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90.中央広場の決戦6

 領都であるオルステン全体が、何とも不可思議な白黒の世界へと姿を変えた。


「トモカズ、どうやら生物だけに色が付いているみたいだぜ……」


 スクウェイアの言葉通り、俺たちや空を飛ぶ鳥などはしっかりと色彩がある。


「どうなってんだ……?」


 俺が奇妙な現状に訝しんでいると、唐突にカセットラフが走り出した。

 その動きは俊敏で、一気にレーヴェとの距離を詰める。

 そして剛腕から振るわれた大剣が唸りを上げて、漆黒の胴を分断しようとした。


「無駄だ!」


――ギィィイイインン――


 驚くことに、レーヴェはそれを片腕で弾き飛ばしてしまう。 


「むっ!?」


 重い衝撃が剣伝いにカセットラフの両腕へと伝搬し、一瞬のスキが生み出された。

 それを見逃す筈も無いレーヴェが神速とも言うべき速さで斬撃を繰り出す。


「そこだ!!!」


 しかしカセットラフは柔軟に巨体を捻り斬撃を躱した。

 続いてネコ科の猛獣を思わせるようなしなやか(・・・・)な動きで素早く屈み、その態勢を利用して足を延ばすと空高く跳躍する。

 そしてそのままま空中で制止して、眼下の漆黒騎士を見降ろした。


「……手強い……」


 対してレーヴェも宙に立つ巨躯のエルフをじっと見据えている。


「【風渡り】……さすがに強いな……」


 その様子を見ていたスクウェイアが行動に移した。


「トモカズ、俺たちも参戦するぜ!」


 人形たちを引き連れレーヴェに向かって突撃する。


「……やるしかないようだな……」


 俺もモブ精霊を召喚して戦闘に参加しようとするが、直ぐに思いとどまった。


「……」


 そういやレーヴェにはモブ精霊が効かないんだ。


 俺は在庫目録(インベントリ)を漁る。


「やっぱこれだよな」


 取り出したのは、柄頭がアンモナイトのように渦を巻いた鋼鉄の(スタッフ)

 これは精霊使い専用の武器で、頑丈かつ高い攻撃力が売りである。

 セラーラが持つモーニングスターには劣るが、それでも結構な破壊力を発揮するので重宝していた。

 

 これに俺の馬鹿げた膂力が加われば、いくらレーヴェがタフであろうともダメージを与えられるはず。


「これでぶん殴ってやる」


 俺も(スタッフ)を担いでスクウェイアの後を追った。






 既にスクウェイアの人形たちがレーヴェに群がっており、攻撃を開始していた。

 しかし漆黒の鎧に傷の一つも付けることが出来ておらず、人形たちは攻めあぐねている。


「どいてろ!」

「待ってたぜ、トモカズ!」


 スクウェイアは突入して来る俺を見て人形たちに指示を飛ばした。


「みんな下がるんだ!」


 その言葉で人形たちは蜘蛛の子のように散らばっていく。


「来たかトモカズ!」


 レーヴェが待ってましたとばかりに剣を構えた。


「俺にばかり注意が向いていいのか!?」

「なに!?」


 カセットラフがレーヴェの真上に位置取っており、異様な音を立てながら大剣を振り降ろした。

 それに合わせ、俺も奴の胸部めがけて全力で(スタッフ)を振るう。


 直後、俺とカセットラフは驚愕する事となった。


「なっ!!?」

「むう……」


 レーヴェは頭上から強襲してきた大剣を腕で受け止める。

 そして俺の(スタッフ)を長剣で防いでいた。


「こんなものでは私は倒せない!」


 ちいっ!

 二人の攻撃を同時に防ぐとはな!

 だが、ここらからが本番だ!


「カセットラフ!」

「分かっている」


 俺たちはそこから更に力を籠め、二人対一人の力比べが始まった。


「ぐぅううううう!!!」


 レーヴェは何とか堪えるが、徐々に押されていく。


 どうだレーヴェ!

 さすがのお前も俺たち二人の力には敵わないだろう!


 ところがであった。

 あと少しで押し切る間際、レーヴェの生命気(オーラ)が膨張する。


「まだだ!!!」


 奴から濃密度の漆黒の生命気(オーラ)が噴出した。


「なんだと!?」

「ぬぅ!?」


 俺とカセットラフは暴風を受けたかのように吹き飛ばされる。

 それに加え、結構な体力までもが奪われてしまった。

 

「くっ! なんて奴だ!」


 俺は何とか受け身を取って素早く身構える。

 カセットラフも空中で停止してレーヴェを見遣っていた。


「……」


 強い!

 さっきまでのレーヴェとは段違いの強さだ!

 どうなってんだよ!?


「……やるな……流石はトモカズに【風渡り】……ハァハァ……」

「……」


 ……なんだ……?

 レーヴェの奴、辛そうだぞ……?


「カセットラフにスクウェイア。あいつ、なんか息切れしてないか……?」

「……それは己の身を削って漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラを広げているからだ……」


 俺の疑問に答えてくれたのはゼクトであった。


「ゼクト! 無理はするな!」

「……大丈夫だ……」

  

 ゼクトは悲痛な面もちで言葉を続ける。


「レーヴェは漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラを広範囲にまで展開できる技、生命気領域(オーラ・リジョン)の使い手だ」


 知らない単語が出てきたよ。


生命気領域(オーラ・リジョン)ってなんだ?」


 俺の問いに、ゼクトは険しい顔で答えた。


生命気領域(オーラ・リジョン)漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラだけが実行できる特殊技能……能力は簡単に言うと、生命気(オーラ)の結界……自分の持つ生命気(オーラ)を広げ、己だけの世界を作り出す超人業……」


 ……て、ことは……


「……おいおい……それってもしかして……」

「そうだトモカズ……レーヴェの漆黒超闘気ダークネス・リインフォース・オーラは生命力を奪う生命気(オーラ)……その生命気(オーラ)が今や領都中を覆いつくした……」


 ……最悪だね……


「……どうりでさっきから体に違和感があると思ったぜ……俺たちの体力が奪われちまってるんだな……」


 言われてみれば確かに……

 地味にだが倦怠感を感じる……


「……体力が奪われるだけならまだいい。問題はその先だ……」


 ゼクトの表情がより一層と険しくなった。


「レーヴェの生命気領域(オーラ・リジョン)は奪った体力を自分の物にできるんだ」

「……」


 だからか。レーヴェが急に強くなったのは……


「それは厄介だぜ……俺たちが弱体化するに比例して、レーヴェは強くなるって事かよ……」


 ……反則じゃね?


「だが、生命気領域(オーラ・リジョン)にも欠点がある。これだけの生命気(オーラ)を街中で展開させるという事は、無理をしているという事だ。更には莫大な生命力を吸い取るため、自分の許容できる以上の生命力がレーヴェに注がれている……奴は命懸けで生命気領域(オーラ・リジョン)を展開しているんだ……」


 なるほどね……

 あの息切れはそう言う事か……


 俺はレーヴェを見据えた。

 奴は立ち尽くしたまま、こちらの動向を注視している。


「……トモカズ、取引だ……」


 漆黒の兜の内側からくぐもった声が発せられた。


「取引だと……?」

「貴様たちがこのまま引けば、私は生命気領域(オーラ・リジョン)を解除する」


 そう来たか。


「しかし戦うと言うのならば、民衆すべての生命を奪い取ってでも貴様らを倒す」


 その言葉にゼクトは厳しい顔を見せた。


「……トモカズ……これはまずいぞ……」

「どうまずいんだ?」

「……俺たちほどの強者なら、直接レーヴェに触れない限りは奴の生命気(オーラ)に耐えられる。しかし幼子や老人、病人などは直ぐに生命力を奪われ死に至ってしまう……そして次は民衆すべてが死ぬ……」


 ……領都にいる全員が人質って訳かよ……


「……」


 なら速攻でレーヴェを撃破するだけだ。


「……ゼクト、俺たちだけでレーヴェを倒すことは可能か? もしそれが可能だとして、その所要時間はどれくらいかかる?」


 ゼクトは真剣な眼差しで俺を見た。

 次いで二人のエルフに視線を流す。


「……今のレーヴェの力は常軌を逸している……だが、ここに立っている者は一線を画した手練れだ……全員が本気でやれば何とかなるが、それでもレーヴェを倒すにはある程度の時間を要するはず……その間にも幼子や病人が命を落とすだろう……」

「……」


 ……これはゴリ押しできないぞ……


「……トモカズ、頼みがある……」


 ゼクトは俺だけに聞こえるよう小声で話しかけてきた


「……ここは引いてくれ……」

「……」

「……レーヴェは悪い奴じゃない……今は引き込めないが、いずれ必ずお前さんの側に付く……頼む……」

「……」


 ……どうしようか……ここで無理にレーヴェを殺したらゼクトに恨まれるかもしれない……

 ……あいつに対する俺の信頼を損ないたくはないぞ……

 ……何せゼクトは民衆に人気があるから、オルストリッチを支配した際には都合がいい……

 

「……」


 ……仕方ない……ここは引くとしよう……


「……ゼクト、一つ貸しだからな……」

「……済まないトモカズ、恩に着る……」


 俺は小声でゼクトと約束を交わすと、レーヴェに向かって言い放った。


「分かったレーヴェ。お前の覚悟に負けたよ。俺たちは撤退する。だから今すぐ生命気(オーラ)を収めろ」

「トモカズ、それでいいのかよ。またとない機会だぜ?」


 スクウェイア、俺だってそうしたいよ。


「本来の目的は果たしたんだ。欲を掻き過ぎると碌な事がない。だからこれでいいんだよ」

「……分かったぜ、あんたがそう言うなら仕方ないか……」

「……」


 スクウェイアは肩を窄めて了承し、カセットラフも静かに頷き納得してくれた。


「と言う訳でレーヴェ。さっさとその生命気(オーラ)を引っ込めてくれないか。お前だって罪なき人を殺めたくはないだろう」

「……それは貴様らがこの広場を去ってからだ……」


 レーヴェは警戒心を顕わにする。

 しかしゼクトが穏やかな声で言い聞かせた。


「安心しろ。俺がいる限り必ず約束は守る。だから今すぐ生命気領域(オーラ・リジョン)を解除するんだ」

「……ゼクト……お前がそこまで言うなら信用しよう……」


 レーヴェはすんなりと受け入れる。

 そして直ぐに生命気(オーラ)を解除した。


 するとモノクロの景色に色が宿り、オルステンの町並みはいつも通りの色彩豊かな風景へと戻っていく。


「……よし、撤退するぞ……」


 俺は約束通り、皆を引き連れ中央広場を後にした。


「……」


 ただ一人残されたレーヴェは、無言のまま俺たちの後ろ姿を眺め続けるのであった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 仕える主に恵まれない苦労人かと思いきや守るべき民の命削って元気玉するただの自暴自棄で頭の固いクズだった……
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