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23.冒険者ギルドの災難

 目的地へ辿り着いた俺とピアは、少し離れた屋根の上から身を屈めて様子を窺った。


「こりゃまた大事になってるな……」

「はい……危険な状況です……」


 ギルド前では銀の鎧を着た多数の騎士と冒険者たちが睨み合いをしており、まさに一触即発の状態であった。


「ゼクトを出せ!」

「だから何度も言ってんだろうが! ゼクトさんは今いねえんだって!」

「そんな言い訳が通るとでも思っているのか!」

「言い訳も何も、居ねえもんは居ねえんだよ! そもそもゼクトさんはトモカズとは何の関係もねえ!」


 必死に言い返す冒険者に騎士たちは辟易としていた。

 

「もういい、これ以上は時間の無駄だ。実力行使に出る」


 そう言うと、騎士たちは次々と剣の柄に手を掛ける。


「……てめえら……いい度胸してんじゃねえか……やるってんならやってやる……」


 冒険者たちも殺気を出して、それぞれの得物を握り始めた。


「待ってください!」


 高く澄んだ声が響き渡る。

 冒険者たちの合間を縫って、栗毛の若い女性が矢面に立った。


「サブマスターのルナリーか……どうでもいいが、早くゼクトを出せ」


 サブマスターって言えば、冒険者ギルドにおいて二番目に地位が高い役職だよな。

 ギルドマスターはどうしたんだ?

 

「旦那様。ゼクトがギルドマスターです」


 訝しんでいる俺に、ピアが説明してくれた。


「え? そうなの? あいつ冒険者じゃないの?」

「旦那様のご推察の通り、彼は【白鷹】という名のパーティーのリーダーを務める冒険者です」


 ん? どういうこと?


「ゼクトは一風変わった人物でして、冒険者をしながらギルドマスターも兼任しています」


 ああ、なるほど。


 だから騎士たちはゼクトを出せと言ってるのか。

 まあ俺が言うのもなんだけど、奴は当事者だしね。


 それに組織の長で現場もよく知っているから、冒険者たちの信頼が厚いのも当然か。


「騎士様方! ギルドマスターは私用で出かけているのでこの場にはおられません! このことは必ず報告して後日出頭させますので、今日はお引き取り願いませんか!?」


 ルナリーが必死に言い繕うも、騎士が折れる事はなかった。


「それはならん。上からのお達しで、どうしてもゼクトを引っ張って来いとの厳命だ」

「おい! いない人間を出せっていう方が無理な話だろう!」

「そうだ、そうだ!」

「後から出頭させるってサブマスターも言ってんだ! 今日は帰れ!」


 冒険者たちがルナリーを援護する。


「ならばこの場にいる者を皆殺しにする」

「えっ!!?」


 とんでもない言葉にルナリー以下、冒険者たちの顔が見る間に蒼褪めていった。


「ゼクトが居ようが居まいが、ギルド側が奴を出さなければ皆殺しにしろとの命令だ」

「そんな横暴な!」

「横暴も何も命令だ!」


 騎士たちは俄然やる気のようで、殺気を伴い全員が一斉に抜剣する。


「こんな奴らに殺されてたまるか!」

「いい加減お前らの悪行にムカついてたんだよ!」

「そうだ! もう堪忍ならねえ!」


 負けじと冒険者たちも得物を抜き放った。


「皆さん! どうか剣を収めてください、お願いします!!!」


 ルナリーが双方の間に入って戦闘を止めようとする。


「邪魔をするな! 先ずは貴様から死ね!!!」


 しびれを切らした騎士の一人が容赦なく彼女に剣を振るった。


「ルナリーちゃん!!!」

「サブマスター!!!」


 冒険者たちが叫ぶ中で、研ぎ澄まされた刃が非情にも彼女を襲う。


 ところがであった。

 その凶刃がルナリーに届く事はなかった。


 いつの間にか、眉間に傷のある男が彼女の前に佇んでおり、襲い掛かる剣を素手で掴んでいたのだ。


「ゼクト!!!」

「ゼクトさん!!!」

「ギルドマスター!!!」

 

 おお、ゼクトの奴。タイミング良すぎだろ。

 ああ言うのを主人公体質っていうんだろうな。


「大丈夫か? ルナリー」

「ギルドマスター!」


 ルナリーの頬が朱に染まる。


「くっ! ゼクト……どこから現れやがった……」

「お前、丸腰の女の子に剣を向けるなんて、騎士としてどうなんだと思わないのか?」


 ゼクトは掴んでいる剣を手放すと、騎士に侮蔑の目を向けた。


「う、煩い!」

「ホント、お前らには矜持ってもんがないよな……」


 その言葉に騎士たちは苦虫を噛み潰したような悔しい表情を浮かべる。


「そんな顔をするんだったら、端から正しい行動をしたらどうだ」

「ぐ……」


 何も言い返せない騎士たちに、ゼクトは肩を竦めると本題に入った。


「で、結局のところ何しに来たんだ?」

「き、貴様には出頭命令が出ている! 大人しく俺たちに付き従ってもらうぞ!」

「は? どういう事だ? 俺は何も悪い事なんてしてないぞ?」


 首を傾げるゼクトに冒険者の一人が口を開く。


「あいつらいちゃもん(・・・・・)を付けてるんです! ゼクトさんがトモカズと繋がってるって疑ってるんですよ!」

「……そう言う事か。相変わらず突っ掛かってくるねえ……」


 理由を聞いたゼクトは慌てる様子もなく騎士たちに言い放った。


「いいぜ、付き合ってやるよ」

「なに!?」

「俺を連行しろと言ってんだ」

「ギルドマスター!」

「ゼクトさん!」


 思いがけない言葉にルナリーと冒険者たちが心配の声を上げる。


「大丈夫だ。俺が行けばこの場は収拾がつく。だから全員、得物を収めろ」

「……ギルドマスター……」

「分かりました……ゼクトさん……」


 ゼクトの思いに応えて冒険者たちは得物を収めた。

 しかし騎士たちは剣を握ったままで険しい視線を向けている。


「どうした。一緒に行ってやるんだ。さっさと剣を収めろよ」

「……貴様、俺たちを舐めやがって……」


 あいつら、先ほどのゼクトの言葉に腹を立てているな。 

 逆恨みもいいところだ。


「ゼクトを殺せ!!!」


 怒りに任せた騎士たちがゼクトに襲い掛かった。


「てめえら、何考えてんだ!」

「ふざけんじゃねえぞ!」


 憤った冒険者たちが駆け出そうとするが、ゼクトがそれを制す。


「お前たちは手を出すな、俺一人で十分だ」


 そう言うと、迫りくる剣を半身になって躱し顔面に拳を放った。


「ぐう゛ぇ!」


 騎士は呆気なく昏倒して地に倒れる。


「貴様!!!」

「許さんぞ!!!」


 今度は四方向からそれぞれの軌道を描いて剣が迫った。


「そんなへっぽこ剣じゃあ掠りもしねえぞ」


 ゼクトは卓越した足運びですべての剣を躱すと、四名の騎士、各々の急所に的確な打撃を与える。


「ぎゃ!」

「ごあっ!」

「ぐぶぅ!」

「ぼほっ!」


 まさに一瞬。

 四名は立ちどころに地面へと沈んだ。


「な、な、なんなんだ!!!」


 強者の動きを目の当たりにした騎士たちは、思わず足を止める。


「戦闘中に狼狽えてんじゃねえ。そんなんじゃあ、直ぐに死んじまうぞ」


 透かさずゼクトは躊躇する彼らに吶喊した。


「くそがっ!!!」


 騎士たちは咄嗟に身構えるが、既にゼクトは彼らに肉薄している。


「遅い」


 ゼクトの正確で鋭い貫手が次々と騎士を撃破していき、あっというまに十名以上の騎士すべてが彼の前に屈服した。 


「さすがはゼクトさん!」

「ゼクトは頼りになるぜ!!!」


 冒険者たちが称賛の言葉を贈る。


「準備運動にもなりゃしねえ」


 すげえ……剣を抜かずにあれだけの騎士を簡単に制圧しちまった。

 メチャクチャ強いじゃねえか……

 

 冒険者たちの間では勝利ムードが沸き起こる。

 しかしそこで、彼らに水を差すような言葉が聞こえてきた。


「おいおい、派手にやってくれたなあ」


 声が聞こえた方角からは、黒い鎧と黒の外套を纏った四名の騎士が、堂々とした佇まいで歩いて来てる。

 その背後には、三人の男たちを筆頭に武装した傭兵らしき集団が追随していた。


「俺たちが来るまで手を出すなと言っただろう。お前たちではゼクトには勝てん」


 一人だけ赤黒いマントを羽織った漆黒騎士が、地面に蹲っていた騎士に言葉を投げる。


「……も、申し訳ありません……」


 場が不穏な空気に一変し、全員に緊張が走った。

 

「くそっ……マッテオにガインツ兄弟かよ……」


 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ……


「旦那様。あの赤黒の騎士外套を羽織っている騎士が、新たな副団長に任命されたマッテオです」

「副団長はレーヴェじゃなかったのか?」

「彼は前回の件で降格になりました」


 ジークベルトを守り切れなかったから責任を取らされたか。


「ピア。後ろにいる傭兵はなんだ?」

「彼らは傭兵ギルドの方々で、先頭にいる三人は傭兵ギルドの長、ガインツ兄弟です。わたくしが調べた限りでは、実力は相当なものかと」


 あのノッポとチビとデブがか……

 おいおい……これはまずい展開じゃないのか?


「マッテオか……副団長になったんだってな」

「まあな。お前としてはレーヴェの方がやりやすかっただろうが、残念だったな」


 二人は互いに気後れする事なく堂々と言葉を交わす。


「それでゼクト、どうする? さすがに俺たちを相手にするのは分が悪いと思うが?」

「だから俺は最初から戦う気なんてねえよ。出頭するって言ってんのに、何を血迷ったのかそこの騎士たちが襲い掛かって来たんだ。ちゃんと躾けとけ。お前の管理能力を疑うぞ?」


 その話にマッテオは、殺気に満ちた目で地に横たわる騎士たちを睨みつけた。


「……貴様ら……俺に恥を掻かせやがって……」

「マッテオ様! ……も、申し訳ありません……」


 彼らの遣り取りに、ゼクトは肩を窄めて口を開く。


「内輪揉めは後にしてくれねえか?」

「なに……?」

「さっさと連れていけよ。いつまでもギルド前に居座られたんじゃ迷惑だ」

「……いいだろう……おい、ゼクトを連れていけ!」


 二名の漆黒騎士が挟むようにゼクトの隣に移動して、彼の腕を掴み連行していく。


「ギルドマスター!!!」

「ゼクトさん!!!」


 ルナリーや冒険者たちが不安げな表情を浮かべた。


「大丈夫だ。直ぐに帰って来るからよ。みんな、俺がいない間はルナリーを助けてやってくれ」

「つべこべ言わずさっさと歩け!」

「もうちょっと優しくエスコートしてくれよ。そんなんじゃ女にもてねえぞ」

「うるさい!」


 ゼクトは逆らう様子も見せず、漆黒騎士たちに連行されていった。


「旦那様。よろしいので?」

「……」


 ……俺と絡んだ事でこの状況を招いたからなあ。それにゼクトは親切にしてくれたし……


「……俺が出れば、ますます疑いが掛けられちまう。ここは成り行きに任せよう……だが、早いうちに何とかしないとな……できれば冒険者ギルドと連携を取りたいところだ」

「さすがは旦那様。わたくしもそれが一番良い選択かと思います」


 助けてやりたいが事態の悪化は避けたい。

 ゼクト。済まんが辛抱してくれ。






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