48.思い描いていた結果と違いました
「と、言うのが今までの経緯よな」
俺は城の中の豪華な一室で、チェームシェイスから報告を受けていた。
隣にはティンクファーニが座っており、蒼褪めた様子で話を聞いている。
「すべては我が君の狙い通りに事が運んだ。今回の計画も素晴らしいの一言に尽きるぞ……」
彼女の恍惚とした瞳を向けられる俺は、空いた口が塞がらなかった。
「……」
全然、狙い通りじゃねえよ!!!
確かに俺は言った! 合図を待てと!
でもね!
なんで攻撃するの!!?
どうやったらそう解釈できるの!!?
俺の意図なんてどこにも反映されてねえぞ!!!
「……」
……しかも堂々と征服してるし……
これはどう頑張っても隠しようがねえ。
国中に知れ渡るのは時間の問題だ……
そうなったらフェルゾメールを敵に回しちまう……ていうか、もう決定事項の様なものだ……
「……」
オルストリッチの外にも敵を作ってしまった……
二つの大貴族を相手にどう立ち向かえばいいんだよ……
「……」
あとあれだよ、あれ……内外からの同時攻撃……?
それを今から食らうのは俺なんですけど!!!
内にはヴァンヘイム家、外にはフェルゾメール家、見事に挟まれてますよね!!!
しかも首謀者が俺だし!!!
捕まったら真っ先に処刑される立ち場だからね!!!
……いや、よくよく考えてみれば、内外からの同時攻撃どころじゃないぞ。
変な方向に事が運んだら、反乱軍と見做されて国中の貴族から総攻撃されるんじゃねえのか?
まあ、もう反乱軍みたいなものだけど……
「……」
……なんか疲れた……
「我が君よ……顔色が悪いがどうかしたのか……?」
……どうしたもこうしたもねえよ……
この追い詰められ感、リーマン時代を遥かに凌駕しているぞ……
俺の心痛がとんでもない事になってるの分かってる?
心臓を思いっきり握られた感じなんだよ!
しかもさっきから蟀谷辺りが痛いし胃もキリキリするし……
これって絶対ストレスから来てるよね!!!
そのうち円形脱毛症になるって!!!
「……」
……いかん……血圧が上がる……別の事を考えるんだ……そうだ、別の事だ……
「……」
……よし、少しは落ち着いてきた……
「……エルテはどうしてるんだ……?」
……ん……?
……待てよ……エルテが塔に籠城していて、チェームが一人で城を制圧した。
こいつは〈枯骨の軍勢〉を使って城から一人も逃がしていないと言っていた。
そこで俺に天啓が降りる。
そうだ! 今から緘口令を敷けばいいんだ!
チェームがレンドン城を落とした事実は、今はまだ外には漏れていないはずだ!
これを隠し通せば何の問題もないはず!
よし、偽装しまくってやる!!!
しかし俺の考えは、早くも陰りが見え始めた。
「エルテは近隣の村で浚われた者たちを送り届けておる。無論、その者たちには強く言っておるから、我が君の評判が上がることは間違いないぞ」
……俺の評判が上がる……?
「……」
……嫌な予感しかしねえ……
「……な、何を強く言ったんだ……?」
「我が君がイングリッドを倒し、この地に平穏を齎した事ぞ」
え゛。
「あ奴らは、自分たちが助かったのは我が君のお陰だと触れ回ってくれる。うむ、また我が君の素晴らしさが世間に知れ渡るぞ」
そうだね。
俺の好感度が上がるね。
「……」
何なんだあああああああああああああああああああああああ!!!
悉く俺の案を打ち砕いて来やがる!!!
「遠方から連れてこられた生贄の者は保護しておる。そのうち折りを見て順に帰してやる予定だ。当然、そやつらも我が君の偉業を喧伝してくれることだろう」
「……」
……もう何も言う事はねえよ……
……チェームやエルテが無事だったから、それで良しとしとこう……
「……」
……そういや俺って何でここに来たんだっけ……?
「そうだフレイだ! フレイはどうしてる!?」
危うく忘れるところだった!
肝心のフレイは無事なのか!?
「フレイならそこにおる」
そう言うと、チェームシェイスは扉に向かって言葉を掛けた。
「我が君の許しが出た。入ってくるのだ」
骸骨騎士に連れられて、怖じ怖じと入室してきたのは年若く美しい女性であった。
思ったよりも血色が良いな。
この分だと怪我とかはなさそうだ。
それにけっこうな美人じゃないか。
まあ、俺の乙女精霊たちには及ばないけどね。
「あんたがフレイか」
彼女は俯きながらも視線を俺に向け、恐る恐る口を開いた。
「……は、はい……と、トモカズ様……こ、この度は助けて頂き……あ、有難うございました……」
うん、完全に脅えています。
そりゃそうだわな。
今この城の警護を務めているのは骸骨騎士だもんな。
その骸骨騎士の主人がチェームシェイスで、俺はその上の立場だし。
「そんなに恐縮するな。俺はユージスの親友だ。あいつの頼みを受けて、あんたを助けに来た」
「えっ? 今何とおっしゃいました?」
ユージスと聞いて、フレイは顔を上げると俺の目を直視した。
「俺はユージスの嫁さんのあんたを助けに来たんだよ」
「彼は、ユージスは生きているのですか!?」
そうか。フレイはユージスが返り咲いた事を知らないんだっけ。
「あいつは再起を果たした。今では商人ギルド委員の一人だ」
「ほ、本当なのですか……?」
「もちろん」
俺の言葉にフレイは涙を流して膝から崩れ落ちた。
「……良かった……ユージスが生きててくれた……」
うんうん、お涙ちょうだいってやつだね。
「フレイを別室で休ませてやれ。監禁生活も長かったからな」
チェームシェイスは頷くと、骸骨騎士に命令する。
「フレイを丁重に案内するのだ」
その命に従い骸骨騎士が紳士のようにそっと手を伸ばした。
「……トモカズ様……このご恩は一生忘れません……」
フレイはもう骸骨騎士に脅えてはおらず、その手を握って何度もお礼を言いながら、異形の騎士と共に退室していく。
すげえな、あの骸骨。
顔は髑髏なんだが、柔らかい笑みを浮かべているように見えたぞ。
雰囲気がそうさせているのか?
だからフレイも心を開いてビビらなかったのか?
「……トモカズ……トモカズ……」
無駄な事を考えていると、ティンクファーニが俺の脇腹を肘で小突いてきた。
そうだった。忘れてた。
「チェーム。こいつの首輪を外してやって欲しい。できるな?」
「……我が君よ、その者は誰なのだ……? やけに馴れ馴れしいが……しかも当然のように我が君の隣に座っておる……」
そこで初めてチェームシェイスはエルフの少女に言及してきた。
今までそれに触れなかったのは、たぶん俺が言い出すまで待ってたんだろう。
そしてこいつは間違いなくティンクファーニに敵意を向けている。
だって凄い殺気なんだもん!
その殺意を向けられた当の本人なんて、恐怖のあまり歯をガチガチ鳴らしてるよ……
「待て! こいつは命の恩人だ!」
「……命の恩人とな……?」
「俺が森で迷子になっているところを助けてくれたんだ。ついでにレンドン城まで案内してくれた」
チェームシェイスは顎に人差し指を当て、可愛らしく考え込んだ。
「……なるほどの……そう言えば、エルフの少女が逃げ出したと聞いていたが、おぬしがそうか?」
「ハイ! 私です!!!」
……ティンクファーニ……凄い背筋がまっすぐだね。
「そうか、おぬしが、か。我が君の手助けをしたとなれば、礼をせねばなるまい。あとで首輪を外してやろう」
「ありがとうごさいます!!!」
……こいつは間違いなく長いものに巻かれるタイプだな……
「……で、我が君よ……昨日と今日はさぞ疲れたであろう……ゆっくりとしていってくれ……」
チェームシェイスの頬が桜色に染まっていく。
「……エルテも当分の間は戻って来ぬ……フフフ。誰も邪魔する者はいない……」
その瞳は潤んでおり、何かを妄想しているようであった。
「……遂にこの日がやって来た……今宵、我は我が君と一つになるのだ……」
俺はふと思う。
乙女精霊たちの性格、能力、ビジュアルは全て俺が手掛けた。
しかしこの世界に来てからというもの、どうしても分からない彼女たちの一面があったのだ。
極稀にではあるが、妄想に耽る事だ。
そんな設定など一つも加えていないのだが、人間味が出ているので今まで放置していた。
そしてこれからもそのつもりだ。
「さてと、フレイを助けた事だし、今回の件はこれで終わりだな」
俺は空想に酔いしれるチェームシェイスを置いといて、在庫目録から一つのアイテムを取り出した。
「……えっ、わ、我が君!!?」
チェームシェイスはそのアイテムを見て我へと返る。
しかも何故だか分からないが、彼女は頬を引き攣らせていた。
「これからレンドン城とエルテの店を繋げる」
俺が持っているのは、楕円形をした等身大の鏡だ。
その名も歪曲門
ちょっと古臭い名前だが、非常に役立つアイテムだ。
この鏡を設置しておけば、予め設置してあるもう一方の歪曲門に一瞬で移動できる。
無論、この世界での拠点はエルテの店に決めており、そこには親機となる歪曲門を設置してある。
レンドン城に据え付けるのは子機と言う訳だ。
だがこの歪曲門。数に限りがあるから、所かまわず設置していれば直ぐに在庫が切れてしまう。
なので俺は、要所と思う地点にしか取り付けない事にしていた。
それと当然、ガチャ課金のアイテムです。
「俺はフレイを連れて一旦戻るから、エルテと共に後の処理を頼む」
「いや、我が君よ。もう少しゆっくりしていってはどうか?」
チェームシェイスは慌てて俺を引き留める。
「そうしたいところだが、セラーラたちが心配だ。それに早くユージスとフレイを引き合わせてやりたい」
「……いや……でも……しかしだぞ……」
「チェーム。歪曲門があれば、好きな時に一瞬で行き来ができる。お前も一段落着いたら戻ってこい」
「……う、うむ……」
チェームシェイスは渋々ながらも俺の言葉に従うのであった。




