30.第二ラウンド 後編
冒険者ギルドを抱き込むために、俺一人で会談に挑まなければならなくなった。
今現時点でセラーラたち三人には頼れない。
彼女たちは、何故だか分からないがミスティスをライバルと見做しており、余計な事を口走るからだ。
あの調子だと、纏まる話も纏まらねえよ……
「もういいかしらぁ?」
ミスティスが催促してくる。
ルナリーも固唾を飲んで俺を凝視し、フロスコに至っては射殺さんとばかりに鋭い視線を突き刺していた。
はいはい、分かりましたよ。
始めましょうかね。
「先ずは謝罪する。俺の所為で冒険者ギルドに迷惑をかけてしまった。済まない」
唐突に俺が頭を下げたので、フロスコとミスティスは目を丸くさせ、ルナリーは慌てだした。
「ト、トモカズさん! あ、頭を上げてください!」
「あらぁ。律儀なのねぇ」
「謝ったところでゼクトが解放される訳でもねえ……俺は騙されねえぞ……」
ルナリーとミスティスは好意的に受け取ってくれたが、フロスコだけは未だ剣呑としている。
「フロスコぉ。あなたも分かってるでしょぉ? ゼクトが連れて行かれたのわぁ、トモカズちゃんの所為じゃないってぇ」
トモカズちゃん……?
どう見てもミスティスの方が俺より年下に見えるんだが……違うのか?
「チッ、ああ、そうさ……だがな、あいつが切っ掛けでゼクトがしょっ引かれたのは事実だろうが……」
「んもぅ……意地っ張りなんだからぁ」
そう言ったミスティスは穏やかに言葉を続けた。
「ごめんねぇ、トモカズちゃぁん……ゼクトはフロスコにとって英雄だからぁ、彼の事になると周りが見えなくなるのよぉ」
「ミスティス! 余計なことを言うんじゃねえ!」
「直ぐに怒っちゃダメってぇ、いつもゼクトに言われてるでしょぉ」
こいつらの立ち位置が見えてきた。
フロスコは見た目からして二十歳前後と推測できる。
恐らくだが、ゼクトやミスティスの後輩と言ったところか。
「トモカズさん。実はミスティスさんたちにも出頭命令が出されていたんです」
「そうなのか?」
ルナリーの言葉に俺は少し驚いてしまった。
「でもギルドマスターのお陰で皆さんが連行されずに済んだのです」
「どういう事だ?」
「ギルドマスターは自分が素直に従うから、冒険者ギルドには手を出すなってドミナンテに掛け合ってくれたんです。だからフロスコさんは自分なりに責任を感じているのです」
……ゼクト……お前はどんだけ男前なんだよ……
「そうだったのか……フロスコが俺に対して怒るのは当たり前だな……本当に申し訳ない……」
「……なんだ、てめえ。いくら謝ってもゼクトが釈放されない限り許さねえからな……」
ん? 少しだがフロスコの態度が軟化したぞ。
俺の平謝り作戦が功を奏したのか?
よし、ここら辺で切り出すか。
「ああ、そうだな。許してもらおうなんて烏滸がましいよな……だから償いと言っちゃあ何だが、俺と手を組まないか?」
「なんだと?」
謝罪は終わりだ。
ここからは遠慮なくいかせてもらうぞ。
「率直に言わせてもらう。冒険者ギルドは俺たちに協力しろ」
その言葉にルナリーとフロスコの表情が険しくなった。
「……お尋ね者のトモカズさんを支援しろと……?」
「いきなり何を言いだすのかと思えばくだらねえ。何で俺らがお前の手助けをしなくちゃならねえんだ? しかも偉そうに言ってんじゃねえよ!」
フロスコよ、頭が固いな。
若いから反発心が強いのか?
だが、いつまでも殻に閉じこもってたんじゃ潰されるぞ。
「お前ら冒険者ギルドはドミナンテに煙たがられている。だから同じ敵を持つ俺たちは、協力し合えるはず」
敵の敵は、お仲間って理屈だ。
「それとこれとは話が違うと思うんです……」
しかしルナリーが俺の考えを否定してきた。
「確かにドミナンテは非道です。市民を道具としか見ておらず、逆らう者が居れば力でねじ伏せようとします。そんな相手でも、私たち冒険者ギルドは屈せずに、正攻法でこのオルステンを良くしようと影ながら頑張って来たんです。ですが、トモカズさんのやり方は、市民を巻き添えにする方法です。ドミナンテと同じように感じるのです」
おいおいおい、マジで言ってんの?
「俺のやり方は余計な血を流すと?」
「はい。アンドレイやジークベルトの件もそうです。市民が大勢いる中での乱戦。下手をすれば、関係のない多くの人が巻き添えで命を落としていたところです」
なるほど。
よーく理解した。
このルナリーって娘が甘ちゃんだって事がな。
「確かに一歩間違えたら市民に害が及んでいた。だがなルナリー、関係ない人が死ぬって言ったよな?」
「はい……そうですが……」
「それは違うな。このオルステンにいる者は全て当事者なんだよ。意味は分かるだろ?」
「……」
圧政に苦しめられているのはこのオルストリッチの領民。
辺境伯領に住む全ての者が当事者だ。
ルナリーも分かっているはず。
当たり前だが、冒険者ギルドだけの力ではドミナンテに勝てない。
もし奴を倒そうとするのなら、市民の協力が必須。
きっとルナリーたちはそれをしたくないんだろう。
仮に市民と共に立ち上がったら、大勢の者が死ぬのだからな。
「……」
うーん……これは少々面倒だな……
ルナリーは、罪なき人々を守りたいと思っている。
だが市民に協力を仰がなければ、ドミナンテの圧政からは逃れられない。
……彼女の考えを変えさせる方が一番だが、直ぐに説得できるかどうか分からない……
だとしたら、こちらがルナリーに合わせるか……
しかしそれは、俺が市民を巻き添えにしないと証明する必要がある。
ならば、こう攻めよう。
「ルナリー。お前は勘違いをしている」
「……何を、ですか……?」
「俺と少女たちは、市民を守るために立ち上がったんだ」
「……」
ルナリーは懐疑的な目で俺を見る。
まあ疑ってろ。
直ぐに言いくるめてやるからよ。
「先ほどお前はアンドレイやジークベルトの件を乱戦と言っていたが、俺たちにとってはすべてが計算し尽された戦いだ。被害が出ないようにな」
真っ赤な嘘です。
すべてが行き当たりばったりです。
「実際に死人は領主側だけだ。これだけでは俺を信じられないか?」
「……」
ルナリーは黙って何かを考えていた。
よーし、狙い通りだ。
これで俺の仕出かした行動が正しいか否かをルナリーは悩む。
多少は俺の言葉を受け入れやすくなったはずだ。
となると、次はこう行くか。
「一つ質問をしてもいいか?」
「……なんですか……?」
お嬢ちゃん、俺の質問に答えられるかな?
「ゼクトがなぜ素直に連行されたか考えた事があるか?」
「……も、もちろん私たちを助けるためです……」
「それから?」
「……み、民衆の味方である冒険者ギルドを潰させないため……」
「他には?」
「……え? ……他は……」
悩むルナリーをフロスコが援護した。
「それ以上ある訳ねえだろうが」
「いや、あるね」
直ぐに言葉を返したのが気に入らなかったのか、フロスコは負けじと言い返す。
「だったら何なのか言ってみろ!」
俺は三人に向かって重々しく口を開いた。
「ゼクトが素直に従ったのはな、俺との接点を作るためだ」
「……てめえとの接点……? なに言ってんだ?」
フロスコとルナリーは不審な視線を俺に向ける。
「先ほどのミスティスの言葉だが、ゼクトは俺に手を出すなって言ったんだよな」
「……ああ、そうだ……だからどうしたってんだ……」
「分からないか? それは俺と手を組みたいからだよ。ゼクトは俺が必ず接触すると見越していた」
……たぶんね……
「てめえ、なに都合のいいこと言ってんだ。ゼクトがお前に関わるなと言った意味はな、皆を危ない目に合わせないためだ! 全然、言葉の趣旨が違うんだよ!」
だろうね。俺もフロスコの言う通りだと思う。
でも素直に認める訳にはいかないんだよね。
「お前らの方が勝手な解釈をしている」
「はあ!? なに言ってやがる! どこをどう見てもお前の方がおかしいぞ!」
分かってるよ。
「ちょっと考えれば気づくはずだ。相手は領主だぞ? 遅かれ早かれ冒険者ギルドは潰されるか、乗っ取られるか、碌な未来しか待っていない。そんな事をゼクトが分からないはずないだろう」
「……今の話と何の関係があるんだよ……話を逸らすんじゃねえ!」
それが関係あるんだよね。
「話は最後まで聞けよ」
ここからは無理やりこじつけるけど、信じてくれるか……?
「おそらくゼクトは八方塞がりで随分と悩んでいたはずだ。お前たちも心当たりがあるんじゃないのか?」
「……」
こいつらが沈黙するという事はビンゴだな。
ギルドマスターを務める人物が考えない訳ないと思っていたよ。
「ゼクトは思い悩んでいた。だがある日、一つの突破口を見つけたんだよ」
「……突破口だと……?」
「決まってるだろう、俺たちの存在だ」
「なにっ!?」
強引だが筋は通ってるよね……ね?
「アンドレイやジークベルトを倒し、漆黒騎士をも退けた俺たちだ。しかも市民の誰もが傷つかない状態でな。そんな俺たちを、ゼクトが接触しようと考えるのは当たり前だろう」
「ぐっ……!」
どうだフロスコ。これでは言い返せまい。
「だからゼクトは策を練った。どうすれば俺たちを引き込めるのかってな」
「……その策とは何だ……言ってみろよ……」
「俺の所為でゼクト自身が領主に捕まる事、これが奴の策だ」
「……なんですか、それは……そんなのが策になるのですか……?」
ルナリーも食いついてきたな。
「ゼクトが連行されたと聞いたとき、俺は罪の意識に苛まれたよ。だって俺と関わったお陰で捕まったんだからな。だがそう思った瞬間から俺は奴の術中に嵌っていたんだ」
「ど、どういうことですか!?」
気になるか?
気になるだろう。
「ゼクトは俺の良心に付け込んだ。自分が捕まる事によって、俺の罪悪感情を引き出したんだよ。俺は奴の思惑通り、冒険者ギルドを助けようとこの場にやってきた。ホント、大した男だよ。見事に俺を引っ張り出したんだからな」
いま言ったこと全てが作り話です。
ゼクトの考えなど全く持ってわかりません。
「だからゼクトは素直に連れて行かれたんだ。すべては俺を冒険者ギルドに呼び寄せるためにな。これが先ほどした質問の答えだ」
うん、強引だね。
「そのゼクトの思いにお前たちはどう応えるんだ? 指をくわえて見ているだけなのか?」
このまま押し切って仲間にしてやる。
「……トモカズ……そう簡単に信じるとでも思ってるのかよ……」
ですよねー。そう都合よくいきませんよねー。
が、お前たちに選択権はないのだ。
「信じようが信じまいが勝手にしろ。だがな、これだけは言っておく。このままだと冒険者ギルドはお終いだ」
「くっ!」
「……」
効いてるな。
「何を迷う事があるんだ? お前ら冒険者ギルドが俺と組むのに躊躇する理由がどこにある? もちろんデメリットはあるが、それ以上にメリットの方が勝るはずだ。それに何も表立って協力しろと言っている訳じゃない。裏で手を組むんだよ。領主どもに悟られないようにな」
「……」
「……」
どうだ、乗ってこい!
そして俺に協力しろ!
「ふふふ、ルナリーちゃんにフロスコぉ。今の話が嘘でも真でもぉ、ゼクトならトモカズちゃんと手を組むわよぅ」
「……ミスティスさん……」
「ミスティス……」
おお、静観していたミスティスが俺に加勢したぞ!
ならばここで畳みかける!
「商人ギルドも俺の傘下に加わった」
「えっ!? 商人ギルドがですかっ!?」
「ホントなのぉ?」
「おい! 大嘘言ってんじゃねえ!!! あそこにはドミナンテの犬のイスタルカとノッドルフがいるんだ! それにグラハムのジジイもいる! そう簡単に反逆者のお前に靡く訳がねえ!!!」
当然の反応ですよね……だが真実なのだよ。
「ノッドルフは今日から俺の犬だ。ジェフリーとケインは仲間に引き入れた。グラハムの爺さんは俺にもドミナンテにも手を貸さない中立の立場で交渉が成立した。イスタルカは邪魔なので排除した」
俺の言葉に三人は目を丸くする。
「……ほ、本当なのですか……?」
「嘘ではないようねぇ……」
「……マ、マジかよ……」
ここいらで大詰めだ。
「俺の明確な目的を言ってなかったな」
「なに? 目的だと?」
フロスコよ、聞いて驚け。
「ヴァンヘイム一族を排除して、オルストリッチに平穏を齎す。そしてこの地に独立国家を樹立する」
「えっ!?」
「凄いわぁ……」
「正気なのかっ!!?」
うんうん、言い反応だよ。
「そうなればブリエンセニア王国が出張ってくるが、無論、いくつかの手は用意してある。まあ、ここら辺は証明する手立てがないから信じてもらうより仕方ないがな」
どうだ!
これでもお前らはまだ俺と協力しないのか!?
「そのための準備で俺は時間に追われている。だから仲間になるかならないか、今この場で結論を出せ」
さあ、答えろ!
「……と、突然そんなことを言われても……ど、どうしましょう、ミスティスさん、フロスコさん……」
「……お、俺に言われてもな……」
ルナリーとフロスコは事態の大きさに動揺する。
「いいんじゃないぃ?」
「……ミスティスさん……」
「……ミスティス……」
決まったな。
「どちらにしてもぉ、このままではジリ貧よぉ。ここは一つぅ、賭けに乗りましょうよぉ」
ミスティスの言葉にルナリーは瞼を閉じて考え込んだ。
「……」
少しの間、沈黙が場を支配するが、意を決したルナリーが真摯な瞳を俺に向ける。
「……分かりました……ギルドマスターがいない今、サブマスターである私の権限で冒険者ギルドはトモカズさんと同盟を組みます……フロスコさんもミスティスさんもよろしいですね?」
「もちろん私はいいわよぅ……ふふふ、これから面白くなるわぁ」
ミスティスは当然のように受け入れる。
「……ああ、仕方ねえ……」
そしてフロスコも不承不承に承諾した。
「……だがトモカズ、条件がある……」
「ゼクトを助けろってんだろう? 当然だ。そんな当たり前な事を聞くな」
「そ、そうか……ならいいんだ……」
フロスコよ、心配せずともゼクトは何とかしてやる。
まだ何も考えてないけどな……
「ではこれで決まりだ」
俺はルナリーに手を差し出した。
「よろしく頼むよ、サブマスターのルナリー」
緊張しているのか彼女の手は震えていたが、しっかりと俺の手を握って握手を交わす。
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
こうして冒険者ギルドは俺たちと同盟を結んだ。
……もうこの後は何もないよね……これで終わりだよね……?




