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118.領主との謁見

 領城に招かれた俺は、輝くばかりに磨かれてある廊下を歩いていた。


 隣ではマッテオが案内役を務めており、その後を数名の漆黒騎士が追随している。

 さらには前後左右と多くの騎士が周囲を固め、俺の一挙一投足に神経を尖らせていた。


「……」


 ……完全に包囲してるよね……


「おいマッテオ」

「なんだ?」

「えらい人数が多くないか?」

「俺の役目はお前をドミナンテ様の下へ確実に送り届ける事だ。例え城内と言えど油断はしない」


 そりゃまあ、そうだ。

 反逆者の俺を連行してるんだから、当然だ。


 奴らの立場を理解した俺は、団体様に領城の上へと誘導される。


 そしてある程度の階を重ねたところで豪著な扉が目前に現れた。


「トモカズ様、お待ちしておりました」


 扉の前に佇む二人の騎士が、精緻な取っ手に手を掛け両開きのドアを解放させる。

 そこは広間のようであり、マッテオは躊躇なく足を踏み入れた。


「付いて来い」

 

 俺は一瞬だけ躊躇うが、意を決して奴の後を追う。


「……」


 ……どうやらここは、謁見室みたいだな……


 俺は注意を払いながら、豪華な絨毯の上をゆっくりと歩いた。


 広間の壁には国旗や軍旗などの多種多様な旗が飾られてある。

 他にも水晶で出来た燭台が規則正しく置かれていたり、天井に素晴らしい絵画が描かれていたりと、訪れる者に権威を示すようわざとらしく配置されてあった。


 そして俺の歩く両側には、黒い鎧を着た十名の騎士が、五名ずつ左右に並んでいる。

 彼らは皆、兜をかぶっているが、殺伐とした空気を発している事から見ても俺を睨んでいるのが手に取るように分かった。


「ドミナンテ様。トモカズを連れてまいりました」


 先を進んでいたマッテオが足を止める。

 俺も同じように倣い、その場で立ち止まった。


「……」


 視線の先には壮年の男が居た。


 立派な口ひげを蓄えたそいつは、金色の髪を後ろに撫で付けており、信じられないほどの重圧感を発している。


 そして価値のありそうな、それでいて品の良い椅子に座り、肘掛に頬杖をついて俺を見据えていた。


「……」


 以前、一度だけ奴を見たことがある。

 あの時は大分距離があったから、プレッシャーをそこまで感じなかった。


「……」


 ……そういや取引先にも、こんなオッサンいたな……


 忘れもしない、あれは大手上場企業の会長さんで、初めて会った時は威圧で卒倒しかけたっけ……

 当時の俺は入社してから十年目だったけど、それでもビビりまくった記憶がある……


「……」 


 しかし今の俺なら問題無しだ。

 ドミナンテがどんなに重圧をかけてこようが怯みはしない。


 ……たぶんね……


 俺が自信なく自負していると、マッテオが話しかけてきた。


「ドミナンテ様の御前だ。粗相がない様に振る舞え」


 そう短く告げたマッテオは騎士の列に加わる。


 俺はただ一人、ぽつんと広間の中心に取り残され、全員の視線を一身に浴びた。


「……」


 ……やべえ、怯むというより緊張してきたよ……


 俺が固くなりかけたその時、重厚な声音が広間を支配した。


「こうして会うのは初めてだな」


 ドミナンテの第一声が、この場をより一層と厳粛な空間へと押し上げていく。


「……」


 ……俺は一回だけ遠目であんたを見たけどね……


「儂がこのオルストリッチ辺境伯領の領主を務めている、ドミナンテ・ラ・ヴァンへイム・ド・オルストリッチだ」


 奴の威厳ある声が広間に行き渡った。


「……」


 ……すげえ……さっきよりも威圧が増したんですけど……


「……」


 ……怖い……


「……」

 

 ……でも、これしきの事でビビってたんじゃあ、話にならない。


 俺は己を奮い立たせると、周囲に視線を流して現状の把握に務めた。


「……」


 案の定、シルベスターは居ない。

 やはり目の前のドミナンテを倒した方が手っ取り早いか。


「……」


 漆黒騎士は、マッテオを入れて全部で十一名。

 よし、マッテオはレーヴェより劣るらしいから、他の漆黒騎士を含めても何とかできそうだ。


「……」


 ……だが、ヘルムーツェンの姿がない……


 あいつはドミナンテの右腕。

 同席していてもおかしくはない。いや、逆にこの場に居ない方がおかしい……

 

 散々オルストリッチを引っ掻き回した俺が居るんだ。

 なぜ奴は出てこない?


「……」


 ……いま考えても答えは出ない……

 ここはドミナンテを倒す弊害が減ったと思って良い方に捉えるしかないか。


 俺は気を取り直す。


 そしてある人物へと注意を向けた。

 その者は、ドミナンテの傍らに控えており、値踏みをするかのように俺を見ている。


「……」


 ……桃色の髪の縦巻きドリルで、ゴスロリの美少女……

 間違いない、ぺリアムドだ。


 この場で一番厄介なのはあいつくらいか。

 何せジャスティリオスが褒めちぎっていたからな。


 俺が思案に耽っていると、重圧的な声が圧し掛かって来た。


「どうした、喋れないほど臆したか?」

「……」


 ……分かってるよ。


「……ああ、済まない。俺も名乗らせてもらうよ」


 ドミナンテは目を顰め、こちらを強く睨みつける。


「俺の名はトモカズ。知っての通り、あんたに(あがら)う者だ」


 その言葉で奴の眉間に深く皺が寄った。


「……お前はどっちだ……?」

「……?」


 要領を得ない質問に俺は問い返す。


「……どっちとはどういう意味だ?」


 ドミナンテは俺を熟視しながら言い放った。


「……儂を前にしながら微塵も恐れない……それどころか、たった一人でここに来た……馬鹿か本物か、どっちだ……?」

「……」


 ああ、そう言う事か。


「そんなの決まってるじゃないの。本物以外に有り得ないわ」


 可愛らしい声が俺たちの会話に割り込んできた。


「……ぺリアムド……何故そう思う?」


 縦巻きロールの美少女は、小悪魔的な笑みを浮かべる。


「あなたの子供を四人も倒したのよ。ジークベルトやアンドレイは兎も角として、ご自慢のデウストとマッキシムがやられたことが何よりの証左だわ。それにレーヴェもあのざまよ。ここまで来たら、もう疑いようがないわ」

「……」


 ドミナンテの顔が険しくなった。

 

「……ふむ……」


 しかし直ぐに、平然とした顔付きへと表情を変える。


「……どうして来る気になった?」

「……」

「ぺリア・ロ・サイモンを包囲された際、てっきり反抗するものとばかり思っておった。しかしどうだ。お前は儂の誘いに乗った。その理由を話せ」

「……」


 ……ドミナンテの奴、俺の狙いを探ってる……


「……」


 ……さて、どう返すべきか……


「言いにくいなら私が答えてあげる」


 再びぺリアムドが口を挟んだ。


「あなたは領城に招かれた際、シルベスターを倒すつもりだったのでしょう? 若しくは狙いをドミナンテに変える、違うかしら?」

「……」


 そりゃそうだわな。向こうさんも想定してるよな。


「……腹の探り合いをする必要はなさそうだな……そうだ。俺はドミナンテ、あんたを倒しにここへ来た」


 堂々と言い放たれたその言葉に、標的である当の本人は大きく目を見張った。


「ほう、儂を前にしてそこまで啖呵を切るとは……なかなか見上げた胆力だ」


 次いでぺリアムドも可憐な笑顔を見せる。


「正直ね。でも、それだと私はさらにあなたのことを知りたくなってきたわ」


 縦巻きドリルの美少女は、可愛らしく小首をかしげながら俺に問いかけてきた。


「……その自信は何処からきてるのかしら……私たちを相手に勝てるほど、あなたは強いの? それとも他に策でも持っているのかしら?」


 ぺリアムドはこちらの考えを全て見透かさんとばかりに俺の瞳を覗き込んでくる。


「……」


 やはりこのぺリアムドとかいう精霊は切れ者だ。

 奴は少しのヒントで多くの情報を読み取っている。


 何せ俺とキャロラインとの繋がりを、ほんの少しの手掛かりで看破したくらいだからな……


「……」


 先ほどもだが、俺がここに来た目的を告げたのはぺリアムドだった……


 多分こいつは、俺がドミナンテの誘いに乗ったと知った瞬間、その狙いに気づいたんじゃないのか?


 ……いや、それ以前に想定していた可能性の方が高い……

 ……俺を領城に招く事を思いついた時から、ドミナンテを倒すために俺が誘いに乗ると分かっていたんだ……


「……」


 ……俺の後輩がこういうタイプだった……

 ……相手の目をじっと見て、その挙動を探る……


 味方なら心強いが、敵に回せばこれほど厄介な奴はいない。

 話をすればするほど俺の本質が暴かれるぞ。


「そうそう。あなた、この部屋に入ったときキョロキョロしてたわよね。もしかしてシルベスターを探してたんじゃないの? でも残念、ここにはいないわよ」

「……」


 ちっ、やっぱりな。


 俺たちが魔力場のカラクリを掴んでいる事を読んでやがる。

 恐らくこいつが見定めたに違いない。


「あのポンコツと誓約できたのも、きっと何かがあるんでしょうね。是非とも教えて欲しいわ」


 その妖しくも美しい瞳が、俺の瞳の奥をしっかりと捉えていた。


「……」


 やばいな。ここで視線を外したら、奴の術中に嵌りそうだ。

 誘導尋問とかされかねん……


 こうなったら、のらりくらり躱してやる。


「何もねえよ。キャロラインが凄かった、ただそれだけだ。それに俺がここへ来た理由、考え無しの可能性もあるぜ?」

「あら、それはおかしな話だわ。あなたは先ほどドミナンテを倒しにここへ来たって、はっきり言っていたわよね? 考えが無い訳ないじゃないの」

「俺がそう言う前に、あんたはドミナンテを倒しにきたんでしょって言っていたよな。その言葉に乗っかっただけかもしれないぞ?」 


 ぺリアムドの形の良い吊り目が大きく見開かれる。


「……ふぅん……そうなのね……」


 そして何故か感心していた。

 

「ドミナンテ、ちょっと彼は手強いかも。あの話、進めてちょうだい」

「いいだろう、本題に入るとするか」


 ドミナンテの力強い視線が突き刺さる。


「……」


 俺は馬車の中でのマッテオとの会話を思い返した。


「……」


 ……どうやらあの話、本当のようだぞ……






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