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88.中央広場の決戦4

 男装の美女悪魔に、デウストはこれでもかというほどの笑みを捧げた。


「地獄の大元帥ロメアよ。私の召喚に応じてくれて感謝する」


 ろめあ。

 ロメア?

 ロメア!


「……」


 ロメアだってぇええええええええええええ!!?


「前置きはいらん。さっさと用件を言え」


 美女悪魔の態度は不遜で傲慢だが、デウストは全く気にしていない。

 それどころか彼女の存在に頼もしさを感じており、口角が上がるのを抑えきれないでいた。


「相変わらずだなロメア。用件は貴様にとって他愛もない。だがその前に一つ聞きたい事がある」

「私は多忙だ。用件以外は受け付けん」

「そう言うな。これは貴様たち悪魔に関わる重要な件だ」

「……仕方ない、特別に聞いてやる。さっさと言え」

「バティスモレが私の召喚に応じなかった。どういう事だ?」


 デウストの言葉でロメアの頬が盛大に引き攣る。

 次いで高飛車な態度もあっけなく崩れ去り、彼女はひどく狼狽した。


「ババババティスモレ様はいま忙しいのだだだだ……」


 その態度にデウストは眉根を寄せて訝しむ。


「……なんだ、その忙しいというのは……そんなのは理由にならん。何時いかなる時も私の召喚に応じるのが契約内容だ。そのために今まで莫大な供物を捧げてきた。まさか地獄の大悪魔が契約を反故にするというのではあるまいな……そんな事をすれば、バティスモレ自身の名声が地に墜ち、暗黒力も失われるぞ」

「……そそそそそれは分かっているるるるるるるるる……」


 ロメアは酷く動揺した。


 が、彼女は意を決した表情を見せ、目を泳がせながらも辛うじて言葉を返す。


「いいいいいい今はとても重大なことが地獄で起こっているのだだだだだだ……こここここ今回の件は必ずバティスモレ様には伝えておくくくくくくく……そそそそれよりもももももも、ははははは早く用を言ええええええ……わわわわわ私が解決してやるるるるるる……」

「……」


 明らかにロメアの態度がおかしい。


 しかしデウストは今が緊急事態なために、追及は後回しにして直ぐさま本題に入った。


「……まあいい……私の要件は、あそこの男に死を与える、それだけだ。なんなら供物にしてもいい」

「何だ、そんなことか。私に任せろ、直ぐに終わらせてやる」


 動揺していたロメアの態度が元に戻る。


 そして彼女は意気揚々と振り返って俺を見た。


「へっ?」


 俺とロメアの目がばっちりと合う。

 直後、彼女の顔から見る見る血の気が失せていった。


「お、お、お、おおおおおお前はぁああああああああああああああああああああっ!!?」


 突然の絶叫にデウストは仰天する。

 

「どうしたロメア!!! 何だと言うのだ!!?」

「ななな何でもない!!! 何でもないぞぉおおおおおおおおお!!!」


 そうは言うロメアだが、完全に平静さを失っていた。


「なんでもなかったらいきなり叫ぶな! それよりも早くあの男を殺せ!」

「ししししかしだなななななな!!!」

「ロメア! まさかお前まで契約に背く気か!?」

「ととととんでもない!!! 」

「だったら早くしろ!!!」


 デウストに急かされたロメアはしぶしぶ足を前に出す。

 しかしその歩みは遅く、まるで蝸牛のようにのろかった。


「早く行け!!!」

「ひゃい!!!」


 怒鳴り声に驚いたロメアは身体をビク付かせ、猛スピードで俺の前までやって来る。


「……ここここんにちわわわわ……」


 男装の麗人悪魔は俺を前にするとガチガチと歯を鳴らして硬直した。


 そんな彼女に俺は額が引っ付きそうなくらいの距離まで顔を近づける。


「……ようロメア……久しぶりだな……」

「あ゛わ゛わ゛わ゛わ……」


 怒気が籠ったその声に、ロメアはぶるぶると震えだした。


「……てめえ……俺を砂漠に放り出しやがったな……お陰で何の装備も無しに十日以上も放浪する羽目になったよ……」


 蟀谷に青筋を浮かべる俺を見て、ロメアの表情が凍り付く。


「あああれは仕方がなかったのだだだだだだ……」

「……どう仕方なかったんだよ……」

「わわわ私の技術では送還場所までは指定できないのだだだだだ……」

「……ふーん……」


 わざとじゃなかったってことか……


「で、何しに来たんだ?」

「そそそそれはははは……」


 意地の悪い質問に、ロメアは言い淀む。


「……まさか俺を殺そうってんじゃないだろうな……」

「めめめ滅相もない! ひひひ久しぶりに会ったんでででで、すすす少し話をしたかっただけだだだだだ!!!」


 ……脅えすぎだろ……


「……」


 まあ仕方ないか。

 ピアにバティスモレを殺されて、且つ自慢の宮殿までぶっ壊されたんだからな。

 この辺で許してやろう。


「お前は地獄に帰れ。ここに居ても碌な事はないぞ」


 その言葉にロメアの顔が明るくなる。


「そ、そうだな! では失礼する!」


 彼女は直ぐさま踵を返し、一目散にデウストの元へと走っていった。


「何をしているロメア! なぜ戻って来る!!!」

「……いやあ済まない……ちょっと大事な用を思い出してな……直ぐに地獄へ帰らなければならくなったんだ……」

「なんだと!!?」


 有り得ない言い訳に、デウストの怒りが頂点に達する。


「悪魔が契約を果たさず用があるから帰るなど、聞いた事もないぞ!!!」

「……」

「それにお前やバティスモレには莫大な対価を払っている!!! それがなんだ!!! 大事な用だと!!? 契約者の俺の呼び掛けよりも大事な用などあるものか!!! これは明らかな違反だ!!!」


 凄まじい剣幕にロメアはたじろいだ。


「わかった! 分かったからそう怒るな!」

「これが怒らずにいられるか!!! ふざけるな!!!」


 このままでは地獄に返してくれそうにないと感じたロメアは、何処からともなく一つの品を取り出した。


「か、代わりにこれをやる! だから今回は許してくれ!!!」


 それは黄金に輝く石板で、不思議な文字が余すことなくびっしりと書き込まれている。


「何だこれは?」

「【神聖闇聖の石板】だ」

「なに!!?」


 デウストの目が大きく見開かれた。


「……ほ、本物なのか……?」

「当たり前だ。私を誰だと思っている」


 石板はかなり高価な物らしく、デウストは目を輝かせながら凝視している。


「……し、信じられん……」

「いいから早く受け取れ」

 

 差し出された石板にデウストの指が触れ、奴は大事そうにそれを手にした。


「……おお……まさか神遺物を手に入れられるとは……」


 よほど嬉しかったのか、感無量と言った様子で石板に魅入っている。


「使い方は分かるよな?」

「……も、もちろんだ……」

「よし、なら私はこれでお暇する」


 一秒でもこの場に居たくないロメアは直ぐにでも帰ろうとした。


「待て」


 呼び止められたロメアは露骨に嫌な顔を見せる。


「……なんだ……もういいだろう……」

「そう言う訳にはいかん……このような神遺物、それなりの対価が必要だ……今までの供物では到底、釣り合いが取れない……」

「遠慮するな、追加の対価は何もいらない。それはサービスだ。ではさらばだ」


 そう言い残してロメアは逃げるように地獄へと帰っていった。


「……」


 なに? なんなの? デウストは何を貰ったの?


「おいデウスト、それは何だ?」


 俺の言葉で奴は我に返り、その顔が不気味な嗤いへと代わっていく。


「……クックックッ……これか? これは神遺物だ……」

「神遺物? なんだそれ」

「私は今、非常に機嫌がいい……学が無いお前にも特別に教えてやろう……」


 いちいち一言多いいよ。


「神遺物は神が創り出した道具だ」


 神? 神様ってこと? 


「そしてこの【神聖闇聖の石板】こそが、その神遺物だ」

「……」


 ……それってとんでもなくない……?


「……効果は神の召喚……クッ、ククッ……アー八ッハッハッ!!!」


 え、神様を呼び出せるってこと?


「……」


 洒落にならないんですけど……


「馬鹿なお前でも分かっただろう。この【神聖闇聖の石板】で、君主(ロード)よりもさらに上位の大悪魔を呼び出す事ができる。いや、この場合は神だな!」

「おいおい、その神って……」


 デウストは【神聖闇聖の石板】を高らかと上に掲げ魔力を注ぎ始めた。

 それに呼応するかのように石板の文字が光り出し、四方八方へと上空に輝きを放つ。


「決まっている! 魔神だ!!!」


 空で異常が発生した。

 暗闇よりもさらに暗い、巨大な暗黒の雲が領都全体を覆い始める。

 それは中央広場の真上を中心として渦を巻き、この世の終わりが来たのかと思うほどの禍々しい世界観を作り出した。


「エルンシス! 上を見て!」

「うん? 何だい、あれは……?」


 異変を察したエルンシスとグラーツェラが、戦闘を中断して空を見上げる。


「……なんだ、ありゃあ……?」


 ゼクトも二人につられ、上空に目を向けた。


 彼らだけではない。

 カセットラフやシュウ、スクウェイアやその他の騎士や兵士、傭兵たちも不気味な空に目を奪われている。


「……」


 ……何が始まるんだよ……


 皆が皆、恐々と空に注目していると、渦の中心に変化が起こった。


「なんだあれは!!?」


 デウスト以外の広場にいる全ての者が戦慄する。


 巨大な暗黒の仮面が俺たちを覗き込むようにして渦から現れたのだ。


「……魔神、(かさ)ぶ神……」


 デウストはその巨大な仮面を見て感動に浸っている。


「……」


 いやいやいや、やり過ぎでしょうが!!!

 なんなのあれ!!?

 世界が滅ぶんじゃないの!!?

 

「……吾輩ヲ呼ビ出シタノハ貴様カ……」


 その声は、何とも言い難い恐ろしい声であった。


 騎士や兵士は魔神の声を聞いたただけで卒倒し、次々と倒れていく。

 傭兵たちはその悍ましい声に耳を抑えて苦悶の表情を浮かべいた。

 エルンシスやグラーツェラ、そしてゼクトでさえも険しい顔で魔神の声に耐えている。

 あのカセットラフやシュウも眉間に深い皺を寄せていた。


「召喚したのはこの私、デウスト・ラ・ヴァンへイム!!! 偉大なる魔神、嵩ぶ神よ!!! あの男、反逆者トモカズを葬るのだ!!!」


 デウストは思いっきり俺に人差し指を向ける。


「……」


 ちょ、ちょ、ちょッと待てえええええええええええええええええ!!!

 あんなバケモノどうあがいたって敵いっこねえよ!!!

 

「……」

 

 ていうかロメアの野郎!!! 

 とんでもない物をデウストに渡しやがったな!!!

 もうあいつは絶対に許さねえ!!!


「容易イコトダ」


 魔神は俺を標的と見定める。


「……」


 こっち見ないで!!!

  

「ダガソノ前二、デウストト言ッタカ。対価ヲ寄越セ」


 突然の要求にデウストは困惑した。


「……対価、だと……?」

「ソウダ、対価ダ」

「それはおかしい! 【神聖闇聖の石板】で呼び出された神は、所有者の願いを無条件で叶えてくれるはず! 古文書にもそう書いてあったぞ!!!」

「神二ヨッテ条件ガ異ナル」

「なんだと!!?」


 ……なんか様子がおかしいぞ……


「吾輩ノ場合ハ六ツノ対価ガ必要ダ。召喚シタ時ノ対価。吾輩ノ尊顔ヲ拝謁出来タ対価。吾輩ノ声ヲ拝聴シタ対価。願イヲ聞イタ対価。ソノ願イヲ実行スル対価。最後二願イヲ聞キ届ケル対価ダ。吾輩二取ッテノ【神聖闇聖の石板】ノ役割ハ、吾輩トノ邂逅ノ機会、ソレダケダ」


 要約するとこう言う事か。

    

 来てやったから対価を寄こせ。

 顔を見させてやったから対価を寄こせ。

 声を聞かせてやったから対価を寄こせ。

 願いを聞いたから対価を寄こせ。

 願いを遂行するから対価を寄こせ。

 願いを叶えてやるから対価を寄こせ。


「……」


 ……この魔神、ぼったくりバーみたいだな……


「既二貴様ハ四ツの条件ヲ満タシテイル。ヨッテ、今現時点デ吾輩二四ツノ対価ヲ支払ウ義務ガ発生シテイル」

「それだと益々おかしいではないか!!! 嵩ぶ神の顔を見たのはこの広場にいる全員!!! いや、オルステンの民衆すべてのはずだ! その者たち全員から対価を求めると言うのか!!?」


 そりゃそうだ。

 あんな巨大な仮面が上空にあったら誰の目にも入っちまう。


「ソレハ違ウ。呼ビ出シタ召喚者ガ全テノ負担ヲ担ウ」


 その言葉にデウストは表情を青褪めさせた。


「……な、な、な、何だと……?」


 うん、酷すぎるね。


「……ち、因みに対価はどんな物を望むんだ……?」

「今回ハ初回ダ。特別二難易度ノ低イ対価二シテヤロウ。コノ国スベテノ人間ノ命デ六ツノ対価トシテヤル。ドウダ、オ得ダロウ?」


 絶対無理だろ!

 しかも通販番組みたいになってるし!


「サア、今スグコノ場二用意シロ」


 無茶苦茶言ってるよ……


「……そんな馬鹿げた対価、払えるものか……」


 デウストはわなわなと怒りに震えていた。


「ナンダト?」

「そんな対価など払えないと言っているのだ!!!」


 ……デウスト……ブチ切れたよ……


「……ソウカ……残念ダ……シカシ四ツノ対価ハキッチリト頂ク」


 魔神の言葉と同時に禍々しい雲の隙間から黒い靄が現れた。

 それは意思があるかの如くデウストへと延びて行く。


「なにっ!!?」


 靄の先から巨大な黒光りの指が現れデウストを鷲掴みにした。 


「ぐっ!!? 何だこれは!!?」

「貴様ハ面白イ魔力ヲ持ッテイルナ。デウスト、貴様ヲ貰ウコトデ今回ハ手ヲ打ッテヤル」


 靄が上空へと戻り始める。


「は、放せ!!! ふざけるな!!! ふざけるなぁああああああああ!!!」


 デウストは絶叫を上げながら雲の隙間へと消えて行き、魔神も薄れるようにしてその姿を消していった。


「……」


 ……こうしてデウストは魔神に連れて行かれましたとさ……






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