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22.妻の行方

 ドミナンテが戻ってきてから四日が経過した。

 

 奴はアンドレイの葬儀を大々的に執り行うと、スラム街を重点において大規模な捜索を開始する。

 無論、市街でも多くの兵士たちが躍起になってジークベルトを探していたため、ほとぼりが冷めるまで俺は大人しくしていた。


 しかし〈遭遇希薄エンカウント・ディリュート〉を見破る奴がいるとは思わなかった。

 この世界でそこまで脅威を感じる者と遭遇した事がなかったから、最近は油断していたよ……


 ……これからは気を引き締めていこう……

  

「主様、お茶をどうぞ」


 考えに耽っていると、セラーラがお茶を淹れてくれた。


「ありがとう、セラーラ」


 彼女もまたソファーに座り、自分のグラスに上品良くお茶を注ぐ。


 俺とセラーラとパーシヴァリー、そしてユージスは、リビングでゆったりとした時間を過ごしていた。

 他の乙女精霊は各々の活動のため外出しいている。

 今は兵が多いいからあまり目立った行動はできないけどね。


 それにしても、残っているのは見事に手配組だな。

 ユージスはちょっと違うけど、こいつもイスタルカに狙われているから似たようなものだ。

 だから決して俺たちだけ怠けている訳じゃないよ。


「……奴ら本格的に俺たちを探し始めたな……でも何か引っ掛かるんだよなあ……」


 俺は奴らに対して何処か違和感を感じていた。


「主様。この大々的な捜索は、私たちの動きを制限させているように思えます」


 なるほど。

 そういう考えもあるか。

 だったらこちらから何か仕掛けた方がいいのか?


「旦那様、ただいま戻りました」


 ピアが音もなくリビングに入ってきた。


「お帰りなさい、ピア」

「お帰り、ピア」

「ピアさん、お疲れさまでした」


 セラーラとパーシヴァリーとユージスが笑顔で出迎える。


「どうだピア。何か変わった事はあったか?」


 彼女はちらりとユージスを見た。


「……はい……ですがここでは……」


 イスタルカについて何か掴んできたな。

 しかしあの仕草。ユージスにとっては悪い報せのようだ……


「ユージス。今からピアが報告をするが、どうやらお前の妻の事みたいだ。もしかしたら残念な結果かもしれない。それでも聞くか?」


 こいつの嫁さんは借金のカタとしてイスタルカに取られている。

 それが一年前だから、今はどうなっているのかさっぱり分からない。

 なので俺は、イスタルカについて調べさせると同時に、ユージスの嫁さんについても調べさせていた。

 

「……大丈夫です……覚悟はできています……」

 

 厳しい表情のユージスは、こぶしを強く震わせ腹を括る。

 

 まあ、当然だわな。

 夫なら自分の嫁さんが今どうしているのか知りたいもんな。


「ピア、話せ」   

「畏まりました」


 俺の許可が出た事で、ピアは報告を始めた。


「先ずはイスタルカの身辺から報告させていただきます。彼はユージスさんから奪った販路を元手に手広く事業を展開し、莫大な富を得ております。そしてその財を使ってドミナンテに近づき権力も手にしております」


 ……悪事の匂いがするところには、絶対にドミナンテが絡んでるよ……


「さらに彼は、潤沢な資金に物を言わせてギルド委員の一席を手に入れております」


 それはエルテからも聞いている。ユージスが委員を抜けたあと、その後釜にイスタルカが収まったと。

 そして奴とノッドルフが、ドミナンテと密接な関係にあると。


 きっと裏ではあくどい事やってんだろうね……


 話を聞けば、他の委員もドミナンテの顔色を窺っているとか何とか……


「私生活も派手なようです。イスタルカは妻と六人の愛人を抱えており、豪遊三昧の生活を送っています」


 そりゃまあ、なんともお盛んなことで……


「……」


 くそが! 羨ましいぞっ!


「ですが、その愛人の中にフレイさんの名は有りませんでした」


 フレイとはユージスの嫁さんの名だ。


「えっ? でしたら私の妻はいったいどこに!?」


 ユージスの顔から血の気が引いていく。


「……ここから先は大変申し上げにくいのですが……」


 ピアが俺に視線を向けて、伺いを立てる。


「……私の事は気になさらず、どうか真実を話してください……」


 ……ユージスの奴、涙目になってるよ……

 見ているこっちまで痛ましい……


 だが、この場をはぐらかしても何れは分かる事だ。


「話してやれ……」

「……畏まりました……」


 ピアは重苦しく口を開いた。


「……今から三か月前。フレイさんはドミナンテの後妻、イングリッドの下へと送られました」

「何だって!!?」


 ユージスは目玉が飛び出るほどに驚愕する。


「イングリッド・ラ・ヴァンヘイムか……」


 確か彼女はオルステンから東へ行ったレンドン城にいるんだったな。

 以前に聞いた報告では、美貌に執着した女で、若い男女の血を浴びれば永遠の美を保てると信じている狂人だったと記憶している。


 これはフレイが生きているのかすら怪しいぞ……


「……もうダメだ……【血啜りの伯爵夫人】のところへ送られて、生きて帰って来た者はいない……」


 絶望に打ちひしがれたユージスが、天を仰ぎ絶叫する。


「……フレイ……フレイぃいいいいいいいいいいいいい!!!」


 頭を掻きむしり始め、目を血走らせて暴れ出した。


「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 やべえ! 発狂しやがった!


「落ち着くのだ、ユージス」


 パーシヴァリーがユージスを抑え込む。


「しっかりしてください。フレイさんはきっと大丈夫ですから」


 セラーラが優しく言葉を掛けて宥めようとした。


「フレィいいイイいいいいいいいいいいいイイ!!!」


 しかしユージスは叫び続ける。


「セラーラ、パーシヴァリー。ユージスを部屋で休ませろ。あの様子だと、何を仕出かすか分かったもんじゃない。あいつの傍に居てやってくれ」

「分かったのだ」

「さあ、ユージスさん。部屋で少し休みましょう」


 二人はユージスを部屋に連れて行く。


「……お可哀そうに……」


 ピアは憐みの目でユージスを見ていた。


 本当、可哀想だ……愛する嫁さんが死んでいるかもしれないんだからな……

 だが、このままにはしておけない……


 しばしの間、俺は腕を組んで何とかしてやらねばと頭を捻る。


「……旦那様……」


 忽ちはフレイの生死を確認しないといけないな……


「……わたくしの旦那様……」


 例え死んでいたとしても、仇を討ってやらないと、ユージスの奴は納得しないだろう……

 それにあいつとは約束したからな……ここで俺がユージスに報わないという事は、不義理以外の何者でもないぞ……


「……わたくしの愛する御方……」


 って、さっきから甘い匂いがするぞ。


「……」


 うお! 


 気付けばピアが、体を密着させ隣に座っており、憂いた瞳で俺の顔を覗き込んでいた。  


「……二人っきりです……」


 頬を紅潮させたピアの甘い吐息が俺の耳を擽る。


「……旦那様ぁ……わたくしは寂しいですぅ……」


 なんなんだ急に!!?


「……どうか慰めてくださいませぇ……」


 もしやこいつ、発情しているのか!?

 どこでスイッチが入った!!!


「ご主人様、大変です!」


 マッシュボブの美少女が、慌てた様子でリビングに入ってきた。

 

「お、おお! アプリコットか!!!」


 思いがけない人物の登場により、ピアのアプローチが中断される。

 そして彼女はいつの間にか普段通りの美しい笑顔を浮かべていた。


 ……助かった……襲われるところだったよ……

 ……しかしピアの奴、切り替えが早すぎだろ……


「……ど、どうしたアプリコット……何かあったのか?……」


 俺は動揺を隠しながらも気を取り直してアプリコットに尋ねた。


 確かこいつはエルテと商談に行っていたはずだ。

 帰ってくるにはまだ時間が早い。

 

「聞いてください、ご主人様!」


 アプリコットは身振り手振りを交えながら説明を始める。

 

「大変なんです! ご主人様のことで、冒険者ギルドに容疑が掛けられています!」

「ん? どういう事だ?」

「ご主人様に加担してるんじゃないかって、騎士たちが冒険者ギルドに詰めかけてきたんです!」

「なに? それは穏やかじゃないな……だが、なんで冒険者ギルドなんだ?」


 訝しむ俺に、ピアが答えてくれた。


「旦那様。先日パーシーさんが傭兵ギルドで暴れたことを覚えておいでですか」


 ……ああ、あれね……あのときパーシヴァリーが俺の名を叫んだから、世間に名前が知れ渡ったんだっけか……


「その時の旦那様は、冒険者ギルドの方々と共に、傭兵ギルドへ赴いたのだと伺っております」


 ああ、なるほど。

 あれが原因で冒険者ギルドが狙われたのか。

 何か悪い事をしたな……


「旦那様。冒険者ギルドと傭兵ギルドは仲が悪いと聞いております。この機に冒険者ギルドを弱体化するのではないかと」


 そういやバイロンって奴がゼクトに向かって言っていたな。

 パーシヴァリーはお前らの差し金か、って……


「傭兵ギルドは領主の私兵のようなものです。対して冒険者ギルドはドミナンテに反抗的で、勧善懲悪の方針です。なので民衆に絶大な人気があります」


 ピアの言葉に俺は合点がいった。


「なるほど……ドミナンテの野郎、そう来やがったか……」


 冒険者ギルドが目障りだから、俺を出汁に潰そうってわけだな……


「わたくしの推測では、ドミナンテは日ごろから自分の意に沿ぐわない者たちを、この機に排除するつもりかと」


 ……後顧の憂いを取り除いた後で、俺を捕まえるつもりか……


「アプリコット。エルテはどこだ?」

「エルテお姉ちゃんは商談中です。私も一緒にいたのですが、その最中に今の情報が入ってきました。エルテお姉ちゃんがご主人様に報告しろと言ったので抜けてきました」


 エルテ。良い判断だ。


「旦那様。いかがなさいますか?」


 ……そうだな……


「今から様子を見に行く。ピアは俺に付いて来い」

「畏まりました」


 隠密に優れたピアと一緒ならそうそう見つかる事はないだろう。

 だが先日の件もある。

 万が一にもヘルムーツェンが居たら、踵を返してさっさと逃げよう。


「アプリコット。商談はエルテに任せて店で待機していろ。擦れ違いにでもなったら面倒だ」

「分かりました、ご主人様!」

「それからセラーラたちに事情を話してくれ。二人はユージスを介抱しているから、あいつの寝室に行けばいるはずだ」

「え? ユージスさん、どうしたんですか?」

「ちょっと疲れているだけだ。あとは頼んだぞ」

「あ、はい!」


 俺はピアに隠蔽ハインディングのスキルを掛けてもらい、さっそく冒険者ギルドへと向かった。






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