表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/279

44.少女二人の経緯2

 明け方ごろ。

 美少女二人はピリピリとする空気を感じ取った。


「何だろう」


 エルテが封鎖された窓の隙間から城の方を覗く。

 するとそこらかしこで多くの騎士や兵士が右往左往していた。


「まだ夜も明けていないのに、どうしたんだろう」

「見張りの者にでも聞いてみるのがよかろう」


 不審に思った二人は扉の方へと向かい、看守を呼んだ。


「看守さん、看守さん」


 ドアに付けられた小窓が開き、髭で覆われた中年男性の顔が現れる。


「なんだ、こんな時間に……」

「すみません……でも気になって……何かあったのですか?」

「……」


 看守は少しばかり逡巡すると、二人の美しさに魅かれて口を開いた。


「あんまり生贄と話すなって言われてるんだが、まあいいか。こんな別嬪さんと喋る機会なんてないからな」

「ありがとうございます」

「お願いします」


 満面の笑みでお礼を言われ、鼻の下を伸ばした看守は揚々と話し始める。


「テオドニス様が殺されたんだよ」


 その名を聞いて、エルテとチェームシェイスは思い返した。

 確かアクセルと一緒にいた男がテオドニスと呼ばれていたことを。


「昨日の話だがよ、生贄のエルフが逃げ出したんだ。そいつはエルフの姫様でな。結構な重要人物だからと不死鳥騎士のテオドニス様が捕まえに行ったんだよ。そこでだ。何でもエルフの兵士とやらが出てきてテオドニス様を倒したらしい」


 五大騎士団の一角である不死鳥騎士が倒されたと聞いて、二人はエルフの兵士が手練れだと感じた。


「それとだな、お前らも知ってると思うが今話題のお尋ね者のトモカズ。そいつもその場にいてよ。エルフの兵士に殺されたって話だ」

「えっ!!?」


 エルテが驚きの声を上げる。


「な、なんだ? どうした?」

「い、いえ。貴重なお話、ありがとうございました……ダンディーな看守さん」

「そ、そうか? 俺ってダンディーなのか……ま、また何かあったら教えてやるよ」


 看守は照れながらも名残り惜しそうに小窓を閉めた。


 それを確認した二人は扉から離れる。

 否や、エルテが声を荒げた。         


「大変だよ!!! 師匠が! 師匠がっ!!!」


 激しく動揺を見せるエルテだが、チェームシェイスはなぜか口元を緩めていた。


「何がおかしいの!? 師匠がやられたかもしれないんだよ!!!」

「エルテよ、落ち着くのだ」

「落ち着くだって!!? そんなこと言ってる場合じゃないよ!!! 直ぐにでも師匠の所に行かなくっちゃ!!!」

「まったくおぬしは……少しは物事を冷静に考えられぬか。我が君がそう簡単に倒されるとでも思っておるのか?」

「あっ……」


 その言葉でエルテは我へと返る。


「そ、そうだよね……師匠がやられるわけないよね……」


 落ち着きを取り戻した彼女に、チェームシェイスはやれやれと言った様子で言葉を紡いだ。


「よく聞くのだエルテよ。我が君が、我らと別れる際に何と言ったか覚えておるか?」

「……『後からレンドン城に忍び込む』……だよね……」

「違う違う、その後よな」


 エルテは記憶を呼び起こさせる。


「……『合図も無しに勝手な行動は取るな』、かな……?」

「うむ、その通り。そして今まさにその合図が送られてきたのだ。だからこそ、今が行動の時」

「……?」


 首を傾げるエルテにチェームシェイスは説明した。


「我が君は、テオドニスが死んだ事実を意図的にイングリッドたちの耳へ入るよう仕向けた。それは我らにも伝わると見越してな……これが合図よ」

「……何の合図……?」

「攻撃を開始せよ、との合図」

「そ、そうなの……?」


 未だ把握できていない様子のエルテに、チェームシェイスは砕いて話す。


「話に出たエルフの兵士、それは恐らくは我が君……よってテオドニスを倒したのは我が君に他ならぬ」

「えっ? そうなの?」


 エルテの目が大きく見開かれた。


「でも、どうしてエルフの兵士になんか変装したの?」

「イングリッドたちの注意を引くため」

「注意を引く?」

「うむ。エルフの姫を助けに来る者が、一人だけだと思うか?」

 

 その言葉にエルテは気付く。


「あ、そう言うことなんだね! たくさんいると思わせるためだね! 確かにそうだもんね! 兵士って聞いたら他にもいると思うもんね! そしたら警戒度が上がってそっちに注意が向くのは当然だよね!」


 一つの疑問が解消されたエルテは、さらなる疑問を投げかけた。


「だったらチェームちゃん、師匠が自分を死んだように見せかけた理由は?」

「我が君が儀装したエルフの兵士に、より強い関心を向けさせること。我が君はドミナンテが手を焼くほどのお尋ね者。その者を倒す人物ともなれば、イングリッドたちとて無視は出来まい。要はエルフの兵士が看過できないほど強いと相手に思わせるためだ」


 チェームシェイスは淀むことなく言葉を続ける。  


「これらの行動は全て一つの目的に繋がっていたのだ……それは内外からの同時攻撃。我が君(・・・)が外から揺さ振りをかけ、自分に注意を向けさせる。その合図で我らが内からの攻撃を開始する」

「……そ、そうだったんだ……師匠はこの同時攻撃のために動いていたんだね……」


 エルテは完全に理解した。


「うむ……我でさえも及びつかぬ神算鬼謀よ……」

「……さすがは師匠だ……」


 美少女二人はその計略に感服し、うっとりとした表情を見せる。


「……でも、どうしてその合図が攻撃の合図だって分かったの?」

「我が君の当面の目的を知っておろう」

「ヴァンヘイム一族の排除だよね」

「うむ。そこから読み解けば、自ずと我が君の真意が分かる」

「その心は?」

「フレイを助け出すと共に、ヴァンへイム一族であるイングリッドの始末」

「!!!」


 エルテは感銘を受けた。


「……やっぱ師匠はとんでもないや……素敵すぎるよ……」

「……正に最高の男……嗚呼、我が君……」


 二人はさらに心酔する。


「……チェームちゃん、そうと決まればさっさとやっつけよう!」

「急くでない。順序がある」

「順序?」

「先ずは塔にいる看守どもを皆殺しにする。すべて排除したら、エルテは塔に立て籠もるのだ。来るものは容赦なく始末せよ」

「分かったよ。で、それから?」

「我が直接レンドン城に赴きイングリッドを虜にする」


 その一点だけエルテは意を唱えた。


「接近戦の得意なボクが行った方がいいんじゃないの?」

「おぬしは商人ギルドの一員としての体裁がある。今ここで我が君と通じていることが知れ渡ると、今後の計略に支障をきたす恐れがある」

「なるほど、そう言うことなんだね」


 エルテは納得する。


「塔に立て籠って、顔がばれないように敵を倒すんだね」

「うむ。一応は布か何かで顔を隠しておくようにな」

「分かったよ」


 方向性が固まり、さっそく二人は行動に移った。


「先ずはこの鬱陶しい首輪を取り除くとしよう」


 チェームシェイスは首輪に手を当て原理を解き明かす。


「……ふむ、この地から齎される力で制御されているな……ならば供給を滞らせず、動力部を止めれば訳もない」


 彼女の指が素早く動いた。


――カチリ――


 機械音と共に、いとも容易く首輪が外れる。


「どれ、エルテのも外してやろう」

「いいよ、自分で外すから」


 エルテはそう言うと、首輪に手を掛け無造作に握りつぶした。


――ガァアアン――


 首輪が大爆発を起こす。

 しかしエルテには傷一つ付いておらず、彼女は何事もなかったかのように首を撫でていた。


「こそばゆいね」


 その手荒なやり方にチェームシェイスは呆れている。


「……エルテよ、おぬしはスマートに物事を進められぬのか……」

「だってこっちの方が簡単だもん」

「……まったく……大雑把な奴よな……」


 とそこで、扉についてある小窓が開いた。


「なんだ! 今の音は!?」

 

 看守が顔を覗かせたのと同時にエルテが動く。

 一足飛びで扉の前に行きつくと、その髭面に貫き手を叩き込んだ。


「ぎゃあ!」


 看守の眉間に穴が開き、悲鳴と共に背中から崩れ落ちる。


「ごめんね、ダンディーな看守さん」


 エルテはそのまま小窓に指を引っ掛けて、力任せに引き寄せた。


――べゴン――


 強大な力で内側に外れた扉は、勢いのあまり部屋の奥まで跳んでいき、激しく壁に衝突する。


 そして扉が無くなった事で、部屋の向こう側にある小規模の踊り場が見えた

 そこでは四人の男たちが丸机を囲んでカードを手にしている。


 どうやら彼らはカードゲームに興じていたらしく、皆が手を止め茫然とした表情で、部屋の中の美少女二人を眺めていた。


「この人たち、仕事もせずに遊んでるよ」

「仕方ないのう。我が二度と働かずに済むよう引導を渡してやろう」


 チェームシェイスはそう言うと、自分の前面に魔法陣を展開させる。


「魔法スキル、〈氷礫機銃アイシクル・ガトリング〉」


 魔法陣が回転を始め、先の尖った氷の礫が間断なく発射された。


「ぎゃっ! ぎゃっ! ぎゅぇ!」


 男たちは氷の弾丸を浴びるたびに体を跳ねらせ、為す術もなく落命していく。


「少し音を立て過ぎたか」

「でも気付かれた様子はないよ」


 踊り場の隅の方には階下へ続く階段が見える。

 しかしそこから人が現れる気配はない。


「ピアちゃんなら無音であっという間なんだろうね」

「うむ。あ奴ならば、もっと鮮やかに処理するのであろうな」


 次はなるべく音を立てないようにと二人は意識する。


「これで最上階は抑えたね。次もさっさとクリアして、生贄の子たちを助けてあげなくっちゃ」

「エルテよ。次の階を制圧しても、生贄の解放は後回しにするのだ」

「え? なんで?」

「足手まといになるからの。どうせ塔に立て籠もるのだ。解放するのはレンドン城を手中に収めてからでよい」

「そうだね、分かったよ」


 エルテとチェームシェイスは階段に視線を移し、揚々と下の階へと向かった。






 敵の排除は順調に進み、二人は次々と各階を制圧していく。

 そして然ほど時間をかける事もなく、最後の階の目前まで降りてきた。


「どうやら次が一階みたいだね」

「うむ。生贄はおらぬから、手早く片付けるぞ」


 一階は兵士や看守の詰め所になっており、二人は連れてこられた際にその事を確認していた。


「でもよお、あのテオドニス様がやられただなんて信じられねえぜ」

「ホントにな。何せ不死身の不死鳥騎士様だ。どうやって倒したのか聞きてえくれえだよ」

「俺あ、思うんだがよ。報告してきた騎士の見間違えだと思うんだわ」

「お、その線あり得るよな」

「それにだぜ。厳戒態勢を取れって言われてもよお。テオドニス様を倒した相手に攻め込まれたら一溜りもねえよ」

「ちげえねえ」


 十人ばかりの兵士たちが酒を飲みながらテオドニスの話で盛り上がっていた。 


「君たち、お喋りばっかりしてないで、仕事はちゃんとしようよ」

「しかも酒まで飲んでおる」


 不意に鈴のような美声が聞こえ、男たちは声の出処に目を向けた。

 彼等の目に入って来たのは、階段を降りてくる美少女二人。


「お、お前ら!!! 今日運ばれてきた生贄じゃねえか!!!」

「なんでここにいるんだ!!? 見張りはどうした!!!」


 全員が席を立って驚愕する。


「見張りはどうした、じゃないよ。君たちもお酒飲んでサボってたじゃない」


 エルテが何処からともなく剣を取り出した。

 それは無骨な大剣で、彼女は軽々と肩に担ぐ。


「なっ!!?」


 その様子を見た兵士たちは、少女を危険視して一斉に得物を手にした。


「遅いよ」


 エルテの声が近くで聞こえる。


「へ?」


 既に彼女は集団の中心に移動していた。


「い、いつの間に……!!!」


 そう兵士たちが驚いたのも束の間で、エルテは自分を軸にして、円を描くようにぐるりと大剣を一周させる。


 その一撃は、すべての兵士の体を分断させ、瞬く間に詰め所を血の海に変えた。


「見事な手際よのう」


 感心するチェームシェイスだが、エルテは何処か納得していない。


「……うーん……ちょっとピアちゃんを意識してやってみたんだけど、なんか違う気がする……」

「これこれエルテ。あ奴と同じようにしようとは思うな。そもそも職業(クラス)が違うではないか。ピアは暗殺者(アサッシン)で、おぬしは剣士(フェンサー)。土台が違う、土台が」

「それもそうだね」


 エルテは気を取り直すと、布で顔を覆い始めた。


「準備は万端だよ」

「では我はレンドン城を攻めに行く」

「地下通路から行くの?」

「いや、表を堂々と歩いて行く。フフフ、これであ奴らは大混乱をきたすぞ」


 チェームシェイスは楽しそうに、外へと続く扉に手を掛けた。


「ではエルテよ。行ってくるぞ」

「うん、頑張ってね」


 斯くしてエルテは生贄の塔に籠城し、チェームシェイスはレンドン城の制圧に乗り出すのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ