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勇者はお腹が弱い

幾度の戦闘を越え、ようやくたどり着いたボスがいると思しき重々しい扉を前にして、勇者のお腹にはまたしてもツキツキとした痛みが襲ってきた。


「あ、あのさ……ボスのところに行く前にもう一回……」


「勇者様、またトイレですか?」


屈強な肉体をした戦士がやや呆れたように言う。彼にはきっとこんな悩みは無いのだろう。

いや悩んで欲しいことはあるのだが。


「あ、あ……」


「えー、ゆうしゃさまのトイレはいつものことじゃーん!」


きっと心配はしてくれているのであろう僧侶と、打って変わって無神経な言葉をかける魔法使い。二人とも極端な性格である。


「うん、ごめん……」


まだ何か言いたげな戦士から逃げるように、勇者は駆け出した。


原因は一番自分が分かっているのだ。でもだからといって止めようもない。緊張すると何度もトイレに行きたくなってしまう、この性分は。もうダンジョンに入って五度目くらいで出るものも何も無いのに、とりあえずふんばる体勢をしないと落ち着かないのである。


物陰に隠れてズボンを脱ぐ。ダンジョンだとトイレが無いので全く落ち着かないが、それでもこうしないことには腹が、気が治まらないので仕方ない。なにか出たような出なかったような、ほとんど感触は無かったがそれでも汚いのは嫌なので、道具屋で大量購入している柔らかい紙でお尻を拭き、飲水で手を洗ってパーティーの元へ戻った。


いつから、なんていうのは考えたことも無いくらい、勇者にとってこの腹痛はお馴染みのものだった。王様から勇者として呼び出された時はもちろん、勇者として出立の挨拶をしなければならない日はもう前日からトイレに籠もりきりだった。亡き父が勇者だったからといって子まで勇者とは限らない。そう運命を呪いながらも、魔王を倒すという使命をやり遂げようと生真面目に考える性格こそが、病の元かもしれなかったが。


彼としては最短で済ませてきたと思ったが、それでもいざ決戦という気持ちでいた戦士には長かったのだろう、なんとなく嫌な目をしたように見えた。


「ごめん、お待たせ」


「いえ。大きな戦いの前ですから、万全の体勢で挑まなくては」


「だ、大丈夫……?」


「もういいのー? じゃあいこー」


思い思いに声を掛けてくるが、その真意はどうなんだろうか。でも今はそんなことを考えている場合ではない。トイレから戻ってきたこの余裕のある間に、戦いに没頭するようにしなくては。


勇者一行は扉を開いた――

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