96.復活の手がかり
俺とアプリコットは高級料亭ぺリア・ロ・サイモンへと戻って来た。
もちろんキャロラインも連れており、そこから歪曲門を通ってバンジョーナ城塞へと帰還する。
「さあ、キャロラインちゃん。着きましたよ」
「……」
いきなり別室に出たので、キャロラインは不思議そうな顔できょろきょろと辺りを見回していた。
「……」
……連れ来てよかったのか……?
もし間者だったら手の内を諸にさらしてるんだが……
「……」
……深読みしすぎか……
聞いた限りでは、明日にでも精霊界とやらに強制送還されるんだしな。
「キャロラインちゃん! もうここはバンジョーナ城塞です!」
「……そうなの……?」
さっきまで泣きべそをかいていたキャロラインは、多少ではあるが元気を取り戻していた。
ただ、泣き腫らした後が痛々しいが……
「今出てきたあの鏡と、ぺリア・ロ・サイモンにある鏡は繋がっているんです!」
「……不思議……」
キャロラインは可愛らしく小首を傾げる。
「二人とも付いて来い」
俺は彼女たちを引き連れて、歪曲門が設置してある部屋から通路へと出た。
とそこで、ティンクファーニとばったり出くわす。
「あらトモカズ、お帰りなさい。街の様子はどうだった? ……って、その子、誰?」
「色々あってな。後で話すから、パーシヴァリーたちが何処にいるか教えてくれないか?」
城塞の中は広く、部屋もたくさんあるので目的の人物を探そうと思えば一苦労だ。
しかし通路では多くの骸骨騎士がうろついているため、こいつらに言い付ければ直ぐに呼んできてくれる。
今回はたまたまティンクファーニと出会ったから、ついでに居場所を尋ねたという訳だ。
「みんなセラーラ様とピア様のところに居るわ。目覚めさせる方法を考えているみたい……」
そう言う彼女も二人のために色々と尽力してくれている。
しかしながら、エルフの知識を以てしても覚醒方法は未だ掴めていなかった。
……済まんな、俺の娘のために……
「呼んでこようか?」
「いや、俺の方から行く」
「……分かったわ……じゃあ、後で詳しく話を聞かせてね」
俺は小さく頷くと、アプリコットとキャロラインを連れてパーシヴァリーたちの下へと向かった。
そして直ぐに、目的の部屋へと辿り着く。
そこは広く豪華な一室で、華美な調度品が並べられてある城塞に似つかわしくない部屋であった。
……恐らくマッキシムの部屋だったんだろうね……
「今帰ったぞ」
扉を開けた瞬間、険しい顔を浮かべたパーシヴァリー、エルテ、チェームシェイスが視界に入る。
傍にはベッドが二つあり、それぞれにセラーラとピアが寝かされていた。
「マスター」
「師匠」
「我が君」
俺の登場に、すぐさま三人の表情が和らいでいく。
直後、パーシヴァリーだけが獰猛な嗤いへと変化した。
「……其方はキャロラインではないか……どうしたのだ……また私と戦いたくなったか?」
キャロラインは恐怖に震え、ささっとアプリコットの後ろに隠れる。
「パーシヴァリー、脅かしてやるな」
俺の言葉に彼女は眉根を寄せた。
「……マスター、私と戦わせるためにキャロラインを連れて来たのではないのか……?」
いやいやいや、お前どれだけ戦いたいんだよ……
「アプリコット、事情を話してやれ」
「はい! ご主人様!」
俺の指示で、アプリコットはキャロラインの身の上を語り始めた。
「と言う訳で連れてきた」
話を聞き終えた三人の乙女精霊は、キャロラインに同情の眼差しを向けていた。
「私と戦った後、そんなことがあったのか……」
「ひどい話だね……」
「ドミナンテと言う輩、血も涙もない男のようだ……」
話の途中から再びキャロラインが泣き始めた。
「……うぇ……もういいの……ひっく……私はあと少しで顕現できなくなるから……ぐす……」
……キャロライン……そうなった責任の半分は、お前にもあると思うんだが……
「ご主人様、何とかなりませんか? このままだとキャロラインちゃんは【無能の部屋】行きです……処分されるんですよ……」
アプリコットよ……優しいお前の事だ。そう言ってくると思ったよ。
……でも、野望が大きい奴と誓約しなければならないんだろう……
そんな人物、俺の周りには居ないと思うが……
「……」
……それに期限は明日までだ……
……時間が無さすぎる。
「これだけはどうにもならない。諦めるんだ」
「……ご主人様……」
アプリコットの澄んだ瞳が俺を射抜く。
他の乙女精霊たちも期待に満ちた目で俺を見ていた。
「……」
あの眼差しは、俺なら何とかできるという視線だ……
「……」
……こいつら全員、俺に不可能は無いと思っている……
……ここは無理だってはっきりと言わねば……
俺は拒絶の言葉を口にしようとする。
「なっ!?」
瞬間、気付いてしまった。
彼女たちの瞳から、キラキラとした輝きが俺に向かって飛んできている事に……
そしてその輝きは、俺の意志に関係なく体へと吸収されていた……
「……」
あの眼差しは期待する目だよ!!!
俺なら出来て当然、て視線だ!!!
これ、どうやって断るのよ!!!
俺は懸命に言い訳を考える。
「……」
浮かばねえ……
なーんも浮かばねえ……
とそこで、キャロランがゆっくりと口を開いた。
「……その二人……どうしたの……?」
彼女は部屋に入った時からセラーラとピアが気になっていたようだ。
「……訳あって眠りから覚めないんだよ。もう眠って随分となる」
「……」
キャロラインは二人をジッと見つめる。
そして何かを思い出したのか、小さな声で呟いた。
「……もしかしたら……あれで目覚めるかも……」
その言葉に、俺と四人の乙女精霊は過剰に反応する。
「あれってなんだ?」
「目覚めさせることが出来るのか?」
「凄く気になるよ」
「詳しく話しを聞かせて貰っても良いか?」
「キャロラインちゃん、何か知ってたら教えてください!」
一度に問われたキャロラインは、困り顔を浮かべながらもきちんと答えてくれた。
「……どんな眠りについてる者でも、絶対に目覚めさせられる花がある……」
「なんだと!!?」
俺たちは一斉に彼女へと詰め寄る。
「名はなんと言うのだ!?」
「何処にあるの!?」
「形状は!?」
「どれくらい咲いているんですか!?」
再び言葉攻めにあうも、キャロラインは全ての問いに返答した。
「……名前は虹色の花……場所は精霊界……形はスミレに似ている……野原一面に咲いてる……」
「なに?」
「……この花の香りを嗅がせれば……誰でも立ちどころに目が覚める……」
「……」
……なんかどこかで聞いたような……
「こうしちゃいられないや! 師匠、今からボクが取りに行ってくるよ!」
エルテが意欲的に名乗りを上げる。
「……それは難しい……」
ところがキャロラインは難色を示した。
「どうして難しいんだ?」
俺の問いかけに、キャロラインは俯きながら言葉を続ける。
「……精霊界は精霊しか行けない……私が行ってもいいけど、誓約精霊は、精霊選戦の最中に精霊界へは帰れない……」
……そう来たか……
が、キャロラインは難しいと言っただけで、無理とは言っていない。
「例外はあるんだろ」
「……うん……」
当たりだな。
「それは何だ? 教えてくれ」
「……誓約精霊が精霊界に戻れるのは、精霊選戦に負けたとき……それと、人間と誓約を交わした際、誓約者となった者を神官長さまに見せに行く時だけ……」
「……」
なるほど。
確かこいつの話では、精霊選戦に負けた精霊は強制的に隔離されるんだっけか……
……前者は片道切符……
となると、後者しかない。
誰かにキャロラインと誓約を結んでもらい、神官長とやらに会う態で精霊界に行って花を取ってくる。
「キャロライン、お前の誓約者を見つけるぞ」
「……」
彼女は難しそうな表情を浮かべる。
……分かってるよ。
明日になれば強制送還されるから、時間が無さすぎるって言いたいんだろ。
「……」
……さて、どうする俺……
「我が君よ、そんなに悩むことでも無いぞ」
おお、チェーム。何か良案があるのか?
「我が君が誓約者になればよいではないか」
「え?」
彼女は口角を上げドヤ顔をしていた。
「凄くいい考えだよチェームちゃん! 野望が大きい人を探してる暇なんてないもんね!」
エルテが賛同してくる。
「流石はチェーム、素晴らしき案なのだ!」
パーシヴァリーもその気になっていた。
「やっぱりチェームお姉ちゃんは凄いです! 見事な考えです!」
アプリコットは諸手を上げて喜んでいる。
「……」
いやいやいや、野望が大きい人間って言ってるでしょうが。
誓約精霊は見ただけでその者がどれくらいの野望を持っているか分かるんだぞ。
今のキャロラインを見てみろよ。
すげえ眉間に皺が寄ってるじゃねえか……
……どう考えても俺の野望が小さいって、あいつの顔を見れば分かるだろうに……
「我が君よ、案ずることはない」
俺の心を見透かしたかのように、チェームシェイスが口を開いた。
「話を聞く限りでは、大小構わず野望さえ持っていれば誓約が可能ではないのか?」
……なんだと……?
「そうなのか、キャロライン?」
「……うん……野望さえあれば誓約は可能……でも、野望が小さいと私の実力では難しい……」
彼女は自信なさげに答える。
しかしチェームシェイスはそれがどうしたと言わんばかりに堂々と言い放った。
「うむ、出来るのであれば、何ら問題はない」
「……」
……おいおいおい、難しいって言ってるんですけど……
「……」
……だが、やっと見つけた打開策だ……
ここはキャロラインに頑張ってもらわないと……
俺はちらりと彼女を見た。
「……」
案の定、その表情は険しい。
「キャロライン、もう選り好みしている時間はないのだ。どのみち其方は明日には消える。ここは賭けに出るのだ」
パーシヴァリーの自信に満ちたその言葉に、キャロラインの心が動いた。
「……分かった……」
おお、やる気になってくれたぞ!
「……でも、あと一つ問題がある……」
何だよ、まだ何かあるのかよ。
「……虹の花は精霊界でしか存在できない……そこから持ち出したら消滅する……」
「なんだ、そんな事か」
良かった、それなら全然大したことないぞ。
「……そんな事って……」
「簡単な話だ。セラーラとピアを連れて精霊界に行けばいい」
その言葉にキャロラインは意を唱える。
「……誓約者と精霊以外は精霊界に行けない……」
「大丈夫だ。こいつら精霊だからな」
「……え……?」
何かを思い出したのか、キャロラインは咄嗟にパーシヴァリーを見た。
「……そう言えば、あなたは精霊と言っていた……ということは……」
「其方の考えている通りなのだ。マスター以外のここに居る者は全員が精霊だ」
「……そ、そうなの……?」
精霊は精霊でも、こいつらは乙女精霊だけどね……
「……」
……まあ大丈夫でしょ……たぶん……




