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38.不死鳥騎士1

 二名の騎士が剣を抜いて、ジリジリと距離を詰めてきた。


「ト、トモカズ……」


 ティンクファーニが泣きそうな顔になってこちらを見ている。


「お前は下がってろ」


 俺は庇うように彼女の前へ出ると、腰を落として身構えた。


「なんだ、あいつ。武器の一つも持ってないぞ」

「俺が聞いた話だと、トモカズは二人の下僕を使って漆黒騎士を退けたそうだ。あいつ自体は大して強くないんじゃないのか?」

「はっ! 部下任せの能無しって訳かよ!」


 こいつら好き放題言ってるよ。

 俺がどんな苦労をしているかも知らないくせに……


「お前たち、いつもので行くぞ」


 魔術師の男が指示を飛ばす。


「了解だ、ジョバン二」

「お前もしっかり準備しとけよ」


 騎士二人はそう言うと、急に足を止めるや否や、鋭い目つきで俺に狙いを定めた。


「行くぞ!!!」

「応っ!!!」


 掛け声と共に地を蹴って、左右から飛び掛かって来る。


「意外と素早いじゃないか」

 

 あっという間に騎士の一人が左側面から肉薄してきた。


「死ね!!!」


 騎士の振るった剣が、風を切り裂き唸りを上げる。


 しかし俺は、迫りくる凶刃を素手で掴み取ると、造作もなくその動きを封じた。


「なっ!!?」


 驚く騎士を尻目に、今度は右側面から攻撃してきたもう一人の騎士の刺突を半身になって躱し、がら空きとなった胴部分に蹴りを放つ。


「ぎゅりゃぇえっ!!?」


 豪脚が腹部に到達した瞬間、鋼の鎧が衝撃に耐えきれず粉々に粉砕された。

 中身も同様の結末を辿り、臓物を撒き散らしながら上下が無情にも分かたれる。

 

 最終的には上半身が中空を回転しながら草むらへと落下し、下半身はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。


 やべえ、力を入れ過ぎた。


「こ、この化け物め、死ねっ! 《火重槍(アグニ・ランス)》!!!」 


 恐怖に駆られた魔術師が、炎の槍を俺に放つ。


 魔術師は何をしてくるか分からんからな。

 手抜きはしない。


 俺は手ごろな石を素早く拾い、襲って来る魔術に全力で投擲した。

 それは弾丸のように自回転しながら炎の槍へと激突する。


「馬鹿か!!! そんなもので俺の魔術に対抗しようなど片腹痛いわ!!!」


 しかし石の破壊力は魔術師の範疇を超えており、炎を貫通すると、その射速による風圧で魔術全体を掻き消した。


「なっ!!? 馬鹿ながぁっ!!?」


 魔術師が驚いた瞬間、小石が頭部に直撃して辺り一面に脳漿をぶちまける。

 顎から上が消失した魔術師は、糸が切れたマリオネットのように地面へと崩れ落ちた。

 

「なっ、なっ、なんなんだっ!?」


 残された騎士は仲間の無残な死に混乱している。


 お前はちょっと手加減してやるよ。


 俺は泡を食う騎士の顔面を手加減して殴りつけた。

 

「ぶべぇっ!!?」


 騎士は声にならない叫び声を上げながら、大木に激しくぶつかると意識を失う。


 よし、こいつだけは殺さずに倒せたぞ。


「……す、すごい……」


 ティンクファーニは驚嘆する。

 一瞬で三人も戦闘不能にしたのだから当然と言えば当然だ。


「……でも酷い……」


 しかしながら、散らばる肉塊を目の当たりにして、寒気も覚えているようであった。


 そんな顔するんじゃねえよ……

 俺だって自分でもドン引きしてるんだからよ……


 俺とティンクファーニが互いに口元を引き攣らせる中で、一人だけ険しい表情をする者がいた。


「……甘く見ていた……漆黒騎士を倒したというのは、噂に尾ひれがついただけの与太話かと思っていたが、本当のようだな……」


 テオドニスの雰囲気が変わる。

 周囲に緊迫感が広がり、奴の体から深紅の何かが立ち昇り始めた。


「もしかして、生命気(オーラ)ってやつか?」

「貴様、生命気(オーラ)を知っているのか……」

「漆黒騎士が使っていたからな」

「……」


 テオドニスは黙ったまま俺を睨む。

 そしてゆっくりと剣を抜き、足を踏み出した。


「今度はお前が相手って訳ね」


 奴は徐々に歩みを速め、最終的には猛スピードで吶喊してくる。

 その姿を何かに例えるならば、さながら重戦車の突進であった。


「威圧感が半端ないな……ここはさくっと決めちまうか。〈ライトニング・フラジャイル〉」


 俺はテオドニスに向かって手の平を翳すと、こぶし大ほどのモブ精霊を召喚する。

 その精霊は、凹凸状の鋭い突起をいくつも持っており、金平糖のような形で金色に輝いていた。


「奴を貫け」


 モブ精霊は、俺の言葉に従い光の速さで移動を開始する。


「ぬっ!!?」


 その動きにテオドニスは目を見張った。

 何故ならモブ精霊は、瞬間移動でもするかのように前後左右と不規則に移動を繰り返し、とても予測できる動きではなかったからだ。


「なんだっ!? 動きがまったく読めん!!!」


 イレギュラーな動きを繰り返して近づくモブ精霊に、テオドニスは堪らず足を止めると迎撃体制を取る。


「どこから来るんだ!!!」


 そう叫んだ瞬間、モブ精霊が奴の胸部を擦り抜けるように通り過ぎた。


「ぎっ!!?」


 精霊が貫通した鎧の個所は一瞬で融解し、そこには大きな風穴が開いている。


「がっ、はあぁ……」


 テオドニスは大量の血を口から吐き出すと、そのまま地面に崩れ落ちた。


「なんだ、思ったよりもあっけなかったな」


 勝利を確信した俺は、ティンクファーニに向き直る。


「……ト、トモカズ、あなた凄く強いのね……」


 彼女は畏怖と尊敬の眼差しを向けているが、俺はそれに対して何の感情も抱かなかった。


「……これを強いと言うのかね……」


 モブ精霊はゲームで獲得した力だ。

 こんなので威張れねえよ……


 そんな風に考えていた俺だが、彼女は容赦なくキラキラとした瞳を向けている。


 ……止めてくれ……そんな目で俺を見ないでくれ……


「……」


 ……可愛いな……

 金色の髪にくっきりとした二重の大きな目。整った鼻に艶めかしい口。そして何より柔らかそうな尖った耳……

 ……後輩の気持ちが分かる気がする……

 やべえ、目覚めそうだわ。


「……え……?」


 とその時、彼女の口から小さく声が漏れた。

 表情も驚きの色に染まっており、見てはいけないものを見たかのように、固まっている。


「どうした、ティンクファーニ?」

 

 俺の問いかけに彼女は大声で叫んだ。


「トモカズ!!! 後ろっ!!!」


 俺は咄嗟に振り返ろうとする。


 刹那、胸から剣身が生えた。

 それは赤黒い気体を纏っており、俺の目に禍々しく映っている。


「な゛っ? ……こ、これは……?」


 辛うじて首だけを動かし後ろに目を向けてみると、テオドニスが不気味な笑みで背後から剣を突き立てていた。


「トモカズ。油断したな」


 テオドニスはそう言うと、剣をゆっくりと引き抜く。


「ぐはっ!」


 同時に俺の口から血が吐き出され、堪らず両膝を着いた。


「トモカズ!!!」


 ティンクファーニが悲痛な表情で駆け寄ってくる。


 ……な、んだ……?

 俺は、刺された、のか……?

 しかし、どうして……?

 どうして、奴は、生きている……? 


 俺は痛みを堪えてテオドニスに視線を向けた。


「お、い……どう、なってんだ……?」


 奴の鎧にはしっかりと穴は開いていたが、そこから見える胸部には傷が一つも付いておらず、代わりに青白い燐のようなものが集中していた。


「……意味、分かんねえ……」


 俺が訝しんでいると、テオドニスは頬を緩めて得意気に口を開く。


「運がなかったな。他の騎士なら貴様の圧勝だ。しかし相手は不死鳥騎士であるこの俺だ。万に一つも勝ち目はない」

「……どういう、こと、だよ……」


 瀕死の俺を見た奴は、より一層と優越感に浸る。


「クックックッ……死にゆく貴様に教えてやろう。我ら不死鳥騎士は、不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)と呼ばれる特殊な生命気(オーラ)を纏うことが出来る。これはどんな傷でも瞬時に再生できる不滅の生命気(オーラ)だ」


 ……なに、それ……


「残念だったな。お前の人生はここで終わりだ」


 テオドニスはそう言うと、ティンクファーニに視線を投げた。


「エルフの娘、その男は直に死ぬ。無駄な事をするな」


 ティンクファーニは俺の傷に手を当てて、幾何学模様の光を展開させていた。

 懸命に何かを呟く彼女の額からは、玉のような汗が幾つも噴き出ている。


「治癒魔術を施しても意味はない」


 ……そうか……これが治癒魔術か……

 ……ティンクファーニは俺の傷を治そうとしているのか……

 ……こいつ、優しいな……


 しかしながら、彼女の努力が実る事はなかった。

 なぜかは分からないが、胸部に受けた俺の傷は一向に塞がらなかったのだ。


「なんで!? どうして治らないのないのっ!!?」


 焦る彼女にテオドニスが言い放つ。


生命気(オーラ)を纏わせた剣で刺したからな」

「ど、どういうことよっ!!!」

「俺の不死鳥闘気(フェニックス・オーラ)は死と再生、二つの力を持っている。生命気(オーラ)のベクトルを正に向けていれば肉体を活性化させ再生の能力を発揮するが、負に向ければ肉体を死滅させる死の能力へと変化する。トモカズは負の生命気(オーラ)で体を貫かれた。そうなってしまえば一切の治癒の類は受け付けない。その傷は治らないという事だ」


 その言葉でティンクファーニの体から力が抜け落ちていった。


「……そんな……」


 ……ティンクファーニの奴……

 ……さっき出会ったばかりの俺を、そこまで心配してくれるのか……

 ……ちょっと、感動したぞ……


「……ティンクファーニ、俺は大丈夫だ……」

「トモカズ!」


 俺は足元を覚束せながらも、彼女の肩を借りて何とか立ち上がる。


「クククッ、虫の息の貴様に何ができる」


 そんな無様な俺の姿にテオドニスは楽しそうだ。


 ……その阿保面……いつまでも浮かべられていると思うなよ……






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