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少女地獄  作者: ちぇりーアントワネット
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乙女の恋の力は無限なり

私、北条 恵梨香は目の前の教科書に向かいながらふと思う。


両親に望まれてこの世に生を受け、過分ないほどの愛情を目一杯受けて育ち、この国で高い地位の仕事に就き、私にはとても甘く家族の事を第一に考えてくれるパパと、優しくて料理上手で、元モデルの美貌とファッションセンスを持つママ。


パパは私が望むなら何でも買ってくれるような親バカっぷりで、ママが選ぶ洋服やアクセサリーはいつだって私を可愛く綺麗に飾ってくれた。


そして、外国人のお祖母ちゃんを持つ、パパの彫が深く目鼻立ちをはっきりさせた顔の造形にやや赤みがかったサラサラな髪の毛、元モデルのママの切れ長のくっきりとした二重の大きい目、そして、人を虜にさせるようなプルプルで瑞々しい唇に人好きがしそうな笑い顔。

そんな二人の良い所を存分に集めた私の容姿はとても整っているようで、幼等部の時には既にテレビの取材を受けたママが反対しなければ芸能界デビューを果たしていた程だ。


そして、パパは私が素敵なレディになれるようにと小さい頃からたくさんのお稽古をさせた。

お稽古は現在進行形でいくつも掛け持ちしていて大変だけれど達成した時にパパはたくさん褒めてくれるし、ママがとっても美味しい料理を作ってくれるから別に全然苦ではない。


そんな他人が見ても羨ましがる様な両親のもとすくすくと特に大きな病気もなく育った私はとても幸せものだろう。


でも、私が今一番幸せに思うことは…



「恵梨香ちゃん。ちゃんと集中しないと駄目だよ。」



自分の世界に入り込み、物思いにふけっていた私に注意してきた彼の名前は右代宮先生


右代宮先生は私が初等部一回生の頃にパパが私の為にと雇ってくれた家庭教師である。


年は忘れちゃったけど、右代宮先生は今現在、私の通う学校の高等部に所属している。


私の通っている学校は初等部・中等部・高等部・大学までのエスカレーター式の学校で、この国で指折りの進学校らしい。


右代宮先生は文武共にとても優秀な人で高等部の生徒会の役員をしているという。

そんな、進学校で優秀な成績を収める右代宮先生は、パパがとてもお世話になり尊敬している人の息子さんらしく、毎週二日か三日私の勉強を見てくれている。


尊敬する人の息子で学業優秀な右代宮先生にパパは全幅の信頼を寄せており、右代宮先生の授業を受け始めてから、やがて四年が経とうとしている。



右代宮先生はいつも優しい微笑みを浮かべる人で、私のレベルに合わせて勉強を見てくれるし、私が問題を解けなくても根気強くちゃんと一から教えてくれる。

子供の私の話をいつもちゃんと楽しそうに聞いてくれるし、たまに課外授業と称して気分転換に外に遊びに連れて行ってくれる。


私がたまに我儘を言うと、私と同じやや赤みがかった茶髪をポリポリと搔きながら少し困ったような顔でしょうがないなと優しい微笑みを浮かべながら頭を撫でてくれる。そんな少し困ったような笑い顔が私は大好きだ。




そんな右代宮先生に私は多分生まれて初めて恋をしていると思う。




正直、これが恋というのか正直私にはまだよくわかっていないけれど、右代宮先生が傍にいるととても嬉しくて胸がドキドキして気持ちがよくなる。


反対に右代宮先生が帰ってしまうと私はとても悲しい気分になり胸がキューっと苦しくなって切ない気分になる。



いろんな本やテレビ、友達の話を聞く限り、私のこの気持ちは恋なのだろうと思う。



「先生。ごめんなさい。少し疲れちゃって…」



私がそういうと右代宮先生はいつものように少し困った笑顔で髪を軽く掻きながら頭を撫でてくれる。



「しょうがないな。確かに一時間も机に向かいっぱなしだから疲れただろうね。少し休憩しよう。」



私は休憩中に右代宮先生にいろんな話をする。学校の事、友達の事、パパやママの事。

右代宮さんは微笑みながら相槌を打ち冷めたコーヒーを啜りながら私の話を聞いてくれる。




私はこの休憩時間のひと時が一番好きだ。




「今更ですけど先生は勉強を教えてくれるのがとても上手ですよね。」



「そう?そういってくれると教え甲斐があるよ。恵梨香ちゃんも大体一度説明したら理解してくれるから授業がやりやすいよ。普通の子はそんなに早く理解できないよ。」



右代宮先生が何気なく答えてくれた内容に私はふと尋ねた。



「普通の子はって、先生は他にも誰か教えた事があるんですか?」



「そうだよ。恵梨香ちゃんの他にも今何人か教えているよ。」



右代宮先生が私以外の誰かの勉強を見ている所を想像した私は酷く嫌な気分になった。



「先生が教えている子達は男の子ですか?女の子ですか?」



私が普段では見せない少し睨みを効かせた顔で迫ったせいで、右代宮先生はちょっと驚いた顔で答える。



「今は恵梨香ちゃん以外の女の子が三人かな…。この前まで男の子もいたけど御両親の仕事の都合で引っ越しちゃったからね。」



なんてことだ……。私以外の女の子にも勉強を教えているなんて



「その子達はどんな娘なんですか?」



「恵梨香ちゃんと一緒で、みんな僕の父親の知り合いの娘さん達だよ。みんな、恵梨香ちゃんと同じ学校の確か…初等部の三・四・五回生だから、四回生の子は恵梨香ちゃんの同級生だよ。早矢峰 凛ちゃんっていうんだけど知ってる?今日は恵梨香ちゃんの授業が終わったら、七時から凛ちゃんの所に授業に行くんだよ。」



えっ、早矢峰 凛って私と同じクラスの子だよ。何かにつけて私に張り合おうとして何か感じが悪い子で私が苦手なタイプの子だ…



結局、私はその後の授業が全然頭に入らなかった。



「今日は恵梨香ちゃんは途中から体調崩したみたいなので、早めに休ませてあげてください。」



その後、授業を早めに切り上げた右代宮先生は玄関まで見送りに来た私のママにそう説明して帰っていった。



「恵梨ちゃん大丈夫?今日はもう寝ときなさい。」



「はい…」



私は右代宮先生を見送ると、ママが言うように自分の部屋までトボトボと歩きベッドに倒れこんだ。



そっか、右代宮先生。早矢峰さんや他の子にも教えているんだ…



心の中でそうつぶやくと頭の中がゴチャゴチャになってきて叫びたい気持ちでいっぱいになっていった。


そういえば、右代宮先生は今日、七時から早矢峰さんの授業があるっていってたな。


そう、誰に言うわけでもなく呟くと、私は自分の鼓動が徐々に大きくなっていくのを感じた。



先生は早矢峰さんとどんな話をするのだろう。



早矢峰さんは先生の事どう思っているんだろう。



ひとしきり、色んな事を考えて頭がゴチャゴチャになった私は



「駄目だっ!!気になる。」



ベッドから飛び降りると、階段を駆け下りて我が家の広く長い廊下を走って玄関に飛び出した。


閉まりかけの玄関の扉の奥からママの怒ったような声が聞こえるけど後で謝ればいいよね。



ママ。ごめんね。でも、乙女の恋する力は誰にも止められないの。


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