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65.エルフの一行

 甲板に上がった俺は、興味津々で周囲を見回した。

 そこには多くのエルフたちが作業に従事しており、皆が忙しなく働いている。


「カセットラフ様が戻られた! 出航だ!!!」


 風も無いのに大きく帆が張られ、なぜだか分からないが船が少しだけ浮いた。

 そして徐々に動き始めると、次第に速度を上げて颯爽と走りだす。


 すげえな……どうなってんだろう……魔術で動かしてんのか?


 俺が感心していると、あちらこちらから冷めた視線を感じた。

 その出処はこの船で働いているエルフたちからであり、人間の俺を敵視している。


「こっちへ来い」


 美女が案内を始めた。


 こいつも人間が嫌いなんだよな……

 ……居心地が悪すぎるぞ……


 俺は辟易としながらも、彼女の後に続き船内へと入った。

 

 中は思ったよりも広く、意外にも生活空間が確保されていた。

 人が擦れ違えるほどの幅を持つ廊下。

 その両側には幾つもの船室が規則正しく並んでいる。


 俺は船内をキョロキョロと見回しながら、金魚のフンのように美女の後ろを歩いた。


 ほどなくして、美女は一つの船室の前で止まる。


「ここだ」

 

 彼女はドアを開けて入室した。

 続いて俺も部屋に入ると、そこには五つのベッドが並べられている。


「そこに少女たちを寝かせるんだ。君は私について来い」

「……」

 

 俺は戸惑う。


 こいつらの素性が全く分からないからだ。

 もしかしたら、敵地の真っただ中にいるかもしれない。

 その様な場所で、俺の可愛いセラーラとピアを置いて行くなんて出来っこない。


 そう考えていると、美女が穏やかな口調で言葉を紡いだ。


「君が警戒する気持ちも分かる。でも、ここは私を信じて欲しい」


 ……ん……?

 こいつ、態度が軟化しているぞ……さっきまでは凄い疎んでいたのに……

 俺がトモカズだと分かった辺りからか? 急に優しくなったのは……


 ……でもなんで……? 

 ……俺って指名手配犯だよ……?


「トモカズ。ここにいれば二人は安全だ。何も心配する必要はない。だから一緒に来てくれ」


 おお、何かフレンドリーだぞ。俺の名前を直に言って来たよ。


「……」


 ……信じてみるか……

 それにそうでもしないと話が進みそうにないしな……


「分かった」


 俺は彼女の言葉に従う。


 次に案内されたのは、殺風景な部屋であった。

 隅に置かれた籠と、たっぷり水が入った二つの樽があるだけだ。


「ここは体を洗う場所だ。水は貴重だから滅多に使わないんだが、お前は汚れすぎている」


 身体を洗えって事か……

 セラーラの浄化スキルがあれば、一発で綺麗になるんだけどな……


「着替えはあの籠に入っている。今着ている服はそこに入れておいてくれ。後で洗濯して返す」


 籠の中には折り畳まれた服が入っている。


「汚れを落としたら、先ほど二人を寝かせた向かいの部屋に来てくれ。では待っている」


 そう言うと、彼女は部屋から出て行った。

 

「……」


 何だか手のひらを返したように優しくなったんですけど……後が怖いな……






 体を洗った俺は、着替えを済ませて指定された部屋へと向かった。


「ここだな」


 俺はノックもせずに扉を開ける。


「来たか」


 そこには丸机を囲んだ三人のエルフが席に付いており、カセットラフと美女の姿もあった。


「座ってくれ」


 美女に促され、俺は空いた席に腰を掛ける。


 それを確認した美女が気さくに話しかけてきた。


「どれくらい遭難していたんだ?」


 ……うーん、正確な日は数えていないな……


「……だいたい一週間か二週間くらいか……?」


 その言葉に美女は目を丸くして驚いた。


「……よく無事でいたな……」

「どういう意味だ?」

「あそこにはデザート・デス・ワームと言われる体長十メートル以上の魔物が棲息している。そいつは縄張りに入って来た者を砂中に引き摺り込み丸呑みにするんだ」


 ……マジですか……


「そう言えば、君たちは何らかの魔術でこの砂海に飛ばされたとか言っていたな」

「……そうだけど……」

「だから荷物も持っていなかったのか……そんな状況下で、よく生き残れたものだ……」

「……ギリギリだったけどね……」


 やけに親し気だな……


「君はこの砂漠に飛ばされる前、村に寄ったと言っていたな」

「……う、うん……」

「そこでちょうど、傭兵崩れの襲撃にあったんだろ? 災難だったな」

「ま、まあね……」

「何はともあれ無事で良かった」

  

 これは談笑ってやつだよね……


「後で少女たちの状態も確認しよう。確かおかしな術で眠らせられたとか。幸いにもこの船には魔術に精通した者が何人もいる。彼女たちを眠りから解放できるかもしれない」

「……あ、ああ……頼む……」


 ……何これ……

 ……凄く優しいんですけど……


「さてと、そろそろ自己紹介と行こうか」


 完全に美女のペースだ……


「……」


 ……こいつの話の進め方、何か裏があるぞ……


「君の対面に座る御方はここの責任者、カセットラフ様だ」


 紹介されたカセットラフは、短く自分の名を告げた。


「カセットラフだ」


 もう知ってるよ。


「そして私はクラリーサ。カセットラフ様直属の部下だ」


 直属の部下?


 という事は、直属ではない別の部下が他にもいるって事だよな。

 カセットラフは軍団長か何かか?


「次は私ですね」


 言葉を発したのは、金髪碧眼で美しい容姿を持つ、男性のエルフであった。


 こいつは初めて見る顔だ。

 ……にしても、甲板にいるエルフたちもそうだが、みんな美形だな……


「……」


 滅びろ!


「私はこの船の船長を務める者で、ノイッシュと申します。先に言っておきますが、エルフは基本、人間を嫌悪しています。そして私は輪をかけて大嫌いです。この船に乗せるのも汚らわしいとさえ思っています。ですが、あなたはカセットラフ様がお認めになった御方。特別に乗船の許可を出しています。そこのところを理解して、船の中では自分の立場を弁えて行動してください」


 ……おいおい……のっけから牽制してきたよ……


「ノイッシュ。これから協力を仰ごうとする者に対して失礼ではないか」


 その言葉にノイッシュは黙って肩を窄める。


「……」


 今、おかしなワードが聞こえてきたんだが……

 ……協力、とか言ってなかった……?


 俺が訝しんでいると、クラリーサが切り出してきた。


「済まない。まだ事情を話していなかったな……実を言うと、我々は然る御方を助けに行く途中なのだ」

「然る御方?」

「そうだ。その御方はオルストリッチの貴族に囚われている」


 ……オルストリッチ……


 なるほど、合点がいったよ。


「俺を助けた理由が分かったぞ。その然る御方を助けるために、オルストリッチの事情に明るく、且つ謀反人である俺の力を借りようって寸法か」

「理解が早くて助かる。君はあのドミナンテ相手に、一歩も引くことなく渡り合っている。そこは我々が放った斥候からも裏が取れている」


 敵の敵は味方という訳か。

 確かに協力者には持って来いだ。

 裏切る可能性が低いからな。


「それに、君が連れていた二人の少女。その内の一人が【撲殺聖女】だと分かった。君がトモカズ本人だという事は疑う余地もない」


 手配書で確認したな。


「どうだろう。我々に協力してくれないか? 無論、それなりの対価は払う」


 ここで協力を断ったらどうなるんだろうか……

 砂漠に放り出されるのかな……?


「……」


 それだけは絶対に御免だ!


「分かった、協力しよう」

「そう言ってくれると思っていた。感謝する」


 クラリーサの頬が緩む。


「……」


 ……こいつ、俺の立場を見て断れないと踏んでいたな……

 意外と食えない奴だ。


 対してノイッシュは、厳しい視線を俺に向けていた。


「私はあなたを信用していません。くれぐれも勘違いされる行動は慎んでください」


 まだ言ってるよ……めんどくせー。


「……」


 カセットラフの方はと言うと、腕を組んで黙って俺を見ていた。


 そういやカセットラフは一言しか喋ってないよな……それも自分の名前だけ。

 何なんだろうか……俺を値踏みしているのか?

 

「……」


 まあ、いいや。

 そんな事より、協力するとなったら詳しい情報が必要だな。


「それで、然る御方を助けるって言ってたけど、誰なんだ?」

「……」


 俺の問いに、クラリーサは自分の上司へと視線を向けた。

 それを受けたカセットラフが静かに頷く。


「カセットラフ様の認可が下りた。これより先は、他言無用でお願いする」

「分かった」


 ……と言っても、こんな砂漠のど真ん中で誰に話すってんだよ……


「我々の救出対象は、ティンクファーニ・トラジェクトリー・エルフロード様だ」


 ……長い名前だね……


 が、どこかで聞いたことのある単語が入っていたのは気のせいか……?


「ティンクファーニ様は軌跡大樹の国の姫様で、唯一の王位継承権を持つ大事な御方だ」

「……」


 ……こ、今度はハッキリと聞こえたぞ……

 ティンクファーニだって?


「数か月前、姫様はお付きの者と狩りに出かけられた。しかしその最中、人間に浚われてしまってな。我々は四方八方に手を尽くし、姫様の行方を捜したのだ」


 間違いねえ! あのティンクファーニだ!


「そして何とか姫様の所在を掴むに至った。だがそこは、ブリエンセニア王国でも悪名高い領主が支配する地、オルストリッチ辺境伯領であったのだ……」


 ドミナンテは有名なんだね。悪い意味で……


「そこからさらなる調査が行われたのだが、姫様がとんでもない輩に捕まっていることが判明した」


 ……あ、察しがついたよ……


「あの極悪非道の【血啜りの伯爵夫人】と言われる者に囚われていたのだ」


 イングリッドだね。


「【血啜りの伯爵夫人】は、若い男女の生き血を浴びて悦に浸る変態性欲者だ。一刻の猶予も許さない現状に、我々は急ぎ救出部隊を編成した。そして、姫様を助けに向かう途中、お前を拾ったという訳だ」

「……」


 俺は運が良かったよ……


「トモカズ。今の話で我々の目的が分かっただろう。君にはそれを手伝ってもらう」


 ……ティンクファーニを救出ねえ……


「……」


 なんて簡単なお仕事なんでしょう。


「クラリーサ、もうその必要はないぞ」


 俺の言葉にクラリーサとノイッシュは眉を顰めた。


「……どういう意味だ……?」


 あらまあ。二人して怪しんでるね。


「どういう意味も何も、【血啜りの伯爵夫人】の居城であるレンドン城は、俺の支配下にあるからな」






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