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62.ゴスロリ少女の追撃

「【銀髪の戦乙女】だと!!?」


 ドミナンテ、ヘルムーツェン、デウストの三者は度肝を抜かれた。


「何をそんなに驚いているのだ。其方らは血眼になって私を探していたのではないのか? ならば、ここは喜ぶべきところだろう」


 ユージスの姿のパーシヴァリーは、傲岸不遜な態度で彼らを睥睨している。


「……父上……見た感じではユージスに憑依しているようです……」

「……憑依だと……?」

「ドミナンテ……俺様もそう感じる。恐らく本体は別の場所にある……」


 ヘルムーツェンはユージスの状態をさらに深く見極めようと、ゴスロリの美少女に問いかけた。


「キャロライン、これは魔術なのか?」

「……」


 普段は感情を出さないキャロラインでさえも、今回ばかりはその眠たそうな眼を大きく見開き驚いている。


「キャロライン」


 再び名を呼ばれた彼女は、しどろもどろ(・・・・・・)としながらも口を開いた。


「……ち、違う……魔力の残滓を一つも感じ取れない……」

「……だったら何だと言うのだ……」


 ドミナンテ以下一同は、怪しげな術に警戒心を強め、【銀髪の戦乙女】に対し二の足を踏む。


 パーシヴァリーがユージスに施していたスキル〈献身代(エミネムド・スタン)〉は、対象のダメージを一手に引き受ける防御系のスキルだ。

 且つ、スキルレベルが上がれば対象の行動さえも操れる。


 乙女精霊サーガでは、このスキルを利用した低レベルの乙女精霊を育成する方法があり、ピア、チェームシェイス、エルテ、アプリコットの四人も、初期段階はこのスキルを使って高位のモンスターと戦いレベルを上げていた。


 よってプレイヤー間では養殖スキルとも呼ばれ、パワーレベリングに持って来いのスキルであった。


「ドミナンテ。鼠が自ら死地に飛び込んできた。ここで始末すればいい」


 そう言うヘルムーツェンは、密かにデウストへ目配せをした。

 その意図を感じ取ったデウストは、小声でドミナンテに耳打ちをする。


「……父上……父上の御力であの者を支配下に収めれませんか……」

「……分かっておる。だが、もう少し時間が掛かる……」


 父の言葉を受けたデウストは、ヘルム―ツェンに視線を送った。


「……」


 直ぐに察したヘルムーツェンは、時間の引き延ばしを図る。


「……パーシヴァリーとか言ったな。貴様は自分の主が死んでいる事実を知らないのか?」

「ああ、あの振れか」


 パーシヴァリーは動揺する事無く淡々と答えた。


「愚かな者たちだ。マスターが死んだなどと戯言を抜かして私を錯乱させようとしているが、それは無駄なのだ。マスターを倒せる者などこの世に存在しないのだから」


 己の信念が一片も揺らがないパーシヴァリーに、今度はデウストが言葉を放った。


「愚か者はお前だ。トモカズに手を下したのはこの私。付き従っていた白髪の少女も一緒に始末した。奴らは確実に死んでいる」

「……」


 デウストの揺さぶりにパーシヴァリーは逡巡する。


「……なるほど……となると、其方はマスターの死体を確認したという訳だな」

「……なんだと……?」


 デウストの眉間に皺が寄った。


「ふうむ。その様子では、マスターの死を最後まで見届けていないようなのだ。それでマスターを倒したと言い切る其方は、やはり愚か者以外の何者でもない」


 痛いところを突かれたデウストだが、それでも彼には絶対の自信があった。


「……確かに私はトモカズの死体を確認してはいない……だが、奴はどう足掻いても決して生きられぬ場所にいる……そこから生還するなど絶対に有り得ない」

「クッ、クククッ、アーハッハッ!!!」 


 突如としてパーシヴァリーが哄笑を上げる。

 

「何が可笑しい!」


 デウストが声を荒げた。


「これが笑わずにいられるか。仮に其方の言う通りだったとしよう。だとしたら、何故ガインツ兄弟は未だに帰って来ないのだ? 奴らはマスターに全滅させられたのではないのか?」

「!!!」


 彼らは失念していた。

 三人ともパーシヴァリーの主が死んだと思い込んでいたため、その可能性を視野に入れていなかった。


 それでもデウストは負けじと反論する。


「ならば聞こう! トモカズは貴様の下へ戻って来たのか!!?」

「戻ってはいない」


 その言葉にデウストの口元が緩んだ。


 ところがパーシヴァリーは、それが何だと言わんばかりの態度を取る。


「これだから阿呆の相手は疲れるのだ」

「なに?」

「マスターは最強だが、智謀にも満ち溢れた男だ。未だ私の下へ戻って来ないのは、別の計画を遂行中だという意味。そんなことも分からんのか?」

「……」


 デウストは考える。

 地獄へ送ったのは間違いない。


 しかしパーシヴァリーのこの自信、とても捨て置けるものではない。

 そしてガインツ兄弟が帰っていない事実、それが更に彼を困惑させた。


「……と、無駄話はここまでにしておこう。其方らが何かを仕掛けるために、時間を稼いでいるのは分かっている」

「なっ!?」

「そこまで待つほど私は暇ではない。早くユージスを持って帰らないとならないのでな」

「くっ!」


 目論見を見抜かれたドミナンテとデウストの顔に焦りの色が浮かぶ。


 しかしヘルムーツェンだけは既に思考を切り替えており、間髪入れず次の行動に移った。

 

「逃がさん!」


 力強く床を蹴り、銀色に輝くユージスに剣先を向けて吶喊する。

 

 それを見たパーシヴァリーは、即座にスキルを発動させた。


「聖騎士スキル、〈地動峰盾(ゴアストック)〉」


 彼女を基軸として床に亀裂が入り、それは蜘蛛の巣を張るが如く急速に広がる。


「ぬっ!!?」


 そして床が高々と隆起し、パーシヴァリーの盾となってヘルムーツェンの突撃を阻害した。


「面倒な!」


 しかしそれだけではなく、彼女が立っていた床が崩壊を始め、自身が下の階へ落下していく。


「ちっ!」


 ヘルムーツェンも、隆起した床の盾を飛び越えて、崩壊して出来た穴に入ろうとした。


 ところが穴は、彼を通さまいと急速に閉じて行く。


「なに!?」


 ヘルムーツェンは蹈鞴を踏んでしまい、毒気を抜かれたのかその場で立ち止まった。


「何をしておるヘルムーツェン! このままでは逃げられてしまうぞ!!!」


 慌てるドミナンテに対し、ヘルムーツェンは塞がれた穴を眺めながら落ち着き払って口を開く。


「その必要はない」


 思わぬ返しにドミナンテは訝しんだ。


「……なんだと……どういうことだ?」

「キャロラインが後を追った」


 その言葉を聞いたドミナンテは咄嗟に室内を見回してゴスロリの少女を探す。

 しかし彼女の姿は執務室の何処にもなかった。


「おお、なら安心だ」


 ドミナンテの心に余裕が生まれ、自然と口角が吊り上がる。


「そう言う訳だ。あいつに任せておけば問題ない」

「……珍しいですね……彼女が自分から動くなんて……でもこれで、【銀髪の戦乙女】は捕獲したも同然ですね」


 ヘルムーツェンとデウストも、ドミナンテと同じように不敵な笑みを浮かべるのであった。






 パーシヴァリーは、ユージスに憑依したままスラム街を走っていた。

 時おり後ろを振り向くが、追ってくる者は見当たらない。

 

 しかし彼女は警戒を緩めることなく先を進み、人気のない所まで来ると急に立ち止まった。


 そして何を思ったのか、ある一点を見詰め始める。

 そこは崩れかけた土壁であり、パーシヴァリーはその場所に向かって言葉を放った。


「ここらへんでいいだろう。さあ、出てくるのだ」

「……」


 ゴスロリ風のワンピースを着た美少女が、壁の裏からゆっくりと姿を現す。

 

「其方はキャロラインと呼ばれていたな。なかなか優れた尾行技術だ」


 上から目線で称賛するパーシヴァリーに、キャロラインの眉根が寄った。

 

「……なぜ気付いた……」

「気づくも何も、あの程度の尾行ではかくれんぼ(・・・・・)と何ら変わりはない。褒めたのは、低水準の実力しか持たない其方たちの中ではマシな方だという意味だ」


 辛らつな言葉を受けてもキャロラインの眠たそうな表情は変わらない。


 しかしながら、彼女は怒りを表に出していないだけで、心中ではプライドを傷つけられ憤っていた。


「私の拠点まで尾行する気だったのだろうが、最初から分かっていた。其方を撒くのは簡単だが、懸命に追ってくるその姿に何とも愛らしさを感じてな。折角なので、少しだけ遊んでやろうと思ったのだ」


 完全に見下したその発言に、キャロラインの怒りが静かに爆発する。


「……あなたの術に興味があったから追って来たけど、もう許さない……」


 唐突にキャロラインが消えた。


「……報いを受けろ……」


 現れた先はパーシヴァリーの真後ろ。

 そこで彼女は手を翳し、意味不明な言語を呟く。


――バリバリバリ――


 瞬間、乾いた轟音と共に稲光が走った。

 晴天にもかかわらず、パーシヴァリーに雷が直撃したのだ。


「……あなたは私を馬鹿にし過ぎた……」


 屈辱を晴らして胸のすく思いのキャロラインだが、その表情は直ぐに固まる。


「……う、そ……」


 直撃を受けたユージスの身体には傷一つ付いていなかった。


「……なんで平気なの……?」


 キャロラインは後ずさる。


 そんな彼女にパーシヴァリーは平然と振り向いて、信じられない言葉を口にした。


「其方、精霊だな?」

「……えっ……」


 正体を看破されたキャロラインは、大きく目を見開き硬直するのであった。






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