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もう全て決めてしまうのか?


「うまい! やっぱり練習後の肉まんは最高だよ」

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 俺は話がしたいと高麗川を誘う、喫茶店かファミレスか、そう聞くと高麗川は


「そろそろ肉まんの季節だな!」

 そう言ってコンビニに、そしてそのまま近くの公園のベンチに座るやいなや、バクバクと肉まんを頬張りはじめる。


「えっと……」


「はなふぃってはんだい?」


「いや食べてからで良いから……」


「ふぉかごめんふぇ、いまおふゃふぉ」

 水分の無くなった口の中に、暖かいお茶を流し込んでいる。嬉しそうに、美味しそうに食べる高麗川……そう言えば、瑠もご飯を食べる時は美味しそうに食べるよな……しかも二人ともよく食べる。

 思わぬ所で共通点を見つけてしまう。


「それで話って?」

 肉まんを持っていた指をペロッと人なめした高麗川は、持っていたもう一つのピザマンを少し残念そうに見つめ、ちょっとだけ恨めしそうに俺を見る。

 

「いや、あ、あのさ……やっぱり高麗川の言った通りなのかも知れないって……」


「言った通り?」

 もう忘れたのか? 高麗川はなんだっけと考え込む。


「いや、だから……誘導されてるって話だよ」


「ああ!」


「な、なんだよ、高麗川が言ったからじゃねえか」

 俺も仕返しとばかりに少しだけ恨めしそうにそう言い返した。


「それで?」


「……いや、その……なんかさ……高麗川に言われてから……信じられなくて」


「信じられない? 何がだい?」


「いや……その……あ、愛が……」


「…………ぶはっ、あはははははははは」


「わ、笑うなよ!」


「き、君の口から愛だなんて、あははははは、わろすわろす、テラわろすって奴だな!」


「言い方!」


「そ、そうか、僕のせいでもあるんだな、ごめんごめん」


「くっ……」


「怒るなよ、それで、システムに誘導されている根拠が自分でも見つかったって事かい?」


「……ま、まあ……でもそこまではっきりってわけじゃ……ただ月夜野の口から……結婚だの子供だのって出てきたら……」


「へえ、随分と進んでいるようじゃないか? 童貞卒おめ~~」


「してねえ! キスしかしてねえ!」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 そう言うと高麗川は俺を慌てて制止する。

 そして……。


「ピザマンが冷めてきた!」


「…………ああ、ハイハイどうぞ」


「すまない…………うまっ!」

 モグモグとピザマンを頬張る高麗川……いや、かわいいけど、いま良いところだったんじゃないのか?!

 相変わらずマイペースな奴、俺はそう思いつつ、美味しそうに食べる高麗川を黙って見つめる……。

 改めて見ても、高麗川は可愛い、日焼けした肌、短い髪、少し垂れた大きな目……性格の勝ち気でお節介でお人好し……。

 瑠と似ている……どことなくだけど……。


「……ん? ああ、たふぇるかい?」

 

「いや、大丈夫」


「えんりょふるな、ほふぇ」

 俺が見つめて考え込んでいる事を勘違いした高麗川は、目の前にピザマンを差し出す。


 俺はそのうまそうな匂いに、ついパクりと一口頬張った。


「うまいだふぉ?」


「あ、ああ……」

 俺が食べたピザマンを気にする事なく再び食べ始める高麗川……いや、間接キスとか考えるってオタッぽいよな……ってオタだけど……。


 高麗川は気にしないのかな? 陸上部の奴とこうやって帰りに買い食いとかしてるのかな? 体育会系ってそうなのか? いや、俺も昔はそうだったけど……。

 そうなら……なんか嫌だな……高麗川が他の男とこうやって……とか……って俺は何を……。



「君はさ、競技者に戻らないのかい?」

 食べ終わった高麗川は再びお茶を煽り飲み、一息つくと、真剣な顔で俺を見つめ、そう言った。


「え? いや、今さら戻るなんて……」

 周囲が許さない、親父が許さない、自分が……許さない……そもそも……またやりたいなんて……これっぽっちも思わない……。


「違うよ、競技じゃなく競技者、スポーツの世界に帰ってくるつもりは無いのか? って言ったんだ」


「競技……者?」


「さっき君はあれだけの体幹を、力を見せたんだ、他の競技をやってもそこそこ行くんじゃないのか?」


「……いや……それにしても……今からなんて……」


「何もオリンピックやプロを目指せとか言ってるんじゃないんだ、運動は嫌いじゃないだろ?」


「……まあ」


「……自分の可能性を、もう決めてしまって良いのか? って聞いたんだ」


「……可能性……」


「そしてね、それはマッチングシステムにも言える事なんだ」


「え?」


「君は決めてしまって良いのか? 瑠に……自分の人生を託せるのかな?」


「……それは」


「一生を、もう……決めてしまって良いのかい? 誘導って言うのはそう言う意味さ」


「一生……」


「後から後悔しないかい? 今の君のように」


「後悔……」


「競技を止めてしまった事を全く後悔していないかい?」


「……」


「瑠を選んで、それもシステムによって決められた相手で、君は後悔しないかい?」


「……」

 やはり……言い返せなかった……高麗川に俺はまた、何も言い返せなかった。

 さっき高麗川が言ってくれた言葉に……君は僕のヒーローなんだって言葉。

 俺は凄く嬉しかった、そして凄く悲しかった。


 認められた喜びと……そして止めてしまった悲しみが俺の中で渦巻いていた。


 そう……俺は後悔していたんだ……。


 高麗川の言っていた通り……俺は……後悔していたんだと……今ごろ知ってしまった。

 


「──なあ……僕達、付き合ってみないか?」


「……え?」


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     新作!         
  同情と恋の違い 元アイドルの美少女が責任を取りたいと僕の前に現れた。          
  宜しくお願いします。(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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