92.少女たちは相も変わらず好き勝手していました
三章の最終話です。
次はパーシヴァリーとアプリコット、二人の事を整理しよう。
俺がオルステンを出立する際、彼女たちに留守を任せた。
その後、何故だか分からないが、ユージスが俺と繋がっているとデウストにバレたらしい。
当然のようにユージスは領城へと連行されるが、予め施しておいたパーシヴァリーのスキルによって事無く救出に成功。
しかしながら、俺たちの隠れ家がエルテの店だと領主側に知られてしまう。
そんなわけで、パーシヴァリーとアプリコットはユージス夫妻を連れて、このぺリア・ロ・サイモンに移動したそうだ。
そしてここに潜伏してから暫く経ったある日のこと、彼女たちに悪い報せが飛び込んできた。
俺の屍がレンドン城に晒されているという根も葉もないデマが。
それがパーシヴァリーの癪に障ったらしい。
例え嘘でも俺を貶すような御触れに激怒したそうだ。
もちろん彼女は罠だと分かっていたが、最終的にはマッキシム軍が駐留するレンドン城へと殴り込みに行った。
それもたった一人で……
「……」
暴走しすぎだろうがぁああァあああああぁアああああ嗚呼ああああアああアッッッ!!!
罠だと分かって行くやつがあるか!!!
しかも一人でだと!!?
無謀にもほどがあるぞ!!!
「……」
……はぁ……はぁ……落ち着け、俺……
……ふぅ……
「……」
……結果として、アプリコットは一人オルステンに残される事となった……
そのタイミングでゼクトの処刑が始まったので、彼女は一人で助けに行った。
何とか孤軍奮闘するものの、あの優男、【堕落の槍聖】シュウの前に屈してしまう。
そこで現れたのが俺たちで、なんとかアプリコットとゼクトを助け出して今に至るって訳だ。
「……」
二人を助け出せたのは僥倖だった。
少しでも遅れていれば、目も当てられなかったよ……
「……」
問題はパーシヴァリーだ。
「……」
いやね、どうすんのよこれ……
またやることが増えたよ……
今から助けに行かないとまずいだろうよ……
「……」
エルテとチェーム、そしてパーシヴァリー……
救出部隊を二手に分けなきゃならないよ……
うちにはそんなに人手がいないのよ……
セラーラやピアだって眠ったままだし……
「……」
……うっ……
……頭が痛い……胃も痛い……
……目がかすんで眩暈もしてきたよ……
……これ絶対ストレスからきてる……
……俺の自律神経はもうボロボロだよ……
「……」
俺は両手で頭を抱え、力なく項垂れた。
「ご、ご主人さま?」
「トモカズ様?」
「だ、大丈夫ですか?」
みんなが俺を気遣ってくれる。
「……少し疲れただけだから、大丈夫……」
項垂れた俺を見て、イザイラが勢いよく席を立った。
「お茶を淹れてまいります! 飛びっきり上等な茶葉を使いますので、多少は疲れが取れるはずです!」
「イザイラさん! 私もお手伝いします!」
イザイラとフレイが部屋から退出していく。
「……ご主人様……」
「……トモカズ様……」
残ったアプリコットとユージスは心配そうにこちらを見ていた。
「……」
しばらくの間、俺はこの態勢で悩みに耽るのであった。
茶が出され、少しの時間ではあるが俺は一息つくことができた。
「イザイラ、フレイ。お陰でリラックスできたよ。ありがとう」
「それはようございました」
イザイラが笑顔で受け答える。
他の者も、息抜きしている俺の姿を見て頬を緩めた。
やっぱりお茶はいい。
気持ちが落ち着く。
「……」
……現実逃避はここまでにしとくか……
……考えたくねえが、あいつらの事を何とかしないと……
……さて……どうしたものか……
再び悩み始めたところで、不意にある箇所へと目が行った。
「……なんだ……?」
部屋の隅からほんのりと光が漏れ出ていたのだ。
「……」
なんであそこだけ光ってんの……?
俺は目を凝らしてそこを注視する。
光源は直ぐに分かった。
等身大もある楕円形の鏡、その鏡面が光の出処であった。
「……」
……あの鏡って歪曲門じゃないの……?
「……それが光ってるって事は……」
俺が考えを口にしようとした丁度その時、鏡から一人の美少女が飛び出て来る。
「ただいまー。いま帰ったよ」
赤み掛かった栗色の髪の美少女エルテと俺の視線が交差した。
「し、師匠!!?」
エルテは高速で俺のところまで素っ飛んでくると、人目もはばからず盛大に抱き着いてくる。
「ずっと会いたかったんだよ!!!」
そういやエルテに会うのは久しぶりだな……
……寂しい思いをさせてしまった……
俺は愛おしくエルテの髪を撫でた。
「……」
て、違う!!!
「エルテ! 無事だったか!!!」
俺は彼女を強く抱きしめ元気な姿に安堵する。
「し、師匠、痛いよ……」
そう言うエルテの顔はだらしなく緩み、恍惚とした表情を浮かべていた。
とそこで、再び歪曲門が光り出す。
「我が君!? 戻っていたのだな!!! 我は嬉しいぞ!!!」
姿を現したのは、ツインテールがよく似合う美少女であった。
「チェームか! よくぞ無事でいてくれた!」
……良かった……二人とも大事なかったよ……
「……」
ん……? こいつらが帰って来たという事は……
「……もしかして、バンジョーナ城塞を攻略したのか……?」
「もちろんだよ師匠! ボクたちの完全制圧で終わったよ!」
マジか!
こいつらとんでもねえな!!!
ゼルディオン側からの横やりは入らなかったのかよ!!!
「我が君よ、バンジョーナ城塞は我らの支配下にある。それもこれも、すべて我が君の指示通りの結果。このチェーム、いつもながらその知略には感服させられる……」
チェームシェイスは瞳を潤ませ俺を見つめていた。
「……」
……え?
なに言ってんの?
俺はそんなこと一つも指示していないよ?
「……」
また例の勘違いか!!!
どうしてこいつらは何時も何時も勝手に思い込むんだよ!
ホウレンソウって知ってる!?
ホウ・レン・ソウ!!!
報告!
連絡!
相談!
俺の乙女精霊はこの全てが欠けている!
いいや、まったく無いんだ!
完全に我が道を突き進んでいる!!!
「……」
いかん、気を静めろ……
また胃が痛くなる……
「……」
……ふぅっ、はっ、ふぅー……
……俺は大丈夫だ……大丈夫……
「……」
……ふぅ……
……結果良ければすべて良し……そうだ……だから何の問題もない……
……俺の愛する乙女精霊が無事ならばそれでいい……
……言及は無しだ……
……身が持たないからね……
俺が荒打った気持ちを落ち着かせていると、またもや鏡が光りだした。
「……」
え? ほかに誰かいたっけ?
「あらトモカズ? 久しぶりね。元気してた?」
歪曲門から出てきた人物は、見麗しいエルフの美少女であった。
そうだった!!!
こいつの存在を忘れてたよ!!!
「ティンクファーニ。お前も元気そうで何よりだ」
やった!!! カセットラフたちに顔向けができる!!!
エルテとチェームも帰ってきたことだし、これで悩みが一つ解消したよ!!!
「……」
となると、次はパーシヴァリーだ。
あいつを助けに行かなければ。
と思っていたところで、再度、歪曲門が輝きだした。
「……」
あれ? 今度は誰が出てくるの?
もう思い当る奴がいないぞ?
俺は頭に疑問符を浮かべ、鏡を注視した。
「マスター! 帰っていたのか!!!」
光の中から背の低い銀髪の美少女が登場する。
「パーシヴァリー!!!」
いつもと変わらぬその美しい姿に俺の表情筋が決壊した。
パーシヴァリーも頬を赤らめ満面の笑みでこちらを見返している。
良かった……無事だった……
どうやらレンドン城に攻め入るのは止めたみたいだな……
いくら何でも無謀すぎるからな。
俺はパーシヴァリーの元気な姿を見てそう思ったが、次に発せられた言葉で唖然としてしまった。
「マスター、不届き物はすべて成敗したぞ!」
「……は……?」
……俺の聞き間違いか……?
「……も、もう一回言ってくれない……?」
パーシヴァリーは胸を張って堂々と答える。
「マッキシムの軍は私が蹴散らしたぞ!」
……一人で一軍を壊滅させたってこと……?
「……」
……おいおいおい嘘だろ……
……一個の軍隊だぞ……
……それも軍事の天才と言われたマッキシムの軍だぞ……
「……」
……しかしパーシヴァリーが俺に嘘を付くとは考えられん……
……というか、こいつは嘘が付けない性格だ……
「……」
……マジで倒したのかよ……
「……」
……そう言えば、もう一つ気になる事があるぞ…
「……パーシヴァリー、何で歪曲門を持ってんだ……?」
こいつは親機の歪曲門から戻って来た。
という事は、子機の歪曲門を持っていた事になる。
俺はパーシヴァリーに歪曲門を渡した覚えはない。
「何を言っているのだマスター。私に以前、子機の歪曲門を一つ預けたではないか」
そうだっけ……?
「……」
……思い出した……
確かあれは、乙女精霊サーガを始めて少し経った頃だ。
俺は歪曲門の利便性に目が眩み、大量の課金の末、幾つかそれを入手した。
しかしながら、折角手に入れた歪曲門は在庫目録の容量を莫大に食う事が判明する。
当時の俺のアバターは、まだそこまで育ち切っていなかったので、在庫目録の容量は少なかった。
そこで目を付けたのがパーシヴァリーの在庫目録だ。
壁役やタンク役の在庫目録容量は、その性質上、他の職業の在庫目録容量を大きく凌駕する。
無論、ある程度育ったプレイヤーの在庫目録容量には敵わないが、それでも他の乙女精霊に比べれば遥かに大きい。
そんな訳で、少しでも容量を開けようとパーシヴァリーに歪曲門を渡したままだった。
「……」
……そう言えば、以前、パーシヴァリーの在庫目録内を整理した際に見かけたっけ……
どうして一個だけ歪曲門があるんだって思ってたけど、完全に放置してたよ……
「マスターから授かった歪曲門が役に立った。実を言うと、歩いて帰ろうかと思っていたのだが、アプリコットが心配になったのだ。それで私は適当な廃屋を見つけ、歪曲門を設置して急ぎ戻って来たという訳なのだ」
ナイス判断だパーシヴァリー。
もう少し経ったら救出に行こうと思ってたところだよ。
「……」
これで出向いた者は全て帰って来てくれた。
良かった、みんな無事で……本当に嬉しいよ……
俺が感傷に浸っていると、またまた歪曲門が光りだした。
「……」
え?
え?
なんで光るの?
誰?
誰が出てくるの!?
怖いんですけど!!!
俺が恐れ戦いていると、歪曲門から人影が見える。
「おお! トモカズ様!!!」
出てきた人物は赤髪の若い男であった。
……こいつ……不死鳥騎士のアクセルじゃねえかよ……
「なぜおぬしが歪曲門から出てくる……」
チェームシェイスの凍てついた視線がアクセルに突き刺さる。
しかし奴は、すぐさま膝まづいて首を垂れた。
「……チェームシェイス様、お久しぶりでございます……以前、貴方様やエルテ様、そして偉大なるトモカズ様に矛先を向けた事、万死に値すると十分に承知しております……」
……どうしたんだこいつ……前と全然キャラが違うんですけど……
「……そんな愚か者の私ですが、パーシヴァリー様のお言葉により目が覚めました……私がトモカズ様の恩情によって生かされている、さらには一抹の期待をかけてくれている……それを知った私は目から鱗が落ちる思いでした……」
「……」
え?
全くもって期待してないよ。
「アクセルは己の愚に気づいたのだ」
パーシヴァリーの言葉にチェームシェイスの目がカッと見開かれる。
「……ほう……ようやっと気づいたか……」
「はい! 己が如何に低俗であったか今更ながらに気付きました!!!」
アクセルは地べたに這い蹲るように土下座した。
「うむ。その殊勝な態度、心から改心したようだな。これからは我が君の下で研鑽を積み、皆の役に立つよう頑張るのよな」
「ははっ!!! 命の限り精進して見せます!!!」
ごるぁあああああああああああああああああああああ!!!
なに勝手に話を進めてるんだ!!!
俺はこんな奴を配下に加えるだなんて一言も言ってねえぞ!!!
「良かったな、アクセル。チェームも受け入れてくれたのだ」
「はっ! これもパーシヴァリー様のお陰です!!!」
お前かパーシヴァリーぃいいいいいいいいいいいいい!!!
お前がこいつを拾って来たのかぁあああああああああ!!!
「マスター。アクセルに何か言葉を掛けてくれないか」
え?
「……」
唐突に振られ、俺はアクセルに視線を向けた。
奴は捨てられた小動物の様な目をこちらに向けて、俺の言葉を待っている。
「……ま、まあなんだ……頑張れよ……」
「ははっ! この愚か者に何という優しきお言葉! このアクセル! 身を賭して励みまする!!!」
くそが! 情に流されちまったよ!!!
「……」
仕方ない……
今さら放り出すわけにもいかないし、面倒を見てやるか……
なぜかは知らないが以前とはまったく変わってるし、俺にも従順なようだしな……
「……」
にしても、今回は究極に疲れた……
「……」
俺はゆっくりと全員の顔を見回す。
そこではパーシヴァリーを筆頭に、エルテ、チェームシェイス、アプリコットの四人の乙女精霊たちが、崇拝に近い眼差しを俺に向けていた。
ユージス、フレイ、イザイラ、アクセルは床に膝を着け、何故か俺に祈りを捧げている。
ただ一人、ティンクファーニだけはキョロキョロと視線を動かしていた。
「……」
……何これ……?
俺は何処かの教祖様とかじゃないんだからね……
「……」
……まあいいか。
後はセラーラとピア、この二人をカセットラフが連れてくれば皆が揃う。
「……」
……その二人が一番の問題だ……
……どうやって目覚めさせるか……
「……」
……う゛っ……
……また頭や胃が疼き始めたよ……




