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25.商人ギルド委員会議1

 確かに俺は、委員会議を開くと言った。

 だがあれは、イスタルカを糾弾するためであって、いま直面している問題の解決策にはなっていない。


「チェ、チェームよ……この後はどうするんだ……?」


 俺は恐る恐る彼女に問い質した。


「段取りの事を心配しておるのか? それならば気にする必要はないぞ」


 ……段取りなんてあるの……? 

 ……どう見ても思い付きで行動しているようにしか見えないんだが……


 そう考えていると、中年男性の声が聞こえてきた。 


「今度は私がお嬢様方にギルド委員のメンバーを紹介させてもらいます」

 

 気分が良いのかパテーション越しに聞こえてくるノッドルフの声は、非常に軽やかである。


「先ずはそちらにいる人物。彼の名はジェフリー・テオマンと言いまして、知識が豊富でとても優秀な商人です」

「ジェフリー・テオマンだ。商人ギルドに身を置く一人として、君たちを歓迎するよ」


 声質からして年齢は三、四十歳くらいか?


「その隣にいるのがケイン・バーク氏。まだ若いですが、商品を見定める素晴らしい目を持っています」

「これから商人仲間としてよろしく頼みますね」


 この男は若いな……まだ二十代かな。


「次はそこに座られる御仁。この御方はグラハム・フィンゴール様と言って、王都でも名が知られる大商人です」

「儂がグラハム・フィンゴールだ。このオルストリッチで商売をしていれば、一度は耳にした事があるだろう」


 今の声だけじゃ分からないが、けっこう歳をくってるな。

 五十歳くらい……いや、六十は過ぎてるか……


「はい。お名前は聞き及んでおります。お会いできて光栄の限りです」 


 エルテもグラハムとか言う奴を知っているのか……有名人なんだな。


「そして最後にご紹介させていただく人物。彼は今、飛ぶ鳥を落とす勢いで商売の幅を広げており、そのすべてが成功を収めた才能あふれる商人です」

「お初にお目にかかります、麗しきお嬢様方。私の名はイスタルカ・ビスロと申します」


 ……こいつがユージスを陥れたイスタルカか……


「困った事があれば何でも相談してください。私で良ければいくらでも力になりますよ。ああ、それからもし派閥を変えたいのでしたら何時でも仰ってください。私が取り計らいますので」

「イスタルカ殿。それは引き抜き行為ですよ」

「冗談です、冗談。それに私の派閥に来てくれとは言っていないのですから、規約には触れていません。ちょっと場を和ませようと思っただけです」

「まったく……イスタルカ殿には困ったものだ」


 パテーションの向こう側から笑い声が聞こえてくる。


 そしてそこから彼らは談笑に入った。


「……」


 ……これで終わり……?

 エルテとアプリコットの顔見せだけ……?

 ……でも、ここで終わってくれた方が俺の気も楽になる。


「実は私たち姉妹から紹介したい人物がいるのです」


 ですよねー、終わるわけないですよねー。


「エルテさん。それは聞いていないのですが……」

「はい。サプライズとしてノッドルフさんには黙っていました。済みません……」

「いやいや、咎めているわけではないのですよ。突然の事で驚いただけです……で、その方はここにきているのですかな?」

「はい」

「どんな人物なのだ?」


 ジェフリーの声だ。まあ、気になるよね。

 俺も誰なのか気になる。


「素晴らしい御方です! 優しくて、包容力があって、とても頼りになります! もし皆さんがあの御方と上手くお付き合いが出来れば、このオルストリッチ領……いいえ、ブリエンセニア王国でも名を馳せた商人になることは間違いなしです!」

「アプリコットの言う通りです。その御方の信頼を得れば、これ以上ない富を齎してくれます」


 その言葉で場に緊迫感が漂う。

 それはパテーションを隔てて聞いていた俺でも感じ取れた。


「エルテさんにアプリコットさん……ここにいる者は皆、それなりの地位と権力を持った一角ならぬ人たちですよ。いくらノッドルフさんのお気に入りでも、いま言った言葉が嘘なら商人にとっての一番の武器、信用を失います」

「ケインさん、ご忠告痛み入ります。確かにあなたの仰る通りです。しかし私たち姉妹は彼の御方を紹介するに当たり、例え皆様方の信用を失ったとしても後悔は致しません」


 ……まさかとは思うが……


「ふむ……そこまで言うのなら、その方をご紹介していただきましょうか」

「私も興味が沸いてきた。優秀な姉妹にそこまで言わせる人物を是非とも拝見したい」

「今すぐ連れてこられるか?」

 

 ……みんな喰い付いてきたよ……


「有難うございます……ではさっそく紹介させてもらいます……お願いします!」


 エルテの言葉でチェームシェイスが席を立ち、パテーションを壁際へと取り払った。

 分かたれた部屋は本来の広さを取り戻して、俺の姿が露わになる。


「あそこに座っている男性……あの方こそ私たち姉妹が紹介したい御人です!」


 全員の視線が一斉に俺へと注がれた。


「……」


 やっぱり俺だったのね。


「……」


 こらぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!


 指名手配の俺を紹介してどうすんだよ!!!

 お前ら頭おかしいんじゃねえのか!!?

 絶対にやっちゃいけない事だろう!!!


「……黒髪黒眼……どこかで見た事が……」

「……ま、まさか……?」

「指名手配中のトモカズに似ている……?」

「なんだと!?」


 二人の男が俺の正体に気づく。

 うん、あいつらがジェフリーとケインだね。


「直ぐに憲兵を呼ばなければ!」


 ノッドルフが慌てて部屋から出ようとするが、透かさずエルテが扉の前に立ちはだかった。


「それはダメだよ」


 急に彼女の口調が変わり、微かだが殺気が漂う。


「エルテお姉ちゃんの言う通り、おかしな真似はしないでください!」


 アプリコットが何処から取り出したのか、荘厳な弓に矢を番え、商人たちに狙いを定めていた。


「エルテさん! アプリコットさん! これは何のおつもりですか!!!」

「いやだなあ、ノッドルフさんは。これからが本当の商人会議なのに」


 エルテの手にも物々しい大剣が握られている。


「なっ!? そんな物騒な剣、何処から出した!!?」


 あれは斬世大剣!

 エルテの奴、とんでもない物を出しやがった!


「一応言っておくけど、いま退出したらこうなるよ」


 彼女はゆっくりと大剣を振るった。

 するとエルテとノッドルフの間に空間の断層が出来る。


「なっ!? なっ!? 何ですかっ!!? これはっ!!?」

「空間を斬ったんだよ」

「えっ?」


 信じられない事象にノッドルフは驚き、他の者も目を見開いて硬直した。


「……エルテ、脅しはそこまでにして元に戻せ……」

「はい。師匠」


 再び彼女が剣を振るうと、断層が徐々に近づき元に戻る。


「これで分かったであろう。そこにいるエルテとアプリコットは我が君、トモカズ様の配下」


 チェームシェイスがツインテールを揺らめかし、言葉を紡ぎながら俺の隣までやって来た。

 そしてギルド委員たちを愛らしい眼で睥睨する。

 

「我の名はチェームシェイス。エルテとアプリコットと我は、おぬしらが【撲殺聖女】、【銀髪の戦乙女】と呼んでいる少女の同胞よ」

「みんなそんなに緊張しないで。ボクたちはただ話に来ただけだからさ。大人しくしていれば危害は加えないよ」

「そう言うことです。騙してごめんなさい」


 お前たち……暴走もほどほどにしてくれ……

 気づいた時には走り出してるから止めようがないじゃないか……


「……信じられん……エルテとアプリコットが大罪人トモカズの配下だなんて……」


 ……ノッドルフも可哀想に……

 せっかく優秀な商人を自分の派閥に入れたかと思ったら、お尋ね者の俺の仲間だったんだからな……運がなかったね……


「こんな事なら護衛を連れてくればよかった……ここがぺリア・ロ・サイモンであったから油断した……」

「ジェフリー。お前の目は節穴か?」

「……え? どういう事ですか……? グラハム様……」

「お尋ね者のトモカズが堂々とこの場にいる。既にぺリア・ロ・サイモンは奴らの支配下だと考えた方が自然だ」


 その言葉で四人の目が大きく見開く。


「……という事は……蝋燭会がトモカズ一味に与していると……?」

「いや、儂の情報網には引っかかておらぬ……恐らくはあの女狐を飼いならした……といったところか?」


 グラハムの慧眼にチェームシェイスの頬が緩んだ。


「さすがは大商人グラハム・フィンゴール……確かにイザイラは我の僕」


 その名を聞いたジェフリーが叫ぶ。


「あの三幹部の一人を傘下に加えたのか!!?」


 俺をほったらかして話が進んでますよ……


「チェーム。イザイラって誰?」

「魔術屋で我にちょっかいを出してきた女。あ奴がイザイラで、蝋燭会の幹部らしいぞ」


 そういや蝋燭会なんてあったな……完全に忘れてたよ。

 あの美女店員は幹部だったのか……


「この高級料亭ぺリア・ロ・サイモンは、裏では蝋燭会と繋がりがあるイザイラの息が掛かった店。我はあ奴を通じてこの場を手配したのだ」


 チェームシェイスは商人たちへと向き直る。


「さて、我が君は暇ではない。そろそろ取引を始めようではないか」

「……取引……?」


 ノッドルフは眉根を寄せて怪しんだ。


「先ずはジェフリーとケイン。おぬしらから始めようか」


 名が出た当の本人たちは咄嗟に身構える。


「フフフ、そう緊張するな……パーシヴァリー、もう入って来てもよいぞ」


 その言葉に扉が開き、白銀の鎧を身に纏った銀髪の美少女が姿を見せた。


「【銀髪の戦乙女】!!!」


 誰もが警戒する中で、彼女は何食わぬ顔をして室内へと入って来る。


「なっ!!? あれは!!!」


 次の瞬間、商人たちは信じられない光景を目の当たりにした。

 パーシヴァリーの手には鎖が握られており、その先には首輪を付けて犬のように従うジークベルトが現れたからだ。


「ジークベルト様!!!」

「何という事だ!!!」


 ノッドルフとイスタルカが驚愕する。


「……も、もしかして……ノッドルフ……? ……イスタルカ……?」


 生気を失ったジークベルトの目に希望の光が灯った。


「……お、お、俺を助けろ!!! 欲しい物はなんだってやる!!!」

「馬鹿か、お前は」


 間髪入れずにパーシヴァリーの蹴りが飛ぶ。


「ぎゅビゃあっ!!!」


 つま先が顔面にめり込んで、ジークベルトの鼻から大量の血が滴り落ちた。


「……ウ゛う……うううう゛……」


 奴は泣きながら蹴られた箇所を両手で押さえている。


「誰が勝手に喋っていいと言った。次に同じようなことをしたら、其方の唇を削ぎ落とす。わかったら黙ってろ」

「……う゛う゛……」

「返事は?」

「びゃいっ!!!」


 うん……調教済みだね……


 ノッドルフとイスタルカなんて蒼褪めてるよ……

 ジェフリーとケインは何だか複雑そうな表情をしているな……

 グラハムは眉一つ動かしていないぞ。流石は大商人だな。


「取引材料も揃ったところで本題に入ろうぞ」


 小悪魔的な笑みを見せるチェームシェイスは嬉々として会議を進行させるのであった。






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