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26.商人ギルド委員会議2

 チェームシェイスは揚々と言葉を紡いだ。


「ジェフリ―にケイン、単刀直入に言わせてもらおう。おぬしら二人が我らに付けば、ジークベルトを如何様に扱ってもよい権利をやろうぞ」

「なに!!?」

「えっ!!?」


 二人は目を剥いて仰天する。


「煮るなり焼くなり好きにするがいいぞ。だが、最後はキッチリと殺すのだ」

「……」

「……」

「特典も付けよう。これからはお前たちを領主の手から守ってやる。無論、家族も含まれておるぞ。どうだ、損はなかろう?」


 何でジェフリーとケインなわけ?


「チェーム。これはどういう事だ?」

「ジェフリーの娘はジークベルトに殺されておる。拷問の末にな」


 なんとまあ……酷い事をしやがる……


「当時、ジェフリーはギルド委員になるためにライバルたちと鎬を削っておってな。だがある日、娘がジークベルトに目を付けられて殺されたのだ。怒り狂ったジェフリーは、己の私財をすべて投げ売り傭兵やら冒険者やらを雇い入れてジークベルトに討ち入りしようとした」


 そりゃあ誰だって切れるわ……


「しかしドミナンテが間に入り、ジェフリーをギルド委員に推薦して丸く収めてしまったのだ。お陰で奴は、ドミナンテの恩とジークベルトとの恨みで葛藤の日々を送っていたという訳よな」


 ……なるほどね……だからジークベルトをこの場に引っ張ってきたのか……

 だとしたら、ケインも同じような境遇か。


「……一応聞くが、拒否したらどうなるんだ……」


 ジェフリーはチェームシェイスを睨みつけた。


「これは強制でも何でもない。別段、断ったからといっておぬしらに危害を加えるつもりはない。普通にお引き取り願うだけだ。それに今日の出来事を領主に告げ口しても構わんぞ」

「……そんな話、信じられるか……」


 今度はケインが疑心暗鬼の目を向ける。


「ご主人様はドミナンテと違って正しい行動をする御方です! 交わした約束は絶対に破りません!」

「アプリコットの言う通り。我が君は例え矮小な者だとしても約束は必ず守る。ただし、交渉が決裂したら、おぬしらは領主側ということで我らの敵だ。今回は見逃すが、次に出会ったときは容赦はせぬ」

「……」

「……」


 黙していたジェフリーがゆっくりと椅子から立ち上がる。


「……ん? おぬしは決断したようだな」


 ジェフリーは俺の前まで歩いてくると、両膝を床に付けて服従の姿勢を取った。


「……トモカズ様……あなたの下に付けば、あのクソ野郎を殺させてくれるのですね……」

「……ま、まあね……」


 ……こいつ本当に商人か?

 すげえ殺気なんですけど……


「……私はあのときドミナンテの誘いに乗った事を今でも後悔している……ギルド委員の席が欲しいために復讐を断念した自分が殺したいほど恨めしい……例え己の身がどうなろうとも娘の仇を討つべきだった……ですが、今まさに機会が訪れました……私はもう迷わない……是非ともあなたの麾下に加えさせてください」

「正気ですか!」

「早まるな! ジェフリー!!!」


 ノッドルフとイスタリカが慌ててジェフリーを止めた。


「うるせえ!!! 俺が今までどんな思いで生きてきたか、お前らに分かるはずがない!!!」

「!!!」


 あまりの気迫に二人は怯んでしまう。


「邪魔が入りました、トモカズ様……話を元に戻しますが、私を配下にして下さるのですか?」

「……う、うん……よろしくね……」


 俺の言葉にジェフリーは悍ましいほどの嗤いを見せた。

 そしてその顔をジークベルトに向ける。 


「ジークベルトぉおおおお!!! ミーナの仇だぁああああァああア!!! ぶっ殺してやるっ!!!」

「ひいいいいいいい!!?」


 ジェフリーが鬼の形相でジークベルトに襲い掛かった。


「待て、そう焦るな」


 しかしパーシヴァリーが彼の前に立ちはだかる。


「なぜ止める!!?」

「ジェフリーとやら、そんな簡単に殺してもいいのか?」

「なに!? どういう事だ!」

「其方の娘は苦しんだのだろう? ならばそれ以上の苦しみをジークベルトに与えるべきではないのか?」

「……そ、そうだな……直ぐに殺したんじゃあミーナに顔向けできない……ありがとう、頭を冷やさせてくれて……」


 納得したその姿にパーシヴァリーは頷くと、再び口を開いた。


「それにまだ決断していない者がもう一人いる」


 ジェフリーが咄嗟にケインを睨みつける。


「ケイン! さっさと決めろ!!! 俺はジークベルトに一刻も早く地獄を見せたいんだ!!!」

「……」


 ケインは目を閉じ逡巡していたが、ジェフリーに急かされると静か瞼を開けて席を立った。


「トモカズさん……私以外の者でもジークベルトに苦しみを与えていいのですか……?」

「……どういう意味……?」

「私には年の離れた妹がおります……彼女はジークベルトに拷問されて心に深い傷を負ってしまいました。あれ以来、家から一歩も出ずに塞ぎ込んでおります……どうか彼女に機会を与えてやってください……自分の過去にけじめをつける機会を……」


 ジークベルト……お前はどれだけ人様に迷惑をかけてきたんだよ……


「我が君の軍門に下るのならば、誰がジークベルトを懲らしめようともこちらは構わんぞ」

「おお、そうですか……ならば私をあなた様方の末席に置かせていただきたい」


 その言葉を聞いたチェームシェイスは俺に目を向け採否を促す。


「……いいよ……まあ、ほどほどに頑張ってね……」

「有り難き幸せ」

 

 瞬間、ケインの顔が復讐の念で醜く歪んだ。


「……ジークベルト様……あなたが悪いんですよ……私のたった一人の家族を甚振ったあなたが!!!」

 

 ……こいつ……大人しそうで柔和な分、怒ったら狂気を感じるよ……


「これでジェフリーとケインは我が君の配下となった。パーシー、あとは任せたぞ」

「了解した」


 パーシヴァリーは頷くと、新しく傘下に加った二人の商人に告げる。


「ケインの妹も参加するとなれば、拷問は後日ということになる。だがこのまま帰っては其方らも不完全燃焼だ。少しだけジークベルトで遊ばせてやるのだ」

「本当ですか!!?」

「有り難い!!!」


 ジェフリーとケインは喜色の声を上げる。


「やめて!!!」


 反してジークベルトは悲壮な顔で叫んだ。


「チェーム。どこか良い場所はないか?」

「うむ。幸いこの料亭には地下室があり、そこには拷問部屋が備えられておる。店の者にでも言って、少し使わせてもらうが良かろうぞ」

「そうか。ならば早速そこへ行こう。二人とも付いて来るのだ」

「喜んで!」

「はい!」


 パーシヴァリーは鎖を無理やり引っ張ると、勇み足のジェフリーとケインを従えて退出していった。


「いやだ! やめて! お願い! 謝るから! 助けてえええええええええええええええええ!!!」


 部屋の外からはジークベルトの悲痛な叫びがこだまするのであった。






「何という事だ……」


 イスタルカとノッドルフは恐々としながらも今の状況を見守るしかなかった。

 しかしグラハムだけは違い、不敵な笑みを浮かべている。


「儂には何を用意してくれる?」

「グラハム様!」

「何を言っているのですか!!!」


 非難する二人にグラハムの鋭い視線が突き刺さった。


「やかましい! 小童どもが!!! 貴様らも商人ならば、目前の事態を冷静に見極めんか!!!」


 恫喝された二人の商人は押し黙る。


「このトモカズとかいう男。ただ単にドミナンテに逆らっているわけではない。ジークベルトを拉致して利用した事から見ても、明確な目的に沿って動いておることは明らかだ」


 ……違うよ爺さん……俺は六人の乙女精霊たちに振り回されているだけだよ……


「無論、儂らにもそれなりの何かを用意しておるのは間違いない」

 

 それに関しては俺も同意する。

 先ほどのジェフリーとケインには、ジークベルトという取引材料を用意していた。

 乙女精霊たちはこの爺さんに対しても何かしら準備しているはずだ。

 そこはちょっと安心かな。


「さあ、提示して見せろ。つまらん物なら承知せんぞ」


 チェームシェイス、この爺に見せてやれ。

 そして仲間にするんだ。


「無い」


 そうか、無いのか。


 え?


「おぬしには何もないぞ」

「なに?」

「おぬしの取引材料などは無いと言っておるのよな」

 

 なんでぇええええええええええええええええええええええ!!?


 用意すべきはこの大商人の爺さんだろうが!!!

 ジェフリーとかケインなんてどうでもいいんだよ!!!


「……ククク……何も用意せずに儂を取り込もうとしおったのか? ハーハッハッ!!! 片腹痛いわ!!!」


 グラハムは大口を開けて笑い始める。


 しかしチェームシェイスからは焦りの色が一つも見て取れなかった。


「愚かな爺よ」

「なに!?」


 グラハムの眉間に皺が寄る。 


「確かに我らには交渉となる手札はない。だが、おぬしと話し合うのは我が君ぞ」

「……どういう事だ……?」


 爺さんも言ったけど、俺からも言わせてもらおう……


 どういうこと?


「我が君の存在が、おぬしを引き込むのだ」


 は?


「おぬしが我が君と対話をすることで、その素晴らしさを体感して我が陣営に下るのだ」


 ……この娘……なに言ってんの……?


「……」


 爺さんも唖然としてるじゃねえか。


「……ククク、面白い……」


 と思ったのも束の間で、グラハムは顔中の皺をさらに深く刻ませて獰猛な表情を見せた。


「未だ嘗て、儂に向かってそんなバカげた事を言う奴などいなかった……よかろう、暇つぶしに聞いてやろうではないか」


 え?

 これってどういう状況なの?


「さあ小僧。儂に何を話す?」


 えっと。


「……」


 完全に俺に丸投げだよね!!!


「どうせ儂の身辺を事細かく調べているのだろう? だったら脅しが効かんくらい知っていよう。さあ、どうやって儂を引き込むのだ?」


 爺さんの事なんて全然知らねえよ!!!

 さっき初めて存在を知ったよ!!!


「……」


 ……俺にどうしろっていうんだよ……


「何を黙っておる!!! ドミナンテに抗う気概のある男かと思っておったが口だけか!!!」


 いやいや口だけって……まだ一言も喋ってないんですけど……


「上辺だけの身のない言葉を並べたとて、儂には通用せんぞ!!!」

「……」


 ……分かったよ、そんなに言うならプレゼンしてやんよ。


 俺も二十年以上、営業と生産管理を熟してきた男だ。

 こんな爺の一人や二人、いやってほど相手をしてきた。


 やってやろうじゃねえか。






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