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命を見捨てない為に

「それでは、各生産活動の利益からの徴収率は70パーセントという事で」

「少なくないか?」

「しかし、これ以上徴収するとなるとな」

「労働者の負担が大きくなりすぎる」

 今後の活動の為の資金調達。

 その会議の席での一幕である。



 生産活動に従事している労働者達。

 いずれも療養所設置者達の考えに賛同した者達だ。

 それらから徴収する賃金の率をどうするか。

 それが常に頭を悩ませる。



 労働者の賃金から徴収し、それを活動にあてる。

 それは良いのだが、その労働者からどれだけ手にいれるか。

 これが設置者達を悩ませる。



 出来れば賃金全てを徴収したいのだが。

 かつてそれをやったら、反抗が起こった。

 それはどうにか鎮圧したが、それから設置者達は全額徴収には及び腰になった。

 とはいえ、おかげで使える資金に限界が来てしまう。



 何せ、徴収した賃金で労働者達の宿舎なども運営しているのだ。

 衣食住を設置者達が負担する。

 高い徴収率はそういった設備の為でもある。



 一人三畳程度の狭い部屋に、水道・風呂・トイレ共用。

 そんな粗末な設備でも、設置・維持には手間がかかる。

 それらに費やす分、救済の為の療養所などの設置が遅れる。

「痛し痒たしだな」

 資金繰りは以前よりは良くなってる。

 だが、囲わねばならない労働者の分だけ、手間も増えた。

 資金も食いつぶされる。

「思うように、なかなかいかないもんだ」



 幸い、労働者の確保はそれほど難しくはない。

 貧困地域の人間をあてる事で確保出来る。



「もう少し労働者の貸し出しが増えればいいが」

 生産活動で一番割がいいのがこれだった。

 労働者を貸し出す事で、その分の賃金が手に入る。

 これが自前で事業をやるより儲けられる。

 しかも、賃金も高めに設定する事が出来る。

 おかげで、利益はおおきい。



 労働者の賃金を一旦設置者達が受け取るのも大きい。

 そこから労働者に渡していく事になるのだが。

 この時、労働者に手渡す賃金は、受け取った金額よりも大幅に少なくしていく。



 例えばだ。

 設置者達の施設で労働してる場合の賃金は、名目上1万円だったとする。

 そこから70パーセントを引いて、手渡すのが3000円になる。



 しかし、労働者の貸し出しとなるといささか異なる。

 貸出先から一人当たり2万円ほど手に入れたとしよう。

 しかし、労働者に渡す金額は3000円。

 残り1万7000円が設置者達の手に残る。



 こういうカラクリになってるので、設置者達は労働者の貸し出しを増やしたい。

 しかし、労働者の貸し出しは常にあるわけではない。

 なので、安定した収入にはなりがたい。

 ここが悩ましいところだった。



「まあ、労働者はまた増える」

「貧困地域に新たに療養所を設置したからな」

「まともに動ける者が増えれば、資金ももう少し増えるだろう」

 今暫く時間はかかる。

 だが、長期的に見れば上手くいく。

 そうなるまで、救えない者が出てしまう事になるが。

「どうにもならないか」

 全知全能ではないだけに、やれる事は限られている。

 どうしても手の届かない所が出て来る。

 それが残念なところだった。



「我々も稼ぎは全部提供しているが」

「それだけでも足りないからな」

 設置者達も自分の儲けを提供している。

 収入のほぼ全額を。

 それだけこの活動に熱意をもっていどんでいる。

 だが、それでも出来る事に限りがある。

「悔しいな」

「まったく」

 沈痛そうにため息を吐く。



 そんな設置者達の収入だが。

 それらは彼等が作った療養所などを運営する団体から出ている。

 その収入を全額団体に寄付している。

 それが彼等なりの意思表示だった。

 利益の為にやってるのではないという。



 そんな彼等が運営している団体。

 それは設置者達の意志で動いていく。

 その意志で、設置者達の生活環境がととのえられている。



 誰がそれだけの部屋を使うのかという豪邸と。

 その豪邸の数倍の面積を持つ庭と。

 彼等が乗り回す高級車と。

 腕の良い料理人を雇う費用と、その料理人が作る料理と。

 着心地の良い、オーダーメイドの衣服と。

 家の中を調えるための使用人と。

 彼等の複数いる配偶者と、数多くの子供達の養育と。

 そういった様々な物事を団体が必要な設備や経費として運営している。



 そんな団体でも、救える困窮者はまだ一部だ。

 救ってきた者達の数は確かに多いが、全体の比率でいえばまだまだ少数である。

 まだもう少し手を伸ばせるはずなのだが、それがなかなか思うようにいかない。

「本当にままならないな」

「全くだ」

 会議の席にため息が多く漏れる。



 いつもの事だが。

 救いたいものがあるのに救えない。

 その事に涙を流すほどの、歯ぎしりするほどの悲しみをおぼえる。

 おかげで、極上のステーキの味も分からない。

 絶妙なソースとの絡み合いがもたらす巧緻な風味も。

「いつかこの料理を、本当に美味しく食べられるようになりたいものだ」

「まったくだ」

「いつになるんだろうな」

「先が見えないのはつらいよ」

 そう言いながら設置者達は料理人渾身の料理を口にしていく。

 悲痛でその味わいを大きく減退させながらも。



「だが、負けるわけにはいかない」

 設置者の意志は固い。

「今までだって辛い事や苦しい事はあった。

 だが、それを乗り越えてきたんだ。

 きっとこの困難も乗り越えられる」

「そうだ!」

「その通り!」

「もちろん!」

 居合わせた者達が口々に賛同の意をあらわしていく。



「貧困を!

 困窮者を!

 それを無くしていこう。

 その為に我々はこうして頑張ってるのだ!」

 食う物にもありつけない者達の為に。



「助けが必要な人達がいる。

 だから頑張ろう!」

 その為に、労働者をどれだけ虐げても。



「食うに困ってる人達から目を背けてる。

 そんな者達にならない為に」

 日々の稼ぎ、生活を支える糧。

 それを奪ってでも。



「貧困を撲滅しよう。

 困窮を無くそう」

 喉が渇けば自動販売機で飲み物を買い。

 暑ければコンビニでアイスを。

 寒ければストーブを。

 そんな贅沢を困窮者に渡そうともしない連中になりかわり。



「我々が救うのだ。

 他の誰でもない我々が」

 困窮者を助けるために、労働者から巻き上げて。

 最低限の生活環境を提供はしてるのだから。



「我々が人々を救うんだ!」

 おう!

 呼応する声が上がる。



 貧困地域の困窮者を救う福祉団体。

 彼等は今日も歩みを止めない。

 飢えて苦しむ者がいる限り。

 飢えに苦しむ事がない日々が訪れるまで。



 粗末な住居に人を押し込め、味もろくに調ってない料理を出し。

 粗雑な製法による雑な衣類を提供し、糧を稼ぐ為の労働をさせて。

 缶ジュースやアイスといった贅沢など決してさせず。

 そんな贅沢をする余裕の全てを貧困地帯に注ぎこむ為に。



 それが設置者と設置者が作った福祉団体の目指す世界。

 いつか困窮者が消えるその日まで。

 彼等は止まる事はない。

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