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18.救出戦4

「……そ、そんな……馬鹿な……」

「……何という事だ……信じられん……」


 ジークベルトとレーヴェは予想外の展開に驚きを隠せないでいた。


 まあ、そうなるよね。

 最初に使用した〈盾打擲(シールド・バッシュ)〉は盾を当てただけだけど、今回はぶちかましと同時に発動している。

 これが本来の〈盾打擲(シールド・バッシュ)〉の使い方なので、破壊力は段違いだ。


 事切れているライオネルの見かけは人の形を保っているけど、内臓や骨はぐちゃぐちゃなはず。

 次に生まれ変わったら真っ当な人間になれよ。


 それからあの程度の脅しでパーシヴァリーが怯むとでも思った奴の考えも甘い。  

 子供たちを守る手立てはもう用意されているというのに。


「レーヴェ!!! ガキを殺せ!!!」

「……ジークベルト様、申し訳ありません……私にはそのような非道な行為、とてもできません……」


 激昂したジークベルトの指示に、レーヴェは俯いて従おうとはしない。


「てめえ!!! あとで覚えてろよ!!!」


 レーヴェが使い物にならないと見るや、鞭を手に持ち子供たちに向かって力の限り振るった。


「死ね!!!」


 ところが鞭は、子供たちに当たる瞬間、電流に触れたかのような音を出して弾き返される。


「なっ、何なんだ!!?」


 不思議な現象にジークベルトは驚きながらも目を凝らした。


「……あれは何だよ……」


 原因は直ぐに判明する。

 ドーム状の半透明の壁が子供たちを囲んでおり、それがジークベルトの鞭を弾いたのだ。

 そしてその中心には膝を折って祈りを捧げる金髪の美少女の姿が垣間見える。


「ジークベルト、お前は馬鹿だな。子供たちの中にセラーラが紛れていたのが分からなかったのか?」


 子供たちを守ったレーヴェも驚いていた。


「……私でも気が付かなかったぞ……」


 実を言うと、セラーラには数体の〈クリンオーネ〉を付けていた。

 これらが彼女の周囲の空気を歪めて光を幾分か透過、回折しているから、周りから姿を見えにくくしている。

 迂回型の光学迷彩だ。


 しかしこれは、セラーラ自身も周りが見えにくくなるので戦闘などの激しい動作は難しい。

 だが子供たちの中に紛れる程度なので、何の問題もない。


「こんなことも見抜けない実力で私たちと事を構えるとは愚かにもほどがあります」

「まったくなのだ。ライオネルとやらが意気って私に突っ込んできた時は本当の馬鹿だと確信した」

「そうですね。私が防御壁をいつでも展開できるというのに、何も知らず威張っていたあの姿は滑稽でした」

「私たちが何の対策も講じていないと、どうしてそう思っていたのか理解に苦しむのだ」


 仮にレーヴェが子供たちを守らなかったとしても、セラーラがスキルを発動させていたので脅しなど取るに足らない。


「パーシー、それ以上言うと彼らの立場がなくなってしまいます」

「それもそうなのだ。弱い者いじめもここまでにしておこう」


 セラーラとパーシヴァリーの会話にジークベルトの顔が真っ赤に染まる。


「き、き、貴様ら!!!」


 ――おい、喚くな――


「え?」


 突然、ジークベルトの耳元で囁き声が聞こえ、奴は咄嗟に横を向いた。


「ひっ!?」


 そこには歯を剥き出しにして獰猛に嗤う俺がいて、鋭い視線をジークベルトに突き刺している。


「なっ、なんで貴様がここにっ!!?」


 お前はセラーラとパーシヴァリーの話に気を取られ過ぎだ。

 気付けよ、間抜け。


「今は殺さないでやる」


 俺の拳がジークベルトの顔面に叩き込まれた。


「ぎゅう゛ぇ!!?」


 今回は力を抑えてあるからアンドレイの時と違って頭が弾けるなんて事はない。

 うん、だいぶ力の調整ができるようになった。


 そしてジークベルトの意識を一撃で刈り取った俺は、奴の襟元を掴むと椅子から放り投げた。


 後に残るのは俺と身を縮こませているアプリコットだけだ。


「大丈夫か? お嬢ちゃん」


 初めて顔を合わせた態を装って声を掛ける。

 すると彼女は瞳を潤ませて俺に抱き着いてきた。


「ありがとうございます……」


 アプリコット……辛かっただろうよ……よし、よし。


 俺は彼女の頭を撫でてお姫様抱っこをする。

 そして悪趣味な椅子からふわりと飛び降りた。


「あんたたち、大丈夫だったかい!?」


 とそこで、一人の中年女性が駆け寄ってきた。


 ん? もしかしてこの人……ジークベルトを初めて見たとき、注意を促してくれたおばちゃんか……?


「あ、ああ。大丈夫だ」

「……その声、あの時のお兄ちゃんかい……?」


 当時は確か、フードを深く被っていたから素顔を見せていなかったな。

 おばちゃん。

 声だけで見抜くなんてけっこう鋭いぞ。


「……俺と知り合いだと領主側にばれたらおばちゃんにも迷惑が掛かる。ここは知らない振りをしといてくれ……」


 小声でそっと告げると、おばちゃんは笑顔で小さく頷いた。


「それからおばちゃん、この子を頼めるか?」


 俺はアプリコットを地面に降ろしておばちゃんに託す。


「任せときな。責任をもってこの子を家まで送り届けてあげるさ」

「助かるよ」


 おばちゃん、気持ちよく引き受けてくれてありがとう。


 それにしてもアプリコットよ。

 また後で会えるんだから、小動物のような憂いた瞳で俺を見るなよ……

 

「次はこいつらだな」


 俺は失神しているジークベルトを肩に担ぐと、レーヴェに向かって口を開いた。


「さてと、レーヴェ。ジークベルトは貰っていくが、このまま見過ごすか? それとも死ぬ覚悟で俺たちと遣り合うか?」

「……」


 しばし考え込んだレーヴェはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……お前たちの好きにするがいい……」


 その言葉に他の騎士たちが苦言を呈した。


「レーヴェ様! それはダメです!」

「そうです! ジークベルト様が連れ去られてしまえば大失態です! 厳罰は免れません!!!」

「……貴様らも見ただろう……あの少女の実力を。それにそこの神官。今この場で彼女らに太刀打ちできる者は私だけだ。一騎打ちなら勝てるやもしれんが、相手は三人。私一人ではどうにもならない……」


 良く状況を把握しているじゃないか。

 でも一対一だろうが俺たちは勝つよ。


「それに、だ。ここで私一人が突撃して死ぬのならまだいい。だがその後のお前たちはどうなる?」


 騎士の一人が蒼褪めて質問に答えた。


「……我々だけで立ち向かったとしても、皆殺しにされる未来が待っているだけです……かと言って、おめおめと見逃してしまっては、ドミナンテ様に打ち首にされてしまいます……」


 前門の虎、後門の狼ってやつだな。


「そうだ。だからこの場で一番地位の高い私が生き残って、ドミナンテ様の怒りを一身に受ける。そうすればお前たちの処罰は軽くなり、打ち首とまではいかないだろう……」


 レーヴェの言葉に騎士の誰もが感無量となる。


「……レ、レーヴェ様……」

「……そこまでして俺たちの事を……」


 こいつ、凄い部下思いだ。

 自分がすべての責任を負う形でこの場の騎士を助けるつもりか?


 ……惜しいな……


「今は感傷に浸っている場合ではない。直ぐにこの場から離脱だ……奴らの考えが変わらないうちにな……」

「……わ、分かりました」

「了解しました……」


 騎士たちは、レーヴェの言葉に従い撤退を始める。


「……トモカズ……見逃してくれて感謝する……」

 

 そう一言だけ告げたレーヴェは、騎士たちを纏めて早々とこの場を後にした。


 意外と分かっているじゃないか。俺も無駄な殺生はしたくないからな。


「主様。私たちの完全勝利です」


 だな。敵がいなくなった今、俺たちもさっさと引き払おう。


 と思ったところで、不意にパーシヴァリーが大声を出した。


「皆の者!!! トモカズ様が極悪非道のジークベルトを成敗した!!! 安心して出てきていいぞ!!!」


 彼女の凛とした声が周囲に響き渡る。

 すると建物の陰から様子を窺っていた民衆が姿を現した。


 それを確認したセラーラが、絶好の機会と見たのか嬉々として宣言する。


「トモカズ様は領主に苦しめられている民を憂いて立ち上がられました!!! アンドレイに続き、今も新たにジークベルトなる悪漢を処罰しました!!!」

「おお!!! 【撲殺聖女】セラーラ様!!! 有難うございます!!! 」


 次にパーシヴァリーが声を張り上げる。


「マスターはこれからも領主一味を誅していく!!! 皆の者は我らの行動を温かく見守っていてくれ!!! 必ずやこのオルストリッチに平穏を齎そうぞ!!!」

「【銀髪の戦乙女】様!!! どこまでも着いて行きます!!!」


 民衆が声高らかに二人の名を叫び始めた。


「【撲殺聖女】様!!!」

「【銀髪の戦乙女】様!!!」


 ……これは……まさか……


「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!」「【銀髪の戦乙女】様!!!」「【撲殺聖女】様!!!



 やっぱり大合唱が起こるのね……


「トモカズ様!」


 あ、俺の名前も聞こえたよ。


「主様。今回の件で主様の素晴らしさをより一層と民衆に見せつけることが出来ました」

「マスターの覇道を誰もが祝福している。なんと素晴らしいことなのだ」


 ……いやいや、みんなお前たちに熱狂してるんだよ……

 

「……もう帰ろうか……」


 俺たちは……もとい、セラーラとパーシヴァリーは群衆に惜しまれながら、屋根の上に跳び上がると颯爽と皆の前から姿を消すのであった。


 ……はあ、疲れたね……







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