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42.不死鳥騎士5

「何がおかしい!!!」


 俺がニヤけているのを見て、ピッチェレは激しく憤った。


「お前、自分の弱点に気付いてんだろ?」

「なに!!?」


 こいつは〈細胞興奮の御手(セル・ナース)〉の注射器を見て、テオドニスがやられた原因を看破した。

 そんな勘の良い奴が、今の言葉で俺の考えを見抜けないはずがない。


「現在のお前の不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)は燃焼の能力を発動していない。違うか?」

「なっ!!?」


 不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)はベクトルの方向によってその能力を発揮する。

 テオドニスは正のベクトルなら再生、負のベクトルなら死滅と言っていた。


 発動させたい能力を発揮するには、各々の決められたベクトルに生命気(オーラ)を向けなければならない。


 ピッチェレの場合は正のベクトルなら再生、負のベクトルなら燃焼だ。


「クソっ垂れめ!!! なんで分かった!!?」

「服の燃える勢いが衰えていたし、ズボンも燃える気配がなかったからな」


 今のピッチェレは燃焼能力を使っていない。

 いや、使えないと言った方が正しいか。


 「テオドニスの時もそうだったが、ダメージを受けた際に優先されるのは再生の能力なんだろう? これは自分の意志とは無関係に働き、強制的に発動されると見た。だから今は、燃焼能力が使えない。しかし無理にでも使ったら再生の能力が止まり、このまま俺に絞め殺される」

「くっ!!!」


 要するに、能力の同時発動はできないって訳だ。


「ここいらで終わりにしようかね」


 俺は透かさず大詰めに入る。


「〈神経興奮の御手(ナーヴ・ナース)〉、来い」


 現れたのは、〈細胞興奮の御手(セル・ナース)〉と姿かたちがまったく同じのドーピング精霊であった。

 しかしながら、彼女が着ているレオタード、髪、注射筒(シリンジ)に入っている液体は、全てが毒々しい紫色だ。


「〈神経興奮の御手(ナーヴ・ナース)〉が燃える気配はないようだな」


 ピッチェレは苦々しくドーピング精霊を見ている。


「では始めようか」

「ま、ま、待て、待ってくれっ!!! お願いだっ!!!」


 奴は血相を変えると慌てて制止を呼びかけた。


「嫌だね」


 無情の答えが返されると同時に、〈神経興奮の御手(ナーヴ・ナース)〉の注射針がピッチェレの脳天を突き差す。


「ぎゃぴっ!!?」


 そして紫色の彼女は甘ったるい声を発しながら、キャップを押して紫色の液体をピッチェレに注入した。


「あもーれ注入~」


 容赦なく液体が注ぎ込まれ、俺は透かさず奴から離れて距離を取る。


「ぎょみ、ぴゃあ、んびゅ」


 ピッチェレは奇声を上げて、がくがくと激しく痙攣した。

 

 ……気持ちわりい……

 ティンクファーニも不気味な挙動に脅えてるよ……


 そしてすべての液が注入される。

 役目を終えたドーピング精霊は消え、ピッチェレは屍のように棒立ちしていた。


 かと思いきや、直ぐに目の焦点を合わせて我へと返る。


「……な、なんだ……? 何ともねえ……? それどころか体がすごく軽いぞ?」


 試しとばかりに軽く腕を振るった。


――ブォンッ――


 高速で振るわれた腕から突風が発生し、俺とティンクファーニのところまで吹き荒ぶ。

 

「なんだこりゃあ!!? すげえ!!! すげえぞ!!!」


 奴は喜びのあまり体を動かしてシャドーボクシングを披露し、肉体の動きを確認した。

 その速さは尋常でなく、時おり残像さえも見える。


「ギャハ、ギャハはハハハッ!!! なんだこれは!!?」


 そこでピタリと動きを止めたピッチェレが、俺たち二人を凝視した。


「何だか分かんねえが、今の俺を捉える生物は、い、い……い……?」

「始まるぞ! 俺の背に乗れ!」


 奴の異変を感じた俺は、直ぐにティンクファーニを呼び寄せる。


「わっ、分かったわ」


 彼女は躊躇なく俺の背中にしがみついた。


 テオドニスの例があるからな。

 ティンクファーニもあんな気持ち悪い肉塊に当たりくねえもんな……


 俺は彼女を負ぶり、その時に備える。


「か、体から、何かが、何かが出てくるぅうううううううううううううううう!!?」


 次の瞬間、血の付いた白く細長い線が奴の眼球を突き破ってニュルニュルと飛び出してきた。

 同様に鼻、耳からも、生き物のように畝りながら這い出てくる。


「きゃっ?」


 ティンクファーニが気持ち悪さのあまり小さな悲鳴を上げた。

 

「……」


 ……俺も究極に引いています……


 白く細長い線の流出はとどまる事を知らず、遂には奴の皮膚さえも突き破って出てくる。

 その箇所は何処という訳でもなく、至る所からであった。


「出るっ! 出ていく!!! どんどん出て行くよぉおおおおおおおおおォおオオオオオオッ!!! おぼぉっ!!?」


 最後には、ピッチェレの口から何百もの白い線が束となって噴出し、そのまま奴は大の字になって地面へと倒れた。


「……」

「……」


 俺たちはその惨状に言葉を失う。

 辺りに散乱している白く細長い物体はサナダムシにも見え、当分の間は麺類が食べれそうになかった。


「……トモカズ……ナンナノ、アレ……」


 ティンクファーニが片言になりながらも何とか声を発する。


「……極限まで肥大化した神経だな……」


神経興奮の御手(ナーヴ・ナース)〉の注射は反応速度を高め、スピードや攻撃速度を強化する。

 公式設定では神経細胞に作用すると書いてあったから、薬と不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)が互いに作用し合い、耐えきれなくなった神経が暴走したという訳だ。


「……ト、トモカズ……貴方がすごく強いのは分かったけど、相変わらず惨たらしい殺し方をするのね……」


 仕方ねえだろ!

 俺だってこんなやり方したくないわ!

 ていうか、殺したくもねえんだよ!


「でも、これで不死鳥騎士はあと二人ね。凄いわ、トモカズ!」


 ……あと二人もいるのか……

 不死鳥騎士は不死身だけが取り柄かと思っていたが、燃焼やら死滅やら、使い手によって個々の能力を持っているらしい。

 これは予想以上に厄介だ……


 だが、エルテとチェームの危険を減らすためにも、ここで頑張らないと。

 

「残りの不死鳥騎士も任せておけ」


 あちらさんはピッチェレが戻って来ないと次の刺客を送ってくるはずだ。

 それまでは体を休めておこう。


「ティンクファーニ、ここから移動するぞ。テオドニスとピッチェレを倒した場所を、お前の索敵魔術の範囲に収めたいから、ギリギリの距離になったら言ってくれ」

「え、ええ、分かったわ……」


 俺はティンクファーニを負ぶったまま移動を開始する。

 負ぶっているので彼女の表情は分からなかったが、声音からして早くこの場から立ち去りたい事だけはヒシヒシと感じた。






 昼過ぎごろ。

 俺たちは再び木の上で待機していた。


「この干物、意外とうまいぞ」


 俺はまたまた(・・・・)彼女から食料をもらい、空腹感を満たしていた。


「……ト、トモカズ、来たわよ」

「なに? もうか?」

 

 ……早くても明日の朝だと睨んでいたんだが……


 なのに何だ?

 この異常な早さは。

 

「今度も一人のようね……」


 またか。


 でも一人で良かった。

 テオドニスを倒した当初、残りの不死鳥騎士を一度に相手どるつもりだったが、ピッチェレとの戦いでその考えは吹っ飛んでいた。


「……ねえトモカズ。ちょっと様子がおかしいわ。テオドニスが爆発した場所をウロウロしているみたい」

「……俺たちにも気づいていないようだな……」


 となると、先手必勝。


「奇襲をかける」

「分かったわ」


 俺たちは木から飛び降りると、気配を消して目的地に向かった。

 

 ほどなくして現場に辿り着き、木陰から様子を窺う。


 そこには見知った顔の一人の騎士が、落ち着きなく周囲を見回していた。


「あいつ、昨日逃がしてやった騎士じゃないのか?」

「そうみたい。何をしているのかしら……」


 本人に聞いた方が早いな。


「おい、お前! 何してんだ!」

「なっ!? ト、トモカズ!? 何で生きてんだ!?」


 急に出てきた俺を見て、騎士は幽霊でも見たかのように上ずった声を発した。

 そして辺りを見回し何かを探している。


「ピ、ピッチェレ様は!? エルフの兵士は!!?」

「ピッチェレは死んだ。エルフの兵士は俺だ」

「いっ!!?」


 混乱極まった騎士は、逃走のため背を向けた。


「逃げると殺す」

「!!!」


 底冷えした俺の声に、奴は体を硬直させる。


「お前、何しに来たんだ? 様子でも見に来たのか?」

「……い、いえ……違います……」

「じゃあなんだ?」

「……ピ、ピッチェレ様を呼びに来たんです……」

「何のために?」

「……昨日、チェームと言う少女が城に運ばれてきました。その者が我々に対して謀反を起こしたのです……」


 えっ?


「も、もう一度言ってくれ……」

「チェームと言う名の少女が我々に攻撃を始めたのです」

「……」


 そうかそうか。

 チェームシェイスが暴れたのか。


「……」


 うぉおおおおおオ゛オ゛おおイイいいいいいいいイイイイィ゛イいいイ゛イ゛!!!


 さっそく問題を起こしやがった!!!

 隠密裏に動けと言ったのに、なんで暴れるんだよっ!!!


「しかも彼女は自分がトモカズの配下と言っていました」


 何考えてんだぁあああああああああああああああああああああああ!!!

 俺の名前を出してんじゃねえ!!!


 これでイングリッドの実家、フェルゾメール家も敵対する事になったぞ!!!

 儀装死までした俺の努力は何だったの!!?


「少女は手練れの魔術師でして、あっという間に仲間たちはやられました。なので、不死鳥騎士のアクセル様が相手をしたのです」


 アクセル。

 エルテたちを送って行った、あの不死鳥騎士か。


「ですが、少女は思った以上に強く、長期戦に入りました。なかなか決着が付きそうもないので、ピッチェレ様を呼び戻しに来たんです」


 やはり不死身の不死鳥騎士相手では、チェームも攻めあぐねているという訳か……


「……」

 

 だから言わんこっちゃない!

 これは直ぐにでも助けに行かないとまずいぞ!


 それに不死鳥騎士は全部で四人。

 テオドニスとピッチェレは俺が倒したから、残るはアクセルとあと一人。


「もう一人の不死鳥騎士は何をしてる?」

「メルセデス様ですか。それが朝から姿が見えないのです……」


 それは僥倖だ。

 不死鳥騎士を二人同時には、流石のチェームもやられる可能性がある。


「……」


 そういやエルテはどうしてるんだ?

 話に出てこなかったが……


「反抗しているのはチェームという少女だけか?」

「えっ? そ、そうですが、それが何か?」


 エルテの奴、チェームを囮にしてフレイを探しているのか……?


「……」


 ここで考えても仕方がない。

 今は一刻も早くチェームシェイスを助けに行かなければ。

  

「ティンクファーニ、急いでレンドン城に向かうぞ!」

「えっ?」


 突然の方針転換に、彼女は目を丸くする。


「チェームと言う少女が俺の仲間だ。こいつにお前の首輪を外してもらうから、急いで助けなければならない」

「そ、そうなの!? 早く行きましょう!!!」


 自分の首輪を外せる者が危機なので、ティンクファーニは直ぐに俺の意見を肯定した。


「レンドン城までの案内を頼む!」

「分かったわ!」


 俺は彼女を背負うと全力で走り出す。


 あとに残されたのは騎士一人だけであり、走り去る俺たちをただただ呆然と眺めていた。





 

 夕暮れ前。 

 森を出た俺は、ティンクファーニを担いでひたすら街道を走っていた。


「トモカズ、レンドン城が見えてきたわよ!」

「よし、スピードを上げるぞ!」


 目的地を視界に入れ、より一層と足を速める。


「えっ、あれはなに……?」


 ある程度城に近づいたところで、ティンクファーニが不可解な光景に気づいた。


「……な、何だろうね……」

 

 豪著な鎧を身に纏う巨躯の骸骨騎士が、道の両端にずらりと並んでいた。

 それはレンドン城まで続いており、骸骨どもは剣を胸に掲げ、一糸乱れぬ整列を見せている。


「……構わず行くぞ……」


 俺は怯む事なくその間に突入し、巨躯の骸骨騎士に挟まれながらも無視して城に向かった。


「な、なんなのよ……この骸骨たちは……私がこの城に来た時も逃げる時も、こんなのいなかったわよ……」


 ティンクファーニは恐怖しながらも、キョキョロと死の騎士たちを見回している。


「……」


 そんな異様な状況の中で、俺はやっとこさレンドン城の門前に辿り着いた。


「なっ!? こいつら!」

「うそっ!!?」


 俺とティンクファーニは再び驚かされる。


 門前では、両手を後ろに縛られた二人の人物が、猿轡をされ跪いていたからだ。

 一人は煌びやかなドレスに身を包んだ長い金色の髪の美しい女性。


 そしてもう一人は、赤い鎧を着た騎士。

 そいつの首の後ろには、無数の目が付いた靄が憑りついており、完全に憔悴しきっていた。


「ア、アクセルか……?」


 次いでティンクファーニもポツリと呟く。


「……イングリッド……」


 俺たちが唖然としていると、不意に門が開き始め、奥から一人の美少女が優雅に歩いてきた。

 彼女はラベンダー色の長いツインテールを揺らしながら、小悪魔的な笑みで俺を出迎える。

 

「我が君よ、会いたかったのだぞ……」


 うん。チェームシェイスは完全にレンドン城を支配下に収めていました。


「……」


 意味わかんねえ!!!






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