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20.領主代理の受難 後編

 先ずはこいつの疑問にでも答えてやろうか。


「ジークベルト。アプリコットがなぜ俺たちと一緒にいるのか気になるんだろう?」 

「……」


 黙ったままのジークベルトはチラチラとアプリコットを窺っている。


 心配しなくても拳は飛んでこねえよ。今だけはな。


「教えてやる。アプリコットは俺たちの仲間だ」

「えっ! 嘘だろ!!?」

 

 声を出したと同時にジークベルトはしまった、という顔をするが、アプリコットが手を出す事はなかった。


「因みにエルテもだ」

「なっ!!?」


 めちゃくちゃ驚いてる。

 そりゃそうだよな。

 有望株である新人商人の美人姉妹が、お尋ね者の俺と通じていたんだものな。


「他にもお前が知らない少女があと二人いる。この場にいる三人とエルテ、そして残りの二人を合わせて全部で六人の少女が俺の配下だ」

「……六人……」

「そうだ。この六人は、俺が愛情を注いで育て上げた弟子であり娘でもある。そうとも知らないお前は、その汚らしい手で愛娘のアプリコットに手を出した」


 俺の乙女精霊たちは可愛いから、ちょっかいを掛けたい気持ちは男として分かる。

 だが児童性的虐待趣味のお前には、同情の余地など皆無だ。


「……お、お前らは何者なんだ……」


 それに答えたのはセラーラであった。


「私たち六人は別の世界からこの世界へと来た異界の者です」

「はあ?」


 突拍子もない返答にジークベルトは戸惑っている。


「……も、目的は何だよ……」


 今度はパーシヴァリーが口を開いた。


「其方ら一族の排除。そしてオルストリッチ辺境伯領の支配だ」

「なんだとっ!!?」


 まあ、驚くわな。


「そんな事が本当にできるとでも思っているのか! たった六人で国家組織に勝てるわけがない! しかもこちらにはブリエンセニア王国が誇る漆黒騎士もいるんだぞ!!!」

「お前は本当にバカだな。その漆黒騎士とやらはパーシヴァリーに手も足も出なかったじゃないか」


 俺の言葉にジークベルトは顔を真っ赤にさせ食って掛かった。

 

「馬鹿はお前だ! 倒されたライオネルは最近になって入団した漆黒騎士! 若くして才能はあったが、熟練した漆黒騎士の足元にも及ばない! さらに団長であるヘルムーツェンや、親父や兄貴たちは怪物並みの強さを持っている!!!」


 漆黒騎士の中ではライオネルが一番弱いってわけ?

 だとしたら、レーヴェはどれくらいの強さなんだ?


「副団長のレーヴェは俺たちに敵わないとみて、お前が気を失ったあと早々に撤退したぞ」

「なにっ!? あの野郎……ただじゃおかねえ!!!」

「おいおい、副団長まで恐れを抱いて逃げ出したんだ。他の奴も大した事ないんじゃないのか?」

「うるせえ! あいつはめちゃくちゃ強いが性格に難があるんだよ!!!」


 いやいやいや、難があるのはお前でしょうが……

 逆にレーヴェの方が遥かに誠実だった。撤退した判断も正しいと思う。


 にしても、やっぱりあいつは強いのか。

 となると、漆黒騎士団の団長が手練れなのも当然。


 ……だがジークベルトは一つ気だけ気になる事を言った。


「お前の親父、ドミナンテや兄貴のデウストたちが強いっていうのは嘘だろ」

「なにっ!?」

「だってさあ。アンドレイは俺に瞬殺されて、お前は見事に捕えられてるんだぜ。そんな奴らの親父や兄貴が強いのか?」

「ぐっ……」


 ジークベルトは少しばかり言い淀むが、直ぐに反論を始める。


「お前らは知らないのか!!! 三男のマッキシム兄貴はゼルディオン帝国の兵一千をたった一人で蹴散らした猛者だ!!! 次男のエスクール兄貴は特級以上の魔術を使える天才だ!!! デウスト兄貴なんか魔ヶ原樹海の大型魔物を一撃で仕留めたんだぞ!!! そんな兄貴たちを鍛えた親父は最強だ!!! トモカズ!!! お前には万が一にも勝ち目はねえ!!!」

「……」


 うん。なに言ってんのか全然わからん。


「俺を今すぐここから出せ!!! さもなくば、親父に地獄を見せられるぞ!!!」


 ホント、懲りない奴だな。

 さっき散々アプリコットに痛めつけられたのに、もう威張り始めやがった。


「だったら見せてもらおうか」

「なに?」

「今すぐドミナンテや団長とやらを呼んで、地獄とやらを見せろと言ってんだよ」

「……貴様……言わせておけば調子に乗りやがって……」

「……」


 はぁ……

 こいつと話すと凄いストレスが溜まる。


 もういいや。


 領主のドミナンテがまともだったら、こんなバカに重要な情報など話すわけはないから、大した事も知らないだろう。

 ちょっとは期待してたんだけど、無駄な時間を使ったよ。


 こいつが領主代理に選ばれたのも、適当な人材がいなかったんだろうね。

 結論を言うと、ジークベルトは血統に恵まれた無能なボンクラだった。終わり。


「アプリコット、セラーラ、パーシヴァリー」


 精神的にも疲れた俺は、三人の名前を呼んだ。


「はい」

「はっ」

「はい!」


 良い返事だ。少し元気が出た。


「後はお前たちの好きなようにしろ」


 その言葉で三人の表情が喜びに満ちていく。


 特にアプリコットは猛獣特有の鋭い目つきとなり、口元を盛大に吊り上げた。


「ただし殺すなよ」

「勿論です、主様。私がいるので限界ギリギリまで苦痛を与えられます」


 そうだな。セラーラがいれば大丈夫だろう。

 

「後の事は任せた。俺は少し休んで来る」


 そう言った俺は、椅子から立ちあがって部屋を出ようとする。


「ト、トモカズ! ちょっと待てよ!」


 ジークベルトが血相を変えて俺を引き留めた。


「なんだ、ジークベルト。俺は疲れてんだから、用件があるならさっさと言え」

「お、俺はこれからどうなるんだ!?」


 何だこいつ。先ほどの会話を聞いていなかったのかよ。察しろ、ボンクラ。


「そんなこと決まってるだろ。拷問だよ。ご・う・も・ん」


 ジークベルトの顔が凍り付く。


「まっ、待ってくれ!!! 知りたい事なら何でも話す!!! だから拷問だけは止めてくれ!!!」


 先ほどのアプリコットの攻撃が効いているな。


「それはおかしいんじゃないのか? お前は拷問が大好きなはずだ。これからその大好きな拷問が受けられるんだから、良かったじゃないか。おめでとう」

「俺はする方が好きなんだ!!! やられる方は嫌だ!!!」


 はあ……身勝手な奴だな……


「わがままは良くないぞ。お前は幼い子供たちを散々甚振って来たじゃないか。偶には受ける側になってみろよ。意外と気に入るかもしれないぞ」


 これ以上、ジークベルトと話す気はない。

 俺は奴に背を向けて扉へと歩み始めた。


「待ってくれトモカズ!!! おい!!! こら!!! 待てって言ってんだろうが!!!」

「黙れ汚物」


 アプリコットの冷めた言葉が背後から聞こえてくる。


「痛いいいイイ゛いいいいいいいィイイいいいいいいい゛い゛い゛い゛い゛!!?」


 次にジークベルトの叫び声が追随してきた。


「止めて! 痛いのは嫌だああああああああああああああああああああああああ!!!」

「だめですよ、ジークベルト様……あなたは私と遊びたいと言ってたじゃないですか」

「違ううううううううううううううぅぅ!!! こんな遊びじゃないいいぃいいいいいいいい!!!」

「今さら言い逃れなんてしないでください。最終的にはこんなことをするつもりだったんでしょ?」

「あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛あ゛あ゛っ!!?」


 俺は彼らの遣り取りを聞きながら、のそのそと地下室から出て行くのであった。

 





 その日の夜半。

 拷問は終了し、各自がそれぞれの部屋で体を休めていた。


 地下室で監禁されているジークベルトは鎖に繋がれたままであり、憔悴しきっている。

 これから自分がどうなるのか彼は不安で堪らなかったが、長時間の地獄から解放されて、今は束の間の安息を噛み締めていた。

 

 とそこで、ゆっくりと扉が開かれる。


「ひっ!?」


 脅えるジークベルトに三つの影が近づいて来た。


「だ、誰だ!!!」

「こんばんわ、ジークベルト様」


 快活な声で言葉を返したのは、彫刻のような美を有する少女、エルテであった。

 彼女は赤に近い栗色の長い髪をローポニーテールで纏めており、理想的なその体形は男たちを自然とニヤけさせること請け合いだ。


 しかしジークベルトにとって、今のエルテは恐怖以外の何者でもなかった。


「エ、エルテ!!! 何しに来やがった!!!」

「つれないなあ、ジークベルト様は。ちょっと前までコットちゃんと遊んでたよね? だったらボクとも遊んでよ」


 ジークベルトの顔から急激に血の気が失せていく。


「あ、そうそう。ボクの姉妹を紹介するよ。先ずはピアちゃんから」


 エルテの言葉に肉感的で情欲をそそる美少女が前へと出てきた。

 彼女の白く長い髪は癖が一つもなく、蠱惑的な赤い瞳で見詰められれば男は誰でも虜にされるであろう。


「お初にお目にかかります。わたくしはピアと申します。アプリコットさんがお世話になったそうで、是非お礼にと、この場に参らせていただきました」

「ピアちゃんはね、拷問の名手なんだ。だから色々と手解きをしてもらうために来てもらったんだよ」 

「ジークベルト様は拷問がお上手だと伺いました。わたくしとどちらが優れているのか、その身を以てご判断してくださいませ」


 恐ろしい言葉とは対照的に彼女の態度はとても慇懃であり、それが却ってジークベルトの恐怖心を煽り立てた。


「……い、いやだ! いやだあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 喚き散らすジークベルトだが、意に介さないエルテは微笑んで話を続ける。


「そしてこっちがチェームちゃん」


 次に紹介されたのは、ラベンダー色の長いツインテールが良く似合う美少女だった。

 彼女は小悪魔的な笑顔を見せて、その艶めかしい小さな口を開く。


「我の名はチェームシェイス。ジークベルトとやら、末子のアプリコットに色々としてくれたそうだの。お返しに我も何かしてあげなければと思い、この場に同席させてもらった。よろしく頼むぞ」

「チェームちゃんは賢者でね、治癒スキルが使えるんだ。ボクがやると直ぐに殺しちゃうから、君が死にそうになったらチェームちゃんに回復してもらおうと思ってるんだ」

「!!!」


 ジークベルトの脳裏に、つい先ほど味わわされた悍ましい経験が甦る。

 それは何度も何度も殺されかけてはセラーラに回復されるという、常軌を逸した地獄の体験であった。


「……もうやめてくれ……お願いだから、これ以上酷い事をしないでくれ……」


 ジークベルトは涙ながらに懇願する。


「そんなに脅えないでよ。これから楽しい時間が始まるんだからさ」


 しかしエルテは不気味に笑いながら、彼に近付き始めた。


「こっち来ないで!!!」


 防衛反応なのか、身を捩じらせて少しでも自分の体を小さく見せようとするが、拘束されているためどうにもできない。


「ジークベルト様、ご安心くださいませ。死に直結するような拷問は致しません」


 そう言ったピアが、何処からともなく十本の竹串を取り出した。


「拷問に精通しているジークベルト様ならご存知かと思われますが、彼の行為は激痛を追及した芸術の一つです。決して殺してはなりません」


 拷問の用途は誰かに何かを喋らせたり、或いは嗜虐的欲求を満たすためだ。

 しかしピアの思考はそのどれでもない。

 彼女は人が苦しむ中にこそ本当の美があると信じており、拷問はそれを昇華させた芸術の一環だと考えていたのだ。


 そんな狂った感性を持つピアに、ジークベルトの脅えた視線が注がれる。


「そ、その竹串をどうするつもりなんだよ!!!」

「あなた様には取るに足らない地味な拷問かもしれませんが、これを一本一本爪の間に突き刺します」


 エルテの綺羅やかな瞳が嬉し気に笑った。


「凄く痛そうだね」

「ええ、とても痛いです。わたくしも自分でやったことはありますが、それはもう、激痛でいっちゃいそうになりました」


 ピアは口元を緩めて話を続ける。


「ですが、今回はやんごとなき御方への拷問。それだけでは失礼に値しますので、特別に穴と言う穴へ入れさせてもらいます」

「へっ?」

「先ずは肛門、臍、口、鼻、耳、目の順です」

「いやだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ピアの狂気にジークベルトは堪らず叫んだ。  


「ふむ、これなら直ぐ死ぬような致命傷は与えられぬか……我の出番はなさそうだの」


 チェームシェイスは少し残念そうな顔を浮かべる。


「そのようなことはありません。これはほんの小手調べ。徐々に複雑な拷問に変えていきます。それに新しく考案した拷問も試したいので、そのときはチェームさん、よろしくお願いいたします」

「そうか? ならば、それまでは我も拷問に参加しても良いか?」

「もちろんだよ、チェームちゃん! みんなで一緒に楽しもうよ!」


 エルテ、ピア、チェームシェイスの三人は、口を三日月状に歪ませると、ジークベルトとの距離を詰めていった。


「ち、ち、ち、近寄るなあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ジークベルト様、そんなに恥ずかしがらないで下さいませ。先ずは一本目を入れさせていただきます」

「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


 こうしてジークベルトは三人の玩具にされて、地下室では一晩中、彼の無残な叫び声が響き渡るのであった。






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