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119.ヘッドハンティング

 ドミナンテは俺を見据え、威厳を醸しながら口を開いた。


「儂はお前を八つ裂きにしたいと思っておる」 

「……」


 そりゃそうだよな。

 あんたの息子を四人も始末したんだからな。


「……」


 ……俺って意外と酷いことしてるよね……


「……」


 いやいやいや、ヴァンヘイム一族は己の欲望のために罪なき人々を苦しめてきたんだ。

 こいつらの身勝手な行動で死んだ人は数えきれない。


 同情なんて無用だ。

 甘いところなんて見せでもしたら、そこから足元を掬われちまう。

 

「トモカズ。お前が初めて反逆の意を示したのは、儂が領内を巡視していた時だった。その時お前は儂が居らぬオルステンで、【撲殺聖女】と共にアンドレイを殺しおった」


 そういやそうだったな。

 セラーラが暴走したおかげで、俺が思い余って殺しちまったんだよな。


「……」


 ……故意じゃないんだよ……


「次にお前は【撲殺聖女】と【銀髪の戦乙女】を連れて、ジークベルトを攫いおった。どうせもう、あ奴は生きていないのだろう?」


 ……それは俺も知らないんです……ジークベルトの事は乙女精霊たちに任せてたから……

 ……でも、俺もあいつは死んでると思う……


「そしていつの間にか、商人ギルドと冒険者ギルドを掌握しておった」


 ……ああ、あれか……

 乙女精霊たちが俺をいきなり交渉の場に放り込みやがったから、あの時はストレスMAXになったよ……


「その後のお前はレンドン城に【死の女帝】を送り込み、不死鳥騎士たちを倒して城を占拠した」


 ……チェームとエルテの暴走ですね……


 俺は占拠しろだなんて指示は一つも出していません。

 フレイを助けるだけが目的だったんだよ……


「それからボンゴ村に向かわせたチャーチたち傭兵ギルド。あやつらを壊滅させたのもお前たちだな」


 その話は後でセラーラから報告を受けたよ。

 俺とピアが地獄に落とされた後、何でも皆殺しにしたとか……


 ……相変わらず容赦ねえ……


「だが、それ以上にお前ら一味はとんでもない事態を引き起こした」


 ……え、なに……?


「その一つがマッキシムの件だ」


 ……ドミナンテの次男坊か……


「あ奴は超闘気リィンフォース・オーラを極め、斥伯剣という魔剣を所持し、魔眼、それも真魔眼を開眼させておった」


 ……会ったことはないけど、聞いた限りでは反則級の強さを感じるね……


「その魔眼を使い、マッキシムは数々の戦を勝利に導いてきた」


 ……軍事の天才とか言われていたもんね……


「それ程までの強者が一軍を率いてレンドン城奪還に乗り出した。結果はいうまでもないだろう」


 それは知ってるよ。

 あのときエルフたちとレンドン城に行ったら、既にマッキシム軍の旗が翻っていたからね。


「しかしお前は再びレンドン城に刺客を向けてきた」


 ……刺客なんて向けてないよ……パーシヴァリーが勝手に行ったんだよ……


「信じられない事に、【銀髪の戦乙女】はたった一人で軍を蹴散らし、あのマッキシムをも倒しおった」


 それには俺もビックリです。


「だがお前たちは、それだけでは飽き足らず、更に攻勢を強めた」


 ……そんな覚えは一つもねえ……


「中央広場での戦いだ」


 ……おいおいおい。それはデウストから仕掛けたんだろうが……


「そこでお前たちはデウストを倒し、レーヴェを再起不能寸前にまで追いやった」


 ……デウストは勝手に自滅したんですけど……

 ……レーヴェに至っては、自分から無茶をしたからだよ……


「加えてバンジョーナ城塞までも陥落させ、遂にはそこを拠点としおった」


 ……チェームとエルテが再度、暴走したからです……

 ……その事について俺は一切合切、知りませんでした……

 

「最後にお前はキャロラインとアクセルを陣営に引き入れ、そして今まさに【蝋燭会】の三幹部の一人、イザイラまでをも抱き込んでいる事が分かった」


 ……キャロラインとアクセルは、乙女精霊たちが勝手に拾ってきたんだよ……

 ……イザイラだって、チェームが殺そうとしたから庇った結果なんです……


「ここまで儂を翻弄させた輩は後にも先にもお前しかおらん」

「……」


 ……ドミナンテよ……今まで起こった出来事、その殆どが俺の意志ではありません……


「……」


 ていうか、全部じゃね?


「儂はお前の五体をバラバラにしてやりたい。それはお前の配下も同様だ」


 ドミナンテはそう言うが、何故かしら奴から怒りを感じなかった。


「だが儂は、お前の手管に感服もした」

「……」


 ……なに……?


「これだけ見事にやり込められては、逆に称賛の言葉を贈りたくなってきたわ」

「……」


 ……やっぱりそうか……


「……ドミナンテ……お前、俺を傘下に加えたいんだって……?」


 その言葉を耳にしたドミナンテは不敵に口角を上げる。


「マッテオから聞いたか」

「……」


 ……マジか……

 ……本当に俺を仲間に引き込もうってのかよ……


「おいおいドミナンテ、気でも触れたんじゃないのか? 俺はあんたの息子を四人も倒したんだぜ。そんな奴を配下に加えるだなんてどうかしてるぞ」


 俺は牽制の意味合いも込めて言ったつもりだが、奴が機嫌を損なう事はなかった。


「息子どもが不甲斐なかっただけだ。あ奴らは生存競争に負けたのだ。お前との生存競争にな」

「……」


 ドミナンテは一呼吸置き、座ったまま前のめりになって俺を直視する。


「儂はな、常に優れた者を求めておる。嘗ては敵だったとしても、儂の軍門に下るのであれば手厚く迎え入れる」

「……」


 ……私情を挟まず平等に人を評価できるって言いたいのか……?


「息子たちが優秀なのは確かであった。特にデウストとマッキシム、あ奴らは類まれなる才を持っておった。そんな自慢の二人を撃破したお前たちに興味を抱くのは当然であろう」

「……」


 ……このドミナンテとか言う男、とんでもない傑物だ……

 ……清濁併せ吞む事を自然とやってのけている……


「お前の配下が優秀なのも分かっておる。そしてその者たちを統率するお前自身が群を抜いておる事もな」

「……」


 ……統率とか一つも出来てないんですけど……あいつら毎回勝手なことしてるし……


 そこでドミナンテの眼光が強く俺を捕えた。


「どうだ、儂の傘下に入らんか?」

「……」


 ……マジで勧誘してきやがった……

 ……まさかこの世界でヘッドハンティングを受けるとは思ってなかったよ……


「もしお前が儂に下れば、息子たちの件は水に流してやろう。そしてお前たち一味をこれ以上とない待遇で迎えようではないか」

「……」


 ……ちょっとだけ魅力を感じてしまう……


「……」


 でもな、俺の愛する乙女精霊たちがそれを許すはずがない。


 万が一にもドミナンテに屈しようものなら、あいつらは絶対に大暴走を起こすに決まっている。

 何を仕出かすかまでは分からないが、保護者の俺が抑えとかないと大事変を引き起きすのは確実だ。


 それに俺は、ヴァンヘイム一族みたいに非情じゃないし、肝っ玉も小さいからね……


「……ドミナンテ……俺はお前には従わない……」


 俺は拒絶の言葉を告げる。


 しかしドミナンテは予想していたのか、大して驚いてはいなかった。

 それどころか、奴の視線が蔑みの目付きへと変化する。


「フン、愚か者が」


 そして奴は、傍に控える縦巻きロールの美少女に話しかけた。


「ぺリアムド、儂の言った通りであろう。ここまで盾つく男がそう簡単に靡くはずがない」


 なるほど。今回の誘いはぺリアムドの入れ知恵だったのか。


「それは困ったわね」


 ぺリアムドは俺に笑みを向けると、その愛らしい小さな口を開いた。

 

「トモカズ、よくよく考えてちょうだい。本当に私たちを倒せると思ってるの?」

「……」

「相手は一国家よ。対してあなたたちはただの反乱分子。ドミナンテが形振り構わず殲滅に乗り出せば、一瞬で決着がつくのよ」

「だったら最初からそうしろよ」


 俺の言葉にぺリアムドは肩を竦める。


「分かってないわね。それは最終手段。そんな事をしたら、町や村は荒れて、人もお金も減っちゃうわ。そうなってしまえば後が大変じゃないの」


 出来るだけ傷口を抑えたいって訳か。


「……」


 何となくだが、こいつらの思惑が分かって来たぞ。

 

 当初の領主側は、俺なんて直ぐに始末できると思っていた。

 だが状況が進むにつれ、デウストやマッキシムなどの優秀な配下が倒されていった。


 ドミナンテはぺリアムドの誓約者だ。

 絶対に大きな野望を持っているはず。

 奴は俺を使い、デウストたちが抜けた穴を埋めて野望を達成させようって腹なんじゃないのか?

 

「トモカズ。今回の誘いは、あなたたちにとって凄く良い話なのよ」

「……だろうな……」


 俺が肯定した事でぺリアムドは目を輝かせる。

 

「あら、分かってるじゃない。だったら素直にドミナンテの軍門に下りなさいな」

「……」


 今、こいつの言った内容は、俺たちにとって(・・・・・・・)の良い話だ。

 

 オルステンの領民なんかは全く眼中にねえ。

 これではアルタ村とトーゲ村とボンゴ村、ここの村人たちを許すとは考えられん。


「……」


 しかもだ。敵の俺を傘下に加えようってんだ。

 恐らくだが、強制的に隷属させる何かがあるに違いない。

 例えばティンクファーニが捕まっていた時に嵌められていた首輪みたいな何かが……


「私たちに付けば、キャロラインも無能の部屋に行かなくて済むわ。どう? 悪い話ではないと思うけど?」

「……」


 いいや、違うね。

 あの目、キャロラインを殺す気だ。

 俺が軍門に下ったら、何かしらの理由を付けて処分するつもりだ。


「……」


 ……やっぱこいつらは危険だよ……


 完全に考えが固まった俺は、ドミナンテとぺリアムドを睨みつけてはっきりと言ってやった。


「もう一度言う。俺はお前たちには屈しない」


 その確固たる意志に、ぺリアムドは美しい吊り目を大きく見開かせる。


「……あなた……もしかして分かったのかしら……?」

「……どうだか……」


 やっぱり飼い殺しにするつもりだったのかよ。


「……ポンコツのキャロラインを配下に加えたから、てっきり人を見る目がないとものとばかり思っていたわ……」


 キャロラインを配下に加えたのは、アプリコットのわがままを聞いてやっただけだ。

 まあ、今では俺も、世話が焼ける分、あいつを可愛いと思ってるけどね。


「……あなたに会って、はっきりと分かったわ……」


 見くびるなよ。現代社会の荒波に揉まれてきたこの俺をな。


「今までの謀反は、全てあなたの部下が手を回してたと思ってたけど、どうやら違うみたいね」


 それは当たってます。


「トモカズ、交渉は決裂だ」


 ドミナンテのその言葉で、漆黒騎士たちが一斉に身構えた。

 奴らは剣の柄に手を掛けると、今にも飛び掛からんとばかりに殺意を向けてくる。


 そしてドミナンテとぺリアムドは、二人して殺戮者の瞳へとその輝きを変貌させるのであった。






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