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43.少女二人の経緯1

 時は少し遡る。


 アクセル先導の元、エルテとチェームシェイスはレンドン城に到着した。

 門を潜って広い敷地内を進み、巨大で荘厳な扉の前へとやってくる。


「お帰りなさいませ、アクセル様!!!」


 十名ほどの使用人たちが揃って一行を出迎えた。 


「さあ二人とも。ここで降りて」


 アクセルに促され、エルテとチェームシェイスは馬車から降りる。


「ようこそレンドン城へ。さあ、中に入ろうか」

「……あの……その前に私は納入する商品の確認と説明をしたいのですが……」


 エルテは真面目に仕事を遂行しようとする。


「そんなのあいつらに任せとけばいいって」


 アクセルの言葉に使用人たちが動き出した。

 ある者は馬車の轡を手に、ある者は荷の確認を忙しなく始める。


「という訳だから、入って入って」

「……はい……」

「分かりました……」


 二人は大人しくアクセルに従った。


 豪著な扉を潜り、城の中へ足を踏み入れた少女たちはその光景に目を奪われる。

 絢爛華麗なシャンデリアが高い天井に吊るされており、来訪者に祝福の光を注いでいた。

 床は輝くばかりの大理石で敷き詰められ、通り道には精緻な刺繍が入った真っ赤なカーペットが上品に敷かれている。


「……す、凄いです……」

「私、こんな素晴らしいところで働けるのですね……」


 エルテとチェームシェイスは思わず感嘆の声を漏らした。 

 その様子にアクセルは満足し、再び案内を始める。


「こっちに来てよ」


 彼の後ろを少女たちは緊張しながら付いて歩いた。


 とそこで、赤い鎧を着た二名の騎士と鉢合わせる。


「お? アクセルじゃねえか?」


 その内の一人が言葉を投げた。

 どことなく粗暴な印象を受ける背の高い男だ。


「お前さん、テオドニスと一緒にエルフの娘を追いかけたんじゃなかったのかよ?」

「いやあ、ちょっと優先すべき事案が出来たんだよ」


 言い訳をするアクセルに、金色で髪の長い美男騎士が口を挟んだ。


「ピッチェレ。アクセルの連れている二人を見てください」

「……ん? ああ、そう言う事かよ。エルフを追跡中に例の少女たちと出くわしたから、スケベなお前さんは任務を放棄して二人を送り届けたってわけか」


 アクセルはバツが悪そうな顔をするも自身を弁護する。


「な、なんだよピッチェレ。スケベって人聞きが悪い言い方をするんじゃねえよ。それに二人をお嬢の下へ届けるのも重要な任務だぞ」

「分かった、分かった。そういう事にしといてやるよ」


 この辺で許してやろうと弄るのを止めたピッチェレは、アクセルが連れている少女二人をマジマジと見詰めた。


「しかし姿絵で見たが、それ以上の美人だな。こりゃあ、姫さん喜ぶぞ」

「そういやお嬢は何してんだ?」


 その疑問に金髪の騎士が答える。


「姫様は洗礼の入浴をしています」

「……またかよ。これじゃあ、いくら仕入れてもキリがないぜ」

 

 アクセルは肩を窄めて辟易とした。


「愚痴を言っても始まりません。姫様は美に傾倒していらっしゃるのですから」

「そうだぜアクセル。それに今の姫さんは生き生きしてるじゃねえか。好きなようにさせてやれよ」

「……しょうがねえなあ……でも、もったいねえよなあ……」


 アクセルは物欲しげな顔を美少女二人に向ける。

 

「では私たちが姫様を呼んでまいります。アクセルはそのお二人を客間に案内しておいてください」

「ああ、頼んだぜ。メルセデス」


 メルセデスと呼ばれた不死鳥騎士は、同僚のピッチェレを連れて城の奥へと姿を消した。

 アクセルも、エルテとチェームを連れて客間へと向かった。






 客間に案内された二人は忙しなく辺りに目を配らせていた。

 それもそのはず、部屋には贅の限りを尽くした調度品が飾られており、座っている椅子に至っても見事な細工が施されてあった。


「もうちょっと待っててね」


 アクセルが口を開いたところで扉がノックされる。


「イングリッド様が参られました」


 その言葉と共に扉が開き、メルセデスが入ってきた。

 そして彼は、扉を開けたまま一人の女性を招き入れる。


「どうぞ、姫様」


 静かに入って来た人物は、金髪縦ロールの身麗しい女性、イングリッド・ラ・ヴァンヘイムであった。


「……ほう……これは良いのう……」


 美少女二人を目にしたイングリッドは感嘆の声を漏らす。


「合格じゃ。この者たちを一級品と見做す」


 彼女は悍ましく嗤っており、少女二人に不気味さを与えていた。


「良いな、くれぐれもエルフの小娘のような失態を演じるでないぞ」

「分かってるって、お嬢。今度は窓なんかも封鎖しておくからさ」


 アクセルに続き、メルセデスも言葉を加える。


「姫様、ご心配には及びません。塔に新たな結界を施しましたので、蟻一匹も逃げ出すことは叶いません」

「そうか? なら良いのじゃ」


 納得したイングリッドは、エルテとチェームシェイスを舐めるように見た。


「フフフ、この者たちの血、楽しみよのう……」

「姫様、そろそろ御予定の時間です」

「そうか? ではまたの、二人とも」


 イングリッドは機嫌よく部屋から出て行った。


「良かったね。一級品だってさ」


 アクセルの声が背後から聞こえた。

 瞬間、エルテとチェームシェイスの首に首輪が付けられる。


「な、何ですか、これはっ!?」

「それは逃走防止用の首輪だよ。もし君たちがこの土地から逃げた場合、首輪が爆発するから気を付けてね」

「えっ!!?」

「なんでそんなことを!!?」


 蒼褪める二人にアクセルは揚々と答えた。


「ごめんね。君たちはお嬢の生贄なんだ」

「……生贄……?」

「お嬢は血を浴びるのが好きでさ。それも若くて美形な男女。君たちはその生贄に選ばれたのさ。だから逃げられないようにこうして首輪を嵌めたってわけ」

「そ、そんな! 」

「酷い!!! 私を家に帰してください!!!」


 二人は必死に抗議の声を上げる。


「そんなに悲観する事もないよ。君たちは一級品に選ばれたから、呼び出されるまでの間は好待遇で過ごせるよ。今までにない贅沢ができるから、その日が来るまで楽しんでよ」


 アクセルは聞く耳を持たず、目を三日月状に歪ませ嬉しそうにしていた。


「さあ、生贄の塔に行こうか」


 こうして二人は問答無用でイングリッドの生贄となった。






 生贄の塔はレンドン城の敷地内に立てられており、城から伸びた地下通路と繋がっていた。

 

 エルテとチェームシェイスはそこを通って塔内に連れて行かれ、最上階にて監禁された。

 その最上階は意外にも豪華な部屋であり、アクセルの言葉通り住むだけなら快適な毎日を送れそうである。

 しかし、いつ殺されるかも知れない生贄にとっては全く無意味であった。


「チェームちゃん。どうやらこの塔が生贄たちの監禁場所らしいね」


 最上階に続く螺旋階段を上がる最中、至る所から啜り泣きが聞こえてきた。


「うむ。ここは生贄の塔と呼ばれていたからな。間違いなかろう」

「だったらフレイちゃんもここにいる可能性が高いね。これは思ったよりも、簡単に助けられそうだね」


 目的の目星が付き、二人の心は自然と軽くなる。


「で、これからどうするの?」

「我が君はレンドン城に忍び込むと言っておった。取り敢えずはここで待機しておくのがよかろう」

「そうだね。ゆっくりと師匠を待ってようか」


 方針が決まった二人は、この快適な空間でしばしの休息を取るのであった。






 次の日の早朝。

 

 空が薄らと白み始めたころ、レンドン城のエントランス広場は騒然としていた。

 そこにはアクセルの姿があり、周りには多数の騎士が集まって皆が深刻な表情をしている。


 原因は、アクセルの前で膝まづく一人の騎士であった。

 彼はテオドニスの部下であり、上司の訃報を報せに戻って来たのだ。


「なんだなんだあ? こんな時間に呼び出すんじゃねえよ。まだ日も昇ってねえじゃねえか」


 そこで粗野な雰囲気を持つ騎士が、眼を擦りながらやって来る。


「ピッチェレ、緊急事態だ」


 アクセルの声音がいつもより真面目だった事で、ピッチェレの顔が引き締まった。


「何かあったのか? アクセル」

「テオドニスが殺された」

「なに?」


 アクセルは、驚くピッチェレから視線を外すと跪く騎士を見た。


「今、こいつから報告を受けていた」


 騎士は目配せの意図を汲み、報告を再開させる。


「……はい……仮面を被ったエルフの兵士と名乗る者が、テオドニス様を倒したのです……」

「おいおい、冗談は止してくれ」


 テオドニスは不死身の不死鳥騎士だ。

 そんな彼が負けるなど、ピッチェレは微塵も思っていなかった。


「お前さんはテオドニスがやられたところを見たのかよ?」

「……いえ……私は気を失っていましたので……」

「だったら何でテオドニスが倒されたって言えるんだ?」

「……はい……エルフの兵士がそう言っていました。事実、辺りには肉片が散らばっていて、そこは正に地獄でした……」

「……」


 アクセルとピッチェレは、本当にテオドニスが倒されたのか判断に悩んだ。

 不死身の彼が負けるはずはない。

 かと言って、現にテオドニスは戻っておらず、騎士の報告を裏付けていたからだ。


「……そこには例のお尋ね者、トモカズの死体もありました……」

「なんだと? なんでそんな奴が死んでんだ?」


 さらなる不可解な状況に、ピッチェレたちは困惑する。


「おい、順を追って話せ」

「……はい……私たちはアクセル様と別れた後、エルフの小娘を見つけました。ところがなぜか、小娘は罪人のトモカズと一緒にいたのです」

「……」


 アクセルは深く眉根を寄せた。


「……トモカズはエルフを庇い、私たちと敵対しました。なので、先ずは私を含めた騎士と魔術師、その三人で戦ったのです……が、あっという間に二人がやられ、私も気絶させられました。残るはテオドニス様ひとりだったのですが、私が目を覚ました時にはもう姿がなく、立っている者はティンクファーニと仮面をかぶったエルフの兵士、二人だけでした。そしてトモカズの死体も血の海にありました……」

「なんだよ、それ……」

「エルフの兵士は言いました……姫であるティンクファーニを助けに来たと……」

「なんだと!!?」


 ただならぬ事態に不死鳥騎士の表情が険しくなる。


「エルフの兵士はこうも言っていました。トモカズはティンクファーニに不埒な行為をしようとしたので殺したと……さらには不死鳥騎士は大したことがない、何が不死身だ、とも……」


 その言葉にピッチェレは獰猛な笑みを浮かべた。


「おいおい、おもしれえじゃねえかよ。俺が行ってくるわ」

「一人でか?」

「当たり前よ」

「待てよピッチェレ。相手はテオドニスを倒したんだぞ? それに敵の数が一人とは限らない」

「だから確かめに行くんじゃねえか」

 

 ピッチェレは自信をもって口を開く。


「それにアクセル。俺の能力を知ってんだろ? 歯向かう奴は、全員灰にしてやんよ」

「……」


 息巻く彼に、アクセルはもうピッチェレを止められないと思う一方で、こいつはエルフの兵士を皆殺しにするのだろうなと敵に同情の念を抱いた。


「分かったよ。ほどほどにしろよな」

「まあ、俺の能力は加減が難しいからなあ」


 そこでピッチェレは、あと一人の不死鳥騎士がいない事に気づく。


「そういやメルセデスの姿が見えねえが、何してんだ?」

「塔の様子を見に行くと言っていたぜ」

「そうかい。だったらお前さんたちはレンドン城を守ってろ」


 そう言うと、ピッチェレは報告に来た騎士に言葉を投げた。


「おい、お前。テオドニスがやられた場所を教えろ」

「は、はい!」


 こうしてピッチェレは、エルフの兵士討伐と、ティンクファーニ確保のためレンドン城から出立した。






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