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78.銀髪の戦乙女VS将軍 後編

 然もありなんと放たれた言葉にマッキシムは食って掛かった。


「引力場!? 何だそれはっ!!!」

「其方が構築した斥力場の対となる(フィールド)だ」


 パーシヴァリーは平然と受け答え、さらに詳しく解説を始めた。


「斥伯剣の能力は反発させる力、斥力の能力を有している。対して私は引き付ける力、引力を使用した。これで引力場を形成し、其方の斥力場を覆いつくして相殺している。今もそうだ。其方が直ぐにでも魔剣の使用を止めれば、たちどころに私へと引き寄せられるだろう」


 その話にマッキシムは驚愕する。


「……まさかお前……あの重力魔術を使っているのか……?」

「重力? 少し違うのだ。それに魔術でもない。言うなれば、技のようなものだ。本来は敵を引き付ける時に使用するのだが、味方までも引き付けてしまうため、使いどころが難しい技なのだ」

「……」


 マッキシムは頭の中を整理した。


 彼女が引力を操作できるという真偽は、今も魔剣の能力を無効化している事から見て間違いない。


 では、魔眼で見た末来が外れた事実。これはどう説明がつくのか。


「……ついでにもう一つ教えてくれよ……」

「いいぞ、何が知りたい?」

「……俺が見た未来は何だ? ……魔眼で見た未来とはまったく違う未来だった……」

「そうか、気になるか」


 パーシヴァリーは微笑むと、隠すことなく言葉を紡いだ。


「其方は確率が高い未来にだけ対抗手段を取っていた。しかし私は確率が低い未来の方を選んで行動に移した。または、魔眼でも見通せない突拍子な行動を取り、新たな未来の分岐を生み出して、それを実行した。これくらいの事象は、覚醒状態(エピファニー・モード)を発動せずとも出来るのだ。何せスキルではなく私の特性なのだからな」

「……何を言ってるんだ……お前は……」


 理解が追い付かないマッキシムに、パーシヴァリーは言い放つ。


「簡単に言えば、其方の未来視の魔眼は私には通用しないということだ」

「なんだと……?」


 彼ににとっては信じ難い言葉だったが、実際に自分が見た末来を覆されているので受け入れるしかなかった。


「……ははっ、こりゃあ参ったぜ……こうもあっさりと俺の必勝法が破られるとはな……」


 落胆するマッキシムだが、彼の表情は直ぐに邪悪な笑みへと変わっていく。


「その顔を見る限りでは、何か奥の手がありそうだな」

「クククッ、……ご名答……あと一つ、絶対的な手段があるんだよ!!!」


 魔眼に宿る輝きが強くなり、そこに描かれた幾何学模様が目の周りを侵食する。


「ほう、今度は何を見せてくれるのだ?」

「俺の圧倒的な強さだよ!!!」


 超闘気リィンフォース・オーラで強化されたマッキシムの足が力強く地を抉る。


 瞬間、一瞬でトップスピードに達し、あっという間に相手との距離を詰めた。


「なかなかの突撃」


 感心するパーシヴァリーは腰を落とすや否や、迫り来るマッキシムをじっくりと狙う。


「捉えた!」


 寸分の狂いもなく神速の剣先が放たれた。


「それはどうかな?」


 当たったと思った直後、忽然とマッキシムが消える。


「なに!?」


 と思ったのも束の間で、背後にその姿が現れた。


「死ね!!!」


 斥伯剣が轟音と共に振り下ろされる。


「む!!!」


 パーシヴァリーは体を翻して刃を受け止めようとした。


 ところがどうだろうか。またもやマッキシムが消える。


「なっ!?」


 再び現れた場所はパーシヴァリーの右後ろであり、無防備である彼女の背中に容赦なく斬撃が叩き付けられた。


 しかしパーシヴァリーは一歩前に踏み出して深手を避ける。


「浅いか!!!」


 そう言ったマッキシムがまたまた姿を隠した。

 そして直ぐさま彼女の左側面に現れる。


「むう!」


 簡単に間合いに入られたパーシヴァリーは、堪らずスキルを発動させた。


「聖騎士スキル、〈慟鳴動衝エンタイア・インパクト〉!」


 彼女を起点として衝撃波が展開される。


「おっと、それはヤバいやつだ」


 危険を察知したマッキシムがその場から消え、一瞬で離れた場所に出現した。


「これだけ距離を取れば衝撃波は届かないだろう」

「……」


 ニヤニヤと笑うマッキシムに、パーシヴァリーの懐疑的な視線が向けられる。


「どうだ、これが俺の奥の手だ」

「……瞬間移動……いや、違う……これは……」


 そこでパーシヴァリーは気付いた。

 マッキシムが消えた場所に不可解な歪みがある事を。


「……其方……未来に跳んだな……?」


 マッキシムの目が大きく見開かれる。


「すげえなお前! そんな事も分かるのかよ!」


 自分の能力を見破られたにも関わらず、マッキシムは少しも動じていなかった。

 それどころか楽しそうに瞳を輝かせている。


「そうだぜ、正解だ。俺は魔眼のさらに先、真魔眼を開眼させている。これによって未来を見るだけじゃなく、行く事さえも可能なんだぜ」


 揚々と自慢するマッキシムを、パーシヴァリーは冷静に分析した。


「それは凄い……だが、一、二秒先にしか跳べないようだな」

「ああ、そうだよ。でもな、それだけで十分なんだよ。一、二秒もあれば相手を翻弄できるし、超闘気リィンフォース・オーラで強化された俺なら次の発動までにかなりの距離を移動できる。これだけで充分、優位に立てる」


 その言葉にパーシヴァリーも賛同する。


「確かに其方の言うとおりだ。避ける動作などしなくとも、未来に跳べば全てを回避できる……素晴らしい」


 称賛を受けてマッキシムの口角が上がった。


「それに、お前の引力場は、斥伯剣の能力を完全に封じ込めてはいないようだ。さっきもちゃんと防御力を引っぺがしてダメージを与えられた。どうやら直接刃で斬りつければ問題はないみたいだ」


 マッキシムは、再び自分が優位に立ったと実感する。


「さてと、【銀髪の戦乙女】。ここいらで終わらせるか」


 そう言い残してマッキシムが消えた。

 と次の瞬間、パーシヴァリーの頭上に現れる。


「終わりだ!!!」


 斥伯剣が彼女の脳天に迫った。


 しかしパーシヴァリーは剣を掲げてそれを防ごうとする。


「無駄だぜ」


 またもやマッキシムの姿が消え、次に現れたのはガラ空きとなった彼女の懐。

 そこから振るわれた斥伯剣が、パーシヴァリーの腹部に迫る。


 が、彼女は飛び退きその斬撃を躱した。


「粘るな」


 再びマッキシムが姿を消す。

 そして直ぐに死角から現れ攻撃を繰り出した。


 それでもパーシヴァリーは冷静に対処して何とか斬撃を往なす。


 結果として彼女は防戦一方となり、そんな遣り取りが何十回にも及んだ。


「さっさと諦めちまえよ!!! もう勝敗は決してるんだ!!! お前の左腕は使い物にならないし、脇腹も負傷している!!! 勝ち目はねえよ!!!」

「……」


 絶対的に不利な状況だが、パーシヴァリーは諦めず、マッキシムの攻撃を何度も回避する。


「その傷でよく頑張れるもんだ!!! でもなあ!!! 何時まで体力が持つか見ものだぜ!!!」

「私は全く問題ない。今この瞬間が楽しいのだ。それよりも其方、何を焦っているのだ?」

「なっ!?」


 動揺したマッキシムは思わず魔力を緩めてしまう。


 それに準じて斥伯剣に流れ込んでいた魔力も弱まり、構築されている斥力場が弱まった。


 途端、彼の身体がパーシヴァリーに引き寄せられる。


「くっ!!!」


 慌てたマッキシムは、斥伯剣に魔力を流し込んで引力場との相殺を図った。


「なるほど……思った通りなのだ」


 何とか斥力場の維持は保てたものの、全てをパーシヴァリーに見破られてしまう。

 

「……何が思った通りなんだよ……」

「ん? 口に出して言って欲しいのか?」

「……」


 返答がないと見るや、パーシヴァリーは流暢に口を滑らせた。


「其方は力を使い過ぎている。超闘気リィンフォース・オーラは元より、私の引力場に対抗するための魔剣の使用。さらには魔眼で発動させた末来跳躍。私よりも先にバテるのは当然だ」


 彼女の口角が不敵に吊り上がる。


「其方は早期決着を望んでいる」

「……」


 図星を指されたマッキシムは、おもむろに口を開いた。


「……ああそうだ……お前の言った通り、俺は能力を多用しているから生命気(オーラ)も魔力も限界に来ている……」


 彼の能力は全て有能であるが、それだけに力の消費量も大きい。


「……でもよう、お前は防御に徹している……そこから見ても、現段階では俺の方が完全に優勢だ……だから一気に決める……」


 魔眼に膨大な魔力が集中した。

 それは目に見えるほどの濃度であり、魔力の波動がパーシヴァリーのところまで伝わってくる。


「……凄まじいな……」

「だろう? これで終わらせてやるよ!!!」


 叫び声と共にマッキシムが消えた。


 そして直ぐさまパーシヴァリーの背後に現れる。

 しかしまたもや姿を消すと、再び頭上に出現した。


「回転を速くしたか」


 瞬間、またもや消え、別の場所に現れる。

 マッキシムは、何度も何度もそれを繰り返した。


「そうだっ!」

「これだけのっ!」

「動きでっ!」

「放つ攻撃をっ!」

「お前はっ!」

「捌けるかっ!?」


 パーシヴァリーの四方八方からマッキシムが神出鬼没の如く現れては消え、消えては現れ、その度に剣撃を打ち込んでいく。


「良い……素晴らしい……」


 ところがパーシヴァリーは、右手に握る剣だけで全ての攻撃を往なした。


「くそっ!!! なんて奴だ!!!」


 マッキシムは攻めあぐねる。


「ぐっ!!?」


 そこで不意に異変が起こった。


 空中からの斬撃を繰り出そうとした瞬間、異常な痛みがマッキシムを襲う。


「ぎゃああああああァぁあアあ!!!」


 苦痛の雄叫びを上げながら地面へと落下した。

 そして両眼を抑えてのたうち回り、激しく苦しみだす。


「痛いぃいいいいイいい!!! 目が!!! 目が焼ける様だぁああああああアぁあアあァああ!!!」


 手の平の隙間から光が漏れ、マッキシムの体がノイズのようにブレた。


「どうしたと言うのだ!?」


 只ならぬ事態にパーシヴァリーは思わず声を掛ける。


 刹那、マッキシムが大爆発を起こした。


「ぬっ!!?」


 風が吹き荒び粉塵が巻き上げられ、衝撃が大気を伝いパーシヴァリーの所まで伝搬してくる。

 

「これはいったい!!?」


 突然の出来事に彼女は身を屈めてやり過ごした。

 それと同時に爆発によって生まれた塵芥が、彼女の下へと収束していく。


「なんだと!? 私の引力場しか働いていない!?」


 パーシヴァリーの引力場とマッキシムの斥力場。

 これらは先ほどまで互いの力を打ち消し合っていた。


 しかし今は、どういう訳かパーシヴァリーの引力場しか作用していない。

 この事は、マッキシムの斥力場が消滅したことを意味していた。


「どうなっているのだ?」


 彼女は直ぐさまスキルを解除し爆発地点を注視する。


「……何が起こったと言うのだ……?」

 

 そこには小さなクレーターがあるだけで、肝心のマッキシムは何処にも見当たらないのであった。






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