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86.中央広場の決戦2

 宙で佇んでいたエルフたちが、ゆっくりと俺の傍に降りて来る。


「無事に助けられたみたいだな」


 スクウェイアは俺に抱きかかえられた少女に目を向け顔を綻ばせた。


「ちょっと冷や汗を掻いたけど、何とかなったよ」

「それは良かった。で、あいつらが敵さんってわけね」

 

 二人のエルフは周囲を見渡す。


 俺たち以外で広場の中心付近にいるのは、先ほど矛を交えた優男とおっとりとした雰囲気の美女、それから大男と短躯の男。

 そして外周には騎士や兵士、傭兵たちが疎らにおり、広場を取り囲んでいた。


「……大将……こりゃあ、とんでもないところに来ちまったな……」

「……」


 スクウェイアは幾人かの敵を見て眉を潜める。


 え? なになに? そんなにヤバい奴がいるの?

 カセットラフ、お前も黙ってないで何か言ってくれよ。

 凄く不安になるんですけど。


 領主側はと言うと、唐突に現れたエルフたちを見て騒めき立っていた。

 中でも処刑台の上にいるデウストと美男はカセットラフを知っているようだ。


「……エルンシス……まさかとは思うけど、あの大柄のエルフ……」

「……ああ、そのまさかだね……間違いなく【風渡り】のカセットラフだ……軌跡大樹の国の大将軍が、どうしてこんなところに現れるんだい……?」


 ……大将軍だと……? 


 俺が驚きの眼差しでカセットラフを見ていると、奴はいきなり重低音を利かした声で言葉を放った。


「トモカズ、スクウェイア」


 うおっ、相も変わらず急に喋りやがって。心臓に悪いぞ……


 カセットラフは周りを見渡し主だった実力者を見抜く。


「俺が【堕落の槍聖】と【鴉の癒女】をやる」


【堕落の創聖】?

【鴉の癒女】? 


 俺は不審に思いながらもカセットラフの視線を追った。

 その先にはおしとやか(・・・・・)そうな美女と、〈ジュラルジオン〉を粉々にした槍の男がこちらに注意を払っている。


「……」


 あいつか! さっきの奴が【堕落の槍聖】か!


 ていうか槍聖って何だよ、槍聖って!

 そんな御大層な渾名で呼ばれるなんて、めちゃくちゃ強いって言ってるようなもんだよ!

 どうりで〈ジュラルジオン〉を破壊できるわけだ!

 

「……」


 しかしカセットラフ。

 そんな奴を相手にするって事は、こいつも相当な使い手な訳ね……

 まあ、うすうす勘付いていたけど……まさかそこまでとはなあ……


「……」


 よし、槍の男はカセットラフに任せておこう。

 化けもの同士は化け物同士でやりあってね。


「スクウェイア。お前は大男と短躯の男、それから屋根の上にいる射手をやれ。周りの騎士や兵士は適当にあしらえ」

「承知だぜ、大将」


 スクウェイア、頑張ってね。


「……」


 ……となると、後は俺がやらなきゃダメなの……?

 

 俺は何と無く処刑台の上にいる者たちに目を向けた。


「……」

 

 いやいやいや、四人は無理だって!


「トモカズ。お前が貴族の男とあの黒騎士をやれ」


 そう来ますよねー。


「……」


 ん? デウストとレーヴェだけ?


 あの美男と美女は誰が相手をするの?


「おいカセットラフ。残りの二人はどうするんだ?」


 俺の疑問にカセットラフは短く答える。


「断頭台に乗せられている男を見ろ」

「ゼクトのことか?」


 言われた通り、断頭台に目を向けた。


「なんだアレ!?」


 いつの間に近づいたのだろうか。


 それは赤ん坊よりも一回り小さな人形であった。

 布で出来た継ぎ接ぎだらけのその人形は全部で三体おり、音も立てずにゼクトを縛り付ける拘束具をせっせと取り外している。


「エルンシス殿! おかしな人形がいる!」


 今さらながらにレーヴェが気づき、声を張り上げた。


「グラーツェラ! 今すぐゼクトを殺すんだ!!!」


 美男子は目を大きく見開き、慌てて美女に指示を飛ばす。


「分かったわ!!!」


 グラーツェラと呼ばれた美女は素早く剣を振り下ろした。


 その瞬間、拘束具が外れ、ゼクトは転がりながら刃を避ける。

 そして直ぐに処刑台から飛び降りると、奴らと距離を取った。


「危ねえ……なんだか知らんが助かった……ありがとよ」


 ゼクトは自分に引っ付いてきた三体の人形に感謝の意を示す。


「そいつは俺の人形だぜ」


 不意に言葉を投げかけられたゼクトは、その出処に目を向けた。


「……人形の主はあんたか……助けてくれて感謝する」

「礼なんて後でいいぜ。それよりも、そこの美男美女を相手してくれよ」


 一体の人形がとたとた(・・・・)と歩きながらゼクトに剣を運んでくる。


「……こうなっちまったら、もう後戻りはできねえな……」


 腹を決めたゼクトは人形から剣を受け取り、その切っ先を処刑台に向けた。


「……」


 そう言う事か、カセットラフにスクウェイア。

 捕まっているゼクトまで使うとは、なかなか冴えてるじゃないか。


「……」


 ……でも、一人で二人を相手をしなきゃならないんだよね……

 スクウェイアに至っては、二人どころかその他もろもろの兵士たちを相手取るんですけど……


「……」


 大丈夫?


「……」


 ……考えても仕方ないか。成るように成れだ。

 デウストたちも、スクウェイアの人形に困惑しているようだしな。

 ここは落ち着いて行こう。


「あの人形は何だ? ……全員があそこまで接近を許してしまうとは……」


 俺が思った通り、デウストは怪しんでいた。


 レーヴェもいるのに誰一人として人形に気づかなかったから当然か。


「……グラーツェラ、君の魔眼でも分からなかったのかい……?」

「ええ……あの人形。熱、魔力、命気(オーラ)、そのどれもが感知できないわ……」


 グラーツェラの言葉に三人は難色を示す。


「それって、魔力や精霊以外の力で人形が動いているって事だよね……」

「……信じられないけど、そうね……」

「……という事は、あのエルフ……」

「……あなたの考えている通りね……そんな人形使い(ドールマスター)は一人しかいない……間違いなく【人形偏愛(ピグマリオン)】のスクウェイアね……」


 おいおいおい。スクウェイアまで有名人なのかよ……


「そうか、お前があの有名な【人形軍団(ドール・アーミー)】の使い手か。これは心強いな」


 ゼクトも知っているのか。

 カセットラフといい、何なのこいつら。


「よしてくれよ、俺なんかまったく大したことないぜ。凄いのはこの子たちだ」


 スクウェイアはそう言うと、羽織っている外套を大々的に広げた。

 その裏側にはゼクトを助けた同様の人形が、びっしりと隙間なく吊り下げられてある。


「さあ、お仕事の時間だよ」


 スクウェイアの言葉に人形たちが次々とコート裏から飛び出してきた。

 そして腹の縫い目に両手を突っ込み鋭い短刀を取り出す。


「みんな、標的は分かっているよね」


 人形たちはぴょんぴょんと飛び跳ね肯定の意を示した。


「さすがは俺の可愛い子供たちだ。みんな賢いね。よし、奴らを皆殺しにするよ!」


 スクウェイアが大男に向かって走り出す。

 それを合図に人形たちも行動を開始した。


「うおっ!!! なんだこいつら!!?」


 人形たちは規律のある軍隊よりも、さらに統制が取れた動きを披露する。


 ある一隊はスクウェイアと共に大男へと殺到した。

 ある一隊は跳ねながら短躯の男に襲い掛かる。

 ある一隊は壁を伝って屋根の上に登り、そこで控える射手たちへと攻撃を開始した。


 そして残りの人形たちは見事な散会を見せ、騎士や兵士、そして残りの傭兵たちを襲撃する。


「くそっ、このボロ人形め!」

「待て! 迂闊に手を出すな!」


 兵士の一人が斬撃を放った。

 しかし人形は容易に刃を躱し、ひょいっと剣の峰に乗る。


「なに!?」


 そのまま峰を走り抜け、難無く兵士の首を掻っ捌いた。


「ぐえゃっ!?」


 血が噴水のように噴き出して兵士は絶命する。

 

「……」


 気付けば周囲では似たような光景が生み出されていた。

 人形たちは熟練の暗殺者(アサッシン)を遥かに凌ぐ戦闘力を発揮している。


「……」


 怖えよ! なにこの阿鼻叫喚!


「シュウ、あの人形は厄介です」

「みそうみたいだな。でもガブリエリ、こっちに来る気配はないぜ」


 【堕落の槍聖】はシュウ。

 【鴉の癒女】はガブリエリって言うのか。


「のんきにしている暇などありません。いつ人形たちが襲い掛かってくるか分かりませんよ。少しでも数を減らした方がいいかと思います」

「……はあ……面倒くさいが、仕方ないか」


 槍の男が人形の排除に動き出そうとする。

 しかしその進路にエルフの大男が立ちはだかった。


「……勘弁してくれよ……【風渡り】が俺の相手とはよ……」


 シュウの表情が歪む。


「私は見物しています。シュウ、よろしくお願いします」

「ガブリエリ、それはないよ。手伝ってよ」

「駄目です。たまには一人で頑張ってください」

「……冷たいな……」


 よし。シュウはカセットラフが相手をしてくれる。

 頼んだよ、エルフの大将軍様。


「君! 強いね! あれだけ弱っていたのに【晩餐】の団長である僕と、副団長のグラーツェラの剣を同時に捌くなんて大したものだよ!」

「エルンシス! 楽しんでないで、少しは真面目にやってちょうだい!」


 ゼクトの方も美男美女との戦闘に突入していた。

 どうやら美男の方、エルンシスとか言う男は傭兵たちの長らしい。

 そして美女の方が副団長でグラーツェラと言う名か。


「……」


 しかしゼクト、やっぱ強いな。

 二人を相手に卓越した動きで渡り合っている。


 以前も騎士たちとの立ち回りを見たが、あいつの体捌きは達人の域に達しているんじゃないのか?


「……」


 ……このままアプリコットを連れて逃げようかな……


 そんな疚しい考えが浮かんだ俺は、チラリと処刑台を見た。

 丁度そこで、デウストとレーヴェがこちらをガン見しており、バッチリと目が合う。


「……」


 やっぱ見逃しちゃくれねえか……


「……」


 嫌すぎる!






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