114.領城攻略作戦
会議室に戻った俺は、グラハムとの話を皆に聞かせてやった。
「という事は、シルベスターを倒せば領城に攻め入れるのか」
「そうだゼクト。奴さえ何とかすれば、魔力場操作で改造された魔力場が元に戻る」
誰もが一様に理解する。
しかしながら、原因が分かったとしても彼らの表情が晴れることはなかった。
なぜならそれが、どうにもできないと分かっていたからだ。
その点を、ミスティスが代表してハッキリと口にする。
「でもぅ、シルベスター本人は領城に居るんでしょぉ? 中に入れないのにぃ、どうやって倒すのぉ?」
まあ、そう思うだろうな。
「大丈夫だ。既に攻略法は見つけてある」
それを聞いたセラーラとチェームシェイスは、恍惚とした表情を浮かべる。
「流石は主様です……原因を知ったと同時にその打開策を閃かれる……このセラーラ、感服いたしました……」
「うむ……我が君に掛かれば如何なる問題も些末な事柄へと変化する……嗚呼、どうして我が君はそんなに我の心を鷲掴みにするのだ!?」
次いでユージスまでも尊敬の眼差しで俺を見た。
「トモカズ様は素晴らしいお方です……あなた様に付いてきて本当に良かった……」
……お前らいったい何なんだよ……まだ何も話してないよ……
「まあ、なんだ。今から俺の考えを言う」
俺はわざとらしくこほんと咳ばらいをすると、簡潔に説明を始めた。
「パーシヴァリーのスキル。ここでは術と言った方が良いか。それを使い、シルベスターを領城から引っ張り出す。そこで奴を仕留めるんだ」
「……パーシヴァリー……ですか……?」
「そうだセラーラ。あいつの〈献身代〉で領城に入り込み、シルベスターを浚う」
その言葉にセラーラとチェームシェイスは直ぐに納得した。
「素晴らしいお考えです、主様」
「我が君よ、なんと見事な計略か」
次いでユージスも膝を打つ。
「そう言う事でしたか、トモカズ様」
一方で、他の者は首を傾げていた。
「トモカズ、私たちにも分かるように言ってくれないか?」
焦んなさんな、クラリーサ。
今から詳しく教えてやるよ。
「少し前だが、ユージスが領城に連れて行かれた事がある」
皆の視線がユージスに注がれた。
「その時のこいつには、〈献身代〉と言うパーシヴァリーの術が予め掛けられていた。それは相手に憑依する術で、パーシヴァリーは殺されそうになったユージスに憑依してその場を切り抜けたんだ」
〈献身代〉は対象のダメージを一手に引き受ける防御系のスキル。
加えてパーシヴァリーの〈献身代〉のスキルレベルはMAXだから、対象を操る事も出来る。
そういや熟練プレイヤーはこのスキルを使ってパワーレベリングをしていたな。
だから養殖スキルなんて呼ばれてたっけ。
斯くいう俺も、このスキルを利用してピアやチェーム、エルテやアプリコットをパワーレベリングしたんだよな。
……懐かしいなあ……
と、今は思い出に浸っている場合じゃない。
「あの時のユージスは、領城に入る許可を得ていた。だから当たり前だが無傷だ」
全員が一斉に頷いた。
「肝心なのはここからだ」
俺は勿体つけるように口を開く。
「そのユージスに憑依していたパーシヴァリー、こいつまでもが無事だった。という事は、知らぬ間にパーシヴァリーも領城に入る許可を得たと考えるのが自然だろう」
憑依している対象が許可を得れば、術者も自動的に許可を得られるんだろうね。
「この事から推測するに、一度許可を得てしまえば一旦領城から出ない限りは許可を取り消すことが出来ない。なぜならパーシヴァリーがユージスと入れ替わった時点で許可が取り消されるはずだからな」
俺の意図に、カセットラフがいち早く理解を示した。
「良い考えだ」
続いてゼクトも納得した顔を見せる。
「……なるほど……餌となる弱者を敢えて捕えさせ、領城に入ったところでパーシヴァリーに交代させるという訳か」
次にミスティス、クラリーサが晴れた表情で言葉を述べた。
「そこでぇ、パーシヴァリーちゃんがぁ、シルベスターをそのまま倒すかぁ、領城の外に引き摺り出すのねぇ」
「彼女なら安心だ。何せ一人でマッキシム軍を壊滅させたのだからな」
凄いねみんな、一瞬で理解したよ。
「ああそうだ。シルベスターを倒した後、一気に領城に攻め入ってドミナンテの首を取る。これで俺たちの勝ちだ」
そのためには精鋭を揃えておかないとね。
「でもぅ、誰に憑依させるのぉ? 私たちでわぁ、警戒して領城に入れてくれないわよぅ?」
ミスティスよ、そこも問題ない。
既に候補は決めてあるからね。
「キャロラインだ。あいつを餌にする」
ミスティスが笑みを浮かべて納得した。
「流石はトモカズねぇ。キャロラインちゃんわぁ、私たちの仲間になったとぉ、ドミナンテには知られていないわぁ」
次いでクラリーサも深く頷いていた。
「見事な人選だ。キャロラインが精霊界に強制送還されたと領主側は思っているはず。そんな人物が領城の周りをうろついていたら、誰だって怪しむ。少なくともぺリアムドとか言う精霊は絶対に食いつく」
そうだろう、そうだろう。
「……でもトモカズ様、一つよろしいでしょうか?」
「なんだユージス」
「囮役はそこら辺の兵士でもよろしいと思うのですが……その者に憑依させておけば、囮役を用意して捕まえさせる真似をしなくとも、すんなりと領城に入れると思うのですが……」
「それはダメだろうな」
直ぐにゼクトが否定する。
「どうしてですか?」
ユージスは不思議そうに理由を尋ねた。
「兵士たちは、既に領城へ入る許可を得ているはずだ。そんな奴らに憑依したら、領城に入った途端、許可がないパーシヴァリーがベティちゃんみたいになっちまう。おそらくは、新規の者が許可を得たと同時に憑依しているパーシヴァリーも許可を得るはず。あらかじめ許可を得ている者には通じないんだ。この作戦は、許可を得ていない者に憑依させる事が肝だ」
うんうん、ゼクトはよく分かってるね。
「そう言う事でしたか。それは失礼いたしました」
いいいよ、いいよ。
おかしな点があったらどんどん言ってね。
「ユージスだけでなく、この作戦に穴があると思った者は遠慮なく指摘してくれ」
「……」
俺の言葉に全員が沈黙する。
「誰もいないようだな。だったらこの作戦を実行するぞ」
そこでゼクトが神妙な顔つきで口を開いた。
「……トモカズ、一つ相談がある……」
「どうした、そんな顔して」
「……レーヴェの事だ……」
「……」
……確かレーヴェは生命気領域の影響が酷く、領城で休養中だとかスクウェイアが言っていたな……
「あいつは俺に任せてくれないか……」
「どうするつもりだ?」
「こちらに付くよう説得する」
「……」
できる事なら俺もレーヴェを引き込みたい。
考え方がこちら側だし、なんと言っても腕が立つ。
それにあいつの生命気、本気になれば小さな町とか簡単に制圧できそうだしね……
「……」
だが、あいつは民衆を人質に取るような真似をした。
これでは俺も腹を括るしかねえ。
「……」
……でもやっぱり仲間にしたい……
「ゼクト、説得が無理ならどうするんだ?」
俺の問いかけに、ゼクトはハッキリと言葉を返した。
「俺があいつを殺す」
「できるのか?」
二人は仲が良いみたいだからな。
その時になったら迷いが生じてもおかしくはないぞ。
「トモカズ、俺を信じてくれ」
「……」
「……レーヴェは罪なき民衆を盾にした。これ以上は俺も庇いきれない。残念だが、次にあいつが誘いを断ったら、その時は容赦なく斬る」
……ゼクトも俺と同じ考えのようだが……
「……」
……しかしなあ……
「お前たちは友達なんだろう?」
「友だからこそだ。間違った道に進むあいつを俺自身の手で止めたいんだ」
「……」
ゼクトの目……意志は固いらしい……
「……分かった。あいつの事はお前に任せた」
「……感謝する、トモカズ……」
「……」
……ゼクト、無理し過ぎだな……いざとなったら俺が変わってやる……
「みんな、ゼクトも覚悟を決めたようだ。直ぐ実行に移すぞ」
こうしている間にも敵は着々とバンジョーナ城塞攻略に動いているからな。
のんびりしている暇はない。
「トモカズちゃぁん、誰をどう割り当てるのぉ?」
ミスティスが配置を訪ねてくる。
「……そうだな……領城攻略組は、作戦の要であるパーシヴァリーと囮役のキャロラインは当然の参加として、あとはゼクト……そして俺が指揮を執るから、この四人は確定だ」
本音を言うと、防御に特化したパーシヴァリーを城塞に置きたいんだけど、仕方ないか。
「シルベスターを倒した後は、領城に攻め込まないといけないから、攻撃に特化したエルテ、暗殺を得意とするピアを連れて行く」
【十二の乙女精霊】に選ばれた最強の乙女精霊のエルテに、超瞬発高火力暗殺型に特化したピア、この二人が居れば火力は十二分だ。
「私も行こう」
おもむろにクラリーサが名乗りを上げた。
「カセットラフ様、よろしいですか?」
彼女の上官はゆっくりと首を縦に振る。
「トモカズ。カセットラフ様の許可が下りた。どうだろうか、私も連れて行ってはくれないか」
……クラリーサか……
こいつの実力は相当に高いとスクウェイアが言っていた。
しかもカセットラフの副官だし、期待はできる。
「よしクラリーサ。頼んだ」
「任せてくれ」
彼女は自信ありげに口元を緩めた。
「……」
これで攻略組は、俺とパーシヴァリー、ピアにエルテ。
それからゼクトとクラリーサとキャロラインだ。
うん、なかなかの精鋭揃いだ。
「……」
となると、バンジョーナ城塞の守備はセラーラとチェームとアプリコットか。
もちろんティンクファーニとユージス夫妻は戦力に入れてないが、まあ、問題ないだろう。
大将軍のカセットラフも居る事だし安心だ。
そうだ。スクウェイアもここに残そう。
「カセットラフ。済まないが、スクウェイアもバンジョーナ城塞で待機して欲しい。周囲に怪しい奴がいないか調べて欲しいんだ」
「分かった」
これで奇襲は避けられる。
「……」
……あとは……
「ミスティス」
「なぁにぃ?」
「あんたは避難所に戻って村人を守ってくれ」
あそこの守備を担当しているのは冒険者たちだ。
しかし飛びぬけた実力者は、今はフロスコしかいないから少しだけ不安を感じる。
「その必要はないわぁ。フロスコ一人が居ればぁ、少しの間は大丈夫ぅ。だからぁ、わたしもぉ、城塞を守備するわぁ」
続いてゼクトが口を開く。
「フロスコは熱血漢だが冷静な判断もできる男だ。当面は安心できる」
「……」
二人がそこまで言うのなら問題は無いか。
「分かったミスティス。避難所の方はしばらくフロスコに任せておこう。あんたはチェームやカセットラフをサポートしてくれ」
「了解よぅ」
言っておくべき事はこれくらいかな。
「……」
……そういやチェームの奴、あんまり進言してこなかったな……
「チェーム。お前、一言も意見を言わなかったが、今回の作戦についてどう思ってるんだ?」
尋ねられたチェームシェイスは、難しい顔で口を開いた。
「……我が君の言葉をじっくりと吟味し、その意図を読み解いておる……」
「……」
……何言ってんの……?
「……」
まあいっか。
今回の作戦で奴らとの決着を付けてやる。
待ってろよ、ドミナンテ。




