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私と君で勝ち取った平和  作者: 荒川三橋
二章・私たちの話
4/5

歯を食いしばる少女

いつもの同じ朝だった。毎朝ドアをノックして私を起こしにくるメイドも、窓から見える景色も、出された朝食にも、それを作る調理人拉致からも違和感は感じなかった。


しかしその日、妹は忽然と姿を消した。外出してないのに窓から誰かが侵入した痕跡もない。もしかしたらと思い子供の頃よくかくれんぼで使っていた屋根裏も確認したが、唯一ある窓にはびっしり埃だ溜まっていて、そもそもそこまでの床にも埃が溜まっていたし足跡ひとつなかった。本当にどこへ、どうやってここから出たんだ。誘拐であって、家ではない理由はいくつかある。まず妹は外出が嫌いだ。


新しい飲食店ができたから一緒に行こうと誘っても、十年に一度しか咲かない花が満開になったと教えてもこちらを見もしない。それほど重症に外出に興味がなく拒絶している。二つ目の理由は妹が肌身離さず持っている日記が自室の床に捨てたかのように落ちていた。これだけは絶対にあり得ない。誰にも見せたくないとあれほど守っていたのに、一回だけと何度も頼みその度喧嘩をするほど誰にも見せたがらなかったのに。


私はその日記を拾ってボタンを外して中身をめくって読んだ。今度は好奇心のためではなく、なんでもいいから手がかりを探すためにその手帳を開いてほと文字飛ばさず隅から隅まで目を通した。そして確信する、妹はやはり攫われたのだと。妹は家を出る予定も気持ちも一切ないと確信させる内容がそこに綴られていた。私は殺意とは無縁の人生を歩んできました。両親に愛され、街の人にも親切にされて生きてきました。


どこの誰でなぜ妹を攫ったのか見当もつかないが必ず見つけてやる。人の家族に、私の妹に手を出して無事に済むと思うなよ。15年間の人生で初めて感じる殺意が腹の底から湧いてきた。


私が妹の日記を持ってリビングに降りた時、両親はソファーに座っていた。2人の視線が日記に集まっているのが見えた。父はただ一言「やっぱり家出ではなかったな」と呟いた。母が次に何かを言おうとした瞬間私はそれを遮った。「私も妹を探しにいく」両親は一言も言わないが、反対してることだけは目を見ればわかる。「確かにうちは魔法を得意とする家系だが、もう何台も前の話だ」私も母さんも魔法は学校で習った基礎しか使えない。現代では武器の開発が進み、わざわざ魔法適性者を探し育てるよりもずっと楽に人を殺す術が手に入った。


そんな時代にあえて魔法の訓練を受ける変わり者もほとんどおらず。魔法という技術は発展しないどころか失われ始めている。しかし、全く廃れてるわけではない。魔法は痕跡を残さないので、罪人や暗殺を生業にしてるものたちに重宝されているのだ。魔法は使えば使うほど体によく馴染むので、何年も鍛えれば手足を動かすように自在に魔法を使うことも可能である。


私が通ってる学校では魔法を習う授業は数年前からなくなってしまった。そのため自分の魔法適性能力が一切わからない。「街の衛兵も外で魔獣を狩ってる猟師からも目撃した情報がないのよ」つまり母は15歳の子供が1人で街の外を出るのは危険だと言いたいのだろう。娘の1人が攫われて気が狂うほど心配しているはず、続いて私にも何かあればなんて考えたくもないのだろう。


身を守る術のない私を街の外に行かせるわけにはいかない。今すぐ家を出ることができない。気持ち任せに行動しても何もできやしない。ぬるま湯の人生を歩んできた私のままでは1日も持たないだろう。両親は私の気持ちを察したようで、父が静かに私頭を撫でた。

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