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63.ゴスロリ少女と銀髪の戦乙女

「……そんな……私は高位の精霊……本性を見破られるはずがない……」


 キャロラインは驚愕した。


 そして直ぐに、パーシヴァリーを侮ってはならない相手だと見做す。


「……」


 ユージスを操る得体の知れない術。

 尾行を看破した洞察力。

 全力でないとは言え、自分の雷撃を無効化した実力。


 全てを鑑みて、ここで彼女を倒しておかなければ、後々厄介になる事は想像に難くなかった。


 ところがパーシヴァリーは、危険視されているのを知ってか知らずか容赦なくダメ出しをする。


「今の攻撃からして其方は雷の精霊だな。もう少し電流の流れを制御した方がいい。散漫になって良からぬ方に散らばっている。あれでは折角の威力が半減してしまうではないか。勿体ない」


 矢継ぎ早に指摘され、キャロラインは目の前の存在に恐怖した。


「……何者なの……」

 

 未知は恐怖。

 それはキャロラインでなくとも誰もが感じるところであろう。


 彼女はそれを克服しようと、パーシヴァリーが何者なのか懸命に推測した。


 と、一つの可能性が脳裏をよぎる。 


「……もしかして……誓約者……?」

「誓約者……」


 聞きなれない単語にパーシヴァリーは逡巡した。

 

「……」


 そして何かに気づいたのか、頬を赤らめて口を開く。


「……そうだ……私は誓約者だ……」


 パーシヴァリーは妄想に耽る。自分はマスターの誓約者……そう、いずれは伴侶となる婚約者(・・・)なのだと。


「……思った通り……だとしたら、やっぱりあなたの狙いは私の誓約者であるドミナンテ……」

「なに? 其方の婚約者はドミナンテなのか? 趣味が悪いぞ」


 その言葉にキャロラインは何処か齟齬を感じるが、構わず話を続けた。


「……趣味とか関係ない……彼の能力は強力……あの力の前では誰も歯が立たない……」

「ま、まあ、男の選び方は人それぞれだからな。其方は力ある者に惹かれるのだろう」


 パーシヴァリーは人の好みにケチをつける気など全くなかった。


「だが、一つだけ言わせてもらおう。ドミナンテなど、マスターの足元にも及ばない。マスターは力、知恵、性格、容姿、どれをとっても最高だ……その女である私は何て幸せ者なのだろう……」


 やはり違和感があるとキャロラインは感じる。

 それを払拭せんがため、彼女はパーシヴァリーに問いかけた。


「……精霊選戦……知ってる……?」

「精霊選戦?」


 パーシヴァリーは小首をかしげる。


「……知らないの……?」

「聞いたこともない」

「……」


 キャロラインは訝しみながらも精霊選戦の説明を始めた。


「……精霊選戦は精霊王を決める戦い……選ばれた高位の精霊たちが、その座に就くため争い合う……」


 パーシヴァリーは興味津々でその話に耳を傾ける。


「……精霊たちは人間と誓約を交わし、その者の野望を手助けする……誓約した者の野望が困難で大きいほど、達成した際にその者と誓約していた精霊の立場は有利になる……」

「ほう、それで?」

「……私の誓約者であるドミナンテの願望は大陸の制覇……これほどの野望を叶えてあげれば、私は間違いなく精霊王になれる……」

「なるほど、叶えた願いの大きさを競い合うのだな」


 何とも面白そうな戦いだとパーシヴァリーの食指が動いた。


「……でも、精霊同士の妨害も有りだから、誓約者を殺されないように気を付けないといけない……あなたと誓約した精霊は説明しなかったの……?」 

「?」


 パーシヴァリーは頭の中で疑問符を浮かべる。


「……誓約した精霊を教えて……」

「……」


 改めて尋ねられたパーシヴァリーは、この段階で初めておかしいと気づいた。

 しかし彼女は別段気に病む必要もないと思い、何食わぬ顔で言葉を返す。


「何だかよく分からないが、私にはそのような者などいない」

「え?」


 その言葉にキャロラインは素っ頓狂な声を上げた。


「……あなたは言った……自分は誓約者だって……」

「ああ、そうだ。私はマスターの誓約者……言ってみれば、婚約者(・・・)だな。私はマスターと結ばれる者だ」

「え」


 キャロラインの頬が引き攣る。


「……あなたは私を騙したの……?」

「騙してはいない。其方が勝手に勘違いをしたのではないのか?」


 勘違いしたのはそちらの方だとキャロラインは突っ込みそうになった。

 しかしそれよりも、彼女にはもっと気になる点があった。


「……あなたが誓約者でなかったら、どうして私が精霊だって分かったの……?」


 高位精霊のキャロラインは、自分の儀装が完璧だと自負している。

 見破れるとしたら、誓約者か英雄級の人間だけ。

 

 ところがパーシヴァリーは誓約者ではないと言った。

 となると、後者の可能性が高い。


 しかしながら、英雄クラスの力を知るキャロラインは、その可能性を除外していた。

 いくらパーシヴァリーが雷撃を無効化したからと言って、その程度では英雄の実力には届かないからだ。

 それに自分が真の力を解放すれば、確実に彼女を倒せると確信もしていた。 


「……もう一度言う……私が精霊だと見做したその根拠は……?」


 再度の問いかけに、パーシヴァリーは斜め上の答えを述べる。

 

「無論、私が其方の同胞だからだ」

「えっ?」

 

 キャロラインはその言葉を直ぐに飲み込めなかった。


「……ど、同胞……?」


 彼女は同胞という単語をよく噛み締めて意味を探る。


「そろそろいいだろう」


 いきなりパーシヴァリーが背を向けて立ち去ろうとした。


「待って!」


 引き留めるキャロラインだが、彼女は振り向かずに言葉を放つ。

 

「面白い話を聞かせてもらった。もっと詳しく聞きたいところだが、フレイが首を長くして待っている」

「ダメ! 逃がさない!」


 キャロラインの周囲に幾重もの紫電が走った。

 彼女は先の電撃など比にならないほどの電流を纏い、臨戦態勢に入る。


「せっつくな。次はゆっくり遊んでやるから、その時を楽しみに待っているのだ」


 意にも介さないパーシヴァリーは、早々に場を立ち去ろうとする。


「では近いうちにまた会おう」


 そう言うと、片足で地面を踏み抜いた。


 瞬間、地が激しく上下左右に揺れだして、周囲のボロ壁やあばら家が音を立てて崩壊を始める。


「……く……」


 キャロラインは振動から逃れるため高々と跳躍した。


「……え……?」


 彼女は驚く。

 眼下には、もうパーシヴァリーの姿がなかったのだ。


 そして揺れは直ぐに収まって、ゆっくりと地面に着地する。


「……」


 誰も居なくなったその場所に、キャロラインはただただ茫然と立ち尽くすのであった。






「キャロラインの奴、なかなか帰って来ぬな……」


 ドミナンテたちは客室に移動していた。

 執務室はパーシヴァリーのスキルによって半壊しており、とてもではないが使える状態ではなかったからだ。


「父上、焦らず待ちましょう。彼女なら大丈夫です」


 そうデウストが言ったと同時に、扉がゆっくりと開かれた。


「……」


 ゴスロリの美少女キャロラインが、音も立てず室内に入って来る。


「待っていたぞ、キャロライン。【銀髪の戦乙女】は何処だ?」


 その問いかけに、彼女は淡々と答えた。


「逃げられた」

「何だと!!?」


 予想外の言葉で一同は驚愕する。


「お前ほどの者が取り逃がしたとでもいうのか!?」

「貴様は雷の上位精霊。それでも捕えられなかったのか」

「信じられませんね……」


 驚きを隠せない三人に、キャロラインは更なる経緯を告げた。


「……それだけじゃない……【銀髪の戦乙女】は私を精霊だと見抜いた……」

「なにっ!!?」


 ドミナンテは激しく動揺する。

 キャロラインの正体を見抜くという事は、相当な実力を持つ証左であったからだ。


「こんな状況下では領都を離れられんぞ……【銀髪の戦乙女】とユージスが何をしでかすか分かったもんじゃない……」


 ドミナンテはブリエンセニア王直々に招聘されているため、明日の朝にでもオルステンを出立しなければならない。

 

「それにトモカズが生きているやもしれん……」


 ドミナンテは頭を抱えた。

 

「父上。何も心配する必要はありません。父上が留守の間、私が問題を片づけておきましょう」


 デウストの威風堂々とした姿にドミナンテは厳しい視線を向ける。


「……やれるのか……?」

「愚問です」


 デウストは迷いなく即答した。


「……いいだろう……【銀髪の戦乙女】とユージスを始末しろ」

「お任せください。それからトモカズの件も調べておきます。ついでにアルタ村とトーゲ村にもしっかりと制裁を加えておきます」


 とそこで、キャロラインが口を挟んだ。


「……ドミナンテ……私も残る……」


 全員が一様に目を見開く。


「キャロライン、あなたは父上の傍で手助けをしなければならない」

「……」


 彼女は押し黙った。

 その姿を見てヘルムーツェンは察する。

 

「貴様、【銀髪の戦乙女】と何かあったな」

「……」


 一呼吸置いたキャロラインは、静かに呟いた。


「……確かめたいことがある……」

「何だそれは」

「……今は言えない……」


 普段のキャロラインはドミナンテの傍に付き従っているだけだ。

 しかし今回は珍しく自発的に動こうとしており、そんな彼女にへルムーツェンは理解を深めた。


「ドミナンテ。キャロラインには何処かしら思うところがあるようだ。好きにさせたらどうだ? 護衛には、俺様と漆黒騎士団がいれば問題ない」


 ヘルムーツェンの後押しもあってかドミナンテは了承する。


「……分かった……だがその確かめたい事とやらは、帰ってきたらしっかりと説明してもらうぞ」


 キャロラインは静かに頷いた。


「お前と儂は、一蓮托生だ。お前が取る行動は、儂にとっての益になるはず」


 ドミナンテは次にデウストを見る。


「それからデウスト。後の事は任せたぞ」

「ご安心ください。父上が戻ってくるまでに掃除は済ませておきます」


 こうしてドミナンテはデウストに後を託し、次の日の朝早くには王都へと向かうのであった。






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