74.銀髪の戦乙女VSゴスロリ少女
キャロラインの敵意が銀髪の少女へと向けられる。
しかし当の本人はあっけらかんとしており、気にする気配は見られなかった。
「そう言えば、其方の名を聞いていなかったな」
唐突に名を聞かれたキャロラインは、警戒しながらも小声で答える。
「……キャロライン……」
「そうか、キャロラインというのか。なかなか可愛らしい名前ではないか」
まるで子供を相手にするかのようなその態度に、キャロラインは不快感を示しめた。
しかしその感情をぐっと押し留めると、パーシヴァリーに質問を投げかける。
「……あなたは私を同胞と言った……その意味を知りたい……」
「……同胞……?」
直ぐに思い当たらなかったのか、パーシヴァリーは逡巡した。
「……ん……ああ、あの時の言葉か」
「……」
完全に見下されているとキャロラインは憤るが、何とか耐え忍ぶ。
そんな彼女の心を知ってか知らずか、パーシヴァリーは淡々と口を開いた。
「同胞は同胞、そのままの意味なのだ」
「……」
キャロラインは思考を巡らせる。
同胞という言葉を素直に解釈すれば、パーシヴァリーも自分と同じ精霊という事になる。
しかし彼女からは、全くもって精霊特有の波動が感じられなかった。
自分ほどの高位精霊か波動を読み取れないとなると、その精霊は同等かそれ以上の大精霊だ。
ところがパーシヴァリーは、以前に言葉を交わした際、精霊選戦など知らないと言った。
高位の精霊が精霊選戦を知らないはずがない。
「……あなたは精霊ではない……」
そう結論付けたキャロラインは、ビリビリと幾つもの電流を身体に纏い始めた。
「やる気になったようだな。どこからでも掛かってくるのだ」
パーシヴァリーは胸を貸すつもりでキャロラインを見ている。
「……あなたは傲慢……その鼻をへし折ってあげる……」
キャロラインの身体を這う電流が次第に膨らんでいった。
「……以前、あなたは私の攻撃を無効化した……だから、今回はその時よりも強力な雷撃をお見舞いしてあげる……」
丸太ほどの太い電流が、キャロラインの周囲で暴れ出す。
それを見た指揮官が透かさず号令を出した。
「まずい! 全員、退避ぃいいいいい!!!」
兵士たちは慌てて二人から距離を取る。
直後、キャロラインの身体全体から極大の電撃が放たれた。
つんざくような轟音と激しい閃光に、兵士たちは思わず身を屈めてそれらをやり過ごす。
そして標的のパーシヴァリーはと言うと、避けようともせず諸に電撃を受けた。
――バリバリバリバリ――
「……やり過ぎた……」
殺してしまったとキャロラインは後悔する。
しかし次の瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。
パーシヴァリーは何事もなかったかのようにその場で立ち尽くしており、全くの無傷であった。
「……うそ……」
信じられないキャロラインは、その眠たそうな眼でパーシヴァリーを観察する。
「……そんな……どうなってるの……?」
パーシヴァリーの受けた電流が、足元から地面に流れ拡散されていた。
それだけではなく、身体の至る所からも電流が放出されている。
「……」
言葉を失うキャロラインに、パーシヴァリーは詳しく解説した。
「其方は雷属性の精霊。対して私は、今は違うが元は地属性の精霊だ。今でもその流れは汲んでいる。其方は私との相性が悪いのだ」
「え」
キャロラインの目が点になった。
パーシヴァリーがアースのように電撃を往なした様子は、地属性の精霊が電撃を受けた時と同じ現象だったからだ。
「……本当に精霊?」
「当たり前なのだ。最初から言っているではないか。同胞だと」
「……」
キャロラインは彼女が精霊ではないかと信じ始めた。
となると、今度は違う疑問が沸いてくる。
「……で、でも、あなたは精霊選戦を知らないって言った……」
「そうだ。其方に聞くまでは知らなかったぞ」
そんな馬鹿なとキャロラインは心の中で叫んだ。
精霊選戦を知らない高位精霊など見たことも聞いたこともない。
「……」
パーシヴァリーの美しい笑みが自分に向けられている。
「!」
そこでキャロラインはこう感じ取った。
彼女は自分が悩む姿を見て楽しんでいる。
翻弄させ、腹の底で笑っていると。
「……馬鹿にしないで……」
心の奥底から怒りの念が噴き出してきた。
と同時にピリピリとした空気がキャロラインを中心に広がっていく。
それは城壁の上で見ていたマッキシムたちのところまで届いていた。
「……これはまずいな……」
顔を顰めるマッキシムに、側近の一人が指示を仰ぐ。
「……如何なさいますか、マッキシム様」
「直ぐ兵たちに伝えろ、キャロラインからもっと離れろとな」
「分かりました」
側近の合図で城壁の上から旗が振られた。
「……わ、妾はどうすればよいのじゃ……?」
イングリッドは不安に駆られる。
「ここからキャロラインまでは十分に距離がある。それに俺の側近たちは魔術のエキスパートだ。流れ弾が来ても余裕で防ぐだろう」
「……さ、さすがはマッキシム殿。何と頼もしい言葉じゃ」
イングリッドはホッと胸を撫で下ろした。
「さあ、【銀髪の戦乙女】。本気を出した高位精霊を倒せるかな?」
マッキシムは口角を上げ、これから起こる出来事を一瞬たりとも見逃さまいと、二人の少女を凝視した。
「……ほう……今までとは別人なのだ」
パーシヴァリーが期待に満ちた目でキャロラインを見る。
「……いつまでも上から目線……」
パーシヴァリーの態度が更に彼女の怒りを倍増させた。
「解放」
キャロラインから光が解き放たれる。
次の瞬間、彼女のピンク色の髪が金色に変わり、瞳までもが黄金の輝きを放っていた。
そして体に纏うは超高圧の電流であり、時おり雷のような放電を起こしている。
「それが其方の真の姿か」
パーシヴァリーの心が弾んだ。
「……謝っても許さない……逃がしもしない……黒焦げにしてあげる……」
「謝る? 逃げる? 私が? 其方ほどの強敵を前にして、そんなことをするなどもったいないではないか!!!」
パーシヴァリーが怒涛の如く突撃してくる。
「其方の真の実力、私に見せてみろ!!!」
嬉々として迫るパーシヴァリーを、キャロラインは眠たい眼で見据えていた。
「いい目をしている! 何かしらの想いを抱いている目だ!!!」
それは怒りだとキャロラインは心の中で強く思い、その感情を爆発させようとする。
しかし彼女はブレーキをかけ、今はまだ早いと踏みとどまった。
「さあ! 私の攻撃圏内に入るぞ!!!」
銀髪の少女があと少しと言う所まで迫ってくる。
「むっ!!?」
ところがそこで、彼女は見えない何かに阻まれた。
それは弾力を持ち、強い反発力を感じる。
と感じたのも束の間で、突撃した勢いの相乗効果もあってか、反動を受けたパーシヴァリーは盛大に押し返されて宙に飛ばされた。
しかし彼女は見事な後方宙返りを見せて地面へと着地する。
「……あなたは私にまで届かない……」
キャロラインは勝ち誇り、口元を可愛らしく緩ませた。
「見事だ。電流を操り磁界を発生させ、電磁波で壁を作ったか」
「……え……?」
キャロラインの得意満面な表情が速攻で崩れる。
「面白い物を見せてもらった。これはお返しをせねば失礼だ。少し本気を出させてもらう」
そう言うと、パーシヴァリーは自分の身体を盾で隠し、その内側から剣を上に掲げた。
キャロラインから見れば、盾の上部から剣先が覗く形となっている。
「……な、何をするの……?」
とてつもない嫌な予感がキャロラインの脳裏をよぎった。
そんな彼女の心中などまったく読み取ろうとしないパーシヴァリーは、問答無用で言葉を紡ぐ。
「知れたこと、其方の想いに答えるまでだ……聖騎士スキル、〈恕絶壊突撃〉」
剣先を上方に向けたパーシヴァリーが、まるでロケットが発射したかの如く、キャロライン目掛けて飛び立った。
彼女が発射した地点は小さなクレーターが出来ており、爆発的な力で射出した事が窺える。
そして低空飛行をしながらミサイルのように飛んでいくパーシヴァリーの真下では、触れていないにも関わらず、ガリガリと地面が削られ軌道を表していた。
「なっ!!?」
慌てたキャロラインは両腕を前に出して一つの玉を生成する。
それは拳ほどの大きさの、超圧縮された雷球であった。
「死ね!!!」
雷の塊は異様な唸りを上げて銀髪の少女へと真っすぐに飛んでいく。
「分かる! 分かるぞ! その玉の威力が尋常ではないと!!!」
パーシヴァリーは喜びの声を上げながら雷球と激突した。
刹那、大爆発が発生する。
大気が震え、大地が揺れた。
これで勝ったとキャロラインは思ったが、爆発の中から何事もなかったかのようにパーシヴァリーが現れる。
「素晴らしい攻撃だった!」
「そんな!!?」
キャロラインは咄嗟に電磁バリアの強化を図った。
しかしミサイルと化したパーシヴァリーは容赦なくそれを突き破ると、キャロラインに肉薄する。
「さあどうする! 其方の神速をもってすれば、この突撃など造作もなく避けることができるだろう! だがそれでは、私を屈服させるなど到底不可能!」
パーシヴァリーはキャロラインの自尊心を煽った。
「負けない!!!」
彼女は口車に乗せられる。
目前に迫った剣先を掴み、突撃を受け止めた。
そして持てる全ての力を放出させて、直接相手に雷撃を送り込む。
「やるではないか! だが、これならどうだ!」
パーシヴァリーの出力が数段も跳ね上がった。
「くぅっ!!!」
それでもキャロラインは何とか堪える。
しかし何時までも防ぐ事は叶わなかった。
直ぐに体力が失われ、次第に雷撃の威力も衰える。
「以前にも言ったであろう! 其方は電流の操作が甘い! せっかくの雷撃が散らばっている!」
「うるさい!!!」
そうキャロラインが叫んだ瞬間、二人の間で衝撃波が発生した。
「ぐっ!!!」
ゴスロリ少女の身体が宙を舞い、数秒ののち激しく地面に叩きつけられる。
「う゛っ!」
パーシヴァリーはと言うと、何食わぬ顔で激突したその場に佇んでいた。
「楽しませてもらった。また腕を磨いて私に挑むがいい」
「……う……う……」
力を使い果たしたキャロラインは、自分の体を起こす事もままならず、銀髪の少女に敗北するのであった。




