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24.領主の謀計

 その日の夕食時。

 乙女精霊たちと食卓を囲む中で、俺はエルテから新たな報告を受けていた。


「師匠。ドミナンテは自分に逆らう者を徹底的に潰す気だよ」

「どういう事だ?」

「商談が終わって商人ギルドに寄ったとき、みんな噂してたんだ……今日、一つの村が種籾ごと全財産没収されたって……」


 ……おいおい、種籾もだと? 来年どうすんだよ……ひでえことしやがる……


「一体全体、何をやらかしたんだ?」

「その村はアルタ村って言って、以前から税を誤魔化してたんだ」


 まあ、酷いところで九公一民らしいからな……

 ……ちょろまかす村が一つや二つ出てきてもおかしくはない……


「領主側も税を誤魔化しているのは分かってたんだけど、アルタ村は上手いこと隠していたから証拠が掴めなかったんだ」


 話の先が読めてきたぞ。


「だから領主側は師匠をネタにして脅してきたんだよ」

「なんて言いやがった?」

「師匠がアルタ村の出身だから罪を償えって。全財産出さないと村人を皆殺しにするって脅したらしいよ」


 強引すぎやしないか……


「もちろんアルタ村の人たちは師匠なんか知らないって突っぱねたんだけど、武力をタテにされて従うほかなかったって」


 ピアの推測通りだ。

 俺を口実にして気に入らない奴を弾圧している。


「他にもあと二つの村が師匠と関わりがあるって疑いを掛けられてるんだ。近々同じことが起こるって専らの噂だよ」


 やってくれるぜ、ドミナンテの野郎。


「主様。このままでは領民の怒りが主様に向いてしまいます」

「マスター。これは良くない傾向だ……民衆の支持を得られなければ、私たちの今後の活動に支障をきたす。それにマスターがこの地を支配した際の妨げにもなる」

「どうなされるおつもりですか? 今のわたくしたちの人数ではすべての村を助けるのは困難です」

「うむ、我もそう思う。それにもし、村人を助けられたとしてもだぞ。その行為が我が君と繋がっている確かな証拠となる」

「村の立場がますます悪くなってしまいますね」


 乙女精霊たちの言う通りだ。

 これではゼクトの時と一緒のパターンじゃねえかよ……

 

「トモカズ様……どうなさるおつもりで?」


 ……ユージス……

 フレイの事で心配していたけど、少しは元気になったようだな。

 まだちょっと死にそうな顔をしてるけど、あの調子だと大丈夫だろう。


「……ここらで一つ、対抗策を講じないと後手に回るばかりです……」


 分かっている。

 だがどうすればいい……そんなに直ぐには良い方法なんて思いつかねえよ……

 ていうか、もとをただせば俺はただのサラリーマンだぞ。

 別段、特殊な力があるでもなく、ズバ抜けて頭が切れる訳でもない。

 こんなモブ野郎の俺がそうポンポンと良案を出せるわけねえよ。

 

「……」


 くっ!

 乙女精霊たちが期待に満ちた目で俺の言葉を待っている……


「……必ず手は打つ……」


 ……はぁ……どうすればいいんだよ……

 

「……ん……?」


 どう言う訳か、六人の美少女たちの瞳が先ほどよりも一段と輝き始めた。


「さすがは主様! 決心が着かれたのですね!」

「マスターよ! 遂に動かれるのだな!」

「旦那様の素晴らしい知略をあの愚かな方々に見せつけてくださいませ!」

「奴らは知らぬ間に我が君の手の上で踊らされることになろうぞ!」

「師匠がちょっと本気を出せば、あいつらなんてイチコロだよ!」

「ご主人様の凄さがまた見れるんですね!」


 ……何なの、こいつら……

 なんで急に元気になるの?

 まったく意味わかんねえ。

 まだ何も決まってないでしょうに……


 ユージスを見てみろよ。

 あいつなんて、え、何が? って顔してんじゃねえか。

 たぶん頭の中は、?で一杯なんだろうよ……


 ……いかん、頭が痛くなってきた……


「……今日はここまでにしよう……」


 知恵熱が出始めた俺は、足取り重く自分の寝室へと向かった。






 次の日が来た。

 俺は昨晩からずっと打開策を考えていたが、何も思いつかなかった。


 その日は乙女精霊たちが慌ただしく動いていたけれど、そんな事を気にかけている余裕はなく、村を助ける方法がないか知恵を絞っていた。

 しかしそう簡単に妙案が閃く筈も無い。


 こうして無為に一日が終わっていった。






 さらに次の日になった。

 

 俺は一人寂しく朝食を摂りながら考え事をしていた。


 まずい……

 完全に思考の迷路に嵌っている。

 これでは何も思い付かぬまま無駄に時間が過ぎるだけだ。


 って、そういやみんな何処に行ったんだ?

 俺が起きた時は朝食だけが用意されていたから、何も思わず食べていたんだけど、ユージスすらも見かけてないぞ……?


「我が君よ、朝食は済ませたか?」


 そこでチェームシェイスがひょっこりと姿を現した。


「チェーム、みんなはどうした?」


 俺の言葉に彼女は首を傾げる。


「何を言っておる、我が君よ。惚けてないで、早く出かけようではないか」

「え? どこへ?」

「どこへも何も、決まっているではないか。さあ、エルテとアプリコットが待っているぞ」


 そう言うと、チェームシェイスは俺だけに〈遭遇希薄エンカウント・ディリュート〉を施した。

 そして俺の手を取り表へと出る。


 するとそこにはこじんまり(・・・・・)とした二頭立ての箱型馬車が待機しており、無理やりその中へと押し込まれた。


「馭者よ、頼んだぞ」


 チェームシェイスも乗り込んで、馭者に指示を出す。


「畏まりました、お嬢様」


 促された馭者は軽く手綱を引くと、ゆっくり馬を走らせた。


 え? なに? なんなのよ? どこ行くの???


 混乱している俺に、チェームシェイスがニヤリと笑って口を開く。


「我が君よ、駒も揃った。これから楽しみだ」


 駒? 楽しみ? 何するの???


「チェーム。何が起こるんだ?」

「ん? 何を言っているのだ我が君よ。以前、我が君が立案した鬼謀を実行するに決まっているではないか。我をリラックスさせるために冗談を仄めかすのは分るが、心配は無用ぞ。だがそんな優しい我が君が好きなのだがな……」


 チェームよ、お前の恥ずかしがるその姿はとっても可愛い。

 しかし今は見惚れるよりも優先すべき事がある。

 

「……」


 いったい何なんだよ!

 俺が立案した鬼謀!?

 それは何時の話だ!

 まったく身に覚えがねえ!


 しかもチェームシェイスのあの口振り。

 完全に俺が理解していると思っている。


 ……いまさら突っ込んで聞きにくいよ……






 三十分後、馬車が停止した。

 どうやら目的地に着いたらしい。


 結局のところ、何処へ何をしに行くのか尋ねる事が出来なかった。


 ……所詮、俺はそんなものさ……


「さあ、我が君よ。降りてくれぬか」


 チェームシェイスに満面の笑みで促された俺は、足取り重く馬車から降りる。


「……ここ……どこ……?」


 眼前には豪華ホテルを思わせる建物が広大な敷地に建っており、圧倒的な存在感を放っていた。


「我が君よ。ここはオルステンで最も有名な高級料理店ぺリア・ロ・サイモン。やんごとなき者や他国の者を招くときにも使われる由緒正しき料理店だそうだ」


 ……ますます訳が分かんねえ……ここで何をするんだよ……

 メシ食って帰るだけじゃないって事だけは分かる……

 

「お待ちしておりました、チェームシェイス様。ささ、どうぞこちらへ」


 門前では執事服?を身に纏った一人の男が俺たちを出迎えていた。


「うむ、ご苦労。では我が君よ、参ろうぞ」


 俺とチェームシェイスは執事らしき男に案内されて、敷地内を歩いて行く。

 庭では美しい色とりどりの花が咲き乱れており、俺たちを出迎えているように見えた。

 

 ガーデニングに金掛けてんなあ……


 そんなふうに考えながらしばらく歩いて行くと、精緻な浮彫細工(レリーフ)で誂えられた荘厳な扉の前までやって来る。

 すると扉が俺たちの来訪を祝福するかのように、自動的に両側へと解放された。


「どうぞ。中へお入りください」

「おお!」


 建物に足を踏み入れた俺は思わず感嘆の声を洩らしてしまう。

 屋内では素晴らしい芸術品の数々が異彩を放って並べられていたからだ。

 しかしそれらは上品に配置されており、まったく嫌味を感じさせない。


 ……こんな所へ来て金は大丈夫なのか……?


「こちらでございます」


 心配する俺を余所に、再び執事は案内を始めた。

 廊下を歩く最中でも、数ある美術品が俺たちの目を楽しませてくれたのは言うまでもない。


 まあ、凄いのは凄いのだろうけど、全く価値が分かんねえ……


「着きました。こちらがエレガンチックの間でございます」


 執事が足を止めたその部屋は、三つの扉がほどほどの間隔を開けて設置されていた。

 恐らく会議室くらいの広さはあるだろう。


「我が君よ。部屋に入るときは音を立てず、室内では小声で話すようにお願いする」


 なんで? まったく意味が見えないよ。


 だが折角ここまで来たんだ。

 言う通りにしてやろうか。


「……分かった」

「うむ。ではあそこから入るぞ」


 微笑むチェームシェイスと共に、俺は一番奥の扉から静かに部屋へと入った。


「……うん?」


 室内は煌びやかなパテーションで区切られており、俺たちが入った個所は部屋の広さからして四分の一くらいの場所である。

 残りの四分の三ほどの室内は、多数の人の気配を感じた。


 ……いったい何が始まろうってんだよ……  


「そこに座られよ」


 丸机と椅子が二つ備えられている。

 俺は訝しみながらも椅子に座り、反してチェームシェイスは楽し気に腰を掛けた。


「これでも飲んで、ゆっくりとご拝聴と行こうではないか」


 机の上には一本のワイン瓶と二つのグラスが置かれてある。

 彼女は瓶を手に取ると、グラスにワインを注いだ。


「乾杯をしようぞ」


 言われるがままグラスを持ち、チェームシェイスと小さく乾杯をする。


 ――キン――


 ……なんなの……?

 

「我が君よ、始まるぞ」


 チェームシェイスの言葉と同時に、パテーションを隔てた向こうの部屋で誰かが入る気配がした。

 そして間髪入れずに囁き声が耳に届く。


「……噂に違わぬ美人だ……」

「……これはこれは……驚きました……」


 直後、今度は男性の声がはっきりと聞こえてきた。


「皆さん。此度は忙しい中、わざわざ御足労いただき誠にありがとうございます」


 ……この声……どこかで聞いた事があるぞ……


「急な呼び掛けにも関わらず馳せ参じた皆さんには、とても感謝しております」


 思い出した! ノッドルフの声だ!


「あれだけの心付けを頂いては開かん訳にはいきますまい」


 ……この声は初めて聞くな……


「いやいや。それは私ではなく、この美人姉妹の誠意ですよ」


 ……美人姉妹……?


「ノッドルフさんが羨ましいですなあ。こんな才ある若者を派閥に入れる事が出来ただなんて。しかも美人姉妹ときたもんだ。彼女たちを見れただけでも招集を受けた甲斐があったってもんですよ」


 ……招集……?


「私もそう思いますね。たぶん皆さんも噂の美人姉妹を一目見たかったから、会議を開くのに賛同したんじゃないんですかね? 少なくとも私はそうです、ハハハ」


 ……会議……?


「ではそろそろ始めましょうか。二人とも、自己紹介をお願いします」


 ……まさか……


「初めまして、ギルド委員の皆様方。私の名はエルテと申します。此度は私たち姉妹のために足を運んでいただき感謝しております」


 ……エルテの声だ……


「そしてこちらが妹のアプリコットです。さあ、アプリコットも皆様にご挨拶を」

「ただいまお姉ちゃんからご紹介に与りましたアプリコットです! 至らない点があるかと思いますが、ご指導いただければ嬉しく思います!」


 ……アプリコットの声だ……


「……ほう……美しいだけでなく礼儀も備わっている……」

「……それに何とも心地よい声だ……」

「……これで商才もあるのだから、天は何とも選り好みをする事か……」


 ……招集……会議……そして商人ギルドの委員たち……

 ここから導き出されるワードは一つしかねえ…… 


「……」


 委員会議だああああ亜あああァあああああアアア゛ああああああああア!!!


 今この場で開かれているのは間違いなく商人ギルド委員会議!!!

 なぜこのタイミングで実行する!!?


 俺は咄嗟にチェームシェイスを見た。

 すると彼女は誇らし気な表情を浮かべて首を縦に振る。 


「……」


 なにドヤ顔で頷いてんだ!!!


 こいつらまた暴走しやがった!!!

 いつの間に仕組んだんだ!!? 

 この後ちゃんと考えてんの!!?

 俺もう知らねえよ!!! 






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