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19.領主代理の受難 前編

 俺たち三人は、見事にアプリコットを助け出した。

 且つ、ジークベルトを浚う事に成功する。


 あとは帰還するだけであり、今はスラムを迂回してエルテの店を目指していた。


 何でそんな面倒な事をするのか。

 それは尾行を警戒しての事だ。


 無論、スラムに入った俺たちは、以前に潜伏していた襤褸小屋を避けて通る。

 だってあそこにはピアとチェームシェイスが最後の見回りをしているからね。

 追っ手を引き連れて彼女たちと鉢合わせたら、ややこしくなる。


 そのお陰で随分と時間は掛かったが、誰にも付けられず無事に店へと戻って来る事ができた。


 人の気配が無いと判断したところで、裏口からひっそり入る。

 建物の中に足を踏み入れた瞬間、俺は担いでいるジークベルトを地べたに放り投げた。


「セラーラ、パーシヴァリー。こいつを地下室に閉じ込めてくれ。アプリコットが戻っているか確認したら、俺もそちらへ向かう」


 この店には地下室があり、三つの部屋がある。

 なぜそんなものが設けられてあるのか分からないが、ジークベルトを閉じ込めておくには好都合だ。


 もしかしたら、こうなる事を見越してユージスはこの店を選んだのか?

 いや、これはピアの意向だな……


「分かりました、主様」

「了解した、マスター」


 パーシヴァリーは失神しているジークベルトの首根っこをむんずと掴み、引きずりながらセラーラと共に地下室へ向かった。


 俺は一人、リビングの方に顔を出す。

 そこにはエルテとユージス、そして既に戻っていたアプリコットがいた。

 彼らは俺を視界に入れると満面の笑みを浮かべる。


「ご主人様!」


 アプリコットが逸早く駆け出して、元気よく抱き着いてきた。


「おっと」


 華奢な体を受け止めた俺は、彼女の背に両手を回して優しく抱き締める。


「よく頑張ったな。偉いぞアプリコット」

「……ご主人様が必ず来てくれるって分かっていたから……我慢できました……」


 上目遣いのアプリコットは瞳を潤ませながら見詰めてきた。


「……もうご主人様と離れたくないです……」


 うぉいっ! 

 なんたる可愛らしさだ!


「……ご主人様……」


 アプリコットが背伸びをして、その愛いな顔を近づけてきた。

 俺の顔も自然と吸い込まれるように彼女へと引き寄せられる。


 って、いかん! このままでは理性がぶっ飛びそうだ!


 俺は堪らずエルテの方に意識を向けた。


「エ、エルテもよく耐えてくれた。今回の件で一番辛抱してくれたのはお前だ。ありがとう」


 突然の感謝の言葉にエルテは狼狽える。


「師匠がお礼を言う必要はなんてないよ! 逆にボクの方が血気はやって師匠の足を引っ張んたんだから……ごめんなさい……」


 エルテよ。そのような性格に設定したのはこの俺だ。

 お前は何も悪くない。


「いや、お前の行動はアプリコットを思う愛情が強かったからこそだ。何も気に病む必要はない」

「……やっぱり師匠は優しいね…………大好きだよ……」


 ん? 最後に何と言ったんだ?

 声が小さくてよく聞こえなかったぞ。


「トモカズ様、アプリコットさんが無事で本当に良かったです」


 今度はユージスが口を開いた。    


「ユージスにも心配かけたな」

「とんでもない。アプリコットさんが連れていかれたとき、私は自分の無力さを呪いましたよ。でも流石はトモカズ様。アプリコットさんを助け出しただけでなく、ジークベルトまでも拉致してくるとは……お見事です」


 どうやらアプリコットから大体の経緯は聞いているようだな。


 とそこで、エルテが急に目を据わらせて殺気を撒き散らし始めた。


 ……え?

 ……なんなの?

 ……俺たち何かいけないこと言った?


 ユージスなんかビビって震えてるんだけど……


「……師匠、あの廃棄物はどこ……?」


 なるほど……そういう事ね。


「セラーラとパーシヴァリーに地下室へ連れて行くよう指示してある。俺もこのあと行くつもりだ」

「……拷問するの……?」


 いつもは溌溂とした声を出すエルテだが、この時ばかりは静かで、そして不気味な声質であった。


 ……こええよ……お前はもっと朗らかな性格のはずだぞ……


「……ま、まあな。今から尋問をするつもりだ……」

「……だったら早く行こうよ……」


 マジで怖い!


 あっ、ユージスの奴。立ったまま気を失ってやがる。

 なんて器用な奴なんだ……


「……」


 ……この場から逃げて羨ましい……


「……師匠……聞いてるの……?」


 ……くっ……言いたくないが、言うしかあるまい……


「エ、エルテよ……お前はここで待機だ……」

「え!? なんで!? 」


 エルテがもの凄い勢いで詰め寄ってきた。


「落ち着けエルテ」


 恐怖のあまり、俺もユージス同様、逃げたい衝動に駆られる。

 しかしここで気を失う訳にはいかないので、表向きだけでも冷静を装って彼女に説明した。


「連れ去られたアプリコットが先ほど帰って来たばかりだ。それは大々的にも民衆に知れ渡っている。おそらくだが、近所の同業者や商人ギルドから訪ねて来る者がいるはずだ。賢いお前はここまで言えば分かるよな?」


 エルテは不貞腐れた顔で俺の心中を答えた。


「店主でコットちゃんの姉でもあるボクがいなかったら怪しまれる……」

「そうだ。だからお前はここにいて、尋ねて来る者の対応をしなければならない」

「……」

 

 エルテの表情……頭では理解しているが、気持ちは付いて行ってないな……

 だが、もう一押しだ。


「お願いだ。もう少しだけ辛抱してくれないか?」


 俺はエルテの傍まで来ると、彼女をそっと抱きしめてやった。


「……わかったよ、師匠……」


 よし。渋々だが納得してくれた。


「ありがとうエルテ」


 ふう、やっと一息つけるよ。


 と思いきや、別の場所から再び殺気が溢れ出てきた。


 勘弁してくれ! 今度は誰なのよ!


「……ご主人様……私も地下室へ行っていいですか?」


 殺気の出どころはアプリコットか。

 こいつはジークベルトにセクハラされたから、はらわた煮えくり返っているのも無理はない。


「ああ。ここはエルテに任せてある。お前が良ければついて来い」


 アプリコットは能面のような表情で淡々と言葉を紡いだ。


「……ありがとう……ご主人様……」


 こいつも怖えよ!


「で、では地下室に行くぞ……」


 俺はアプリコットを連れて、地下室に続く階段へと歩を進めた。






「多分ここだな」


 俺たちは地下に設けられた三つあるうちの一つの部屋に入る。


 中にはセラーラとパーシヴァリーが待っており、アプリコットに気づいた二人は直ぐ彼女の元へとやって来た。


「辛かったでしょうアプリコット。でも、もう安心です」

「アプリコット、よく我慢した。私は其方を誇らしく思う……」

「……ありがとう……セラーラお姉ちゃん、パーシーお姉ちゃん……」


 三人は互いに抱き合い再会した喜びを噛み締めている。


 うんうん、素晴らしき光景だ。

 俺の乙女精霊たちはとても仲の良い姉妹だ。


 しかしだな、一つ気になる事があるんだが……


「……あれは何だ……?」


 引っ掛かったのはジークベルトだ。

 奴は石壁に備え付けられた鎖付きの枷で繋がれており、(はりつけ)の状態であった。


「ここって鎖とかあったっけ?」

「鎖は私とパーシーで先ほど取り付けました」


 この短期間で?

 いったいどうやったんだよ……


「さあ、マスター。そこに座ってくれ」


 パーシヴァリーに促された俺は、ジークベルトの真ん前から少し離れた場所に置かれてある椅子に腰を掛けた。


「ではジークベルトを起こして尋問を開始します。主様、よろしいですか?」

「あ、ああ……」


 なし崩しに返事をすると、パーシヴァリーが傍らにあった桶を手に持ち、その中に入っている水をジークベルトにぶっかけた。


「ぶっ! う、うん……ん……? ……ト、トモカズ……?」


 覚醒を始めたジークベルトの視界に俺の姿が入ってくる。 

 と直ぐに、自分の姿にも目を向けて、己が置かれている立場を把握した。


「てめえら!!! こんな事をしてただで済むと思ってんのか!!! 俺は領主代理だぞ!!! 処刑以上の極刑を覚悟しておけ!!!」


 喚き散らすジークベルトだったが、俺の横で佇むアプリコットに視線が行く。


「えっ、もしかしてアプリコットちゃん? なんでここにいるの……?」

「この汚物が……ご主人様に、なんて口の利き方をするんですか……」


 アプリコットはジークベルトの前まですたすた歩いて行くと、いきなり奴の口に鉄拳を叩き込んだ。


「ごがぁアッ!!?」


 そしてそのまま舌を掴み、拳を引くと同時に引き千切る。


「ぎぇ゛ゃぴいっ!!!」


 一撃を食らった口の中から血が溢れ出て、歯も半数以上が叩き折られていた。


「……汚い……」


 舌を地べたに放り捨てたアプリコットはぐりぐりと片足で踏み躙る。


 ジークベルトはというと、激痛に加えて大量の出血からか呼吸が儘ならず苦しみに悶えていた。


「あがっ! がっ!! ぎゃがっ!!!」


 ……ひでえ……アプリコットって、こんなキャラだっけか?


「セ、セラーラ。治してやれ」

「はい、主様」


 俺の命令にセラーラは治癒スキルを発動させる。

 すると見る間に歯と舌が再生した。


「が、がはっ!」


 血を吐き気道を確保したジークベルトはアプリコットに問いかける。


「な、な、なんなんだよ!!! アプリコットちゃん!!! どうしたってんだよ!!!


 アプリコットの豹変ぶりに、ジークベルトは混乱した。

 が、直ぐに俺を見て勝手に納得する。


「そうかトモカズ!!! てめえだな!!? てめえがアプリコットちゃんに何かしたんだろ!!! あの従順な彼女がおかしくなっちまってるぞ!!!」

「この無能なサルはまだ分かっていないんですね。ご主人様に対する言葉遣いが治っていないです」


 アプリコットの貫手がジークベルトの片目を抉る。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 焼けるような痛みが奴を襲い、何度も何度も体を激しく跳ねさせた。

 しかし鎖に繋がれているため、患部を抑えることすら叶わない。


「セラーラ、もう一度頼む……」

「分かりました」


 再びセラーラの治癒スキルでジークベルトは全快した。


「……」


 立て続けに起こった激痛で精神が削られているのもあるだろうが、さすがに二度目とあってか奴は不用意に言葉を出さない。

 喋ったら容赦なくアプリコットの拳が飛んでくるのを学習したんだろうね。


「アプリコット。話が進まないから俺の許可なく攻撃するな」

「……でもご主人様……これだけでは私の気が収まりません……」

「あとで好きなようにさせてやる。それならどうだ?」

「……分かりました……」


 やれやれ……

 これでようやくジークベルトとまともに話ができる。






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