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51.村での罠 中編

「〈クリンオーネ〉! 奴の行く手を阻め!」


 クリオネの形をしたモブ精霊たちが、レーヴェの周りを鬱陶しく飛翔する。


「どうだ! 風の効果で視界が歪んで見えるだろう!」

「……」


 しかし奴は動揺を見せず、事務的に突っ込んできた。


 くそっ! 超闘気リィンフォース・オーラで身体を強化してるからお構いなしかよ!


 瞬く間に俺へと肉薄したレーヴェは、騎士剣を掲げて一気に振り下ろしてくる。


「させません」


 綺麗な声音と共に、俺の背後から無数の刺突が放たれた。


「なに!?」


 短剣の切っ先が幾多にも渡り繰り出され、迫って来た凶刃を阻害する。


「くっ!!!」


 あまりの手数に蹈鞴を踏んだレーヴェは、堪らず後ろに飛び退いた。


「良い判断だ。あそこで引いていないと、お前の身体が穴だらけになっていたぞ」


 今の攻撃はピアの暗殺スキル、〈千手刺突(メニー・ピアシング)〉。

 彼女は俺の背に隠れているから、レーヴェの位置だと刺突の軌道が読めない。

 しかも手数が多く、一撃一撃が急所を狙ってくるので、いくら超闘気リィンフォース・オーラで身体能力を上げても全てを躱すのは困難だ。


「……」


 レーヴェは距離を取って攻め方を模索している。


 俺の背後にいるピアが気になって仕方ないんだろう?

 迂闊に近づけば蜂の巣にされるもんな。


「レーヴェさん、いい加減にしてください」


 チャーチが痺れを切らした。


「私は言いましたよね。真面目にやってくださいと」


 少しだけ怒気が孕んだその言葉に、レーヴェの雰囲気が一変する。


「分かっている」


 突然、レーヴェの超闘気リィンフォース・オーラが黒く染まりだした。

 それはまさに闇であり、真っ黒に塗りつぶされた生命気(オーラ)が体全体から濛々と立ち昇っていく。


「そうそう、それですよ。勿体つけないでください」


 チャーチは満足そうな表情を浮かべた。


 それを一瞥したレーヴェは再び俺たちに向かって来る。


「懲りないな。今度はこちらから行くぞ」


 俺は奴に手を翳してモブ精霊を召喚した。


「〈ライトニング・フライジャル〉」


 金色に輝くイガグリが掌から出現する。


「貫け」


 短い言葉を合図に、モブ精霊は不規則な動きを繰り返しながらレーヴェに向かった。


「……魔術……? いや、魔力の流れを感じられない。何か別の術か?」


 訝しむレーヴェだが、それでも先ほどと同様に回避行動など一切取らず、真正面から〈ライトニング・フライジャル〉に接敵する。


 瞬間、超高圧の電流を帯びた俺のモブ精霊が、奴の黒い生命気(オーラ)に飲み込まれていった。


「……」


 やっぱりね!

 漆黒騎士は、ブリエンセニア五大騎士の一角だ!

 不死鳥騎士もそうだったけど、絶対に特殊な生命気(オーラ)を持っていると思ってたよ!


「むんっ!!!」


 レーヴェは俺に肉薄すると、先ほどよりも格段に強い斬撃を、横なぎに放ってきた。

 その刃は漆黒の生命気(オーラ)を渦巻かせ、俺の胴を分断しようとする。


「暗殺スキル、〈回避流麗アヴォイダンス・フルーテントゥリー〉」


 ところがその攻撃は空振りに終わった。


「ぬっ!!?」


 レーヴェは驚愕する。


 俺とピアは既にその場から退避しており、一瞬で十メートルほど離れた場所に身を移していた。


「どうやった……」


 もちろんピアの暗殺スキルを使ったんだよ。

 だけどこのスキルはクールタイムが長いから、連続使用は出来ないけどな。


「……」


 ……それにしても、気になる事があるぞ……


「レーヴェ。一つ聞きたい」

「なんだ」

「この前、俺たちと戦った漆黒騎士のライオネルは、何でその黒い生命気(オーラ)を出さなかった。〈ライトニング・フライジャル〉を無力化するほどの強力な生命気(オーラ)なのに、あいつは超闘気リィンフォース・オーラしか出していなかったぞ」


 それに答えたのはチャーチであった。


「あなたは知らないのですか。その黒い生命気(オーラ)漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラを扱えるのは、ヘルムーツェン団長とレーヴェさんだけなのですよ」


 だからか。


 今は降格されているが、以前のレーヴェは副団長だった。 

 どうして農民出身のあいつが漆黒騎士の副団長になれたのか分からなかったけど、実力でもぎ取ったんだな。


 しかし漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラって……名前なげえな!


「他の漆黒騎士の方々にもその素質はあるらしいのですが、なかなか発現できないと聞いています……でしょ? レーヴェさん」


 話を振られたレーヴェは興味がないのか現状に集中する。


「お喋りはそこまでだ。次はお前たちも仕掛けろ」

「そうですね……今の競り合いを見て分かりました。私たちも参戦しましょう」


 チャーチは肩を窄めて了承すると、傭兵たちに指示を飛ばした。


「あなたたちでは足手まといになります。その場の警戒だけにとどめてください。あとは私たち兄弟で対処します」


 そこでガインツ兄弟の次兄、肥満のバブリーが口を開く。


「兄貴、いつものやつか?」

「もちろんです。頼みますよ、弟たち」

「任せろ兄貴。トールも準備はいいな?」


 高身長の男、末弟のトールも元気よく言葉を返した。


「チャーチ兄ちゃん、バブリー兄ちゃん、何時でもいいぜ!」


 戦闘態勢に入った兄弟たちを見て、チャーチは口元を緩める。

 

「レーヴェさん。私がお嬢さんを抑え込むので、あなたはトモカズさんを始末してください」

「分かった」


 言葉を終えたと同時に、レーヴェは掛け声もなく走り出した。

 その後を、小男のチャーチが両手に剣を持ち、身を低くしながら追随してくる。


「来やがったな、〈反響蜻蛉レゾナンス・ドラゴンフライ〉!」


 俺は透かさずモブ精霊を召喚した。

 それは大きな蜻蛉であり、四枚の翅から大音響を発してレーヴェに突撃していく。


「何ですかあれは!? 鼓膜が破れそうだ!!!」

「狼狽えるなチャーチ! 走り続けろ!」


 レーヴェは足を止める事なく蜻蛉に体当たりをかました。

 直後、モブ精霊が黒い生命気(オーラ)に飲み込まれていく。


「さすがは漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラ! お見事です!」


 やっぱり効かねえ!!!


 俺が驚愕していると、それを隙と見たのかレーヴェが高々と跳躍した。

 そして黒く禍々しい剣を上段に構え、空中から斬撃を放とうとする。


「その態勢では回避不可能です」


 レーヴェを迎え撃つため、ピアがスキルの発動態勢に移った。

 

「させませんよ!」


 側面から滑りこんできたチャーチがピアに斬撃を浴びせる。


「くっ!」


 彼女は咄嗟に短剣を向けてその攻撃を捌いた。

 

「まだです!」


 しかしチャーチは左右の剣を巧みに操り、ピアに間断なく連撃を見舞ってスキル発動の時間を与えない。


「もらった!」


 そこでレーヴェが俺を一刀両断にしようと頭上から迫って来た。


「当たるかよ!」


 俺は体を半身にさせて擦れ擦れの位置で躱す。


 だが避けたのは剣身だけで、刃に纏わりついている黒い生命気(オーラ)が俺と諸に接触した。


「なっ!?」


 するとどう言う訳か、体から力が抜け落ちていく。


「少しは効いたようだな」


 俺の僅かな変化をレーヴェが見逃す筈も無く、好機と見るや騎士剣を縦横無尽に振るい一気に攻め立ててきた。


「手加減なしかよ!」


 レーヴェのやつ、本気を出してきやがった!


「……」


 だが、それよりも今のは何だ!? 

 生命気(オーラ)に触れたら力が抜けたぞ!?


 吸収(アブソープション)効果か!?

 〈ライトニング・フライジャル〉や〈反響蜻蛉レゾナンス・ドラゴンフライ〉もあれで弱体化されたのか!?


「……」


 でもおかしい。

 俺の耐性は全てが最高値だ。

 無論、吸収(アブソープション)耐性もその例に漏れない。

 

 ……なんで効いた……?


「貴様は何かしらの耐性効果を持っているようだな」


 レーヴェが俺を値踏みする。


「しかしトモカズ。それは私の生命気(オーラ)の前では無意味だ。なぜなら漆黒超闘気ダークネス・リィンフォース・オーラはすべてのエネルギー体か、それに属するものを奪い取ることが可能だからだ」


 ……エネルギー体に属するもの……

 よく分らんが、耐性ごと吸収したってこと……?


「……」


 はい、ここにもチートを持つ人がいました!


「どうした! 回避一辺倒では、体力が奪われるだけだぞ!」


 俺は身を捩らせ無理やりレーヴェの攻撃を避ける。

 それでも生命気(オーラ)の余波が体に触れ、力を消失させていった。


 なんだよ! 地味に体力を奪ってるよ!


「……」


 だがなあ、俺の体力値は馬鹿げた高さだ。

 このペースだと、全部削り取るまでにどれだけの時間が掛かると思う?

 お前の方が先にへばるのは間違いないぞ。


 と言いたいところだが、早くセラーラを助けたいから、ここいらで攻撃に転じさせてもらおう。


 俺は在庫目録(インベントリ)からある武器を探し始めた。


「!!?」


 不意に殺気を感じる。

 それはただの殺気ではなく、相手に悟らせまいと押し留めているようであったが、俺にはハッキリと認識できた。


「あれか!?」


 殺気はタケノコほどの水晶(クオーツ)から齎されており、表面にはバブリーの姿が映っている。


「奴は何処だ!!?」


 俺は咄嗟に辺りを見回しバブリーを探した。

 しかしその姿はどこにも見当たらない。


「よそ見をしている暇があるのか!?」


 レーヴェがしつこく攻撃してくる。


「くっ! 鬱陶しい!!!」


 だがあのデブの方が気になる!

 姿だけが水晶に映っている!

 でも本人は何処にも居ない!

 絶対に何かあるぞ!!!


 刹那、水晶(クオーツ)がピアに向かって光を放った。


「やっぱりな!!!」


 俺は身を挺して彼女を庇う。


「旦那様!!?」


 その瞬間、俺たちの背後を光が通り過ぎ、そのまま別の水晶(クオーツ)に着地した。


「なっ!!?」


 俺は目を剥き仰天する。

 なぜなら服の後背部が大きく切り裂かれていたからだ。






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