒なことに巻き込まれていたようだな」

「アレフ君はたぶん無罪だと思うよ。でも、問題はこっちだね」


そう言って、やっと店内から出てきた俺は店内にうずくまっている女を見る。

あの闇商人の奴隷と言う話だが、そのわりには自由に動いていた。だから、別の目的があると思うが、今は魔族の情報を入手するのが先決だ。


「よし、奴隷解放の貸しを返してもらおうか」

「図々しいお姫様だ……」


俺もそう思う。


「それより、外に出たら?」

「……嫌だ。私は人間じゃない。周りから疎まれ憎まれる存在だ。だから日の光を当たっていいような生物じゃないんだ」


何かこの人、悟りの境地に入っているよ?


「クラ……お前に任務を与えよう」

「何か俺の能力をいつに無く頼ってますね。っていうか、今日は腕が痛いです」


たぶん、姫様を伸ばしていた時に腕を捻ったのかな……。


何て考えていると、姫様が聖剣を振り翳し店に突入……では無く、店の天井を破壊する。

しばらく轟音と、砂埃が舞い、視界が遮られるが砂埃は晴れ前が見えるようになると独特の土の匂いと共に女が現れる。

さすがと言うべきか、傷一つ付いていないようだった。

騎士の方も全く動じていない。


「……姫様……」

「時間短縮!!」


姫様は珍しく難しい言葉を使って俺を翻弄しようとする。

残念ながら一般的に教養を受けていればすぐに理解できる内容だった。


「姫様、この人の話は後で聞くとして……城へ帰りましょう」

「……クラが苛める……」


両手に花とは言わないけれど、俺の右手には姫様、左手には魔族の女が居ましたとさ……。


『後書きと言う名の雑談会』


作『いいのが書けたぁ』

シタ『伏線も入っているしな』

クラ『ストックの方で回収できてないけどね』

作『……何で製作秘話をそう簡単に話すのかな。ゆっくり時間を掛けて適当に雑談するのがここだよ?』

クラ『奴隷解放は俺もやろうと思ってたんだけどなぁ』

作『優秀だからね。誰がとは言わないけど』

シタ『自慢できる父上だ』

作『ってわけで、姫様次回予告どうぞ』

シタ『何だかわからんが、適当でいいんだな?』


シタ『おぉ、やっとクラにも新たな武器か。何だか喪失感のあるような……。次回!『魔法研究と真実』全てを我が良人に託してやろう』

クラ『俺には荷が重いですよ』

作『大丈夫。絶対正義はお前だクラ』

クラ『……それは励ましの言葉ですか? なら、口に当てている手を離してみてください。笑ってますよね? ねぇ? え? 勿論、まだ俺のお仕置きは終わりませんよ?』


(※生傷はこうやって作られる……)

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