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120.手も足も出ませんでした

「全員! 抜剣!!!」


 マッテオの号令で、漆黒騎士が次々と剣を抜き放った。


 どのみちこうなる事は分かってたんだ。

 予定に変更はない。


「来いよ、全員ぶっ倒してやる」

「トモカズ、いい度胸だ」


 十一人の漆黒騎士が、俺を取り囲んでじりじりと距離を詰める。


「待ちなさい」


 緊迫する状況の中、可愛らしい声が邪魔をした。


「ぺリアムド様、なぜ止めるのです……」

「この男は何か策を持っているわ。でなければ、のこのこ(・・・・)とここへ来るはずがないもの」

「……」


 策なんてもんはない。脳筋ゴリ押しだよ。


「そっちが来ないのなら、俺から行かせてもらう」


 先手必勝だ。


 俺はドミナンテに手を翳し、モブ精霊を召喚する。


「〈無条件下の炎(ゴノメス)〉」


 硬球ほどの黒い炎の塊が、俺の手の平の前に現れた。

 それには唇がついており、薄らと笑う隙間からは規則正しく並ぶ白い歯が覗いている。


「それはなに? 精霊や悪魔ではなさそうね……」


 ぺリアムドは興味津々でモブ精霊を凝視した。


「貴様!!!」

「やらせるか!!!」

「ここで仕留めろ!!!」


 漆黒騎士が俺に飛び掛かって来る。


「待ちなさいって言ってるでしょう」


 再びぺリアムドに制止され、マッテオたちは困惑しながらも動きを止めた。


 そんな彼らを気にも留めないドミナンテは、目を凝らしてモブ精霊を見ている。

 

「それがお前の策か? その火の塊を儂にぶつけるというのか?」


 別に策って訳じゃあないんだけど、ぶつけるのは当たってるよ。


「こいつは超高温の火球だ。当たれば一発でドロドロに融解しちまう。しかもめちゃくちゃ速い。たぶん避けれないと思うぞ」


 俺は脅すように〈無条件下の炎(ゴノメス)〉の威力を解説した。


 しかしドミナンテはまったく怯まない。

 それどころか、俺に向ける視線が冷ややかな物へと変わり、興ざめしているようであった。


「つまらん。もっと驚くような策を仕組んでおると思ったが、とんだ期待外れだったわ」

「それがお前の最後の言葉だ」


 俺はモブ精霊を解放させる。


「終わりだ」


 次の瞬間、火球が超高速でドミナンテ目掛けて射出された。

 それは弾丸よりも速く、一瞬で奴に激突する。


「なにっ!!?」


 刹那、俺は驚愕した。

 なぜならば、火球はドミナンテには当たらず奴の背後の壁に直撃していたからだ。


 そこは〈無条件下の炎(ゴノメス)〉の超高熱によってドロドロに融解し、直径一メートルほどの大きな穴を作っていた。


 外れただと!?

 狙いは間違いなく正確だった!

 手応えもあった!


 だが実際は当たっていない!

 ドミナンテの顔のすぐ横を通り過ぎたってのか!?


 俺が訝しんでいると、ぺリアムドが興味深く口を開いた。


「面白い術ね、見たこともないわ」

「レーヴェは召喚術の類ではないかと言っておった」

「そのようだけど、魔力の流れを感じなかったわ」


 ぺリアムドは〈無条件下の炎(ゴノメス)〉が融解させた壁をマジマジと見ている。

 

「トモカズだけではない。以前にもお前に話してやったが、【銀髪の戦乙女】も怪しげな術を用いてユージスを連れ去りおった。こやつらには謎が多すぎる」


 その言葉にぺリアムドの食指が動いた。

 彼女は俺に目を向け大きな関心を示す。


「それ、もっと知りたいわね」

「ぺリアムド。殺せるときに殺さねば、後で痛い目を見るぞ」


 ドミナンテの忠告で、ぺリアムドは未練を残しながらも仕方なく思い直した。


「……そうね。残念だけど、トモカズは殺したほうが良さそうね」


 二人の強い殺意が俺に向けられる。


 ちぃ!

 

「もう一度だ!」


 俺は再びモブ精霊を召喚しようとした。


「なっ!!?」


 しかしそれは、自分の身に降り掛かってきた現実によって中断される。

 何故かは分からないが、俺の右手首から先が無くなっていたのだ。


「どうなってんだっ!!?」


 咄嗟に右手を引っ込め切り口を確認する。


「これはっ!!?」


 右手首は鋭利な刃物で切断されたかのように綺麗に斬り取られていた。


 と直後、傷口から止めどなく血が流れ始めて急激に痛みが襲いかかる。


「!!!」


 いってええええええええええ!!!

 くそったれめ、何しやがった!!?


「フフフ、これを探しているのかしら?」


 ぺリアムドの手に俺の右手首が握られていた。

 彼女はにたりと笑いながら、自分の前面に翳してそれを見せつけてくる。


 いつの間に!!?


「これはもう要らないわね」


 次の瞬間、ぺリアムドの手から炎が吹きあがった。

 轟々と噴出する炎は俺の右手首を包み込み、塵にしようと激しく燃え盛る。


「どうかしら、自分の体の一部が燃えている光景を見るのは。こんな経験、滅多にないわよ」


 ぺリアムドは口元を吊り上げ愉しそうにしていた。


「……あら……?」


 ところが彼女はある違和感に気づく。

 強烈な炎に包まれているにも関わらず、俺の右手が燃え尽きる事はなかったからだ。


「……どういうことなのかしら……灰にならないわね……」


 ぺリアムドの疑問をドミナンテが晴らす。


「今までの報告によると、トモカズは異常な身体能力とあらゆる耐性を持っているそうだ。燃えないのもその一環だろうな」


 燃焼耐性値が最高値だからな!

 ていうか、どうやって俺の手を斬り取りやがった!!?


 俺は限られた時間の中で、ぺリアムドの情報を思い返し、目まぐるしく頭を回転させた。


「……」


 ジャスティリオスの話だと、ぺリアムドは四つの属性を持っている。

 俺の右手首を切断した能力は、間違いなくそのどれかの一つだ。


 一つは火属性。

 ぺリアムドは炎を使って俺の右手首を燃やそうとした。

 あれは火属性の力。


 俺はマジマジと傷口を見る。


 血が流れ出ているその断面は、ギロチンで落とされたかのように奇麗に切断されていた。


「……」


 ……火属性は違うな……焼き切ったとしても、一つも焦げていない。


「……」


 それに、だ。

 一切の気配も無しで右手首を斬り取ったんだ。

 さらに言うと、俺の馬鹿げた防御力や耐性力を簡単に突破しやがった。

 そんな芸当を火の能力だけで出来るとは考えにくい。


「……」


 ……という事は、花属性の力か?


「……」


 いやいやこれは違うだろう。


 ……となると、残るは座標属性と正体不明の属性……


「……」


 ……分かったぞ……


 俺は誰にも聞こえないほどの小声でポツリと呟いた。


「……座標か……」


 奴は空間の点、いわば座標を操る事が出来る精霊と見た。


 俺の右手首が切り取られたように見えたのは、ぺリアムドの近くの座標と、俺の右手首が存在する座標を入れ替えたからにほかならない。

 射程範囲は分からないが、指定された座標に存在する物質が、そこよりはみ出していた場合、こうやって切断される。


 だから俺の防御力もまったく意味をなさなかったと言う訳か。


 これは空間を斬るエルテの斬世大剣に似ているが、全くの別物だ。

 斬世大剣は空間を斬るが、ぺリアムドは座標を入れ替える事で切断を生み出している。

 

 しかもだ。

 指定した座標にある物質も、座標の一環として取り扱われているから防ぎようがねえ。

 

「……」


 俺は縦巻きロールの美少女を睨みつけて、恨みがましく口を開いた。


「……お前、座標を入れ替えたな……?」


 その言葉にぺリアムドは面食らう。


「……あら……どうして分かったのかしら……?」


 しかし彼女は直ぐに思い至り、納得の表情を見せた。


「そうなのね、神官長が喋ったのね。私が座標属性を持ってるってことを」


 ……流石はジャスティリオスが褒めちぎった精霊……頭の回転が早い……


「お前、〈無条件下の炎(ゴノメス)〉も座標軸をずらして進路を変えたな」

「さっきの火球のことを言っているのよね。それも正解」


 俺が言い当てた事にぺリアムドは感心した。


「あなた凄いわ。神官長から私の属性を聞いていたとしても、ここまで見抜くなんて大したものよ」


 そう述べると、彼女の雰囲気が殺伐としたものへと変化する。


「……でもそれだけ……」

「……」


 ……こいつがその気になれば、俺なんて造作もなくバラバラにできるだろう……


「ぺリアムド、この辺で幕引きだ」

「そうね、お終いにしようかしら」


 刹那、二人から爆発的に殺意が噴出した。


 まずい!!!


 危険を察知した俺は、出口へ向かおうと体を翻す。


 と同時に、重苦しい声が俺自身へと強く圧し掛かって来た。


――這い蹲れ――


 両膝が勝手に折れた。


「なっ!!?」


 驚いたのも束の間で、俺の意思とは関係無しに膝が床へと付く。


「これはっ!!?」


 次いで両腕が自動的に動き、手のひらをしっかりと開いて地面に触れた。


「ぐっ!!?」


 自分の意志に反して俺は平伏した格好を取る。


「……な、なんだ……これは……」


 俺は何とか立ち上がろうと全身に力を入れた。

 しかしながら、自分の身体ではないかのように全くコントロールが効かない。


「……」


 これか!


 これがグラハムの言っていた、無条件で降伏させるドミナンテの能力!!!

 奴が【絶対領主】と呼ばれる所以!!!


「最後にもう一度だけ機会をやろう」

「……」

「儂の問いに答えれば助けてやる」


 ドミナンテは俺を睥睨すると、不遜な態度で言い放った。


「仲間の詳細な人数は? お前らの拠点は幾つあり、何処にある? 次はどのような手で攻めてくる?」

「……」


 重苦しい声が耳に入って来る。

 ところが今度は奴の思うように俺の口が開かれる事はなかった。


「……」


 ……どうやらドミナンテの能力は、体の支配だけのようだ……

 ……俺の精神まで操る事は出来ないらしい……


「さあ答えろ」

「……」


 誰が喋るもんかよ……


 俺はだんまりを決め込んだ。

 その態度にドミナンテはあっさりと見切りをつける。


「言わんか。なら用はない。ぺリアムド、殺せ」

「分かったわ」


 ぺリアムドは俺の右手首を投げ捨てると、薄ら笑いを浮かべてこちらに手を翳した。


 直後、視界が一変する。


「!!?」


 先ほどまで俺が見ていた人物は、ドミナンテとぺリアムドであった。

 しかし今は、首無しの身体がこちらを向いて床にひれ伏している。

 

「あらどうしたの? そんなに驚いた顔をして」


 ぺリアムドが俺の瞳を覗き込んできた。

 その距離は、どういう訳かくっつきそうなほど近い。


「……!!!」


 瞬間、ぞっとした。

 

 目の前の首無しの身体が、俺自身だと理解したからだ。


「分かったみたいね。どう? 素晴らしい光景でしょう?」

「……」


 俺の髪を鷲掴みにするぺリアムドが、首だけとなった俺に嗤い顔を向けている。


「そうだったわね。声が出ないのよね。これでは感想がもらえないわ」

「……」


 そして直ぐに、俺への興味を無くしていった。


「あっけないものね……ドミナンテ、今まであなたはこの程度の男に梃子摺っていたの?」

 

 ドミナンテは肩を窄めて言葉を返す。


「馬鹿を言うな。普通にやり合えば強敵だ。儂とお前だからこそ、こうして簡単に始末できたのだ」

「そうね……私たちの前では弱者でも強者でも変わりはないものね」

「……」


 俺は朦朧とする意識の中で、二人を睨みつけながら絶命するのであった。






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[一言] 主人公が死んだあぁぁぁアア!?
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