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31.悩みが解消されました

 商人ギルドと冒険者ギルドの二つの会合が終わった。

 

 俺はふらふらになりながら、ようやく拠点に帰還する。

 出掛けるときは気持ちよい朝日が降り注いでいたが、今はもう夕暮れ前だ。


「……少し横になってくる……飯になったら起こしてくれ……」


 幽鬼のように寝室へ向かい、盛大にベッドへと倒れ込んだ。


 マジでくたびれたわ!!!

 こんな気疲れ、リーマン時代と何ら変わらねえ!!!

 もう俺のライフポイントはゼロよ!!!


「……はぁ……」


 ……確かに商人ギルドと冒険者ギルドを取り込んだのはデカい……

 ……だが村を救う手段にはなってねえ……

 ……結局のところ、何ら変わりはない……


「……」


 ……今日はこれ以上、頭を使うのは止そう……


 思考を放棄した俺は、しばしの間、微睡に身を任せるのであった。






「……主様、主様。夕飯の支度が整いました」

「……ん……? ん、うん……」


 セラーラの美声で俺は意識を覚醒させる。


「……もう飯の時間か……」

「はい。皆が主様を待っています」

「……分かった……」


 俺はゆっくりとベッドから降りる。

 

 そういや今日は昼めしを食っていなかったな。


 空腹を実感した俺は、セラーラと共にダイニングへと向かった。


「みんな、待たせたな……」


 円卓の周りでは五人の乙女精霊とユージスが姿勢正しく起立しており、食卓には豪勢な料理が並んでいる。


「……どうしたんだ、そんなに畏まって……折角の料理が冷めちまうから、早く食べよう……」


 俺がいつもの指定席へ座ると、みんなも続いて各自の椅子に座った。


「……今日はまた一段と美味そうだな……」

「はい、主様。腕によりをかけて作りました」

「……そうか、では有難く頂こう……」


 いかんな……寝起きだから頭がぼうっとしているよ……


「頂きます」


 俺に倣って全員も同じ言葉を復唱する。

 そして楽しい食事の時間が始まった。


「うん、このムニエルは旨いな。お? こっちの肉も柔らかくてほっぺたが落ちそうだ」

 

 俺は様々な料理に手を付けて舌鼓を打つ。


 その最中、セラーラが嬉しそうに言葉を述べてきた。


「主様、今日はお疲れさまでした。主様が考えた計略、商人ギルドと冒険者ギルドとの会談は当然と言えますが見事に成功です。これで二つの組織は私たちの傘下に収まりました。流石は主様です」


 他の五人の乙女精霊たちもうっとりとした表情で俺を見詰めている。

 ユージスさえも尊敬の眼差しでこちらを見ていた。


「……」


 俺は一切合切なにも考えてないよ……ちょっと仄めかしただけだよ……

 冒険者ギルドに至ってはまったく言ってないし……

 ていうか、開催するなら予定を言えよな……


「それで主様。話は変わるのですが、なんでもブリエンセニア王国の支配も視野に入れているとか……」


 ……くっ……やはりチェームたちが喋ったか……


「主様のお考え、セラーラはとても感激いたしました……身命を賭して主様に着いて行きます……」


 セラーラは瞳を輝かせて俺を直視する。


「マスター。これから忙しくなるのだ。ブリエンセニア王国をも支配するとなれば、強力な軍隊も必要になって来る。フフフ、マスターと一緒に侵攻……これからが楽しみだ……」


 パーシヴァリーは涎を垂らして妄想に耽る。


「旦那様。諜報部隊や暗殺部隊などの組織も必要になるかと思われます……嗚呼……これからもっともっと旦那様のお役に立てる……わたくしはとても幸せです……」


 ピアは虚空を眺めて恍惚とした表情を浮かべている。


「うむ。内政や外交などの組織建てもしっかりとせねばならぬ……そして我が君の治世が到来する……なんとも素晴らしいことぞ……」


 チェームシェイスは空想を膨らませてこの先の未来に酔いしれる。


「ボクは強い者だけを集めた精鋭部隊を作りたいな。それで師匠を守ったり逆らう者を倒すんだ……そして師匠に感謝されてボクと遂に結ばれる……むふふ……」


 エルテは少し暴走気味だ。


「お姉ちゃんたち、ちょっと気が早いです! 先ずは領主を倒してからです!」


 アプリコットだけが注意を促す。


「でも弓兵は私が鍛えたいです! 強くして、ご主人様にいっぱい褒められるんです!」


 しかし彼女もやはりと言うべきか、五人と似たような妄想を抱いていた。


「アプリコットの言う通りですね」

「そうだな。忽ちは目の前のゴミ掃除だ」

「旦那様の覇業に水を差すとは愚かな方々です」

「だが我が君の前では路傍の石。然したる障害にもなり得んぞ」

「うん。ドミナンテなんかサクっと終わらせようよ」 


 ……こいつら全員、思った通りの反応だ……

 このオルストリッチのみならず、ブリエンセニア王国を支配すると言ったから、みんな期待に胸を膨らませてるよ……


 どうすんだ、俺……

 今更だけど、あんなこと言うんじゃなかったよ……

 でもあそこで言わなければグラハムは動かなかったし……

 はぁ……もう成るようになれ……


「……その話は追々していく……それよりもジークベルトとイスタルカは何処にいるんだ?」

「二人は地下室に閉じ込めてるよ。でも師匠も知ってる通り、それぞれ使い道があるから明日からはいないけどね」


 ……ジークベルトにイスタルカよ……命運が付きたな……

 

「……分かった……それでユージス、どうやってイスタルカの財産を奪うんだ?」


 ユージスはその端整な顔をあくどい表情に歪めた。


「簡単です。イスタルカに莫大な借金を背負わせて、すべての販路、資産、委員議席、商品を丸ごと抑えるのです。そして借金の貸主は私です」

「……おいおい……そんな簡単に借金を背負わせられるものなのか……?」


 ちょっと無理があるんじゃね?


「トモカズ様。イスタルカの身柄は私たちが拘束しています。それに商人ギルドはトモカズ様の支配下にあるのですよ。ジェフリーさんやケインさん、加えてノッドルフさんも私に協力せざるを得ません。あのグラハム様も見て見ぬ振りをしてくれます」


 なるほど……

 ギルドぐるみでイスタルカを蹴落とすのか……えげつねえな……


「問題は領主側ですが、そこも完璧に誤魔化せます」


 そういやイスタルカはノッドルフと共にドミナンテと通じてたんだっけ……

 確かにあいつが失脚したら、領主側が怪しむのは当然のことだろう。


「どうやって誤魔化すんだ?」

「イスタルカに代わって私がドミナンテに取り入るのです。これは次の段階の一環です」


 え? 次の段階?


「もちろんノッドルフさんの推薦付きです。さらには忠誠の証として、莫大な心付けと高額な珍しい品々も献上します。無論、取り巻きの方々にも送らさせてもらいます。これらは強欲な人間にとって非常に効果的です」

「……ああ、そうだな……流石はユージス、人の欲深さを熟知している……それで、次の段階って何?」

「? 私もよく分かりませんが、ピアさんにそう言われました」


 俺は透かさずピアを凝視した。

 すると彼女は顔を赤らめて恥ずかしがる。


「それにトモカズ様。私が返り咲く筋書も出来ています。一応は細部に渡って考えてありますが、大雑把に言うとイスタルカに騙された私が這い上がり、見事に復讐を果たした、って感じですよ。まあ、事実ですがね。ハハハ」


 お前のサクセスストーリなんかどうでもいいわ!

 それよりも計画ってなんだ!?

 絶対良からぬことだよね!

 今日の事もあるから非常に不安なんですけど!


 とそこで、アプリコットが気になる言葉を口にした。


「順調ですね! 村も安泰だし、さすがはご主人様です!」


 ……ん……? 村も安泰……?


「アプリコットよ……村は大丈夫なのか……?」

「え? そうですご主人様!」


 何だと? どういうことだ?


「セラーラ、確認だ。ドミナンテに目を付けられた村々の、今後の状況を説明してくれ」

「はい、主様」


 金髪の美少女は姿勢を正して言葉を紡いだ。


「領主側に容疑を掛けられた村々は、種籾も含めて全ての財を没収されます。こうなるとその村は存続不可能となり、死を宣告されたも同然です。これは他の村への見せしめも兼ねた行為です」


 ああ、そうだ。全く持って酷い話だ。


「ですので私たちはこのような村を主様の名で支援します」


 ……俺の名で支援……?


「商人ギルドを出資者として食料、生活用品、金銭など村を維持できる物資を秘密裏に送ります。裏から手助けをするのです」


 なんだと!?


「これで彼らは食い繋ぐことができます。領主側は提示した財を献上している限りは文句の付けようがありませんので、これで当面の間は凌げます」


 その手があったか!


「ですが、滅ぶ予定の村がしぶとく生き残っていると、領主側は不審に思うはずです。そうなると密偵を放って状況を探り、裏から嫌がらせを行う可能性が出てきます」


 ……確かにそれは十分にあり得る……


「しかし対抗策は打ってあります」


 マジで?


「冒険者ギルドから手練れの冒険者を雇い入れ、護衛として村に派遣させるのです。そうすれば嫌がらせを防ぐことが可能です。もちろん費用はすべて商人ギルドが持ちます」


 おお! だから冒険者ギルドを抱き込んだのか!

 

 それにしても、やっぱり金なのね!

 資金は大事だからな!


「その間に私たちが領主を倒してこのオルストリッチ辺境伯領を支配します。ここまでが村を救う忽ちの算段です」

「……素晴らしい流れだ……」


 すげえ!!!

 マジですげえよ!!!

 こいつらちゃんと考えていたんだね!!!

 やっぱり俺の乙女精霊たちは至高にして最高だよ!!!


「このような神懸った計画を立案なされた主様の神算鬼謀、恐れ入ります……」


 六人の乙女精霊たちは深々と頭を下げた。

 ユージスなんか椅子から降りて平伏しているよ。


 ……俺が考えた訳じゃないのにね……

 

「ま、まあ、これもみんなが頑張ってくれたお陰だ……俺一人では何もできなかったしな。ありがとう」


 その言葉を聞いた乙女精霊たちは、瞳を潤ませて愛情と尊敬の念を込めた視線を俺に注いだ。


「主様……」

「マスター……」

「旦那様……」

「我が君……」

「師匠……」

「ご主人様……」


 うん、可愛いね。


 こうして憂いを払拭した俺は、美味しい料理を心から味わったあと、数日振りにぐっすりと安眠できるのであった。






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