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124.領主たちの陰謀

 領都オルステンの中心に位置する領城。

 その高層階の謁見室で、ドミナンテの表情が驚愕の色に染まっていた。


「なんだこれは!?」


 つい今し方、反逆者は縦巻きロールの美少女によって首を切断された。


 ところがその亡骸は、異様な変化を遂げるに至る。

 まるで水飴が熱せられたかのようにドロリと溶けていき、床へ滲むようにして消滅したのだ。


 そしてぺリアムドが持つ首も同じような現象に見舞われ、皆の注目を浴びながら宙に溶け込んでいった。


「死体が消えただと!?」

「どうなっているんだ!?」


 マッテオたち漆黒騎士も驚き動揺している。


「……やられたわね……」


 縦巻きロールの美少女は直ぐに理解した。


「……どうやら今のは本物のトモカズではなかったみたい……身代わりを立てたようね……」

「身代わりだと!? どういう事だぺリアムド!」

「……トモカズに似せた魔導人形(ゴーレム)のような物を私たちの下へ寄越した、てところかしら……」

魔導人形(ゴーレム)だと!? どう見ても本物の人間にしか見えなかったぞ!」

「ドミナンテ。生物ならあんな風に溶けて消えたりはしないわ」

「ぬぅ……」


 ドミナンテは納得せざるを得なかった。

 と直後、心の底から怒りが吹き上がってくる。


「トモカズめ! 忌々しい!!!」


 一方で、ぺリアムドは小さな顎に手を当て長考した。


「……それにしてもあの偽物、私でも見破れなかったわ……魔力も一切感じなかったし、魔導人形(ゴーレム)という訳ではなさそうね……トモカズ一味は怪し気な術を使うから、恐らくはそれで作り出したことは間違いないわ……でも、その原料となる物は何なのかしら……? 私が手に取った偽物の首は、確かに生物の温もりがあったわ……それにあれは、おかし気な火の球を放った……」


 考えを巡らす彼女にドミナンテが問いかける。


「そこまでの代物なのか?」


 ぺリアムドは難しい顔で口を開いた。


「……あそこまでの身代わりを作り出すなんて、今の魔導技術でも不可能よ……」

「なに? それは本当なのか?」

「ええ……あの賢師人を超えるほどの魔導技術を持ってないと無理ね……」

「……何という事だ……」


 今更ながらにドミナンテは、反逆者の底知れぬ力を思い知らされた。


「……ねえドミナンテ……私たちも攻めに転じないかしら……」


 不意にぺリアムドが話題を変える。


「……急にどうしたと言うのだ……」


 領城に籠って相手の焦りを誘えと提案したのはぺリアムドだ。

 その間、ヘルムーツェンがバンジョーナ城塞を攻撃して敵戦力の弱体化を図る、そこまでが彼女の策であった。


 それが今になって攻めるだなどと、ドミナンテは訝しむ。


「さっきのを見たでしょ。トモカズ自体がよく分からない奴なのよ。このまま閉じ籠っていては後手に回ってしまうわ」


 確かに、とドミナンテは共感するが、そこまでの焦りは感じていなかった。


「だがぺリアムド。奴らはシルベスターの魔力場を破れないのだ。直接領城には攻め入らず、ああして偽物を送り込んできたのが何よりの証拠だ」


 今の今までシルベスターの魔力場操作マギカ・マニピュレーターを打ち破った者は存在しない。

 これのお陰で暗殺とは無縁のドミナンテは、その能力を高く評価していた。


「甘いわね、ドミナンテ。それは今日までの話よ」

「なに? どういう意味だ?」

「私はトモカズ一味を過小評価していたわ。あなたたちから彼らの手強さを聞いていたけれど、それでも大したことはないと思っていたの」


 一味は強者のデウストとマッキシムを倒している。

 その事実を鑑みれば、彼らの実力は疑いようがない。


 しかしぺリアムドは、デウストとマッキシムの凄さを目の当たりにした事はなく、その辺りを聞かされてもあまりピンと来ていなかった。


「でもね、あんな身代わりを見せられたら話は別よ」


 ぺリアムドの表情が引き締まる。


「一味の技術が高いことだけは確か。私たちが何もしないで彼らに時間を与えしまえば、魔力場を無効にする方法を編み出す可能性がある。それも近い将来、ひょっとしたら明日なのかもしれないわ」

「……むう……」


 唸るドミナンテの表情は険しかった。


「あと一つ気掛かりな点があるわ」

「……言ってみろ……」

「あの身代わり……もしかしたら、私たちの情報を掴むために送り込まれて来たのかもね……」

「なんだと!? それは誠か!!?」

「決めつけるのは早いけど、私とあなたの能力が向こう側に漏れたと仮定すべきね……」


 ドミナンテは苦い顔を見せる。


「……儂らの能力の対策までをも打ってくるというのか……?」


 自身の能力にぺリアムドの属性能力が加われば正に無敵、そうドミナンテは思っていた。

 しかし彼女の話を聞くにつれ、その自信が薄れていく。


「私たちの能力が防がれるとは思わないけど、絶対とは断言できないわ」

「……」


 ドミナンテは慢心していたと認識し、自分を強く戒めた。


「……分かったぺリアムド。奴らが対策を講じる前にこちらから仕掛けようではないか」

「やる気になったわね」


 ぺリアムドは薄ら笑いを浮かべる。


「して、儂らはどうするべきだ?」


 その問いかけに、ぺリアムドは小首を傾げて考えながら口を開いた。


「……そうね……トモカズが領都に居るのか居ないのかは分からない……でも、彼の仲間は必ずオルステンに潜伏しているわ。今でも私たちの首を取ろうと策を練っている最中よ。先ずはそいつらを皆殺しにするの」

「できるのか?」

「まだ試作段階だけど、とっておきの術があるわ」


 ぺリアムドの口元が悍ましいほど吊り上がる。


「トモカズ自身、若しくは彼に近しい者を殺す術よ」


 期待以上の言葉にドミナンテも口角を上げた。


「……ほう……何をする気だ?」


 ぺリアムドはマッテオたちに視線を流す。


「今は言えないわ……後でじっくりと教えてあげる」

「それは楽しみだ、ぺリアムド……」


 二人の会話を傍らで聞いていたマッテオ以下漆黒騎士たちは、ドミナンテとぺリアムドの得も言われぬ嗤いに身震いを起こした。


 そこでドミナンテが彼らに労いの言葉を掛ける。


「マッテオ、ご苦労であった。お前たちは休んでいろ」

「はっ」


 漆黒騎士たちは揃って胸を撫で下ろし、謁見室からそそくさと退出していった。


 それを見届けたドミナンテは、再びぺリアムドに話しかける。


「さあ、これで邪魔者は居なくなった。教えてくれぺリアムド、どうやって奴らを駆除するのだ?」

「……うふふ……それはね……」


 ぺリアムドは愉しそうに反逆者の殲滅方法を語り始めた。






 話を聞き終えたドミナンテは上機嫌であった。


「流石だぺリアムド! そんな事が出来るとは素晴らしいぞ!!!」

「気に入って貰えたかしら?」


 ぺリアムドは可愛らしく微笑んでいる。


「気に入るも何も、その術ならどのような輩でも排除できる! お前は試作段階と言っておったが、実践で使おうとしている処からして、完成間近なのであろう!?」

「九分九厘はね。後は試すだけよ」

「おお! 良いではないか! ならばその術の初めての犠牲者がトモカズ一味と言う訳だな!? これは愉快!」


 ドミナンテの高笑いが室内に響き渡った。


 しかしぺリアムドが、弱った顔を浮かべながら注意を促す。 


「喜んでいるところ悪いんだけど、その術は一回限りの使い捨てなの」

「なにっ? 一回だけだと?」

「そうよ、ごめんなさいね」

「……そうか……残念だが、仕方ない」


 落胆するドミナンテだが、直ぐに気持ちを切り替えた。


「まあよいわ。トモカズ一味を排除できれば言う事はない」

「そう思ってもらえると有り難いわ」


 二人は互いに不気味な笑みを浮かべ合っている。


「それでね、ドミナンテ。もう一つだけ献策があるの」

「なんだ? 言ってみろ」


 今度はどのような進言をぺリアムドがしてくるのか、ドミナンテは楽しみで仕方なかった。


「私たちもバンジョーナ城塞に出向かない?」

「なに?」


 思わぬ提案にドミナンテは目を丸くする。


「それは領城から出るという事になるぞ……」


 彼らは今、強力な魔力場に守られた領城に居る。

 もしかしたら、近いうちに魔力場を無効にする策を敵が打ち出してくるかもしれないが、今現時点ではまだ安心と言えた。


 それがである。

 急にぺリアムドが領城を出ると言い出したのだから、ドミナンテが疑念を抱くのは当然であった。


「しかもだぺリアムド。バンジョーナ城塞にはヘルムーツェンが行っておる。今頃は城塞を攻めているはずだ。今回あ奴は手を抜かんと言っておった。必ずやトモカズ一味は皆殺しの憂き目に合う。わざわざ儂らが出向く必要もなかろうに」


 その言葉にぺリアムドは肩を竦めて言い返した。


「私たちがバンジョーナ城塞に向かうのは、トモカズを確実に始末するためなのよ」

「……なんだと? もっと詳しく説明しろ」

「例えばよ、トモカズがこのオルステンに居たとしましょうか。そうなると、これから彼は、私が施す術で確実に命を落とすわ」


 だろうな、とドミナンテは頷く。


「でも、万が一にもバンジョーナ城塞に居たとしたら、彼を打ち損じることになるわ。だから私たちが直接行って、確実に息の根を止めるのよ」

「……」


 ドミナンテは難色を示した。

 その理由をぺリアムドは直ぐに察する。


「もちろんヘルムーツェンの強さは知っているわ。それに多くの兵も借りたし、【存在者】のアザナッハも参加してくれた。しかもあの不死鳥騎士までも陣営に加わっている。それらのことを承知で言っているの」

「……ああ、お陰でスパリアロには大きな借りを作ってしまった……デミトリクスにはアースサー王子を後押しをするとまで約束した……ここまで儂が頭を下げた事は、ここ何十年もない……」


 苦い顔を見せるドミナンテに、ぺリアムドは堂々と言い放った。


「そうね。支払った代価は大きいわね。だからこそ、今回で確実に決着を付けるのよ」

「……」

「それにへエルムーツェンたち全員を合わせても、私たちの方が遥かに強いわ。言ってみれば、私とあなたは最強の後詰めなのよ」

「……」

「ドミナンテ。あなたはトモカズの死にざまを見たいわよね。今まで散々引っ掻き回されたんだから」


 ぺリアムドのその言葉が、ドミナンテの抑えていた感情を呼び起こさせる。


「そうだなぺリアムド。そろそろこの下らん遊びを終わらせるとするか」






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