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21話 『吟遊祭 ~延長四日目~ 語るは吟遊 伝える物語』

世界=希望。

ちと敵の規模が大きくなりましたな……。

―――??? 視点―――


もう一つの不適合者(イレギュラー)が神を一つ世界へ嵌めこんじゃったね。

残念、運命はまだ狂うの?

狂乱の幕開けなの?

私は世界と戦わなくちゃいけないの?


月夜の晩。

この国で吟遊祭が行われている三日目の晩。

私はとってもとっても楽しい気分。


「あら?あらら?神殺しの魔法使いさんがいるよ?いるよ?解放してあげる?私があげた剣はどうなってるかな?たくさん血を吸えたかな?でも、私は怨まれている。どうしよう。どうしよう。あの子を殺しちゃいそうだよ」


仮面に隠した私の顔。

だって、私は世界。世界の守護者。

運命を一人狂わされた少女。

癒えることの無い傷を、狂乱の可能性を秘めた少女。

神は死んでいった。

人となんて愛し合わなければいいのに。

何で?ねぇ、何で?

貴方は私の為に。私は貴方の為に尽くせばいいのに。

世界を放棄して、運命を狂わせた。

ねぇ、未来はわかっていたんじゃないの?


「譲さん、ここは危険デスヨ?」

「ご心配はいらないよ?よわっちぃ奴がでしゃばらないでくれるかな?神様殺しちゃうよ?」

「ジャンカーのワタクシにそんな脅しは効かないのは知ってるヨね?」


あぁ、貴方は伝説を守ったの。

誰かの英雄伝に似せた世界構想。


「ふふっ、ジッとしてられないあの子は破壊を生んでくれるんだから。それと、早く消えてくれないかな?」

「コレハこれは、酷いなぁ。一応貴方の為に情報を収集していたノですよ?」

「いらない。興味ない。今は、不適合者(イレギュラー)を倒さなくちゃ。このお祭りは後、一日。あんまり大事にはしたくないからドサクサに紛れて殺そ。(サツ)だよ?(サツ)だよ?」





―――クラディ 視点―――


……熱だ。

知恵熱。

明日、ハルクにどうやって挨拶すればいいか考えてたら熱を出してしまった。


「ふかふかのベッドが今は気持ちいい……」


ルーさんに介抱されながら言う。

お粥がおいしい。


「食欲はあるみたいなのですぐ治りますよ。昼からは出歩けそうです」

「ありがとう。それにしても、考えるのは得意だと思ったんだけどな……」


まぁ、普段考えている事と趣向が違うからか。


そう納得して、再び眠ろうとする。

目蓋を閉じると、小鳥の囀りの音が聞こえてくる。

誰かが掃除をしているのかほうきで掃いている音も聞こえてくる。


―――バンッ


静寂を破る使者が現れた。

それ即ち姫様だ。


「クラ、熱だと?まぁ、自然に治るのが一番だが、最終日。この祭りは一年後にしかないんだぞ!!楽しまなくてはいけないだろ!!」

「クロと行ってやってください。あいつ楽しみみたいだったので」

「……反応が鈍いな……。やはり、熱か。あの女のことだな?」


何処に繋がりがあったのかは知らないが、いきなりあの女と言われた。

どの女だろう?


「どの女ですか?」

「決まっている。ハルクだ。私のいい引き立て役……もとい、恋敵だ」


完全に心の中駄々漏れの話を聞く気になれないので、眠る事にする。

しかし、それを破ったのは姫様でもルーさんでも何処かの野次馬でもなく、ただの音だった。

だが、その音の意味は非常に危険なものだった。


―――ブーーーーー


いきなりの事で、何が起こっているのかわからなかったが、すぐに姫様が気づく。


「敵だ。侵入者が現れたな。間諜か?暗殺者か?はたまた、酔っ払いの喧嘩か?最後のはつまらないな。っと、急がなくては……」

「姫様、ちょっと待ってください」

「行ってきますの接吻か?」

「……戦う気ですか?」

「それは、女の立ち位置……。まぁ、いい。そうだ、戦う気満々だ」

「……貴方は女ですか?」

「失礼な!!」


いや、聞きたくなるのも当然だろう。

敵が現れたから返り討ちにしに行く姫様なんて俺は嫌だ。と、ここで文句を言っても仕方が無いので脳内で想像するだけにする。

全て、聞かずに走っていくという結果が出た。

いや、現実では話を聞かずに走っていくという事態が起きた。


「俺たちはどうしますか?」

「特に騒がしくありませんから酔っ払いの喧嘩の方でしょう。安静にしていてください」


それでも、様子を見に行くとルーさんは去っていった。

その場合、俺は必然的に一人になる。

やる事もないので寝ることにした俺は、ベッドに深く潜り、右向きに横になる。

すると、何か動くものが目に入る。

いや、動いているのは俺か。


「……誰?」

「ドモドモ、久しぶりダネ」

「あ、どうも。あの時の装置はもう作り終えたので別にもう一度会わなくてもよかったんですが」

「自分は危険を伝えにやってきた王子様ナノヨ?ヒドイネ」


危険?

何を言っているんだろうか?

少し、布団から出て座りなおす。


「……で、危険って?」

「自分って嫌われてる?」

「勿論」


初めてコイツに笑顔を向けるかも知れない。


「ウヒヒ、人の笑顔って恐イね。じゃあ、一つ。白色の髪をした少女に気をつけナ。きっと、君を殺しにくるヨ」

「はい、ありがとうございました。その方は夢の中で見るかも知れませんが話しかけないようにします」

「信じてないね!!」


当たり前だ。

普通に白髪の人間がいたら驚くだろう。

色素とか普通に無視しているじゃないか。

異世界の人間は黒だけのようだが、こっちは髪の加護とか特殊な食べ物とかで髪の色が色々変わったりしているからそうだが、白色という完全に色素を無視した人が生まれるはずが無い。


「……まぁ、いいヨ。大丈夫サ。自分は世界が壊れても大丈夫な人だからネ」


そう言って、背中に取り付けた赤化鉱石を使って宙に浮くロイ。

その装置も一度作ってみたい。


「とりあえず自分は君の敵ネ。で、情報を漏らしたのは自分の良心ヨ。狂乱の幕開けを楽しむがいいのサ」


そう言って、窓から出ようとして頭をぶつけつつようやく脱出するロイ。

そろそろ、寝ようか。


「アララ?アララララ?この布団暖かいんだよ?」

「ふふふ、足で蹴られたいようですね」


とりあえず三度蹴る。

女性の声だったが姫様見てると女性という生き物のひ弱さを感じさせないので思いっきり蹴った。

たぶん大丈夫だろう。


「いきなりだね?だね?不適合者(イレギュラー)は、凶暴と書き加えておくよ」

「じゃあ俺も白髪少女は変態と書き加えておく」

「あぁっ!それは取り消すべき!ね?ね?」


本当に白髪少女が居たわけだが、心のそこから居ないと思っていたんだが、何故か驚いていない俺。

少しだけ、人間という道を外れた気がしてショックを受ける。


「じゃぁ、書き直したところで死んでもらうよ」

「最後に一つだけやりたい事があるんですが」

「何?」

「あ、一時間くらい待ってもらっていいですか?」

「短いね。いいよ。どうぞ!!」


時間を計っているらしく時計を見ている白髪女。

しかし、その間に俺は逃げる。

見た感じでは質素な服装だったので迷い込んだ貧民なんだろうか?

近くの兵士に伝えて、引き取ってもらおう。


丁度、廊下の真ん中で立っている兵士が居たので声をかける。

しかし反応が無い。

回り込んでみてみると、瞳孔が見開かれたまま動いていない。

……おかしいな。幻覚か?


目を擦ってもう一度見る。やはり、瞳孔は開かれたまま、動かない。


「……死んだ人間じゃないのにどうなってんだか……」


そういえば、さっきから音一つ聞こえてこない。

騒ぎがあったなら部屋から出た今は少しくらい聞こえてもいいのに。


「ゴメンね?時は止まっているんだったよ。私が止めたの」

「……能力……」

「違うよ。違うよ。魔法。魔法。そう、魔法なんだよ」


虚ろな目で空中を見て何か石版のような物を脇に抱える少女。


「……あんた、誰だ」

「私は世界。世界の守護者。運命を狂わされた少女で―――」


決意のような何かを秘めた声で言う。


「貴方のお姉さん♪」

「は?」


えぇと、意味がわからない。

俺のお姉さん?

どういう意味だ?


「私は神様から作り出されたの。で、貴方も神様から作り出された。だから、私たちは姉弟」

「……現状を確認します。時が止まっている?」

「はい」

「……俺のお姉さん?」

「はい」

「……何で俺が死なないといけないの?」

「それは、貴方が不適合者(イレギュラー)だから。世界の螺子が一個増えちゃったの」

「……どういう意味?」

「だから、あの人は私を作り出した。私はあの人の後を継いだ。でも、もう一人あの人は作り出した。だから、螺子の穴の数が足りないの。だから、後から生まれた貴方は不適合者(イレギュラー)

「一応、理由はわかりました。ミケの仮定の裏づけのようなものだということも。で、俺が神様?」

「うん。お姉ちゃんは不幸な牢獄で魔法を封じてたのに幸運な弟は異世界から呼び出した第二の不適合者(イレギュラー)を使って魔法を復活させた。もう、争いは無くなって欲しいのに。ささやかな願いなのに。貴方は私から奪っていく」


……俺が……悪いのか?


「一応、連れてきましたヨ?」

「汚い鼠。消えろ」

「酷いデスね。ほら、魔法使いサンはここに残っててくだサイね?」


あの男、不敵に笑う昨日捕まえた男はここに居る。


「どういう事?」

「私が争いを望んだんじゃないよ?破壊を望んだの。世界を白紙に戻したかっただけなの。なのに彼は強者しか狙わなかった。これじゃあ争いは消せないよ」


熱は収まっているのか冷静に考える事ができる。

この目の前の女は俺の姉と言われている。だが、作り出されたってどういう意味だ?

俺にはしっかりとした父親が居る。今は何処に居るのかすらわからないが確かに居る。


「お前の父親は?」

「現状確認じゃないね。でも、答えるよ。父親なんて神様の世界に要らないの。ね?わかりやすいでしょ?」


父親が居ない。

よし、俺の姉じゃない事を確認だ。

次に、神と世界。

神は世界を支えている……ええと、元素とか言うやつに似ていて、世界を生み出している存在。

その力は魔法という物で、人間は魔方陣と詠唱でその力を使う事ができる。

で、彼女は魔法を使ったと言っていた。つまり、他の魔法を使う危険性がある。

そして、現在の戦力。

俺は、戦闘能力不明。『モノカキ』が使えるかわからない。

この隣の男は、ミケが螺子説を説明していたからこの話も理解できていたはずだ。なら今回は仲間だ。

最後にこの女。

明らかに敵。

全ての魔法を操る強者。


「明らかに分が悪い。姫様がいたら……」


精神面にも楽になるんだが……。

考えていてもわからない。

どんな魔法があるかは知らないが、ここは一端逃げるしかない。


「おい、お前―――」


小声で話しかけ、少し隣を見る。


居ない……。


「ククク、お前が俺の敵だったとはな……ククク。奪った物は取り返さないとな、クハハハハ」

「元々、私たちのもの。あの人が作り上げたもの。受け継いだ今、これは私の物」

「残念。俺の物だ」


そのまま走っていく。

腕の枷は外れているようだが、武器も持たずに走っていく彼を俺は止められなかった。


―――ガッバンッ


何かが壁に当たる音。

これは―――。


悲惨。

悲惨な光景。


でも、それは幻想だった。


「アララ?幻想の魔法は使い慣れてないから疲れるの」


後ろを向く。

そこには、さっきの白髪の少女。

そして、こちら側には黒い髪の魔法が使えない魔法使い。


「……え、俺が真ん中?」

「そこじゃないでしょー!!」


敵に突っ込まれてしまった。

いや、気づいたら危険地帯に居ましたなんてシャレにならないから……。


「剣は何処にある?」


聞いてくる魔法使い。

まぁ、ここは教えないとダメなところだろう。


「確か、聖剣と一緒に保管してあるので、闘技場です」


遠い。

すごく遠い。


「無理だな。クラだったか?こっちに寄れ。ククク、作戦だ」

「ダメだって。ダメだって。痛みを感じないように殺してあげるからこっちに着て?ね?ね?」


あぁ、何かわからないけどムシャクシャする。

しかも、第三の案がでてるし。

なんだろう。

ここで暴れればいいのか?

それで解決するのか?

……違うな。

でも、この気持ちを抑える事ができるほど俺はできていない。


「じゃ、俺はお前を殴り倒して逃げてやる」

「おぉ、神様の力覚醒かい?かい?かい?」

「姫様の影響だよ」


そのまま、走り。




殴る。




―――ドガァアアン



スカッ。

……当たらない?


「???なにそれ?ねぇ、何したの?の?」

「簡単!!」


俺の声じゃない。

しかし、聞き覚えがある声。

反射していてわかりにくい。


「我が、良人を助けに参った姫君に決まっているだろう!!」

「クハハハ、面白い事やってんなぁ」


穴から飛び降りてくる魔法使いの男。


「キサマにこの剣をくれてやる。漆黒の剣だそうだ。ミケが決めた」


……無難だ。

すごく無難なのにすごくいい名前に聞こえる。

たぶん、聖剣のほうが妄想聖剣メルヘンファンタジアなんてふざけた名前だからだろう。

すごく剣も嬉しそうだ。


「アララ?もう一方の不適合者(イレギュラー)は螺子をもっているのかな?使えるのかな?」

「そういえば、一つだけミケは魔法を使えたな」

「クハハハ、関係ねぇよ。あいつを殺して全部お終い。だろ?」


殺す。

そうだ、倒さなきゃ終わらない。


「クラ、運命(さだめ)を決めよう」

「は?」

「ククク、つまりお前が今回の鍵、お前が居るから騒動が起きてんだ()るしかないだろ?」


俺が居たから起きたから。

俺が纏めろって?

……すごく理不尽に思えるんだけど。


「俺は、後方だから直接手は下せないよ」

「逃げたな」

「ククク」


ただ、姫様に任せた方がいい方向に行くと思っただけなんだけどね。

……まぁ、逃げと同じか……。


「ま、私が居るうちは頼ればいいさ。知識はクラのほうがあるんだ、これで持ちつ持たれずだろう?」

「姫様がそれでいいなら」

「私はクラがそばにいてくれればいいんだ」

「クククッ、俺はそれに便乗して殺してやるがな」


睨むように少女を見る男。


「ここで、決着をつけてもいいが……三対一だ。場所を変えないか?」

「あぁ?ここでやった方が有利だろうが」

「お前の戯言など聞こえん。現状、お前は脱走者なんだからな」

「精々、貴族どもの宝を盗んだぐれぇだろうが」

「人殺しもだいぶ昔からやっているんだろう?」

「ククク、血に濡れた王族が言ってくれる。今ここで殺してやりてぇ」

「勝てると思うか?」

「残念ながらお前一人で手一杯だな。そっちに捕まる」


俺を指差す男。

姫様一人で捕まえれそうなんだが……。


「ま、しょうがなく賛成してやらぁ」

「不気味だな。今気づいた」


気づかなかったのか?とは突っ込まない。

だってそれが姫様だから。


「では、十分……いや、時は動いていないんだったな。まぁ、あの闘技場で大体十分くらい待っていろ」

「来なかったら城に居る人たち殺してくからね?お人形を壊していくからね?」

「いいだろう、その時は私も壊す」


いや、何その約束……。

まぁ、万一にも行かないってことがないってことだろう。


「さて、作戦会議。私が一人で戦おう。はい終了」

「さ、行きましょうか」

「ちょ、ちょっと待て。俺はこんなのに負けたのか?」


何か混乱している魔法使いの男。

慣れない内はやっぱりこうなるだろう。


「………」


だから、俺は肩に手を乗せ首を振った。


「く、クハハハハハ……」


何処と無く悲しいような笑いがその廊下には響いていた。





―――魅化流 視点―――


本当にあの人は外道と言うか……何かすごく人外だ。

僕達は、闘技場でその敵という人が来るのを待っていた。

勿論、捕まえるための道具も持っている。

本当にあの人はお姫様なのだろうか?


「外道……っていうんですかね……」

「たぶん、合ってるよ」

「まさか、こんな事になるとはな……」

「姫様の命令は絶対でしょう」


ルーさんは、何処を探しても居なかったので今は居ない。

あの人は何か秘密があるんじゃないんだろうか?


「……いや、考えすぎ……深読みのしすぎってところ……かな」


何か秘密があるのには間違えないと確信はしていいだろう。

それが浅いか深いか。

下手してお姫様の耳に入ったらと思うと……。

あぁ、ダメだ。最悪の展開しか思いつかない。


「来た。って、捕まった」

「待ってください。いきなり捕まったって……魔法ですか」


かすかに魔量の臭いがする。

魔法を扱うからこそわかる臭いというやつが僕の鼻を擽る。


「でも、主戦力のフィーカさんが捕まったら負け決定じゃないですか」

「この紐……ほどけない……」


何気にくねくね動くと……その……一般的に言われる……胸の辺りが……いや、何にも考えてません。


「うふふっ♪皆さんは見学?かなかな?面白いものが見れるんだもんね?でも、その前に不適合者(イレギュラー)を一匹排除しようかな?」


僕だ。

直感でわかる。

一番異質な存在で考えたら僕だろう。


「……一応、この中で特殊な僕なのですが……コレでも強いと思いますよ?」


ここに来てから絵を描くスピードが上がってきている。

人を描くのも線とか引かなくてよくなったし……ますます異質な存在になっていく……。


「にょっと、ダメダメよぅ。不思議な匂いのするお姉さん?」

「……おかしい。こっちも不適合者(イレギュラー)……どうなってるの……。どうなって―――」

「前だけを見て、周りを見なくなった馬鹿は死ぬ運命にある!!そう思わないか?」

「クハハハハ、俺はこいつらに目を付けられたってことか?クハハハハ」

「殺すって大げさなことで。せめて遺体は埋めますよね?」

「血肉は犬のえさにしてやる。有効活用だ」


……意外とグロイなお姫様……。

しかし、あの猫……。


「にゃぴ。あんたは、周りを見てないんだよぅ。友達つくろー!!」


何か、少女の変身する黒猫。

あれがクラさん達が言ってたクロか。


「……壊さなきゃ。えぇと、何処から壊そうかな?人形がたくさんで困っちゃうよ。何処から壊して欲しい?」


ここは情報交換が先決だ。

不適合者(イレギュラー)。これはオリジナルの螺子。

じゃあ、敵はこの世界が生み出した適合者。


「あぁ、僕もお姫様に感化されている……」


適合者の方をぶっ飛ばして螺子の穴に居座ればいいなんて……完全にお姫様思考だ……。


「ねぇ、ねぇねぇ、私のわからないことが起こってるんだよ?何で不適合者(イレギュラー)がこんなに居るの?何で世界は(こば)まなかったの?」


混乱している。

錯乱している。


でもそれは―――


「狂乱。乱れて狂わなきゃ。この世界を任された私の本能の儘に……」


体から光を放つ少女。

何だかファンタジーっぽくなってきて嬉しい自分がいる反面、こんなのを相手にして勝てるのか?という自分も居る。

即ち複雑な気分。


「ククク、俺たちは観客だ。クハハハハ、お客だからな、見ていようぜ。俺の仇が死ぬとこをよぉ」

「仇?」


あの少女が?

あの少女も不老不死?

もう、常識なんて捨てた方がいいのか?


「さぁ、戦おう。クラ、お前はどうする?」

「とりあえずは姫様の気分を害したくないので能力は使いません。応援してます」

「ふふふ、勝つのはここで決定したな」


何か端でお姫様とクラさんがやっていたが、僕はその前に観客席へ行っていたので気が付かなかった。

クラさんも後で合流し、席に座る。


「……この聖剣が血を吸いたがっている」

「ただ悲しそうにしか見えないんだけど?ねぇ?ねぇ?」


まだ名前の件を引きずっているんだろうか?

聖剣というのも可哀想な名前だからな……。





―――姫君 三人称―――


剣を振り上げ、衝撃波を放つ。

そうして、地面を抉り身を隠す。


そして、そこから突き上げるように剣戟を放つ。


それに反応しているのかわからない、何処を見ているのかもわからない焦点の合ってない目で明後日の方向を向いている少女は右手をふらふらと肩と同じ高さに上げ何か呟く。


―――しまった!


そう思う頃には、吹き飛ばされている。

何度やってもそう、工夫しても吹き飛ばされる。

一国の姫なのに何故戦っているのだ?と聞かれればそれまでだが、彼女には目的があるのだ。だから、戦う。

自分の方が強いから引っ張るのは当然。


「見切った。見切ったぞ」

「ふぅん。でもまだ一つ目だよ?全力でやって潰れても困るし……あ、失言だったね」


少女は楽しんでいる。

態度でわかるその事実は姫君に圧し掛かる物の一つになっている。

苦しめている。


「何を言っている。魔法が複数使えたところで成長できないお前と私では私が勝つに決まっているだろう」

「まだ、言うの?じゃあ、次の魔法行くよ?じゃぁ、発動!!」


地面にいくつもの魔方陣が描かれ巨人が現れる。

種族は土人形(ゴーレム)。魔物だ。


「弱い。見切ったと言ったぞ?」


姫君は、ドレスのフリル部分を切り払い、捨て走った。


「鈍いな」


飛び、腕を切り払う。

もろい。

その人形は脆い。


「甘いな。嘗めてやろうか?」

「……ッ!」


目には見えない動き、何故そんな事ができる。

考えていてもわからない事実を少女は突きつけられる。


土塊(つちくれ)は片付けた。さぁ、次の魔法というやつを見せてもらおうか」

「……やるね。本当に女?」

「魔族の血を引いているとしっているのだろう?」

「そうだった。そうだったよ。本当に最悪な日」


妖艶な笑みでお互いを見る二人。

周りに漂っているのが殺気ではなかったら絵になっていただろうが、闘技場のど真ん中で殺気をぶつけ合う姿は恐ろしいだけだった。


―――次で決めよう。


誰に縛られるでもなくシタが自分で決めた決まり。

だったら、そこで勝つのが筋。

意味のわからない持論を展開させ、押し付け成功してしまうのだから質が悪い。

心配という気持ちは無く、晴々とした気分。

これで晴れていたら最高なのだろうが、生憎と時間が止まっているとわからない。


「……弱点。クラなら三秒あればわかるというのに……」

「不幸な私から奪ったのに……無いものを持っていたのに……幸せだったのに……。私が復讐しちゃいけないなんてことはないんだよっ!」

「残念、これで終わりだ。復讐を忘れて休め鬼よ!」


剣を中段で構え、走り出す。

勿論、魔法で迎撃するが―――消える。


「……ッ、また……」


ジュシャリッ。


皮を破って肉を切り裂き骨を砕いた音。

背中から一直線に突き刺さっている剣を持っているのは姫。


「教えてやろう。お前は、今回魔法に頼りすぎた。能力だって捨てたものではないぞ?私一人、軽々”転移させることができるんだからな”。わかったか?」

「迂闊……。じゃあ、一つ教えてあげる。いい情報だよ?聞く?聞く?」


満面の笑みの少女は口元まで来ている血を飲み込む。

そして、それを見たシタは剣を抜く。


「クラ、来い。いや呼ぶ」


ちゃっかりと能力を使って転移させるシタ。

勿論、この使い方を教えたのは麻美だ。伊達にニートじゃないということだろう。


「……言わなくても何故かわかる。治せと心のどこかで姫様が語りかけてくる」


―――おぉ、これが以心伝心(いしんでんしん)というやつか。


変なところで感動しているシタを放っておいてクラは空中に浮く紙に怪我の治癒促進の薬と書いていく。


「この人には、一応能力が効かないみたいなので……」

「……聞かないの?私、死ぬよ?ねぇ?」

「ミケ、包帯貸して」


コレでも怪我を何度もしているクラ。

すぐに包帯を巻く。


「……治る?」

「病院にいけばギリギリ……でも、病院には連れて行けないし……」

「なら、魔法でいってみるか?」

「ボフストいいこというね。ミケ、やってみてよ」

「……まぁ」


石版をバラバラと広げ、その内一枚を探し当てる。

古代文字でどんな神か書いてあるのでどんな魔法なのかすぐに分かる。


「えぇと、難しいな……」


あやふやになりつつも詠唱は成功し、出欠は止まる。


「世界に治される世界の守護神。クハハハ、笑いものにしかならねぇ」

「姫様無事でなによりで~~」

「こ、こら、引っ付くな」


いつもより余計にボディタッチしてくるフィーカを退け、少女に向き直る。


「その性格、直すべし。後そうだな、人間らしい言動を見せろ。負けた奴は勝った奴の奴隷だ」

「初めて聞く新説をどうもありがとうございます。で、一応……姉さん?痛いところ無い?怪我残したら俺が殴られるんだけど」

「……えと……???」

「ボフスト、ちょっと変わって。俺って同年代の子の気持ちとかわからないから」

「俺だって無理だ。性格が壊れてるお前が変わってくれ」

「ククク、殺しちまうぞ?」

「それはダメだ。私の奴隷になったんだからな。これで修行相手が……ふふふ」


やはり、裏があった姫様を咎めつつ、クラは少女に向き直る。


「父親は違うけどさ。別に悪い人達……いや、俺も含めてだけどさ。皆悪い人じゃないんだからさ。放っておいても大丈夫なんじゃない?ね、姉さん」

「……そう……かも……」


倒れこむ少女。


「浮気か!ま、まだ結婚すらしていないというのに……刺激が足りないというのか!!」

「これ以上、刺激はいりません!」

「じゃあ……キスとかか?」

「……悪寒がするんですが」

「……どうしろと言うのだ」

「姫様はお姫様なんですからお姫様らしく……って、何を言ってるんだ?」


時間を止めていた結界も解け、ようやく動き出す。

この騒ぎで、死亡者は零名。

ヒントがあるとしたら、最後、闘技場から出るときに言った『血肉になっても我が夫婦へ仕えるべし』という言葉だろうか?

まぁ、ミケがオーバーなテクノロジーでクローン的な何かを作っていたのは秘密だ……。


『後書きと言う名の調査プロフィール』


クロ 女 ???才 (本名不明)


説明 変化の魔法を使って黒猫と人間の姿をする魔族。本当の姿を誰も見たことがないが、信頼できる人(?)。


『人生表


0歳


誕生


~~~


不明


~~~


???歳


魔族の血が流れている姫様と出会い仲間として一緒に暮らしている。


以上』


容姿


猫の状態だと真っ黒。黒色の目をしている。

人間の状態だと、黒髪に黒目。背はシアよりでかく女性的な部分がペッタンコ。


能力


『???』


概要


持っているようだが不明。どの神信仰しているかも不明。


作者から「伏線として、魔族としての知識を持っている奴を入れておきたかった。それだけで登場。それと、メチャクチャ強い」


クロ『ウハハ~、言われちゃったね~。でも、強いのは本当だからね。えへへ。じゃぁ、次回予告!』


クロ『皆さん、この騒ぎが終わった後知りたい?知りたいぜっ!!イェイ!!次回!『吟遊祭 ~終わった後~ 片付けは面倒!』……私たちは片付けしてないと思うんだけどな……』

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