24話 『魔王城とか魔王とか』
魔王vs姫君。
目的は金儲けです!!
―――魔王 視点―――
そこは、暗くて血で真っ赤に染まっていたの。
空が不気味に笑っていて、わたしを血のどん底へ追いやるような、そんな不気味さをもった雰囲気にわたしは押しつぶされそうになって。
うぅん、泣いてない。でも、悲しい。
人が来た。それは、喜ばしいことだったのに……わたしは殺ってしまった。
否―――
わたしも殺された。
全身の力が抜ける感覚を味わった。
これが死なんだって……。
生きている限り逃れることができない使命。
生きて、死ぬことが全ての生き物に課せられた使命。
「人に触れたい……人の温かさが欲しい……人になりたい……」
人を食べれば人になれる?
人を殺せば人間の心を持てる?
寂しいよ。
わたしは待っているの。
黒い黒い心を持って、あなたが死ぬのを待っている。
「人間を支配すれば人間の心がわかると思った。だって、支配するのが人間だから」
違った。
わたしは人間に殺された。
ヒトデナシに……。
「彼も人間の心を持ってなかった。なのに今は狂うことなく笑っていられる。狂乱を迎えてよ」
世界へ破滅を齎してよ。
破壊神さんは、世界の味方?
「魔王として宣言する。我に感情を与えよ。我を人間に―――」
鳥肌が立つ。
恐ろしい。夜の月は恐ろしいんだ。
わたしを滅ぼす唯一の破滅。
もう、死なないよ。もう、永遠だ。
わたしは人間になりたい……。
☆
―――クラディ 視点―――
現在、何故か俺は、姫様、フィーカ、イルシアに囲まれ登山をしています。
肌寒い中、俺は何度目かの眠気に襲われ頭をすっきりさせるために頭を振る。
「何でこんな所に……」
「武器。武器調達だ!!」
……木の枝で木刀でも作るんだろうか?
あるいは竹刀?
鉄の武器の方が強い事を教えた方がいいだろうか?
「私の武器を作ってもらっている鍛冶屋が山奥に住んでいるんだ。……少々癖のある人だが、いい武器を作る」
いや、フィーカの武器は普通じゃないから。
普通で言う失敗作の武器を使って戦っているんだよ?
気づいてないの?
「一気に、考える事が増えた……」
「つ、辛そうです。恩人さん、荷物持ちましょうか?」
「……唯一の優しさが心に染み渡っていくようだ……」
山道は、石などがごろごろしていて歩きにくい。
なのに、他人の荷物まで持つなんて……。
「いいんだ。クラが全て持ってくれる」
「え、あの―――」
無茶なので、逃げる。
勿論、登るしか選択肢が無いので上へ向かって走る。
―――ビュオッ
「おっ……、山頂?」
強い風が吹いている。
そこに、大きな小屋が建っている。
煙突がありもくもくと煙を上げている。
「……あれか?」
「はい」
「それと、聞きたかったのだが―――」
シアの方を見る姫様。
「何故、イルシアを連れてきたんだ?」
「……あの人も、錬金術師だからです。……一度、見せておきたかったのですが……」
「武器を作る……錬金術師?」
それは、効率のよさそうな鍛冶屋だが、何でこんな山奥にあるんだろう。
頂上だし。
「あまり……他の人と関わりを持つ人では―――」
「大丈夫だ。行くぞ」
そう、俺たち以上の変人の集まりは無い。
俺が含まれているのが悲しい事だ……。
―――トンガンッ
……この人も人で無いな……。
「イルシア、後で直しておいてくれ」
「はい」
笑顔で答えるシア。
できれば、今すぐに直してもらいたい。
だって寒いから。
「メーテルさん?メーテルさん居ますか?」
「メーテルとやら、出てこないと火を放つぞ」
元に戻るんでしょうね?
何で、この疑問しか頭に浮かんでこないんだろう……。
「……それは……困―――」
「さぁ、フーの武器を新調するがいい。ついでに私の武器も作れ。さぁ!!」
この人は、おしとやかという言葉の意味をしっているだろうか?
もし知らないなら、姫様の性格の反対ですと教えてあげよう。
「……何の……よ―――」
「さぁ!!さぁ!!さぁ!!」
「喋らせてあげてください。どうぞ」
「ん……ありがとう。……オレに……何か用?」
……これだけを言うのにどれくらい時間が掛かってるんだろう……。
他の人との付き合いが下手そうな人だ。
フィーカが言っていたのはこういうことだろう。
「……両手で扱える剣と、そうだな……自我を持っている槍はどうだ!!」
……無茶来たーー。
と、まだ想定内の範囲だったりするわけですが、俺とは違い困った顔をするメーテルさん。
生きている武器なんて作れるはず無いだろうに姫様の頼みなんて断れ―――。
「……わかった。一時間……欲しい。……いい?」
……ゴメン、この人も人外だ。
俺の予想を突き抜けている。
「イルシアは、ここで見ているといい。勉強になるぞ?」
「でも……私……人を殺す道具なんて―――」
「違う」
……魂の篭った瞳でイルシアを見るメーテルさん。
職人魂というやつだろうか?
「武器は人を殺す道具じゃない。武器は持ち主と共に感情を分かち合う物。戦場での高揚感、負けた時の敗北感、それらを一緒に体感する相棒」
「え、あの……」
「無差別に人を殺すのはよくない……それは武器があるから起こることだ。……でも、それで武器を怨むのは違う。ご飯が不味いから農家の人に文句をつけるのと同じ。農家の人は悪くない。その環境が悪いんだ」
……何か心の奥底を擽る言葉を連発したメーテルさん。
環境が悪い。確かにそうかもしれない。金があれば武器を誰でも買える。それは違うと思う。
正しい道を進む人に使われた方が剣だっていいだろう。
「……姫様、無差別に迷惑事に巻き込まないように」
「……何故私なんだ……」
侵害だという顔で否定する姫様。
いや、姫様以外に誰がいるんだろうか。
「……暖まってろ。……椅子……用意する」
そう言って、薪を使って新たに椅子を作るメーテルさん。
錬金って、以外に便利なのかも知れない。
「そういえば、錬金術師も、神を信仰することでなれる職業じゃなかったっけ?」
「世界の一部を変えるだけだ、なら螺子が世界に嵌め込まれていようがいまいが関係ないだろ」
確かに、そう考えれば納得がいく。
ならば、ジャンカーはもう無理か。
知識無き加工師とも呼ばれるけど、それは世界の外に神があったから。
ジャンカーは世界を動かすのでなく、新たに生み出す職業だから螺子が嵌め込まれた今はもう廃業だ。
「マゼンタの鉱石ですか。確か、極寒の中で採掘される鉄は―――」
メーテルさんとシアが素材の話で盛り上がっている。
こういうところは、錬金術師同士、話があうんじゃないだろうか。
パチパチと音を立てる暖炉を見ながらうとうとしていると、フィーカが殴ってくる。
「……痛い」
「姫様は何処だ?」
……何で俺が姫様を隠さなきゃいけないんだ。
確かに、姫様の姿は無く、代わりに藁人形(?)が置いてあった。
「ハハハ!!引っかかったな若僧め。我は忍者なり!ニンニン!」
とりあえず、無視しておけば害は無いだろうと判断し、暖炉へ向き直る。
「さすが、隠密行動をする忍者、誰にも感づかれていないということか」
……無視しているだけです。
「クラ……ん?聞こえていないのか?くらぁ~」
……意地でも無視しよう。
そう、思っていると、フィーカが動く。
「姫様……そこ格好は?」
「麻美にもらったのだ。忍者の服だぞ!!」
……とりあえず、文句を言っておこう。
姫様に変な知識と余計な物を与えないでくださいと。
姫様の忍者の武器講座が始まり、終わりを告げる頃、丁度終わったようで二人が部屋から出てくる。
「できましたか?」
二人は、武器の性能を試すとか言って藁人形を八つ裂きにしている。
夢中なのかメーテルさんとシアが出てきたことに気づいていない。
「生きている武器……難しかった。微調整……あと少し」
「姫様の方はできてますよ」
……姫様は一体いくつの武器を使うんだろうか……。
「ん?……あぁ、できたのか」
やっと気づいたのか姫様が八つ裂き藁人形から目を離し剣を受け取る。
「……重いな……」
「姫様の剣術は斬るように振っているんじゃなくて叩くように振っているので少し重くしてみたんです」
「すると、アレか。お前が作ったのかイルシア?」
「……え、えっと、難しかったです!!」
「うむ、少し驚いたぞ」
まぁ、話を聞いただけでシアが武器を作るなんて俺も思ってなかった。
ここに来たのは正解だったかもしれない。
「……少し……炎……ん、ありがとう」
赤化鉱石を持ち出し火をつけるフィーカ。
慣れた手つきなので手伝っていた事もあるんだろう。
「……でき―――」
『うぅ……寒い。寒い。寒い。しかも、何この形。おかしいでしょ』
……とりあえず、この皮肉口を叩く槍を壊さないようにフィーカを抑えようか。
「うぅ、姫様!折りましょう。一人格として私はアレを認めません!!」
「いや、しかしな。折角作ってもらったんだぞ?」
「……ん、折らないで」
『そうです。そうです。拙者の価値がわかるそちらのお嬢さんと生み出してくれた親はわかるみたいですねぇ』
俺は入ってないの?
……まぁ、いいけどさ。
『こんな拙者を使うのは何処の誰様なのですか?』
「そこの鬼神のような顔をしているフィーカさんです!!恐いですよ?」
「シア、それは言いすぎ」
「……薪に困ってないメーテル?私が今ここで作ってあげるんだけど」
「……恐ろしい……恐い」
さて、この場に居る男二人が震え上がっているところで、姫様が妙な提案をする。
「さて、魔王城へ乗り込むぞ」
「……へ?」
「の・り・こ・む・ぞ!!」
「……破壊じゃないんですか?」
「……財宝を入手してこそ宝探索者だろう!!」
「命の危険を伴う職業じゃないですか!!廃材騎士の方がまだマシですよ」
「……錬金術師も……いい」
とりあえず、俺は一番最初に撃沈。
姫様の右拳に勝てる自信はありません。
次に、姫様が脱落、無言の威圧感とは時としてすごいものだ。
「という訳で、皆で錬金術師か……」
「ったく、最初から―――ちょっと待ってください。俺達の目的は?」
「世界一の錬金術師になる事だ」
「とりあえず一人で目指してください。あ、フィーカも。俺は下山します」
「夜の山……危険。……無理しない方がいい」
「大丈夫。登りだけ気分を味わいたいと姫様が駄々を捏ねて歩いてきたわけです。能力使って帰れば―――」
「バッカモーン!!それでも男か!大地に足を付け歩こうじゃないか!!」
「あなたはそれでも女ですか?おしとやかさが無いと思うんですが?」
「……胸も普通より小さいですよね」
「お前ら死刑じゃぁあああ!!」
☆
フィーカも襲ってきた……。
そして、現在三人で闘病(?)中。
「フィーカが変な持論をだすから姫様が殺す勢いで襲ってきたじゃないか」
「姫様の胸の大きさはアレがいいんです!何故なら―――」
「少し、静かにしていてください……」
「お前ら、大変そう」
今は、俺が何とか能力を使って転移させ城に居るのだが、あのシアが作った剣は姫様の何か怒りの感情を共にまとっているようだった。
一言で言えば、あの息があっている組み合わせは何なんだ……ってところですはい。
「これは傷跡残りそうですね~」
「姫様に責任を取ってもらわなければ……ふふふ」
……もう、能力使って治しちゃお。
自分が持っている治癒能力が低下するからダメだって言われてるけど、コレを見てそんなことを考えてられない。
俺たち三人を暖かい光が包む。
「……余計なことを……」
「それにしても、恩人さんの能力は何で発動するんでしょうか?」
……俺自身に神様の血(?)が流れているから?
そこら辺は曖昧なのだが、まぁ気にしなくてもいいところだと思う。
「……行くか?」
「銀狐、とりあえず今はダメだ。何故なら魔王が完全復活していないから」
「……いや、魔王城を壊すのが目的」
「……フッ」
姫様がそんな事で納得するはずが無いだろう。
……確信は無いけど魔王だって世界だって姫様倒しちゃいそうだし……。
実力だけで言えばフィーカの方が強いんだけどなぁ……。
「という、思考だ」
「私は思考を読めない」
とりあえず、部屋からでて、姫様の部屋に向かう。
そろそろ、厄介事も終わって欲しいなぁ……。
☆
―――魔王 視点―――
わたしは知っているし、あなただって知っている。
人間は悲しい生き物だってこと。
だからこそ、わたしはあなたになりたい。
「人生ってやり直せないの?ねぇ……神様……」
一人の少女の願いです。
神様、わたしを人間にしてください……。
―――ピクッ
「……にん……げん……」
ベッドの上、誰一人として入ってこられない封印の施された檻の中。
わたしは人間になりたいと願う。
……昔、わたしはなにをした?
人間という言葉を言って、思い出す。
「人間になれないなら……人間を消しましょう」
神なんていい加減。
父親も母親も与えられず、触れ合おうとすれば外見で判断され……。
わたしは世界に拒絶された存在。
わたしの一部から同志を作り。
世界を塗り替えようとした存在。
「次の機会が来たんだ。わたしの存在できる世界……」
今のわたしの願いです。
☆
―――クラディ 視点―――
姫様の作戦は実にいい加減なものだった。
財宝とか魔王退治とか人類の夢だろう。
『適当に探し、適当に倒せばいいのだ』
さて、本当にできるか考えた時、俺には一つの案が浮かんだ。
『逃げよう』
うん、一番の良案が出て気持ちがスッキリしていると、いつの間にかここに居た。
「いかにも魔王城……」
今呟いたのはシア。
明らかに戦闘要員ではないので本当に適当にやるらしい。
何だか命の灯火が消えていくのが見える。
「さぁ、破壊と殺戮の殺人鬼こと私が通るぞ!!」
何処で、そんな無粋な言葉を覚えてきたんだろう。
何発殴れば忘れるかな……。
「……あれ?」
ボフストは元よりだけど、ミケも居ない。
そういえば、姫様の部屋にも居なかったな……。
という事は、あの部屋にいた人物だけをここに連れてきたのか……。
銀狐もいい加減だな……とか、思っていると張本人が現れる。銀色の毛並みをしている。
「この姿で会うのは久しい。では、破壊―――」
「突き進め、我等が特攻隊長シタルの命令だっ!!」
「姫様、バンザーイ!!」
あ、フィーカが突っ込んでった。
どんどん財宝を見つけていくフィーカ。
あっという間に山ができる。
「っていうか、外装が黄金!?」
「人間の手付かずの自然がここにはいっぱいある。という事は、細かい技術力を持たない魔族は金などの通貨は無い。当然、強い者が偉く、見栄えのいい城を建てる」
何だかわかる気がする。
……今から一番強い人に戦いを挑むんだよね?
「ちなみに言うと、無機物の転移は身に着けている物しか不可だ」
「シア、加工して鎧にしろ。アクセサリーでもいいぞ」
「奥様了解です!!」
……あぁ、魔王城も不幸だな……。
「とりあえず、クラの腕と首、足にも、冠もだ」
どんどん豪華になっていく俺の服装。
金属のひんやりした感覚が全身を突き抜ける。
……アクセサリーを着けているんじゃなくて着けられているという感じだ。
まぁ、実際そうなんだけど……。
「も、もう無理。っていうか、戦う前になんで動きにくい格好してるの」
「そう言われてみれば。クラ、外していいぞ」
外すとか言うレベルじゃない気がする。
まぁ、そんな事を愚痴愚痴言っても仕方が無いので、手伝ってもらって、アクセサリー類を”全て”取る。
これが、死に繋がるとは誰も今は考えていなかった……。
☆
―――魔王 視点―――
―――ギィィイイ
大きな音を立てて扉が開く。
入ってきたのは、金髪の美女、赤紙のこちらも美女、黒髪の男性、白みがかった青色の髪をしている少女。
「……お互いしぶといのね……」
最後に入ってきた銀狐を見て呟く。
「……殺風景だ。帰っていいか?」
「自由にするのもここまでですよ。ほら、目の前で魔王さんが待ってるじゃないですか。何か水槽みたいなのに入ってますけど……」
「……全裸だと。しかも……大きい……」
「姫様を絶望させるとは!!」
「……わぁっ!目の前が真っ暗です!!」
「見ちゃダメだからね」
……なんだろう……まぬけなの……かな?
銀狐は明らかに敵意を示しているが、こちらの三人は何がしたいのかわからない。
……わたしの外見に驚いてない?
「ねぇ……驚かないの?」
手ごろな位置にいた人間の男に問い掛ける。
「……え?……あぁ、人型の魔族も服を着ないのには驚きました」
……何だか論点が違う気がするの……。
けど、わたしが魔族ってのはわかっているみたい。
「魔王、復活した時から私はお前を倒すという使命が―――って、何故邪魔をする」
「戦いに私情を持ち込むのはいけないと父上から私は何度も教わったぞ。狐はそんな事もわからないのか」
「き、狐……」
何だか……感情の抜けたわたしにはわからない、何かを持っている気がする。
……殺したい。
「まだ、不完全だけど、殺るの」
わたしの体はまだ不完全。
でも、負けない。
思考しかないわたしと、心がありまぬけな人間。
水槽と檻をぶち破り、そのまま走る。
そのまま、右腕を引き、殴る。
―――ガァアアン
「……ッ!」
大きな剣。
金髪の美女が盾のように構え防御される。
「武器……武器は……」
魔王という特権。
「破滅、五式、平面鏡」
わたしの影を暗黒の剣へと変える。
破滅を導け……。
「ふふふ、ではこちらは聖剣で相手をさせてもらおう!!……あれ?」
「姫様、装備している物しか転移しないんですよ?」
「あ……机の上だ!」
「姫様……」
「おバカさんです」
「後で、死刑。……まぁ、何とかなるだろ。クラ、危なくなるまで手を出すなよ」
「既に危ない状況なんですけど……」
「五月蠅い!!」
そのまま、突っ込んでくる金髪の美女。
何か秘密の武器のようなものがあったらしいけど、今は使えないらしい。
なら、今のうちに倒すのが吉。
「この剣。わたしの心。わたしの従順な僕なの」
「だったら、私とこの武器は相棒だ!!」
そのまま。振りかぶりきりつける。
一見メチャクチャな剣術だけど、動きが素早い。
人間の限界を目指しているような剣技。
「……でも、女性」
力は男よりも、魔族にだって劣る。
弾き、剣を突きつける。
「ブ……ッ!」
衝撃。
蹴った……。
そうか、弾いたんじゃなく引いたのか……だから、足の届く距離で……。
理解し終わるまでには、剣が首筋に付けられていた。
「……何者?」
「お姫様だ。優雅な!!」
「……じゃあ、死んで」
剣を投げ飛ばし、わたしは消える。
文字通り、消え、剣からわたしに代わる。
そして、闇で作ったナイフを三本、頭、喉、胸の三箇所に投げる。
「捕まえた……っと。終了でいいですか?」
「クラ、まだ危なくないぞ」
さっきの、黒髪の男性に捕まる。
何で?
どうして?
「この城が危ないんですよ」
……魔力。
魔力に耐え切れない城が崩れそう。
「こっち、案内するからさっきの無しなの」
「いいだろう。次は聖剣だ!!この剣……何か崩れそうだ……」
「力作だったのにぃ……」
ぼろぼろの剣を見ながら青髪の少女が言う。
あと少しで勝てていた……。
なんだろう……。
形容しがたい……気持ち?
「もやもやする……」
廊下を走りながら呟いた声をお姫様という女が聞いていたようで、答える。
「それは、悔しい気持ちだろう。キサマの顔には表情が足りていない。感情を外へ出せ」
「感情を……外へ?」
無理。
だって、私には感情が無いから……。
「ほら、困った顔をしている。そういう顔だ」
「え?」
わからない。
……人間……じゃないのに……。
そう、思う頃には出口を過ぎ外へ出ていた。
☆
―――姫君 視点―――
騒ぎだ。
私は騒ぎが大好きだ。
さて、今回は魔王退治だと思って、戦ってみれば無表情。
面白さの欠片も無い。
一々相手の攻撃に驚いたり余裕の表情で見下したり。
それあ、戦いだろう。
だから、私は言ってやった。
感情を表へ出せと。
そう言ったら悩むような表情をしたので、そんな感じだ。
それだけ言って。……そうしたら、魔王は驚いた顔をしていた。
彼女も、何か悩んでいるのかも知れない……。
ふふふ、それを感じ取るが戦いだ!!
「姫様……いえ、何も言いませんけど……。俺は、戦い好きじゃないですよ?」
「なっ、……剣を交えねばわからないことだってあるのだぞ」
「……だから、姫様と一緒に居るんじゃないですか。貴方の剣術には貴方の性格が出ている。見ていて面白いですよ?」
「……何だか複雑だな」
「相手も準備できたようですし、頑張ってくださいね」
「あぁ、愛の為に勝つ」
「………」
何も無いのか!!
言ってやりたかったが我慢だ。
夜を覚えて置けよ……。
崩れた城の前、魔王とやらと対峙する。
最初は、戦っていくうちに成長していると思ったが、違うようだ。
力を取り戻しているという感覚が正しいらしい。
出してきた技を見て思った。
「さて、魔王に地獄のふるこーすとやらを味合わせてやろう」
麻美が見せてくれたアニメでコレを言っていたら敵らしき奴が恐がっていた。
ふふふ、かっこいいだろう。
「地獄って何ですか?」
「俺は知らない」
「恩人さんが知らないならきっとこの世界に無いものなんですね」
「……麻美を殴っておこう……」
何か、わからない恨みをクラに作ったようだが、気にしない。
相手が恐がるかと思ったが、無表情。
……やはり、駆け引きしながらの戦いが一番なのだが……。
「えぇい、衝撃!!」
先制攻撃、剣を三度振り、六つの衝撃を出す。
催眠攻撃というやつだ。三回の衝撃が来ると思ったら六回。
驚くだろう。
「……邪魔なの」
腕を一振りして全てかき消した。
……もう、三回とか六回とか関係ないな。
そして、衝撃弱いな。
「やはり、直接だ!!」
片手で扱える剣を両手で振り上げ、片手分力を上乗せさせ、落とす。
「見切っている……のぅ」
驚き。
見たぞ。
驚いた顔。
私の腕が、剣に添えられていると思っていたのだろうが、残念ながら振り下ろす直前に放してしまった。
つまり、何処かに剣は飛んでいった。
そして、空いたてで魔王の腹を殴った。
何か影から作った剣を取り上げ、もう一度殴る。
……気絶確認。
「魔王弱いな……」
「殺せ。憎き相手」
「何だ銀狐。そんなに憎いのか?なら、その毛皮をよこすがいい。私が頼まれたのは魔王城の破壊だけだ。さぁ、珍しい銀色の毛皮を!!」
「うぐっ……」
なにやら頭を抑えだす銀狐。
ははぁ、禿げるのか?
そうか、禿げるのか。
「カツラも一緒に渡そうか?」
「……うぐぐ……」
「何か、悲惨な光景だ……」
「奥様の方が魔王に見えます……」
「姫様の交渉上手!!」
いや、あいつの禿げを見たいだけなんだが……まぁ、いい。
ニヤニヤしながら、銀狐に近づく。
ビクッと体を振るさせて後ずさるがもう捕まえている。
「なぁ、ちょっと”禿げ”になるぐらいじゃないか。カツラは風で飛んでしまうが、今なら帽子もやろう」
「……人間は嫌い」
……とりあえず、悲惨になってきたな。
だが、ここでコイツを渡す私ではない。
「悲惨になってきたな。よし、決心が付いたら城に来い。こいつと引き換えに銀色の毛皮を頂戴する」
また、ビクッと肩を震わせる。
まだだ、まだ甘い。
「報酬。魔王城を破壊した報酬として、前半分、禿げようか」
「う、うわぁああああ!!」
おぉう、何か取り乱し始めたぞ。
なんなんだコイツ……。
「姫様、それは酷すぎます。目立たない後ろ側、もしくは帽子で隠れる真ん中部分で」
「それも十分酷いですよ……」
仕方がない、報酬は諦めるとするか。その代わり、コイツを引き渡す時、少しの間鍋の材料になってもらおう。大丈夫後はもう血肉となるだけだから。
後は土に還れるから。
その日は、魔王をとっつか前て城へ帰った。
『後書きと言う名の雑談会』
クラ『いきなり騒動が……』
作『一話で解決したからいいじゃないか』
シタ『うんうん、城の宝物庫も潤ったし』
クラ『元から減ってないじゃないですか!!』
シタ『何を言うか。自治体への寄付など色々しているのだぞ』
作『さて、夫婦喧嘩している二人は置いておいて、今回は銀狐こと『ピー』もでたね』
銀『今のは危険』
作『……いや、既にわかった人もいるんじゃないだろうか……』
魔王『それじゃあ、もう一度―――』
作『いや、一度言った自分じゃ説得力無いがダメだ』
魔王『……わかったの……』
作『では、不貞腐れている魔王さん次回予告どうぞ!』
魔王『わたし?うん、わかったの』
魔王『新たなる脅威は既に……。動き始める運命と共に過ごす最後の時。次回!『ふぉーちゅんぷりんせす』なの。……難しい……』
クラ『って、一話で終わってない!!』
作『……先に禿げるのはどっちなんだろうな』
シタ『さ、クラは勉強、私は修行。役割分担完了だ!』
銀『皆さん暇なのですね』