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49.帰って来たけど直ぐに出かけます

 俺とフレイは歪曲門(ワープ・ゲート)の前に立っていた。


「本当に行ってしまうのか……? せめて一晩だけでも……」


 チェームシェイスが未練がましく引き留める。


「お前も見ていただろう、ユージスのあの姿を」

「う、うむ……」


 俺たちがオルステンから出立する直前、ユージスはフレイの件で嘆願してきた。

 しかも泣きながらしがみ付き、まるで地獄の亡者のように。

 お陰で俺の服は、あいつの涙と涎と鼻水でべちょべちょになったよ……


「ユージスが待っているんだ。早くフレイに会わせてやるのが人情ってもんだろ」

「……そ、そうだの……あ奴は役に立っておるからの……仕方あるまい……」


 チェームシェイスの表情は晴れなかったが、何とか了承してくれた。


「それで我が君よ。イングリッドとアクセルは生贄の塔に閉じ込めておるが、始末するか?」


 そういや生け捕りにしてるんだっけ。

 ……エルテやチェームが暴走したから、そっちに注意が向いて他の事まで気が回んねえ……


 ていうか、イングリッドを殺しちゃだめだ!


 フェルゾメール家の当主スパリアロは彼女を溺愛しているらしい。

 殺したら絶対に報復に打って出るぞ。


 ……逆に生きたまま返したら許してくれるかも……


「イングリッドはそのまま塔に閉じ込めておくんだ」


 そこでティンクファーニが不安そうに言葉をかけてきた。


「トモカズ、私はどうすればいいの?」

「お前はここにいろ。落ち着いたら国に帰してやる。何ならエルテの店に呼んでもいいが、ちょっとバタつくと思うから、しばらくはチェームの下で大人しくしてるんだ」

「わ、分かったわ」


 さてと、後はチェームに一言いっておくか。


「それとチェーム。有事の際にはレンドン城を放棄しても構わない。大した要衝ではないからな」

「うむ。我が居る限りそのようなことはないがの。だが我が君がそう言うのであれば従おう」


 チェームシェイスは了承する。


 俺にとってレンドン城は無用の城。

 ここはイングリッドの娯楽のための避暑地であり、然したる重要性も見当たらない。

 そんな場所に固執しすぎて、俺の乙女精霊に危険が及ぶ方が問題だ。


 まあ、歪曲門(ワープ・ゲート)も繋がってるし、そこまで心配する必要はないか。

 俺の目も行き届くから、暴走も阻止できるしね。


「……」


 言うべき事はこれくらいかな?

 もうないよね。


「ではチェーム、あとは頼んだ」

「任されよ」


 別れの言葉を済ませた俺は、フレイの手を握る。


「行くぞ」

「は、はい」


 俺はそっと鏡に触れた。

 すると鏡面に波紋が立ち、俺とフレイは鏡に吸い込まれていく。


「な、なんなの? どうなってんの?」

「……嗚呼……我が君よ……」


 ティンクファーニは驚愕し、チェームシェイスは名残惜しそうに鏡へ消えていく俺たちを見送っていた。






「……こ、ここは……?」

「俺の部屋だよ」


 俺とフレイは一瞬でオルステンにあるエルテの店へと戻って来た。

 背後の壁には親機の歪曲門(ワープ・ゲート)が掛けられてある。


 この鏡から出てきたんだよね。


 うん、これは便利だ。

 乙女精霊サーガでは、頻繁に使う狩場などに設置して、そこまでの移動時間を短縮させるアイテムなんだが、リアルでやると予想以上に勝手が良い。

 これからも要所が出来たら設置していこう。


「さあ、こっちだ」


 不思議そうに辺りを見回すフレイを連れて、俺はリビングに向かった。


「ご、ご主人様……?」


 廊下でアプリコットとばったり出くわす。


「ご主人様ー!」


 彼女が俺の胸に飛び込んできた。

 俺はやさしく抱き留めてやる。


「ちょうど今戻ったところだ。店には誰がいる?」

「私とパーシーお姉ちゃんだけです! ピアお姉ちゃんは情報収集に行っています! セラーラお姉ちゃんは出掛けています!」


 なに?

 セラーラが外出?


 あいつは指名手配を受けているから外に出る訳がない。

 何か深刻な問題でも起こったのか?

 

 ……いや、アプリコットの元気な姿を見れば、そう言う訳ではなさそうだ……


「分かった。パーシーをリビングに呼んできてくれ」

「はい!」


 元気よく答えたアプリコットはパーシヴァリーを呼びに走り出す。


「フレイ、付いて来い」

「は、はい」


 俺たちも急ぎリビングへと足を運んだ。






 ソファーに座る俺の前では二人の乙女精霊が片膝を着いていた。


「マスター。良く戻って来てくれた」

「ご主人様、会いたかったです!」


 二人は俺との再会を喜んでいる。

 

「お前たちも元気そうで何よりだ。さあ、いつまでも跪いてないで座ってくれ」


 促された二人は笑顔でソファーに座った。


 とそこで、ピアが姿を現す。


「旦那様!? お帰りなられたのですか! ご無事で何よりです!」


 彼女は傍まで駆け寄ると、潤んだ瞳で俺を見上げた。


「情報収集に行ってたんだってな。ご苦労だった。これから二人に話をするところだ。帰って来たばかりで悪いんだが、お前にも話を聞いて欲しい」

「もちろんです旦那様!」


 ピアもパーシヴァリーたちと同じようにソファーへと腰を掛けた。


「俺が居ない間、皆には心労を掛けさせた」

「私たちはマスターの命で留守をしていた。心労どころかこれ以上のない幸せなのだ」

「そうです旦那様。旦那様の命令を遂行できる以上の幸福が何処にありましょうか」

「私たちはご主人様の為なら何でもします!」


 ……凄い慕われようだよ……


「ま、まあ、お前たちが元気で安心したよ……」


 俺は一間置いて、仕切り直す。


「それで、だ。取り敢えずは目的が達成できた。こちらがユージスの嫁さんのフレイだ」


 その言葉に乙女精霊たちの視線が俺の隣に座る女性へと集中した。


「……は、始めまして……フレイと申します……トモカズ様、チェームシェイス様、エルテ様に助けていただきとても感謝しております……」


 緊張するフレイにピアの優しい言葉が掛けられる。


「フレイさん。旦那様のお話が終わり次第、直ぐにユージスさんの下へ送り届けてあげます。ですから少しだけお待ちくださいませ」

「わ、私は大丈夫です、いくらでも待ちます!」


 フレイ。お前の気持ちは分かるぞ。

 ピアのような美少女に気を遣わせてしまったら畏まるのも当然だ。

  

「気楽に待ってろ。すぐ終わる」

「は、はい」


 俺は乙女精霊たちを一瞥し、彼女たちも応えるかのように真摯な瞳で見つめ返してきた。


 うんうん。

 久しく会ってなかったからな。

 お前たちの可愛い顔を見れて幸せだよ。


「さて、成果を話す」


 三人は姿勢を正して俺の言葉に耳を傾けた。

 

「見ての通り、フレイは無事に救出できた。それとだな、レンドン城を制圧して、イングリッドとそのお付きの騎士を捕えた。以上だ」


 手短すぎたかな?


「レ、レンドン城を制圧……?」


 パーシヴァリーが驚いて尊敬の眼差しを向けてきた。


「……さすがは旦那様……一つの城を落とされるとは……」


 ピアは顔を赤らめて陶然としている。


「ご主人様……やっぱり私のご主人様です……」


 アプリコットの言葉はまったく意味が見えない。


「凄いぞマスター……こんな短期間で制圧するとは見事なり」


 いやいや、エルテとチェームが、(おも)にチェームがやった事です……


 それに俺は制圧なんてしたくなかったんだよ。

 密かにフレイを助けて終わりのはずだったのに、なんなんだよこの結果は……

 おかげで三公貴族の一つ、フェルゾメール家が敵になるのは避けられねえ……


 しかもこいつらまで喜んでやがる。


 ……まあ、予想は付いてたけどね……


「……取り敢えず首尾は上々だ。今はチェームとエルテが向こうに残って戦後処理に当たっている。それにこの店とレンドン城を歪曲門(ワープ・ゲート)で繋げたから、一瞬で行き来が可能だ」


 概要を聞いた乙女精霊たちは一様に頷く。


 それを見た俺は自身の話をここまでとし、いま一番気になっている事を尋ねた。


「セラーラの姿が見えない。何をしている?」


 透かさずピアが答える。


「セラーラさんはボンゴ村に向かわれました」

「なに?」


 ボンゴ村は、ドミナンテに制裁を受けた三つの村の内の一つだ。

 この村は、一番最後に制裁を受けている。

 なので俺たちの人手不足もあってか護衛は付けておらず、物資を送るだけに留めいた。


 だが、そろそろドミナンテが怪しむ頃だ。

 なかなか滅びないボンゴ村に、いつ何時、兵を差し向けて来るか分かったもんじゃない。

 

「何でそんなところへ行ったんだ?」

「ガインツ兄弟を排除する、その計画の前段階の為です」


 あれか!

 俺がオルステンから出立する前にセラーラが言っていたあの計画か!

 まだ完成していないからと詳しく教えてくれなかった!


「詳細を話せ」

「はい」


 ピアは説明を始めた。


「今現在、領主に制裁を加えられている村は三つです。アルタ村にトーゲ村にボンゴ村。アルタ村とトーゲ村は、それぞれフロスコさんとミスティスさんが冒険者たちを率いて守りについております。あの方たちは、村を襲撃する兵や傭兵たちを見事に撃退しており、旦那様の期待に応えております」


 やるな、フロスコにミスティス。

 流石は【白鷹】のパーティーメンバーだけはある。


「ですが、ボンゴ村は誰も守りに付いておりません。理由は人員が足りないからです」


 それは俺も危惧している。


「ですので、わたくしたちは一計を講じました」


 例の計画とやらか。


「先ずは、セラーラさんがボンゴ村に向かいます。そこで村人たちに村を放棄させます」


 え?


「人員が足りない今、領主が攻めてきたらボンゴ村は守り切れません。ですから商人たちに命じて山奥に避難所を作らせました。しばらくの間はそこで生活していただきます」


 なんかいきなり凄い事になって来たぞ。


「既に村人の避難は完了しているはずです。これが前段階です」


 やることが早いな……俺の帰還を待てなかったのかよ。

 て、そんな悠長にしてたらボンゴ村が滅ぼされる可能性もあるか……


「そして、それらに先行して噂を流しておりました。セラーラさんがボンゴ村に滞在しているという噂です。例え不確定な情報でも、お尋ね者のセラーラさんがボンゴ村に居ると聞けば、ドミナンテも無視はできません」


 なるほど。

 敵を釣って叩くわけだな。

 領主側の戦力が削れるし、ドミナンテが釣れたら最高だ。


「ボンゴ村に指定したのも、彼の村が手薄だった理由からです。ここで敵を迎え撃つことで、アルタ村とトーゲ村の人員を割かずに済みますし、フロスコさんたちが村の守りに集中できます。加えて言えば、ボンゴ村に派遣される敵は、予想通りガインツ兄弟でした。彼らが相手だと、冒険者たちでは力不足です。ですからわたくしたちが排除する予定です」


 ……流石だ。

 一石二鳥どころか三鳥も四鳥もいってるよ。


 俺が感心していると、ピアの顔に陰りが見えた。


「どうしたピア」

「ここまでは予定どうりでした。ですが今日の諜報で、予想外な事態が発覚いたしました」


 今日の諜報っていう事は、さっきピアが帰って来たばかりだから、今まさに仕入れてきた新鮮なネタって訳か。


「言ってみろ」

「はい旦那様。先日のことですが、ガインツ兄弟がボンゴ村に派遣される情報を掴んだわたくしは、彼らの行動予定を事細かく調べておりました。当時のガインツ兄弟は、別件でオルステンから離れており、一旦オルステンに戻ったあと、補給をしてボンゴ村に向かう予定だったのです」


 装備とか整えるんだろうな。

 セラーラを倒す気満々だよ。


「ですが、それは偽の情報でした」


 ……なんだと……?


「先ほどわたくしが入手した情報では、ガインツ兄弟は既にボンゴ村へと出立していたのです」


 その事実にパーシヴァリーとアプリコットが焦り出す。


「それはまずい! まだ奴らを迎え撃つ準備が出来ていないのだ!」

「セラーラお姉ちゃん一人では危険です!」

 

 おーい。

 いきなりヤバい状況に陥ったんですけど。


「領主側は、ガインツ兄弟の行動を情報操作しておりました」


 やってくれるぜドミナンテ……


「申し訳ございません旦那様。これらはすべて、見抜けなかったわたくしの責任です」


 いや、ピアはよく頑張ってくれた。

 むしろ真実を掴んでくれたのだから、上出来だ。

 

「実を言うと、このあとわたくし一人でボンゴ村に向かうつもりでした。パーシーさんはスキルの関係上、オルステンから動けません。アプリコットさんも商人ギルドに所属しているため、この地を離れれば怪しまれます。適任はわたくししかおりません」


 確かにな。

 今の現状では、ピアしか自由に動けない。


「状況は分かった。ピア、ボンゴ村の場所は分かるな?」

「はい」


 セラーラの危機だ。

 早急に動かねば。

 

 しかし不幸中の幸いだ。

 俺が居なかったら、ピアを一人で向かわせているところだった。

 ちょうど良いタイミングで帰って来たよ。

 

「いいかお前たち、俺の言葉をよく聞くんだ」


 俺は緊張感をもって三人の乙女精霊に視線を流した。

 彼女たちは真剣な表情をしており、俺の言葉を待ち望んでいる。

 

「セラーラを助けるため、俺はピアと共にボンゴ村へ向かう。異論はないな」

「当たり前なのだ、マスター」

「勿論でございます、旦那様」

「ご主人様に従います!」


 緊急事態だからか、誰もが以前の様に俺を止めたりはしない。


「パーシヴァリーはここで待機。不測の事態に備えろ」

「了解した、マスター」

「アプリコットはフレイをユージスの店まで送ってやれ。その後はパーシヴァリーの指示に従うんだ」

「はい、ご主人様!」


 三人の歯切れ良い返事を聞いた俺は、勢いよくソファーから立ちあがる。

 それに倣い、乙女精霊たちも起立して、フレイも慌てながら腰を上げた。


「パーシヴァリー、アプリコット。後の事は頼んだ」

「了解したマスター。くれぐれも気を付けるのだ」

「ご主人様、ピアお姉ちゃん、頑張ってください!」


 二人に続き、フレイも見送りの言葉を掛ける。


「……トモカズ様にピア様……どうかお気をつけて……」

「ああ、直ぐに終わらせてくる」

「お任せください」


 斯くして俺とピアは、三人に見送られながらボンゴ村へと急行した。


  ……休む暇もねえな……






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