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85.中央広場の決戦1

 俺は恐る恐る聞き返した。


「……ス、スクウェイア……もう一度言ってくれ……」

「エメラルドグリーンの髪色をした美少女が、弓を武器に戦っているそうだ」


 はい確定しましたー。アプリコットですねー。


「……」


 どうなってんだぁあああああああああああああああああああああああああ!!?

 

「一人だけで戦ってんのっ!!?」


 俺は血相を変えてスクウェイアに詰め寄った。


「あ、ああ……メアリーちゃんはそう言っているぜ……」


 何で一人なわけ!?

 パーシヴァリーはどうしたの!?

 チェームやエルテは何処へ行った!?

 状況が全然つかめねえよ!


「……」


 いや、考えるのは後回しだ!

 今すぐにでもアプリコットを助けに行かなければ!

 あいつのレベルはまだ低い!

 それにアプリコットは現在取得中の精霊属性もマスターしていないから、いざという時の切り札、覚醒状態(エピファニー・モード)も使えない!!!


「そいつは俺の娘のアプリコットだ! 大至急助けに行ってくる!!!」


 俺はピアとセラーラを両脇に抱え込むと、急ぎオルステンに向かおうとした。


「待て」


 不意に重低音のずっしりとした声が響く。


「カセットラフ! 今は詳しい話をしている場合じゃない! 一刻を争う事態なんだ!!!」


 珍しく喋ったと思ったら何だよこいつ!

 今はそれどころじゃねえんだよ!


「俺も行く」


 え?


「スクウェイア、お前も来い」

「了解だぜ、大将」


 ……なんだ……? 俺を助けてくれるのか……?


「……おい、いいのか……?」

「……」


 カセットラフは黙ったまま静かに頷いた。

 そしてクラリーサに目配せをする。


 彼女は直ぐにその意を汲み取り了承した。


「分かりました、カセットラフ様」


 え? なになに? 何のこと?


「トモカズ、私が二人を預かる。命に代えてもその身は守って見せるから、カセットラフ様やスクウェイアと共に少女を助けてこい」

「……」


 ……それは有り難いが……


「……ティンクファーニの安全が確認できていないんだぞ。なのに俺の事を優先して大丈夫なのか?」


 その言葉にクラリーサは笑顔で答えた。


「姫様は君のアジトにいると私たちは想定していた。だがそこは、既に領主側に抑えられていた。姫様や君の娘たちが捕えられたと考えるのが自然だ。ところがどうだ。掴まっていると思っていた君の娘の一人が中央広場で戦っているではないか。こうなってくると、姫様が捕まっている可能性が薄れてきた。ならば姫様はいったい何処に居るというのだ?」

「……」


 なるほど、こいつらの考えが分かったよ。

 アプリコットを助け出して、ティンクファーニの居場所を聞くつもりか。

 

「それにこれは、カセットラフ様が下した命令だ。損得勘定なしにな……私たちはただ従うのみ」


 カセットラフは俺を見て小さく頷いた。


「……」


 ……何だよこいつら……男前すぎるだろう…… 


「カセットラフ、クラリーサ、スクウェイア、ありがとう」


 礼を受けた三人は頬を緩める。


「さあトモカズ。二人をクラリーサちゃんに任せて、さっさとアプリコットちゃんとやらを助けに行くぜ」

「ああ、済まん……」


 俺はセラーラとピアをクラリーサに託した。


「クラリーサちゃん。俺の彼女たちも頼んだぜ。随時帰ってくると思うから、きちんと守ってくれよな」

「心配するな、人形たちには私から言っておく。安心して行ってこい」


 そこでカセットラフが俺に手を差し出してきた。


「……」


 ……どういう意味……?


「なにグズグズしてんだよ。大将の手を握るんだよ」


 スクウェイアはそう言うと、躊躇なくカセットラフと手を繋ぐ。


「……」


 俺もよく分からないが、カセットラフの手を握った。

 その手は細長いがゴツゴツとしており、正に戦士の手であった。


 そう思った途端、俺の身体がふわりと宙に浮く。


「なんだ!?」


 俺は驚き二人に目をやった。

 すると彼らも宙に浮いているではないか。


「大将、頼んだぜ」


 カセットラフは俺たちに目配せをし、凄まじい速さで空に向かって走り出した。


「うお!? なんだこりゃ!!!」


 あっという間に森を抜け、上空へと到達する。


「どうだトモカズ、凄いだろう。大将は空を走ることが出来るんだぜ」


 おお、それは凄い。

 でも、何でスクウェイアがドヤ顔なんだよ……


「それから大将に触れている俺たちも体が軽くなる。だから絶対に手を離すなよ。離したら地上に真っ逆さまだ」


 ……マジかよ……しっかり手を繋いでいよう……

 

「大将。中央広場の場所はメアリーちゃんに聞いているから案内は任せてくれ」


 カセットラフは首を縦に振って承諾すると、尋常でない速さで俺とスクウェイアを引っ張りオルステンへと向かった。






 俺たちはごくごく短い時間でオルステンへと辿り着いた。

 眼下には美しい領都の街並みが広がっており、その中央に通る一本の大通りに沿い、上空から街の中心部へと向かう。


「流石は大将、あっという間だったぜ。この大通りの先が中央広場だ」 


 ……空の移動はホント速いね…… 


「……ん?」


 進行方向を見ていたスクウェイアの表情が険しくなった。


「おいトモカズ、あれを見てみろよ。ヤバいんじゃねえのか?」

「何がヤバいんだ? 全く見えないぞ」


 こいつの視力、どんだけ高いんだよ……


「広場の真ん中で少女が座り込んでいる……たぶんあれがアプリコットちゃんだな」

「なに!? どんな様子だ!!!」

「男に槍を突き付けられているぜ……」

「何だと!!?」


 もう一刻の猶予も許されない!!!


「カセットラフ! 俺をアプリコットの所までぶん投げてくれ!!!」

「……」


 カセットラフの鋭い眼光が俺に向けられた。


「分かってるよ! もう直ぐ広場に着くって言いたいんだろ!? でもそこまで待ってられねえんだよ!!!」


 切羽詰まった俺の言葉にカセットラフはその場で急停止した。

 

「いいだろう」


 カセットラフは手に力を籠め、その剛腕をもって俺を放り投げる。


「ぐぉおおおおおおおおお!!?」


 何のモーションも無しにいきなり投げるんじゃねえ!


 だが凄い速さだ! 周りの景色が一瞬で通り過ぎていくぞ!


「あれか!」


 中央広場は直ぐに見えてきた。

 その真ん中で、へたり込んだアプリコットを青髪の優男が睥睨している。


「あの野郎……このまま不意打ちを食らわせてやる……」


 俺が沸々と怒りを滾らせていると、いきなり優男が振り向いた。

 そしてゆっくりと腰を落として上体を引き、槍の穂先をこちらに向けて迎撃態勢を取る。


「……え……?」


 気付かれた?

 

「……」


 今さら方向転換できねえよ!!!


 俺は為す術もなく広場のど真ん中へと急接近し、優男の間合いに飛び込んだ。


 途端、奴の双眸が鋭くなる。


「ちょっと待て!!!」


 当たり前だが優男が俺の言葉に聞く耳を持つはずもない。

 奴は引いた上半身を前に押し出し腕を捻りながら強烈な刺突を繰り出してきた。


「くっ! 〈ジュラルジオン〉!!!」


 俺は咄嗟にモブ精霊を召喚する。

 それは六角形の鉄板に見えるが、幾つもの赤い筋が入った近未来を思わせるフォルムをしていた。


 こいつは打撃、斬撃、衝撃、電撃、熱、冷気、殆どの攻撃に耐えうる耐久力を持ち、俺が所有する防御系のモブ精霊の中でも屈指の強度を誇る。


 これなら防げる!!!


 と思った瞬間、優男が放った突きが俺のモブ精霊に激突した。


「ぐっ!!!」


 凄まじいエネルギーが発生して、なぜだか分からないが〈ジュラルジオン〉が大爆発を起こす。


「……」


 ……なんで爆発するの……?


「なんだあ!? どうなってんだ!!!」


 爆風が吹き荒れる中、優男も俺と同様に驚いており、身の危険を感じたのか後ろに飛び退いた。


「しめた!」


 俺は透かさずアプリコットを抱きかかえると、すぐさまその場から離脱する。


「あんた何をしたんだ……? それにあの一撃を受けて無傷かよ……」


 離れた位置から優男が目を丸くしてこちらを見ていた。


「……」


 それは俺が聞きたい……

 〈ジュラルジオン〉を破壊するなんて普通じゃ有りえないぞ……

 しかも爆発しやがった……意味が分からん……


「ご主人様……」


 窮地を脱したアプリコットが目に涙を溜めて俺を見ていた。


「よく頑張ったな、アプリコット」


 緊張が解けたのか、彼女の表情が緩む。


「ご主人様ぁ」


 アプリコットは俺の胸に顔をうずめ、心底安心していた。


 うんうん、怖かったね。

 よしよし、もう大丈夫だからね。


「……トモカズ……生きていたのか……」


 処刑台には三人の男と一人の女が立っていた。

 そのうちの二人は俺が良く知っている人物だ。


「デウストにレーヴェか……」


 そして傍にある断頭台に縛り付けられた人物……


「……ゼクト……」


 ……なるほどな……

 ゼクトを囮にしてアプリコットをおびき出したって訳かよ。


「……」


 だとしてもだ。なぜアプリコットは一人なんだ?

 パーシヴァリーはどうした……エルテとチェームは何処へ行った?


 俺がアプリコットに尋ねようとしたとき、デウストが忌々しそうに口を開いた。


「……どうやって地獄から出てきた……」


 まあ驚くよな。

 奴のご自慢の固有(ユニーク)魔力、地獄の扉(ダルヴァザ)で地獄送りにした俺がこうして目の前に居るんだものな。


「地獄? あれがか? 俺にとっては避暑地だったぜ」

「……なんだと……」


 デウスト……凄い顔が真っ赤になってるよ……


「……」


 愉しいな!!!


「おいおいデウスト。俺一人に気を取られていいのか?」

「なに!?」


 俺の言葉で奴らは気付いた。


 広場の上空に浮いている二人のエルフの存在に。






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