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121.一難去ってまた一難

 痛ってぇええええええええええええええええええええええええええ!!!

 あいつら()りやがったな!!!

 

 俺は思いっきり眉を顰めて苦悶の表情を浮かべた。


「どうしたのだマスター!?」

「旦那様! 何かあったのですか!?」

「師匠、大丈夫!?」


 パーシヴァリー、ピア、エルテが不安な表情で言葉を掛けてくる。


「……慌てるな、大した事じゃない……」


 そうは言うものの、痛みを我慢したお陰で額から大量の汗が噴き出ていた。


「……」


 ……クソが、首を切断しやがって……


 俺は苦痛に顔を歪めながらも状況を再確認する。


 今現在、俺たちはオルステンからほど離れた森の中の、とある小屋に身を隠していた。


 ここに居るのはパーシヴァリーとピアとエルテ。

 それからゼクトとクラリーサ。

 あとはイザイラと、その子飼いの部下が数名だ。


 キャロラインは未だ気絶しており、パーシヴァリーが担いでいる。


「……」


 ……俺一人だけ領城に行って良かったよ……

 ……みんなで行ったら為す術もなく簡単に殺されちまってた……


 俺は一通り皆の顔を見ると、ほっと胸を撫で下ろした。


「……」


 しかしイザイラのお陰で難を逃れる事が出来た……

 彼女が小屋を用意していなかったら、危ないところだったよ……


 ここは狩人が休憩所として使う場所だが、実際はイザイラの隠れ家だ。

 そして俺たちがこの隠れ家まで来た経路は以下の通りである。


 秘密通路を使ってぺリア・ロ・サイモンから無事に抜け出した俺たちは、ピアの隠蔽(ハインディング)スキルで姿を隠し、裏町にある廃墟の教会まで逃げてきた。

 そこには地下通路が備えられており、繋がっている先がこの小屋だったという訳だ


 ……これを備えていたイザイラって地味に優秀だよね……


「……トモカズ、まさかお前の分身がやられたってのか……?」


 ゼクトの言葉に俺は渋い顔をする。


「……ああ……奴ら、簡単に〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉を倒しやがった……」


 〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉。


 こいつはプレイヤーの姿を模する事が可能なモブ精霊で、言ってみれば分身体だ。


 以前、不死鳥騎士のテオドニスと戦った時も、俺の身代わりとなってダメージを受けてくれた。


 今回は、影武者としてこのモブ精霊をドミナンテの元に向かわせた。

 俺が直接出向いても良かったが、奴の能力が不明だったため、何かあってはと思い代役を立てたのだ。


 無論、ドミナンテやシルベスターを倒す事が目的なので、召喚したのは三段階のうちの最高ランクである高質の〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉。

 このランクの召喚時間は非常に短いが、俺の力を六割ほど受け継いでいる。

 これなら奴らを仕留められると考えていたが、思惑は外れてしまった。


 結果として〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉は倒されてしまい、その瞬間、それらの経験、痛みが全て俺にフィードバックする羽目となった。


「……」


 ……首と右手首が死ぬほど痛い……

 ……本当は激痛でのたうち回りたいけど、みんながいるから情けない姿は見せられねえ……


「……信じられないよ……師匠の力を六割も持った〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉を倒すだなんて……」


 エルテは動揺していた。

 そんな彼女にパーシヴァリーが胸を張って堂々と告げる。


「確かに高質の〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉は強い。しかもマスターを模しているのだ。どのような達人でも全く歯が立たない強さを持っていると言っても過言ではない」

「……」


 ……大袈裟な……そんな訳ないだろうよ……


「だがエルテ、それでも所詮は偽物。マスターの知略、度胸、勇気などは全く引き継がれていない」


 ……そうか? けっこう俺に似てるんですけど……


「それらの事実を鑑みれば、〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉の力量はマスターの実力の一パーセントにも届かないだろう」

「……」


 いやいやいや、それは絶対にない。


 昔、高ランクプレイヤーが召喚する〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉に散々煮え湯を飲まされた。

 あれはどう見ても一パーセントとかのレベルじゃねえ。


「……そうだね……師匠の〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉は確かに強いけど、所詮は模倣品だもんね。高質ランクは使用者の六割程度の実力を持つって言われてるけど、そこまで師匠の実力を真似るのは絶対に無理だもんね」

「……」


 ……まあ、エルテだったらパーシヴァリーと同じ意見になるわな……


「だがエルテよ。例え一パーセントの力と言えど、マスターの〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉を倒した事実は賞賛に値する」

「……それはボクも素直に認めるよ……」


 途端、二人の表情が、獰猛な捕食者の顔付きへと変化した。


「……やはりエルテも私と同じ考えか……」

「……もちろんだよ……〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉は師匠の姿を模してたんだよ……それに危害を加えるだなんて、許されるはずがないよ……」

「……其方の言うとおりだ……マスターの凛々しい姿に傷を付けるなど言語道断。あ奴らには死すらも生温い……」


 その会話にピアが加わる。


「……わたくしも許すことは出来ません……旦那様の素晴らしい御姿を害した罪、その身をもって贖罪していただきます……」


 ……あのね……痛みはあるけど、俺は傷一つ負わずにピンピンしてるんだよ……


「……」


 ……もういいや……


 俺は気を取り直して話題を変える。


「みんな聞いてくれ。確かに〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉はやられた。しかし収穫もあった」

「トモカズ、その収穫とは何だ?」


 クラリーサが興味津々で聞き返した。


「ぺリアムドの属性と、ドミナンテの能力の一端だ」

「!!?」


 その言葉に全員が息を吞む。


「これから〈自己幻像(ドッペルゲンガー)〉が経験した事を話す」 

 

 俺は領城での出来事を、順を追って皆に説明するのであった。






「……その話が本当だとしたら、ぺリアムドとか言う奴はとんでもないな……」


 一通り話し終えたところで、ゼクトは難色を示していた。


「……ああ、訳が分からないうちに首を取られた。あれに対抗する手段が思いつかない……」


 ……ぺリアムドの座標属性能力は強力だ……防ぐ方法なんてあるのか?


 俺が思い悩んでいると、クラリーサが難しい顔で口を開いた。


「トモカズ……私にはドミナンテの能力の方が恐ろしさを感じる……」

「……」


 ……そうだな……

 ……あいつの一言で体の自由を奪われた……

 ……しかも命令された通りにしか動けない……

 ……何なんだよ、あの能力は……


――バァン――


 突然であった。

 何の前触れも無しに、小屋の扉が盛大に開かれた。


「何者だ!」


 瞬間、ゼクトたちが一斉に臨戦態勢を取る。


 なになに!?

 びっくりするんだけど!

 敵!?

 敵なのかしら!!?


 突拍子な出来事に怯んでいると、軽やかな声が室内に行き渡った。

 

「イザイラ様! やっぱりここに居らしたのですね!」


 一人の年若い女性が小屋に入ってくる。


「マーゴット!? 」


 どうやらイザイラはこの女性を知っているらしく、彼女の名を呼ぶと同時に安堵の表情を見せた。

 イザイラの手下たちも、マーゴットを見て胸を撫で下ろしている。


「皆様、お騒がせして申し訳ございません。彼女はマーゴットと言いまして、私の直属の部下です。ほらマーゴット、あなたも挨拶をしなさい」


 マーゴットは恐縮しながらも自己紹介を始める。


「驚かせて済みません……マーゴットと申します。以後、お見知りおきを」


 ……イザイラの手の者だったのね……驚かすんじゃねえよ。


「それでマーゴット、よくここが分かったわね」


 イザイラの言葉でマーゴットは何かを思い出したのか、興奮しながら早口で捲し立てた。


「イザイラ様! 大変な情報を入手いたしました! なので一刻も早く報告しなければと思い、急ぎぺリア・ロ・サイモンに向かったのです! ところがどういう訳か、店には大勢の兵士が詰め掛けていました!」


 まあ、今ごろぺリア・ロ・サイモンは大変な騒ぎになってるよね。


「私はイザイラ様とトモカズ様の関係が露見したと推測しました! でも、イザイラ様なら必ず逃げ切るはずだと信じ、藁にも縋る思いでこの隠れ家に素っ飛んできたのです!」


 マーゴットの迅速な行動にイザイラは頬を緩めた。

 

「良い判断だわマーゴット。もちろん付けられていないわよね」

「ナンシーちゃんも注意を払ってくれてましたから問題ありません!」


 彼女の肩からひょっこりと可愛らしい人形が姿を現す。


 あれはスクウェイアの人形か?

 なんでここに居るんだ?


 顔に出ていたのか、俺が疑問に思っているとイザイラが答えてくれた。


「スクウェイア様から人形を一体……ではなく一人お借りしておりました。ナンシーちゃんは優秀だから役に立つと」

 

 そういやスクウェイアは領都を重点的に偵察していたな。

 対してイザイラたちはオルストリッチ全土だった。範囲が広いから、スクウェイアが手を貸したんだな。


「それでマーゴット、その大変な情報とはなに?」

「あ、はい!」


 促されたマーゴットは慌てて報告を始める。


「ヘルムーツェンが一軍を率いてバンジョーナ城塞に向かったらしいのです!」

「!!?」


 全員が驚愕した。

 場が緊迫し、事態が悪い方へ進んでいると誰もが感じる。


 そんな張り詰めた空気の中で、ゼクトが思いきって口を開いた。


「それは何時の話なんだ!?」

「はい! 数日前です! 日数的に考えれば、今日か明日には城塞へ到着するかと思います!」


 今日か明日だと?

 

「……」


 という事は、俺たちがぺリア・ロ・サイモンに来た直後にヘルムーツェンが城塞へ攻めて来たって事も有り得るよね……


「……」


 おいおいおい!

 城塞の歪曲門(ワープ・ゲート)が稼働しなかったのは、それが原因なのか!?


 ていうか、タイミング的に間違いねえ!


「……」


 焦るな俺!

 ここは冷静になって考えるんだ!


「……」


 この場合、考えられる状況は三つある。


 一つ目は、ヘルムーツェンが攻めてきたので、セラーラたちは歪曲門(ワープ・ゲート)を取り外して城塞を放棄した。

 二つ目は、セラーラたちは今も交戦中で、不測の事態に備え歪曲門(ワープ・ゲート)を取り外した。

 三つ目は、城塞が占拠されて、その際に歪曲門(ワープ・ゲート)が破壊されたか取り外された。

 


「……」


 ……歪曲門(ワープ・ゲート)が稼働しなくなった時間は、俺たちがぺリア・ロ・サイモンに来てから数時間後だ……

 ……一つ目や二つ目なら、俺に報告する余裕はあったはず……

 ……それがなかったという事は……

 

「……」


 ……おいおい頼むよ……三つ目だけは勘弁してくれ……






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― 新着の感想 ―
[一言] あっぶなかった……「勝ったッ! 第五章完!」になるところでしたな!
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