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27.商人ギルド委員会議3

 少しでもいいからグラハムの情報が欲しい。


「……チェーム、こいつがどんな商人なのか簡単に教えてくれ……」


 俺は小声でグラハムの情報を求めた。


「……こやつはフィンゴール商会の会長で、一代で財を成した稀代の商人。このオルステンを拠点にオルストリッチの至る所で店を構え、他領にも店舗を出しておる。王都にも支部があるほどだ」


 流石は大商人。

 王都にも支部があるのか。


「商会においての決定権は、すべてグラハムが握っておる。あ奴は今でも店舗を広げ、精力的に商会を大きくしようとしておるのだ」


 典型的なワンマン経営か。

 これは迅速な意思決定ができるから、経営戦略が実行しやすい。

 ここまで商会の名を知らしめた実績は、爺さんが優れた経営者だという証拠に他ならない。

   

「家族構成は?」

「幼い孫娘が一人だけ。以前は息子夫婦がいたのだが、数年前に流行り病で死んでおる。その頃からグラハムは商会を不動のものにしようと躍起になっているのだ」


 という事は、後継ぎはその孫娘だけか……


「後見人とか決めているのか?」

「ドミナンテが最有力候補らしいのだが、グラハムは悩んでいるみたいだぞ」


 ……なるほどね……


「何をこそこそ話しておる! 怖気づいて口もきけぬか! ならば交渉は終わりにするぞ!」


 焦んなよ、グラハムの爺さん。

 これからじっくりとあんたを口説き落としてやるからよ。






「誰が怖気づいたって?」

「ぬっ!?」


 だんまりだった俺が急に喋った事で、グラハムの目つきが鋭くなった。


「爺さん。あんたは今後、自分の商会をどうする気だ?」

「なんだいきなり……貴様は何を言っておる。儂と貴様の交渉に何の関係がある」

 

 グラハムがもの凄く睨んでくる……


 だが俺の中身は四十半ば。

 二十代のころなら委縮していたが、社会の荒波に揉まれた俺には耐性ができている。


「それが関係あるんだよ」


 そう言うと、俺は本題に入った。


「あんたは凄い商人だ。一代で財を成して多くの店を持っている。なんでも王都にまで支部があるそうじゃないか。ホント、大したもんだよ」


 この爺さんは間違いなく経営の天才だ。

 だが営業の天才ではない。

 そこに付け入る隙がある。


「でもそれは、裏を返せば爺さんの力が強すぎるってことだ。もしあんたがいなくなったら商会はどうなると思う?」

「貴様に人の店を心配される筋合いはないわ。それに儂には優れた部下がいる。余計なお世話よ」


 ふーん。優れた部下ねえ……


「その部下は信用できるのか? まあ、信用できたとしても、その頃のあんたには関係ないか」

「……貴様の言っている意味が理解できん……何が言いたいのかハッキリ言え!」


 苛立って来たな。


「爺さんがいなくなれば、フィンゴール商会は部下の物になるか、割れるか、他の商人の餌食になるか、この三択だろうな」


 俺の言葉に爺さんの顔から興味が失せていった。


「……くだらん。少しは面白い話が聞けると思ったが、もう飽きた。儂はこれで帰らせてもらおう」


 グラハムが席を立とうとする。


 すこし引っ張り過ぎたか……

 でもな、まだ帰すわけにはいかないんだよ。


「孫娘はどうなるんだよ」

「なに?」


 釣れたな。


「俺ならあんたの悩みを解消できるぜ」

「……」

 

 少しばかり逡巡したグラハムは、椅子に深く腰を落とした。


「……いいだろう、もう少し付き合ってやる」


 その反応を見て俺はほくそ笑み、立て板に水の如く言葉を紡ぐ。


「あんたが商会を大きくするのは自分の孫娘に多大な財を残すためだ。それは息子夫婦を失った日から、その思いは強くなった。だが孫娘はまだ幼い。一応は部下たちに後の事を託してはいるが、所詮は自分よりも才がない他人。本当に孫と店を守ってくれるのか、一抹の不安を覚えている」


 グラハムは息子夫婦を亡くして寂しいはずだ。

 その忘れ形見の孫娘に対する思いは尋常でないはず。

 

「そこであんたは権力者であるドミナンテに後見人を頼もうとしている。だが奴は御覧の通り、悪逆非道な男だ。そして周りにいる者も碌な奴がいない。だからあんたは何か良い案はないかと今でも模索している。違うか?」


 どうだ! 当たらずも遠からずといったところだろう!?


「……これは驚いた……多少は違うが、見事な慧眼だ……」


 良かった……当たってたよ。


「だがな、それを知ってどうする。貴様には関係のない話だ」

「いやいや大有りだろう」

「……なんだと?」

「爺さんが俺の傘下に入ったら、俺があんたの孫娘の後見人になってやるんだからな」

「なに……?」


 すげえ怪しんでんな……

 

「俺に付けば、爺さんがいなくなった後でも孫娘を商会の会長に据えてやる。そして店も今以上に大きくしてやるよ」

「……」


 グラハムは眉間に深く皺を寄せて、俺を値踏みしていた。


「俺の方がドミナンテよりも遥かにいいぞ。エルテたちが俺を慕ってるのを見て分かるだろう」


 三人の乙女精霊たちも口々に俺を讃える。


「師匠は誰にでも優しいよ」

「ご主人様は弱い者を救って横暴な人をこらしめます!」

「うむ。我が君は最高の男よな」


 例えドミナンテが約束を守って孫娘を保護したとしても、四六時中、目を光らせている訳じゃない。

 あいつの家族はクズしかいないしな。


 対して俺には六人の乙女精霊だ。

 性格的にもビジュアル的にも劣るわけがない。


「確かにドミナンテよりも数倍は貴様らの方がマシだ。だがな、話にもならんわ」


 やはり手強い。

 抑えるところは抑えている。


「根無し草の貴様がどうやって儂の孫娘と商会を守るというのだ」


 爺さんは組織的保護を求めている。

 それも国と言う揺るぎない組織の保護を。

 

 やっぱりあれを言わなければならないのか……

 でないとこの爺さんは落とせない……


「それは問題ない……なぜなら俺は、このオルストリッチを支配するからだ」

「なんだとっ!!?」

「何を馬鹿な事を!!?」

「貴様、何を言っているんだ!!!」


 グラハムに続き、イスタルカやノッドルフまでもが驚愕した。


「ブリエンセニア王国を敵に回すことになるぞ!」

「だろうな。だがドミナンテを倒すとはそう言う事だ」

「ぬう!!!」


 俺の覚悟にグラハムは気圧されるが、直ぐに言葉を返す。


「仮に貴様がオルストリッチを支配したとしよう! さすれば必ずブリエンセニアは貴様らを攻撃するぞ! そうなると、このオルステンは戦火に飲まれ、今よりも危うい場所になる! こうなったら儂の孫娘や商会を守るどころの騒ぎではないわ!!!」


 爺さん粘るな……

 仕方ない……風呂敷を広げるか……


「今はまだ言いたくなかったが、特別に教えてやる」


 少しだけ重みを持たせて言葉を紡いだ。


「俺はこのブリエンセニアと呼ばれる国をも支配するつもりだ」

 

 あーあ、言っちゃったよ、俺。


「なにぃいいいい!!?」

「お前は何を言っているのか分かっているのか!」

「ふざけるのもいい加減にしろ!!!」


 商人たちは再び驚くが、乙女精霊たちはまた違った反応を示した。


「師匠はやっぱり最高だよ!!!」

「ご主人様!!! 私、感激しちゃいました!!!」

「流石は我が君!!! 何と素晴らしい考えか!!!」


 はあ……これでまたこいつらの暴走の燃料を投下しちまった…… 

 でも、ここまで言わないと爺さんは納得しない。


「ブリエンセニア王国との戦争は既に範疇の内だ。そのための策もいくつか用意してある。だからオルステンが戦禍に巻き込まれる事は皆無だ」


 うん、そんな策などありません。


「……小僧……貴様は大馬鹿なのか……? それとも大物か……?」

「さあね、どっちでもいいんじゃねえか?」


 ホント、どっちでもいいよ。


「それで爺さん、どうするんだ? 俺に付くか背くか決めてくれ」


 実を言うと、そんな事よりも今後の乙女精霊たちの動きの方が気になった。

 ……心労が半端ない……


「……儂が申し出を断って、ドミナンテに此度の会議を報告したらどうする?」

「その時は、まどろっこしいやり方はやめて全面戦争だ。うちのパーシヴァリーが漆黒騎士のライオネルを瞬殺した事は知っているだろう。他の娘たちもあいつと同等の力を持っている。そこは先ほどのエルテの剣技を見て分かったはずだ。そして俺も強い。武力でゴリ押しだ」

「……」


 頭の回転が速いのか、直ぐ何かに考え付いたグラハムは、再び俺に問いかけた。


「……なぜ今はそれをせんのだ……」

「このオルステンが火の海になるからだ。俺は領民を助けたいだけなんだよ。支配するといったけど、そんなのは二の次だ」


 本当は支配も領民を助ける事も興味はないんだけどね……

 俺は愛する乙女精霊たちに担がれた小市民なのよ……


「……そうか、分かった……」


 結論は出ましたか?


「……儂は貴様の味方にはならん……」


 なんだと!?


「だが、敵にもならん」


 え? マジで?


「中立だ」


 おお!


「見て見ぬ振りをするというのか?」

「そうだ。その条件で良ければこの取引は成立する」


 これはとんだ儲けもんだ!!!

 あれだけの情報でこの成果!!!

 上出来だろ!!!


 と、ここで俺がはしゃいだら、爺さんに足元を見られて条件が変更されるやもしれん。

 冷静に、冷静に……  


「……分かった……あんたは俺のやる事を邪魔しない、だがドミナンテにも手を貸さない。これを守れば俺があんたの孫娘の後見人になる。それでいいんだな?」

「うむ、取引成立だ」

「……仕方ないか……敵に回るよりはマシだ……」


 よっしゃぁああああああああああああああああ!!!

 これはデカいぞ!!!

 味方にならなくても敵にもならねえ!!!

 この爺さんはオルストリッチ中に店を構える大商人だ。

 ドミナンテに加えてこんな奴を敵に回したくはないからね!!!


 しかし爺さん、流石は一代で商会を大きくしただけはあるな。

 どっちに転んでも自分に被害が出ないようにしている。


「グラハム様! こんな約束してよいのですか! ドミナンテ様にバレた時、どうなるか分かっているのですか!?」

「儂を甘く見るなよ……貴様も知っていようが、フィンゴール商会は高名な傭兵団【泥狩り】を雇っておる。ドミナンテでもそうそう手は出せん。それに儂は、ドミナンテなどに何の貸し借りもないわ」

「そ、そんな……」


 グラハムはノッドルフの言葉など歯牙にもかけず、俺の傍まで来ると厚く握手を交わすのであった。






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