表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/279

94.ぽんこつ少女 後編

 精霊選戦。

 それは次代の精霊王を選定するための戦いである。


 対象の精霊は、ここ千年間で新たに高位精霊となった精霊であり、全員が強制的に参加を強いられる。

 これらの精霊は誓約精霊と呼ばれ、彼、彼女らは持てる全てを駆使して精霊王の座を目指すのだ。


 勝敗の決し方は至極単純。

 大きな野望を抱く人間と誓約を結び、その野望を達成させて最も偉大な大業を成させた精霊が勝者となる。


 そうなると晴れて精霊王となり、今後千年間は精霊界に王として君臨する。


 無論、誓約精霊に選ばれた人間にもメリットはある。

 誓約を結んだ人間は誓約者となり不老の身を手に入れることが出来る。

 さらには誓約精霊の様々なサポートを受け、野望が達成しやすくなるのだ。


 そしてこの精霊選戦にはいくつかの細かいルールが存在し、中でも絶対に破れない三つの規約があった。


 一つ、一人に付き一体の精霊としか誓約できない。

    その逆も然り。


 二つ、誓約を交わしている者が死ねばそこで脱落となる。

    その逆も然り。


 三つ、一度でも誓約を交わした人間は、再び精霊と誓約を交わすことが出来ない。

    その逆も然り。






「……ぺリアムド……あなたの言っていることには無理がある……」


 キャロラインは、ぺリアムドが述べた言葉を思い返す。


 先ほど彼女は自分に代わってドミナンテと誓約を交わすと言った。

 しかし既に、彼は自分と誓約を交わしている。

 これは間違いなく三つ目の規約に引っ掛かっている。


 そんなことを、ぺリアムドほどの精霊が見落とすはずがないとキャロラインは訝しんだ。


「二重誓約は出来ないって言いたいんでしょ?」

「……知っているならどうして……」

「あら、自分で分からないの? やっぱりポンコツね。いいわ、教えてあげる」


 ぺリアムドはニヤリと笑って言い放つ。

 

「あなた、まだドミナンテとの誓約が完全に完了していないわよね」

「……え……?」


 精霊が人間と誓約を交わし終えるのには時間がかかる。

 それは精霊の実力に左右され、優れた者なら一日と掛からず誓約してしまうが、劣る者なら半年以上も時間を有した。


 無論、キャロラインは後者であり、未だドミナンテとの誓約完了までは至っていなかった。


「あなたはまだ本格的に誓約を交わしていないの。だ・か・らぁ、今なら中断が出来るってわけ。知ってた?」

「……そんな……」


 彼女は今までその様な事など微塵も考えたこともなく、衝撃の事実に動揺する。


「……で、でも、あなた自身はどうなの……?」

「私が誰かと誓約を交わしてるって言いたいの? 残念、私は最初から誰とも誓約していないわ。だって私に見合う人間がいなかったんですもの」

「……し、信じられない……今まで誓約者なしで存在を維持してきたの……?」


 精霊がこの世界で長期にわたって存在を維持するには、人間と誓約を交わす必要がある。

 精霊選戦以外では誓約でなく契約と名を変えるのだが、これらを交わして初めて自由に顕現できるのだ。


 仮に人間と誓約をせず顕現した場合、その期間は精霊の実力によって大きく変わる。

 高位精霊でも頑張って一か月ほどが限界で、その一か月の間に誓約者となる人間を探し出さなければならない。

 しかしキャロラインに至っては、たったの二日が限界であった。

 そんな短い期間でドミナンテを引き当てたのは、彼女の運が良かったと言えよう。


 さらに言えば、誓約進行中でも誓約完了時と同じように顕現状態を維持できる。

 その様な事すらもキャロラインは全く気にしておらず、要は何も考えていなかったのだ。


「別に驚くことでもないわ。私ほどの精霊なら一年以上は余裕よ」

「……い、一年……?」


 とんでもない日数にキャロラインは驚愕する。


「もういいかしら。そろそろ終わりにしたいんだけど」


 話に飽きたのか、ぺリアムドはドミナンテに目配せをした。


「良かろう、これ以上は話す事も無いだろう。さあキャロライン、さっさと誓約を中断しろ。さもなくばお前を消さねばならん」

「私はそれでも構わないけどね」


 ぺリアムドから殺気が放たれる。


「……あなたの存在……いい加減、鬱陶しかったのよね……」

「……」


 キャロラインは咄嗟にイングリッドの方へと視線を移した。


 彼女をオルステンまで逃がしたのは自分である。

 その恩を売りにして、イングリッドに便宜を図ってもらおうと思ったのだ。


「……」


 ところがイングリッドは申し訳なさそうな表情を浮かべると、キャロラインから視線を反らす。


「あらあら、せっかく助けたのに裏切られたって感じね」

「キャロライン。お前を消さないのはイングリッドを助けた功績があるからだ。しかし、これ以上わがままを言うなら本当にお前を始末せねばならん」

「……」


 キャロラインの瞳が潤み始める。


「早くしてちょうだい。私たちは忙しいのよ」

「……」


 この場に居る全員がキャロラインに注目した。


 その圧に耐えきれず、彼女は消え入りそうな声でポツリと言葉を零す。


「……分かった……誓約を中断する……」


 次の瞬間、ドミナンテの全身が淡く光り出した。

 それはとても弱々しく、あっという間に霧散していく。


「それでいいのよ」


 ぺリアムドは満足そうに笑った。


 そして早々にドミナンテとの誓約に乗り出す。


「さあドミナンテ、私の手を握って」

「分かった」


 差し出された白雪のような手に、ドミナンテのごつごつとした指が触れた。


「……さすがね……一目見た時から分かってたけど、あなたはやっぱり凄い野望の持ち主だわ」


 そう言うと、彼女は握った手から何かを流し始める。


「ほう……」


 途端、ドミナンテの身体全体が強烈に輝きだした。

 そして数秒ののち、輝きは穏やかに収束していく。


「これでいいわ。あと一時間もすれば、あなたは晴れて私の誓約者よ。そして本当の不老だわ」

「クククッ、そうか、それはいい……」


 ドミナンテは獰猛な笑みを浮かべた。


「……」


 その様子をキャロラインは悲し気な表情で黙って見ている。


「キャロライン、そう悲観することもないわ」


 ぺリアムドの見下す視線が彼女に突き刺さった。


「このあと直ぐに、誰でもいいから適当な人間を見つけて誓約すればいいのよ。野望が小さな人間でもね」

「……」

「まあ、あなたの実力では無理だと思うけど」


 誓約精霊は人間を見ただけで、その者がどれほどの野望を抱いているかを粗方ではあるが識別することができる。

 そこからお眼鏡に叶った人物であれば、直接触れて正確な野望の大きさを確認し、有能か無能かを見極め納得できれば晴れて誓約を交わすのだ。


 これが一般の誓約精霊が行う誓約者を見つけるまでの流れなのだが、野望が少ない者でも十分に誓約は可能である。

 ただし、野望が小さければ小さいほど誓約が難しくなる傾向にあった。


 それはぺリアムドですらもおいそれ(・・・・)とは熟せない行為だが、彼女にとっては無縁の事柄。

 そのような難題を実力が遥かに劣るキャロラインが達成する事は到底無理な話であった。


「顕現できるのはあと二日ってところかしら。あなたは間違いなく一の部屋、【無能の部屋】行きね」


 自分の実体を維持できなければ、誓約精霊は強制的に精霊界へと送還される。

 それは精霊選戦から脱落したことを意味し、脱落者は【臣従の房】と言われる場所に抑留された。


 【臣従の房】は一から十の部屋に分けられており、低い数字から順に格付けされてある。


 精霊選戦に敗れはしたものの、偉業を成し得た精霊は高い数字の部屋へと入れられる。

 対して何の実績も残せなかった精霊は、低い数字の部屋に送られるのだ。


 これらは今後の精霊界を担う者を選り分けるための判断基準となり、高い数字の部屋であれば、精霊界での重要な地位を手に入れることが可能である。

 対して一の部屋、【無能の部屋】に落ちた者は、役立たずと見做され処分される運命にあるのだ。


「……」


 暗い未来を突き付けられたキャロラインは絶望する。

 

 そんな彼女にドミナンテは虫けらでも見るような目を向けた。


「儂は常に優秀な者を求めておる。ぺリアムドとは王都で出会ったが、その時から様々な献策を進言してくれた。それに比べてお前は何だ。日々怠惰を貪り献策などまったく無しだ。儂の護衛をする態で連れてはいたが、それならヘルムーツェンだけでも十二分に足りる。さらには【銀髪の戦乙女】に負けてマッキシムを失うという大失態まで犯す始末。完全に足を引っ張っておるわ」


 愚痴にも近いその言葉を聞いて、遂にキャロラインは大粒の涙を流した。


 反してぺリアムドは見惚れるような笑みを見せ、ドミナンテを元気づける。

 

「大丈夫よ。私があなたをこの大陸の支配者に押し上げてあげるわ」

「頼もしいな、ぺリアムド。お前には大いに期待している」


 そう言うと、ドミナンテは強い目付きでキャロラインを睨みつけた。


「さあキャロライン、もう用はなかろう。さっさと出て行け」

「……」


 キャロラインは悲しさと悔しさのあまりその場から動けない。

 

「何をしておる、さっさと行かんか!」


 恫喝を受け、彼女は無気力に足を踏み出した。

 そしてふらふらと幽鬼のように出口へと向かっていく。


「またね、キャロライン。次に会うとき私は精霊王になってるわ。と言ってもその頃にはもう、あなたは【無能の部屋】に入れられて殺処分されてるでしょうけどね」


 キャロラインは最後まで馬鹿にされながら、無情にも領城を追い出されるのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] キャロラインは怠けているのではと感じていたが、本当にそうだったのか。それと高位精霊であると見なされているのがおかしいほど実力も低かったのか。ぺリアムドはどのくらい強いのだろうか。半年以上と一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ