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116.追い詰められたけど何とかしてみせます

 キャロラインが敵を連れて戻って来た。


 その所為で、俺の血圧が急激に上がり、頭の血管が切れそうになった。


 クソがぁあああああああああっ!!!


 ぺリアムドに俺たちとの繋がりを見破られたまではいい!!!

 それ自体は奴が賢かっただけで誰のせいでもないからなぁあ!!!


 だがなあっ、キャロライン!!!

 その後が完全にアウトだ!!!

 なぜ敵を引き連れ戻って来た!!!

 これじゃあ、計画がパアになったどころか、今後の方針にも影響を与えるじゃねえかよ!!!

 何考えてんだ、こいつはぁっ!!!


「……」


 いかん!!!

 怒りで心臓が爆発しそうだ!!!

 静まれ俺よ!!!

 今だけは無心になれ!!!


「……」


 しかしながら、その程度では烈火の如く荒ぶった感情を抑えきれない。


「……」


 そうだ!!!

 海を思い出すんだ!!!


「……」

 

 どこまでも続く広大な海。


 ……母の様に優しく穏やかな時もあれば、父のように荒々しくも逞しい姿を見せてくれる……

 ……それは人を和ませ、時には畏れさせる……

 ……しかし誰もがそんな海の魅力に惹かれていく……


「……」

 

 ……あの広さに比べれば、俺の悩みなど塵も同然……


「……」


 ふぅ、はっ、ふぅ。


「……」


 ……よし……何とか冷静さを取り戻したぞ……


 心を落ち着けることに成功した俺は、キャロラインに向かって言い放つ。


「……お前、騙されてるとか考えなかったのか……?」


 桃色の髪の美少女は、泣きそうな顔で答えた。


「……ぺリアムドは約束してくれた……彼女は人を見下すけど、プライドが高いだけに嘘は言わない……」

「……」


 ……マジで言ってんの……?


「……お前がそこまで言うんだから、ぺリアムドは嘘など言わないんだろうよ……だがなキャロライン、約束はそのとき限りだと思わなかったのか……?」

「……え……?」


 俺の言葉にキャロラインは唖然とする。


「ぺリアムドはきっと手は出さないだろう……今だけ(・・・)はな」

「……」

「そうすりゃ約束は守られる。そして今回の件が終わったら、奴らは総力を挙げてこの店を潰しにかかるだろうよ……」


 キャロラインは、あっ、という表情を見せた。


「……」


 ……ダメだこいつ……


「……キャロライン……其方は今まで何を学んできたのだ……?」


 俺たちの遣り取りを聞いていたパーシヴァリーが、剣呑な空気を漂わせる。


「……ご、ごめんなさい……」


 脅えるキャロラインに、エルテの真顔が向けられた。


「……確かキャロちゃんの教育係はコットちゃんだったよね……」


 それに答えたのは、殺伐とした雰囲気を纏うピアである。


「……はい……アプリコットさんは、キャロラインさんを連れてきた責任を感じ、自分の手で育て上げると意気込んでおりました……」


 三人は険しい表情で話し合った。


「……アプリコットは甘いところがあるのだ……」

「……コットちゃんは妹が出来たって喜んでたからね……厳しくできなかったんだと思うよ……」

「……その様なことでしたら、今後は教育係を変えねばなりません……」


 三人の冷たい視線がキャロラインへと突き刺さる。


「ひぃっ?」


 当の本人は身を震わせて小さな悲鳴を上げた。


「……仕方が有りません……」

 

 ピアは何かを決意する。

 そしてその考えを、抑揚のない機械的な声音で口にした。


「……わたくしにキャロラインさんを任せてはくれませんか……」

「えっ!?」


 キャロラインの顔がみるみる蒼褪めていく。


「……」


 そりゃそうなるわな。


 あいつは精霊界でピアの恐ろしさを嫌というほど見せつけられたからな……


「如何なる状況でも機転が利くよう、わたくしが責任をもって指導させていただきます」

「だったらボクが実技の方を教えるよ」


 エルテが名乗りを上げる。


「今はアクセル君を鍛えてるんだけど、凄く強くなったんだよ。だからキャロちゃんも一緒に修行させてあげるよ」


 そういや最近、アクセルの奴を見ないと思っていたが、エルテがしごいていたのか……


「……あ、あれを私が……?」


 アクセルの修行内容、キャロラインは知ってるようだな。


「……あんなのをしたら、死んでしまう……」


 彼女はがくがくと震え絶望した。


「……」


 ……あの脅えよう、一体どんな内容なんだ……?


「キャロライン、其方は恵まれているのだ。切れ者のピアが座学、最強の乙女精霊のエルテが実技。何と贅沢なことか」

「わたくしが手取り足取り教えて差し上げます。心待ちにしていて下さいませ」

「帰ったら頑張ろうねキャロちゃん。アクセル君も一緒だから寂しくないよ」

「……」


 キャロラインは立ったまま失神している。


「感動のあまり気を失うとは、しようがない奴なのだ」


 パーシヴァリーは自分よりも背の高いキャロラインを、ひょいと造作もなく肩に担いだ。

 そして不敵な笑いを浮かべながら俺の方を見る。


「マスター、私たちは囲まれている。どうするのだ? 打って出るのか?」

「……」


 忘れてたよ! 包囲されてたんだっけ!


 俺は現実に目を向け打開策を考えた。


「……」


 ……ピアの報告では、俺たちはかなりの数の敵に囲まれている……


 超闘気リィンフォース・オーラを得意する漆黒騎士が数名……

 そして多くの騎士……

 さらには数えきれないほどの兵……


「……」


 ……ここは逃げるのが得策か……


「……」


 ……だが待てよ……

 ……パーシヴァリーの言葉通り、打って出た場合はどうなる……?


「……」


 こちらの戦力は、一軍を単独で撃破できるパーシヴァリー。

 暗殺のスペシャリストであるピア。

 最強の乙女精霊であるエルテ。


 それから冒険者ギルドのマスターを務めていた剣と体術の達人ゼクト。

 後はカセットラフとスクウェイアが一目置いている、エルフの女戦士クラリーサ。


 まあ、気を失ったキャロラインは論外として、最後にこの俺。


「……」


 ……もしかして、勝てるんじゃね?


「……」


 いや、早まってはダメだ。

 ここで勝っても根本的な解決にはならん。

 領城には入れないままだし、それではドミナンテに届かない……


「……ん……? ちょっと待てよ……」


 ……これは逆に考えれば好機じゃないのか……?


 奴らは今、俺を領城に招き入れようとしている。


 その誘いに乗って俺が領城へ赴き、そのままシルベスターを倒せばいいんじゃないのか?

 そうすれば魔力場が元に戻って皆で領城に攻め入る事が出来る……


「……」


 だが、これは確実に罠だ……

 絶対に罠だ……

 どう考えても罠だ……


 ……その罠を蹴散らして、シルベスターを倒せるのか……?


「……」


 ……しかし、今ここで俺たちが戦ったり逃げてしまえば、せっかく生まれたチャンスが潰れてしまう……


「……」 


 俺は悩みに悩んだ末、一つの結論に辿り着く。


「全員、今すぐ歪曲門(ワープ・ゲート)を通ってバンジョーナ城塞に帰還しろ。俺はぺリアムドの誘いに乗る」


 その指示に、直ぐさまエルテが反論した。


「ダメだよ師匠! 危険過ぎるよ!」


 次いでゼクトとクラリーサも俺を止めるべく言葉を並べる。


「それはちと頂けないな。そんな事をしたら奴らの思うつぼだ」

「君は死にたいのか! 誰が見ても罠だと分かるだろう!」


 必死に引き留める三人だが、残りの三人、パーシヴァリーとピア、そしてイザイラは、澄ました顔で落ち着き払っていた。


「三人とも心配は無用なのだ。マスターならば、どんな罠でも容易に撃破できる」

「旦那様の叡智はわたくしたちの想像を遥かに凌駕しております。きっと素晴らしいお考えがあるのでしょう」

「パーシヴァリー様とピア様の仰る通りです。トモカズ様は聡明な御方。慌てる必要は何処にもございません」


 三人の言葉にエルテたちは納得の表情を見せた。


「……そうだよね、師匠は凄いもんね……ボクとしたことが、ちょっと動転しちゃったよ」

「確かにトモカズは凄い……いらん世話だったな」

「トモカズ、私もカセットラフ様から君の強さは聞いている。ここは言うとおりにするよ」

「……」


 ……なんか分からんが許された……


「……じゃあみんな、歪曲門(ワープ・ゲート)に行ってくれ」

「分かったのだ。さっそく移動を始めるのだ」


 歪曲門(ワープ・ゲート)の近くにいたパーシヴァリーが逸早く鏡面に手を当てる。


 とその瞬間、彼女の表情が強張った。


「むっ?」

「どうした、パーシヴァリー?」

「マスター、歪曲門(ワープ・ゲート)が稼働していない」

「なんだと!?」


 驚いた俺は、慌てて歪曲門(ワープ・ゲート)まですっ飛んでいく。

 そして両手で鏡面に触れ、腕を押し出した。


「……マジで入れねえ……」


 いつもなら、水に入るが如く鏡面へと吸い込まれるのだが、今の歪曲門(ワープ・ゲート)はいたって普通の鏡であった。


 ……おいおいおい、勘弁してくれよ……

 ……ここに来て、また別の問題が発生したよ……


「旦那様。バンジョーナ城塞で何かあった可能性があります」


 ……分かってるよピア……


 ……考えられるとしたら、バンジョーナ側の歪曲門(ワープ・ゲート)が取り外されたか、破壊されたかだ……


「……」


 ……俺たちが歪曲門(ワープ・ゲート)を使ってここに来たのはつい数時間前だぞ……

 ……その短期間で何があった……?


「……」


 ……やべえ……

 ……セラーラたちが凄く心配なんですけど……

 ……あいつらに何かあったらと考えると、居ても立っても居られねえ……

 

 そんな俺の心情を見透かすかのように、パーシヴァリーたちが自信をもって口を開いた。


「マスター。案ずるには及ばないのだ」

「パーシーさんの仰る通りです。セラーラさんなら如何様な事態にも柔軟に対処できるはずです」

「そうだよ師匠。向こうにはチェームちゃんも居るんだよ。きっと大丈夫だよ」

「ミスティスもいるしな。あいつの魔術は一級品だ。それに何より機転が利く」

「カセットラフ様もいらっしゃる。あの方が居る限り、そう事態が悪くなることはない」

「……」


 ……確かにあの面子なら問題ないように思えてきた……


「……」


 ……それに今ここで慌てても、どうにもならない……

 ……あいつらを信じよう……


 俺は気持ちを切り替える。


「イザイラ」

「はい」

「俺が敵の注意を引く。その隙に皆を連れて隠し通路から逃げるんだ。もちろんお前の子飼いの部下も一緒だ」

「分かりました」


 反逆集団の首魁である俺ならば、囮役には打って付けだ。


「……」


 ……しかしドミナンテめ、俺に何の話をしようってんだ……?






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[一言] 結局胃痛も頭痛も増えたんすね、トモカズ……(汗
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