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75.銀髪の戦乙女VS不死鳥騎士

 城壁の上では通夜のような空気が漂っていた。

 

 【銀髪の戦乙女】があそこまでとは誰しも予想だにしていなかった。

 彼女の驚異的な強さに皆が驚嘆し、今を以てなお、口を開く事が出来ない程の衝撃を受けていた。


 しかしその沈黙を、不安が最高潮に達したイングリッドが破る。


「……ど、どうするのじゃ、マッキシム殿……」


 問いかけられたマッキシムは、冷静に言葉を発した。


「……確かに強い……強いが、直線的だ。勝てない相手ではない」

「そ、それでは!?」

「俺が出て奴を始末する」


 イングリッドの表情が安堵の色へと変わっていく。


「おお、【死の女帝】でさえも恐れて逃げるマッキシム殿なら安心じゃ!」


 マッキシムは軍事の天才である。

 加えて彼自身の武勇も高く、イングリッドはホッと胸を撫で下ろした。


 とそこで、何処かしらから喧騒が聞こえてくる。


「お戻りになってください!」

「あなたは謹慎中の身! イングリッド様のお言い付けに背くのですか!」


 数多の兵に制止されながらも城壁に上がって来たのは、赤い鎧に身を包んだ赤髪の青年であった。


 それを目にしたイングリッドが憤る。


「アクセル! 誰が独房から出てよいと言った!!! これは重大な反逆行為ぞ!!! 今すぐ戻るのじゃ!!!」


 強い叱責を受けるもアクセルは片膝を着いた。

 そして頭を垂れ、懸命に願い出る。


「頼む姫さん! 後でいくらでも罰は受ける! だが、その前にチャンスをくれ! 俺が【銀髪の戦乙女】を倒して見せる!」


 配慮に欠けたその行動に、イングリッドは激昂した。


「戯言を申すな!!!」


 彼女は傍にいた兵士から鞘ごと剣を奪い取ると、そのままアクセルに打ち付ける。


「【死の女帝】にすらも勝てぬお前が!!! 何をぬかすか!!!」


 イングリッドの怒りは激しさを増し、何度も何度もアクセルを殴打した。


「妾が!!! どれほどの!!! 屈辱を!!! 受けたと思う!!! それもこれも!!! お前たち不死鳥騎士が!!! 不甲斐ないからじゃ!!!」


 アクセルは俯いたまま、歯を食いしばって耐える。


「そこら辺にしといてやれよ、イングリッド嬢」


 マッキシムの制止でイングリッドの手が止まった。


「し、しかしマッキシム殿……」


 鬱屈とする彼女をマッキシムは穏やかな口調で諭す。


「アクセルほどの騎士が厳罰覚悟でここまで言ってんだ。一回ぐらい、汚名返上の機会を与えてやってもいいと思うがね」

「……」


 絆されたイングリッドは、アクセルを睨みつけながら口を開いた。


「……マッキシム殿に免じて一度だけ機会を与えよう……」


 その言葉にアクセルは意気揚々と顔を上げる。


「本当か? 姫さん……」

「……」


 イングリッドは答えなかったが、代わりにマッキシムが言葉を返した。


「本当だ、アクセル。だが【銀髪の戦乙女】を仕留めずに、おめおめと生きて帰ったら、どうなるか分かっているな?」


 そう言うと、手で首を斬るジェスチャーをして見せた。


「……ああ……分かってるよ……」


 気を引き締めたアクセルは、すくりと立ち上がる。


「……そこで見ていてくれ……」


 決死の思いを胸に抱き、背から不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)を発現させた。

 それは次第に変化して、見事なまでの蒼い翼を形取る。


「……必ず、必ず【銀髪の戦乙女】の首を取ってくる……」


 アクセルは翼を羽ばたかせ、颯爽と城壁の上から飛び立っていった。






 パーシヴァリーは地に横たわるキャロラインを微笑ましく見つめていた。

 今や彼女の金色の髪は元気なくくすんで(・・・・)おり、当初の輝かしい光は完全に失われている。


「しばらくそこで休んでいるのだ。もう少ししたら動けるようになる」


 そこで不意に、パーシヴァリーは気配を感じた。


「新手か」


 目を向けてみれば、一人の人物が翼をはためかせて空からこちらに向かって来ている。


「手を変え品を変えて、私を楽しませてくれるのだ」


 嬉しそうに眺めていたパーシヴァリーの前に、その人物が険しい顔で降り立った。


「……お前が【銀髪の戦乙女】か……」


 気合十分のアクセルだが、パーシヴァリーは小首を傾げて彼を見ている。


「其方は誰だ?」


 アクセルは目を顰めて答えた。


「……俺はアクセル・ラ・フェニックス……」


 その名を聞いたパーシヴァリーの表情が、喜びの色に染まっていく。


「アクセルだと? ……ほう、其方がか……ということは、不死鳥騎士という訳か。何でも不死身だと言うが、本当なのか?」

「……【死の女帝】から色々と聞いているみたいだな……だが、今の俺はあの時とは違う……もう負けはしない……」


 アクセルからは、並々ならぬ決意が感じられた。


「良い面構えだ。では始めよう」


 パーシヴァリーは口元を緩ませながら足を踏み出す。


「……俺にはもう後がない……全力でお前を殺す……」


 アクセルから蒼い炎が噴き出した。

 それは凝縮された不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)であり、彼の背から発生する翼も一対から三対へと変化する。


「ほう、見事な六枚の翼。鮮やかだ」


 パーシヴァリーは感心し、次に何をするのかと期待に胸を弾ませた。


 その視線を浴びながら、アクセルがゆっくりと空に舞い上がっていく。

 そしてみるみる上昇し、パーシヴァリーが豆粒ほどの大きさになったところで停止した。


「……一撃だ……一撃で決めてやる……」


 そう口ずさんだアクセルは、より一層と不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)を放出させる。

 生命気(オーラ)で出来た六枚の翼が蒼い輝きを放ち始め、炎のように激しく揺らめいた。


「……いくぜ……」


 アクセルはその翼を全身に巻き付けると、パーシヴァリー目掛けて一気に降下する。

 落下するに従い速度は増していき、彼を包んでいる蒼い生命気(オーラ)が次第に鳥の姿を形取っていった。


「見事だ。これは私もそれなりの技をもって応えなければ、相手に対して失礼だ」


 パーシヴァリーが構えを取る。

 盾を前面に出し半身に構え、剣を引いてその先をアクセルに向けた。


「さあ、いつでも来るがいい」

「上等だ!!! これは俺の最強の一撃!!! 躱すことも防ぐこともできない!!!」


 アクセルの速度は音速に迫り、周囲にソニックブームを発生させる。

 そんな彼に、パーシヴァリーはニヤリと笑い、刺突を放つと同時に一言だけ呟いた。


「聖騎士スキル、《能封(シー・ル)》」


 パーシヴァリーが放った剣先と音速にまで達したアクセルが激突する。


 瞬間、膨大なエネルギーが二人を中心としてドーム状に広がっていき、その範囲内の物質を全て吹き飛ばした。


 大気が悲鳴を上げ、地面が陥没する。


 そして爆風が吹き荒び、城壁の上にいるマッキシムたちの所まで襲って来た。


「マッキシム様、イングリッド様! お下がりください!!!」


 側近の魔術師たちが予め準備しておいた結界を張り、衝撃波からを二人を守る。


「こりゃあ凄い……もしかしたらアクセルの奴、本当に【銀髪の戦乙女】を倒したかもしれないぞ」

「……」


 期待を寄せるマッキシムだが、イングリッドは眉を顰めていた。






 それからしばしの時間が経過する。


 衝撃波と粉塵が収まっていき、爆発によって生じた煙も風に流され、状況が明らかとなってきた。


「駄目だったか」

「……無様な……」


 パーシヴァリーの遥か後方では満身創痍のアクセルが転がっていた。


「……ぐぁ……」


 苦しそうに呻く彼の鎧は全壊しており、曝け出した素肌は傷だらけで出血も窺える。

 

「……な、なんで……治らねえんだ……」

 

 不死鳥騎士の最大の特性、再生の能力が発動しておらず、アクセルは疑問と苦痛で顔を歪ませていた。


「其方の能力は再生と死だったな。私は一撃を与えると同時に其方の能力を封じたのだ。当分の間は再生できない」

「……」

 

 最早(もはや)これまでかとアクセルは完全に生を諦める。


「……殺せ……」

「……」


 そんな彼を、パーシヴァリーはじっと見詰めていた。


「……どうした……さっさとやれ……」


 覚悟を決めたアクセルだが、パーシヴァリーは何を思ったのかまったく別の話し始める。


「……其方は騎士、いや、男として欠けている部分がある……」

「……なん、だと……?」


 自分の矜持を貶されたアクセルは、恨みがましくパーシヴァ―リを睨みつけた。

 しかし彼女はどこ吹く風で口を開く。


「其方の主は誰だ?」

「……」


 アクセルからの返答はないと見たパーシヴァリーは、淡々と言葉を続けた。


「其方の主は、あの悪名高い【血啜りの伯爵夫人】であろう。その者は、悪逆非道で主と仰ぐには程遠い存在だ。だが、其方は一度主と決めた者に対して忠誠を貫き通した。その点は天晴だ」


 そこでパーシヴァリーの口調が強まった。


「だが、其方は騎士失格だ」

「……」

「守るべき主が居るこの場において、勝てるかどうかも分からない相手に戦いを挑む、正に愚の骨頂」


 悔しいのか、アクセルの拳が強く握られる。


「其方は私とキャロラインの戦いを見ていたはず。それで十分に私の強さを理解した。にも関わらず、無謀にも戦いを挑んできた。其方一人だけなら問題はない。だが、其方はいま守るべき主がこの場に居る。ならば最優先で考えなければならないのは、主の安全」


 パーシヴァリーは、未だ城壁の上にいるイングリッドの方を向き、次いでアクセルに憐みの目を向けた。


「其方はイングリッドを連れて逃げるか、自分を囮にして彼女を逃がすべきだったのだ。だがそれをしなかった。其方は自分の名誉を挽回させることだけに執着したのだ」

「……なんだと……言わせておけば……」

 

 アクセルが言い返そうとしたところで、パーシヴァリーが決定打を口にする。


「己を貶めてでも主を守る、それこそが真の騎士ではないのか?」

「……なっ……?」

「其方の騎士という肩書、それは単に自分を誇示したいだけの称号。誇りも何もないのだ。威張り散らすためだけに存在する……自分のためだけに使う称号なのだ」

「……ぐ……」


 アクセルは言い返せなかった。

 

「そして其方は男としても失格だ」

「……」

「其方はイングリッドに近しい者……本来ならば、彼女の残虐行為を諫めなければならない。しかも自分の主ともとなれば猶更だ。ところが其方は嬉々として彼女の手伝いを行った」

「……」


 すべて事実であったため、アクセルは黙って聞くしかなかった。


「男子たるもの、悪事をくじき、善を守らなければならない。それがどうだ。主人の顔色ばかりを窺い、へりくだって、おべっかを使い、残虐行為に加担する。騎士として、いいや、人間としてどうなのだ?」


 散々罵倒されたアクセルは、もうどうでもよくなっていた。


「……ああ、そうだよ……俺は男として、人として最低だ……だから殺せって言ってんだよ……」


 アクセルは死を願う。

 ところがパーシヴァリーの口から出た言葉は拒否であった。

 

「それは出来ない」

「……な、なんでだよ……殺せよ!」


 アクセルは驚きと共に訝しむ


「以前、マスターがレンドン城を制圧した際、其方を生かしておいた。なぜだか分かるか?」

「……」


 予期せぬ質問にアクセルが答えられるはずもない。


「マスターは其方に目を掛けたのだ。今後、人として成長できる余地があると見抜いていた」


 そうなの? とアクセルは思った。

 実際彼がパーシヴァリーの主と会ったのは、レンドン城の城門前で引っ立てられた、その一回だけだったからだ。


「……だったら姫さん……イングリッド様は、どうしてあの時殺さなかったんだよ……」

「ああ、あれはマッキシムをおびき寄せる餌として生かしておいただけ。もう用済みだ」

「……」


 パーシヴァリーが今言ったことは、チェームシェイスの受け売りであった。


「これで分かっただろう。マスターの意向は私の意向。其方は殺さない」


 その言葉を聞いたアクセルからは、何とも言えない哀愁が漂ってきた。


「……お前を倒せなかった時点で俺の処刑は確定だ……」


 彼はもう終わっていた。


 こののち、仮にパーシヴァリーが倒されたとしても、敗北を喫したアクセルはイングリッドに処刑される。

 反対にパーシヴァリーが勝ったとしても、イングリッドを二度も守り切れなかった理由で、ドミナンテか彼女の父であるスパリアロに処刑される。


 どちらに転んでも、アクセルには処刑される未来しかなかった。


「……このまま生きてのうのうと帰ったら、俺は役立たずの烙印を押されて始末されるんだ……だったらここで戦死した方が遥かにマシだ……でも、お前は俺を殺さないって言う……くそ……」


 死に場所を逃したアクセルは目に涙を溜めていた。


 その姿を見たパーシヴァリーは、突拍子もない言葉を告げる。


「だったら私について来い」

「……」


 一瞬何を言っているのかアクセルは分からなかった。

 しかし次の言葉ではっきりと理解する。


「其方はマスターの下で男を磨くのだ」

「……え……?」


 アクセルの目が剥かれ、あんぐりと口が開けられた。


「マスターが少しでも目を掛けた男だ。十分に素質はある」

「……」


 突然の事でアクセルは困惑する。


「選ぶがいい。マスターから男を学び、己に磨きをかけ、今までの行為を懺悔するか。それとも無様に処断され生を終えるか」

「……こ、こんな俺を……拾ってくれるって言うのか……?」

「マスターほどの男になるのは不可能だが、近づくことは出来るかもしれないぞ?」


 アクセルの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

「……分かった……いや、お願いします……どうか俺を、トモカズ様の元で鍛えさせてください……」


 願い出るその姿に、パーシヴァリーは満足しながら頷いた。


「今までの罪を(あがな)い、しっかりと精進するのだ」

「……あ、ありがとう、ございま、す……」


 アクセルはそう言い残し、意識を手放すのであった。






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