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57.収束

二章の最終話に当たります。

 ピアが覚醒状態(エピファニー・モード)を発動してから既に一時間近く経過していた。

 恐らくだが、セラーラもそのくらいは経っているはずだ。


 そして彼女たちは今もなお戦い続けており、その余波を受けた宮殿は全壊していると言っていいくらいボロボロになっていた。


「……」


 ロメアは宮殿の変貌ぶりに放心状態となっていたが、何とか声を絞り出す。


「……もう魔仗宮殿は終わりだ……」


 ロメアよ。気持ちは分かる……分かるが、俺にはどうする事もできない……

 

「……お前たち……頼むから、もう帰ってくれないか……」


 目に涙を溜めた男装の麗人が、悲壮な顔で懇願してきた。


「俺だって帰りたい。でも方法が分からん……」


 ……ホント、これが一番の問題だ。どうやって帰りゃあいいんだよ……?


「……」


 歪曲門(ワープ・ゲート)ならいけるか?

 

 ……難しいか……地獄とエルテの店では次元が違うみたいだし……

 ……試してみる価値はあると思うが、たぶんダメだろうな……


 俺は頭を悩ませた。


 ところがそんな杞憂は、ロメアが次に放った言葉で払拭される。


「……私がお前たちを送還する……」


 マジ?


「できるのか?」

「……辛うじてな……かなりの暗黒力を消費するが、仕方ない……この調子でお前たちに暴れられては近いうちにエベネーベが滅ぶ……」


 いやいや、地獄が滅ぶって……大袈裟だよ。


 俺は宮殿の方に目を向けた。

 ちょうどそこで大きな爆発が発生し、衝撃波を伴った突風が俺たちのところまで吹き荒んでくる。


「……まあ、なんだ……大丈夫だよ、きっと……」

「貴様ぁああああ!!! あれが大丈夫だと言えるのかっ!!?」


 ロメアは俺の襟首を掴んで激しく揺らし、切迫した表情で詰め寄ってきた。


「お、落ち着け! そんなに唾を飛ばすな!」

「うるさい!!! いくら何でもあそこまでやることはないだろう!!! 限度というものがある!!!」

「いやいや、俺の所為じゃないからね……」

「言い訳をするな!!! あの少女たちはお前の連れなんだろうが!!! だったらちゃんと躾けておけ!!!」


 ……ロメアの怒りが爆発しちまった……

 こういう時は、黙ってやり過ごすのが一番だ。


「……」

「聞いているのか貴様!!! あれは酷すぎるぞ!!!」

「……」


 実際、リーマン時代にも取引先からクレームを受けて怒鳴られたことが何度かあった。

 そんなときは、心を無にしてひたすら謝罪の言葉を述べるのが俺のやり方だ。

 そして相手の怒りが静まったところで、打開案を提示する。


 今回はそのときの応用で、無言バージョンだ。


「魔仗宮殿は名工アンソロボッソが設計した奇跡の建築物だぞ!!! 今では失われた技術が満載に施された貴重な宮殿なんだ!!! それをだな!!! 貴様のしもべたちが……」


 俺は目を瞑ってロメアの言葉に相槌を打ち、怒りが収まるのを待った。


 とそこで、ある事に気づく。


「……ん? 何か静かになってないか?」

「なに?」


 ロメアは透かさず宮殿の方へと視線を向けた。

 

 そこは最初から何事もなかったかのように静まり返っており、つい先ほどまで爆発を連発していたとは到底思えない。


「ほ、本当だ……良かった……」


 彼女は可愛らしくへたり込み安堵した。


「ロメア、直ぐに宮殿へ向かうぞ」


 こうなると、次はセラーラとピアが心配だ。


「わ、分かった!」


 俺とロメアは急ぎ宮殿へと引き返した。






「これは酷い……」


 宮殿は瓦礫の山と化し、その隙間には押し潰された多くの悪魔たちが散見され、まるで地獄のようであった。


 まあ、地獄なんだけどね。


「……何ということだ……惨たらしいにもほどがある……」


 ロメアは絶望に打ちひしがれていた。


 「……このような所業……我ら悪魔が行う以上の残虐行為だ……いったいどれだけの同胞がやられたのか……」

「いやいやいや、悪魔が瓦礫に押しつぶされるなんて嘘でしょうが」

「馬鹿者! 魔仗宮殿の壁はあのアンソロボッソが手掛けているんだぞ! その一つ一つがとんでもない暗黒力を秘めているのだ!!! あんなのが上から落ちてきたら並の悪魔などイチコロだ!!!」


 ……なんでそんな壁を使ってんだよ……


「……」


 ……それになロメア。お前の主のバティスモレは、多くの罪なき人間を食ってきたんだぞ。

 その仲間であるお前たち悪魔に俺は同情なんかしないよ。


「……この有様……確実に一万は下らんぞ……大虐殺だ……」


 ……ま、まあ、ちょっだけなら憐れんでやってもいいかな……


「……」


 それにしても、ホントに生き残りはいないのね……

 立っているのは俺とロメアだけだし……


「……おい、あれを見ろ……」


 そこでロメアが何かに気づいた。


「……あそこで寝ているのはお前の連れではないのか……?」


 彼女の指し示す方角に目を向けてみると、二人の少女が瓦礫の山の頂上で仲良く並び寝転んでいた。


「……間違いない……」


 俺とロメアは瓦礫の山を登り、セラーラとピアの傍まで駆け付ける。


「……人の苦労も知らないで……凄く幸せそうな顔で寝てるよ……」


 彼女たちは穏やかな寝息を立ており、とても美しい寝顔を見せていた。


「……だが、これで静かになった」


 二人の額に浮かんでいたハート型の紋様は、跡形もなく消えている。

 全身の光も失われており、覚醒状態(エピファニー・モード)の終了を意味していた。


 この世界での覚醒状態(エピファニー・モード)の持続時間は一時間ってところか……

 ……なげえよ……


「……いきなり起き上がらないだろうな……」


 ロメアはビクつきながらも二人を見ている。


「大丈夫だ。そんなに怖がるな」


 問題はその逆だ。

 いつまで寝ているか、だ。


 既にこいつらは休眠状態に入っている。


 ゲーム時の覚醒状態(エピファニー・モード)の持続時間は五分間。

 対してこの世界ではその十二倍、六十分だという事が分かった。


 となると、ゲーム内での休眠状態は七日間だったから、同じように十二倍の八十四日だと俺は推測する。


「……取り敢えず確認してみるか……」


 俺は二人の頬に手を触れて、彼女たちの情報を読み取った。


「……」


 ……どれどれ……休眠状態は……二十五万五千五百五十日……


「……ふう……どうやら俺は疲れているようだ……」


 ……そうだよな……

 なんたってお俺は、一昨日は不死鳥騎士のテオドニスを倒し、昨日はピッチェレを倒した。

 そしてエルテの店に帰るや否や、直ぐにボンゴ村へ向かってこの地獄に落とされたんだ。


 ……疲れるのは当然だよな……


「……」

 

 俺は気を取り直すと、もう一度セラーラとピアの情報を読み取った。


 ……二十五万五千五百五十日……


「……」


 ……見間違いじゃないのね……


「……」


 …しかしこの日数……分けわかんねえよ……

 

 いったい何年なんだ? ……三百六十五で割ってみるか……


 俺は頭の中で暗算する。


「……え?」


 ……な・な・ひゃ・く・ね・ん……?


「……」


 ……ななひゃくねん……


「七百年だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

「ひぃっ!!?」


 突然、俺が叫んだので、ロメアから可愛らしい声が漏れた。


「す、済まん。何でもない」

「……ま、まさかもうちょっとで起きるとか、そんなんじゃないよね……?」


 なんだロメアの奴。

 ちょっと可愛いぞ……ていうか、それどころじゃねえ!!!


 七百年ってなんだよ!!!

 セラーラとピアはそんなに眠ったままなのか!!?

 バグってね!!?


「お、おい。どうした? 顔色が悪いぞ……大丈夫か……?」


 ……ロメア……最初は俺たちを供物とか言って見下していたのに、今では心配までしてくれる……

 一緒に危機を乗り越えたから、仲間意識が芽生えたのか……?


「……」


 ……って、違う!!!

 やべえよ俺!

 あまりの衝撃に現実逃避しようとしてる!!!


 落ち着け、落ち着いて考えろ……


 ……今、俺がすべきことは何だ?


「……」


 考えるまでもねえ。

 二人を連れて、一刻も早くこの地獄から出る、それこそが最優先事項だ。


「ロメア。早速だが、俺たちを戻してくれ」

「そ、そうだな。また暴れられては敵わないからな。寝ている今のうちにお引き取り願おう」

 

 ロメアは二つ返事で俺の要請を快諾する。


「では扉を開くぞ」


 そう言った彼女は両手を前面に翳して意識を集中させた。

 すると黒く禍々しい何かが体全体から沸き立ち、それは突き出した手の平に集まり始める。


 あれってレーヴェが使っていた生命気(オーラ)、ダーク……何とかに似てるな。


「……できた……」


 ロメアの両手の前に等身大の黒い渦が発生した。


「長くは維持できない! 早く飛び込め!」

「分かった!」


 俺は急ぎ少女二人を両脇に抱える。

 そしてロメアとの別れの挨拶も無しに、躊躇なく黒い渦へと飛び込んだ。


 視界が歪み、ふわりと浮いた感覚に襲われる。

 そして次の瞬間には、雲一つない青空の下に立っていた。


 よし、元に戻れた!

 後はエルテの店に帰って対策を練る!!!

 可愛いセラーラとピアを七百年も眠らせて堪るか!!!


 気合を入れた俺は、改めて周囲の景色を見渡した。


「……しかし何で砂漠なんだよ……」


 辺り一面は砂だらけで、それは遥か遠方まで続いている。


 てっきりボンゴ村に戻ると思ったんだが、まあいいか。

 俺には歪曲門(ワープ・ゲート)があるからな。

 これさえあれば、一発でエルテの店に帰れる。


 俺は在庫目録(インベントリ)から等身大ほどもある楕円形の鏡を取り出した。


「さてと、帰るかね」


 俺の指が鏡面に触れる。


「……ん?」


 しかしどいう訳か、何も変化が起こらなかった。


「……なんだ……? ……鏡に入れないぞ……?」


 焦りを覚えた俺は、今度は両の手のひらを当てる。

 それでも鏡は何の反応も示さず、俺の姿を映しているだけであった。


「な、なんでだ……?」


 ……そ、そう言えば、思い当たる節があるぞ……


 歪曲門(ワープ・ゲート)は狩場までの移動時間を短縮させるアイテムだ。

 ただし、建物の中に設置する必要がある。

 多くのプレイヤーたちは、好みの狩場から近い建物に歪曲門(ワープ・ゲート)を取り付けるのだ。


「……」


 ……ここが外だから、歪曲門(ワープ・ゲート)は使用できない……?


 俺の顔から血の気が失せていく。


「冗談じゃねえぞ!!!」


 広い砂漠に怒号が響き渡った。


「……」


 ……叫んでも始まらねえ……


「……」


 ……だが、ここにいても何の解決にもならん……

 ……少し移動してみるか……


「……」


 そこで俺は、この原因を作った人物に殺意を抱く。


 ……ロメアぁあ。こんな辺鄙なところに送りやがって、お前だけは許さん。今度会ったら覚えてろよ……


 この場に居ないロメアに悪態をつく俺は、セラーラとピアを両脇で抱えると、あてもなく砂の大地を歩き始めるのであった。






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