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111.会議

 場所はバンジョーナ城塞。


 そこの会議室で、俺は主だった者を招集し、彼らと共に今後の対策を練っていた。


 呼び出したメンバーは以下の通りだ。


 先ずは冒険者ギルドの元ギルドマスターであるゼクトと、彼と同じパーティーのミスティス。

 それから軌跡大樹の国の大将軍カセットラフと副官のクラリーサ。

 次いで商才豊かな元ギルド委員のユージス。

 最後に乙女精霊のリーダー役を担うセラーラと、このバンジョーナ城塞を取り仕切っているチェームシェイス。


 この七人と俺を合わせた計八人で、丸机を囲むようにして並べられたソファーに座り、意見を出し合っていた。


「ドミナンテの奴、何の動きも見せないな……」


 奴が領都に戻ってからというもの、既に十日が経過している。

 直ぐにでも何かを仕掛けてくると身構えていたのだが、これと言った動きはなく、とんだ肩透かしを食らってしまった。


 でもそれは、日が経つにつれ却って不気味さを増していき、辛抱たまらなくなった俺は、こうして会議を開いたという訳だ。


「カセットラフにクラリーサ。スクウェイアから何か聞いてないか? どんな小さなことでも構わない。変わった事が有ったら教えて欲しい」


 俺もスクウェイアから色々と報告を受けているが、同じエルフの二人にはもっと細かい事を話しているかもしれない。


「スクウェイアも領主側に動きがない事を怪しんでいた」


 クラリーサが首を横に振りながら答えた。


「……」


 ……うーん……やっぱり俺が受けた報告と同じみたいだ……

 あいつの諜報技術は一級品だし、本当に何もおかしな動きはないんだろうな……


「……」


 いやいや相手はドミナンテ。

 要衝のバンジョーナ城塞を取られたまま黙っているはずがない。

 俺なら絶対に取り返す。


「……あのう……少しよろしいでしょうか……?」


 ユージスがおどおどしながらも小さく手を上げた。


「遠慮するな、意見があるなら好きなだけ言ってくれ」

「は、はい。ありがとうございます……私たちから先制攻撃を仕掛けると言うのはどうでしょうか? ドミナンテが手を打つ前に倒してしまうのです……」

「……」


 ……それが出来れば苦労はしないよ…… 


 俺がユージスに説明をしようとしたところで、セラーラが代弁してくれた。


「ここに居る皆さんもその意見に賛成だと思います。ですが、それは出来ないのです」

「……ど、どうしてですか?」

「スクウェイアさんが斥候を領城に放ったのですが、見るも無残な姿となって戻って来たのです」

「……なぜそんな事に?」


 ユージスの疑問に今度はクラリーサが答える。


「ベティちゃんが……ああ、済まない。人形の名前だ。そのベティちゃんが、領城の敷地内に入った途端、体中にナイフで刻まれたような傷が出来て瀕死の状態に陥ったそうだ」

「……」


 ……俺もズタボロになったベティちゃんを見たよ……

 だってスクウェイアが彼女を抱えて半狂乱でバンジョーナ城塞に戻って来たからね……


「幸いベティちゃんはスクウェイアの献身的な介護?で事なきを得たから良かったものの、一歩間違えれば危なかった」


 ……俺も直すの手伝ったな……しかも夜なべで……


「人形……ですよね……?」


 そう言ったユージスに、クラリーサが脅すように忠告する。


「君に重大なことを言っておこう。スクウェイアの人形は人として扱うんだ。でないと殺されるぞ」

「は、はい、肝に銘じておきます……」


 ユージスは脅えながら首を縦に振った。


 当時のスクウェイアの怒りようは尋常じゃなかったからな。

 あれを見たら、誰だって人形に敬意を払うよ。

 俺もベティちゃん、て言ってるし……


「……で、では迂闊に領城へは近づけませんね……ベティちゃんでも入れなかったのですから……」


 うんユージス。順応性が高いね。


「そうだ。何かしらの結界が張ってあるのは明らかだ。それも、ここに居る誰もが知らない強力な結界だ」


 クラリーサに続いてセラーラが口を開く。


「あの得体の知れない結界がある限り、そう易々と領城には攻め込めません。ですから私たちは、こうしてドミナンテが何か仕掛けてくるのを待っているのです」


 こちらからの手出しが難しい今、ドミナンテの動きを見て突破口を見出そうと思ってたが、現在の奴は亀みたいに領城に閉じこもっている。


 ……これは弱った……


「トモカズぅ、一つ報告があるんだけどぉ」


 魔法使い然とした大きな三角帽子を被る美女が、間延びした声で割り込んできた。


「どうしたミスティス」

「実はねぇ。つい先日ぅ、避難所から少し行ったところにある獣道でぇ、不審な男を見かけたのよぅ」


 避難所とはドミナンテに迫害された村人たちを匿っている場所だ。

 そこは人が寄り付かない森深くにあり、ミスティスを含めた冒険者たちが村人の護衛を務めていた。


「まさか避難所がバレたとか言うんじゃないだろうな」

「大丈夫よぉ。避難所からは離れていたからぁ」


 ……良かった……居場所を知られたら面倒だからな。


「それならいいんだが……で、その不審な男がどうしたってんだ?」

「うふふ……」


 ミスティスが蠱惑的な瞳で俺を見詰める。


 ……それをするな……セラーラたちが焼きもちを焼く……


「その男ぉ、外見は旅人のように見えたんだけどぉ、立ち振る舞いが素人じゃなかったのよねぇ。それに獣道なんて危険な道を一人で歩いているからぁ、怪しいと思ってちょっと後を付けてみたのよぉ」


 確かにそれは怪しいな……


「そしたらぁ、少し開けた場所に出てぇ、そこに一人の騎士が居たのぉ」


 男は騎士と待ち合わせをしてたって事か?


「問題はその騎士なのよねぇ」

「ヤバい奴なのか?」

「ヤバいも何もぉ、騎士は赤色の鎧を着てたのよぉ」

「なに!?」


 俺は大きく目を見張り、他の者も動揺を隠せないでいた。


「そうよぉ。みんなが思ってる通りぃ、不死鳥騎士だわぁ」

「……」


 なんで不死鳥騎士がそんなところにいるんだ?

 避難所の場所が森の奥深くと言っても、オルストリッチ領内だぞ……


 確か不死鳥騎士はフェルゾメール家のお抱え騎士。 

 他領の騎士が居るなんて、どう考えてもおかしい。

 それに森の中?

 訳が分からん。


「ミスティス、そいつらは何をしてたんだ?」

「分からないわぁ、二人は直ぐに森の中へ消えていったからぁ。追跡しようと思ったんだけどぉ、私は密偵(スカウト)じゃないから後を追うのを止めたのよぉ。でもぅ、取り敢えずこのことを報告しようと思ってぇ、ゼクトが居る避難所に行ったのぉ」

「……」


 ……危険な匂いがしまくりだぞ……


「トモカズ」


 いきなりカセットラフが、ずっしりとした声で言葉を発した。


 ……もう慣れたね……


「ドミナンテは内密裏に援軍を要請している」

「なんだと!?」


 援軍!?

 そうか!

 そう言う事か! 

 ドミナンテはフェルゾメール家に援軍を頼んだのか!


「ミスティス! それは何時の事だ!?」


 代わりにゼクトが答える。


「あんたからの召集の使者が帰った直ぐ後だ。ちょうどその時、ミスティスが入れ替わりにやって来た。彼女から話を聞いた俺は、直ぐに支度を整え急いでここに来たという訳だ」

「……」


 ……という事は三日前……


 そこでエルフの美女が、眉根を寄せ納得した顔を見せた。


「いくらスクウェイアが諜報に長けていても、領都の外で動かれては尻尾を掴みようがない……」


 クラリーサの言うことはもっともだ。


 スクウェイアは領都を重点的に調べていて、それ以外はイザイラの諜報部隊に任せていた。

 彼女の部隊も優秀なんだが、敵さんもそう易々とは尻尾を掴ませなかったって言う訳か。


 しかし過ぎた話だが、スクウェイアほどの手練れが調べていたら、また状況は変わっていたんだろうがな……


「俺も援軍の可能性は視野に入れていた」


 ゼクトも気付いていたのか……


「私もよぅ」


 ミスティスもかよ……


「……」


 ……やべえ……援軍なんて微塵も考えてなかった……


「だがな、トモカズ。俺はドミナンテに限ってそれはないと思っていた」


 ……ん……?


「ゼクト、どういう意味だ?」

「奴は他人の力を借りない男だ。本来は、人を屈服させて道具の様に扱い力を誇示する。しかし今回ばかりは背に腹は代えられないらしい」

「援軍を頼むということわぁ、頭を下げてお願いすることだしぃ、それなりの代償も払わなければいけないしぃ、その屈辱を受けてでもぉ、私たちを潰したいみたいぃ」

「……」


 ……本気って訳ね……


「トモカズ。私は思うのだが、不死鳥騎士はまだ領都に入ってはいない」


 ……そうだなクラリーサ。何せスクウェイアの諜報網に引っかかっていないからな。


「……」


 ……となると……まずくない……?


「私が推測するに、奴らはこちらに向かっていると見た。おそらくドミナンテはバンジョーナ城塞付近に戦力を集中させ、一気に攻めるつもりだ」


 ですよねー。

 標的をこっちに絞るよねー。


「トモカズ」


 再びカセットラフが、重低音の声音を発した。


「援軍は不死鳥騎士だけとは限らない」


 ……そりゃそうだ……


「チェーム。バンジョーナ城塞の周辺を巡回している骸骨騎士から何か報告はあったか?」

「我が君よ。今のところ、特に変わったことはないぞ」

「……」


 ……まだ敵は集結していないか……


「……」


 ……こちらを攻撃する事は予想できてたんだけど、まさか援軍を呼ぶとは……

 

「……」


 ……どうする……? 

 ……このまま籠城するか……?


「……」


 だが、例え相手の攻撃を凌いだとしても、肝心のドミナンテを倒すことは出来ない。

 しかも時間が経てばたつほど領主側が有利になる。


 ここまで来たら、他の貴族が兵を送って来る可能性もあるし、下手をすれば、ブリエンセニア王国自体が俺を倒すために動き出すかもしれない。


「……」


 オルストリッチだけの兵力なら、今の戦力でも十分に耐えれるんだが、無尽蔵に兵を送られたんじゃあ、堪ったもんじゃねえ……


「……」


 それにゼルディオン帝国も気になる……


「チェーム。カルカンヌ城塞の様子はどうだ?」

「以前として沈黙しておる。今やあそこは守将が二人いるも同然。派閥争いで忙しいのであろう」

「そうか……」


 ゼルディオン帝国のカルカンヌ城塞には、名将と謳われたゴライアス将軍がいる。

 彼は庶民の出で、いわゆる叩き上げだ。

 そして副将軍はケッセランなるやんごとなき(・・・・・・)身分の男が就いているらしい。


 この二人、互いに派閥を作ってお互いを牽制し合っているという話だ。


「……」 

 

 この図、以前も見たことがあるよ。

 パーシヴァリーに殺された漆黒騎士のライオネルとレーヴェに似ているね……


「……」


 まあ、そんな事はさて置いて、俺たちが居るバンジョーナ城塞は国境の要……

 帝国側から敵が攻め込んでくる可能性は捨てきれない……


「……」


 うん、リーチが掛かってます。


 俺は思考のるつぼに嵌っていった。

 そんな俺に釣られてか、皆も黙って考え始める。


「……」


 ……こうなったらみんなで領城に行き、外側から魔術やらスキルやらの遠距離攻撃をぶち込んでやるか……?

 ……中にいる何の関係もない下働きの者も殺しちまうが、多少の犠牲は仕方ないか……


「……」


 ……いや待てよ。それで本当にドミナンテたちを()れるのか……?


「……」


 ……奴らがその程度で死ぬとは到底思えねえ……


 俺は険しい表情を浮かべて悩みに悩んだ。

 とそのとき、ゼクトが大胆な発言をする。


「俺が民衆に呼びかけて蜂起する」


 なに!?

 

「そして皆でオルステンを占領し、領城を包囲するんだ」


 おお! ゼクトが率先して立ち上がってくれた!!!


「城内の食料が尽きるまで取り囲んでいれば、奴らは必ず出て来るはずだ」


 兵糧攻めか!


「今ならそれが可能だ。トモカズたちが散々ドミナンテを翻弄してきたから、奴らに対する民衆の反発意識が高くなってきている。やるなら今だ」


 うんうん! それが一番手っ取り早いもんね!!!


「駄目です」


 しかしセラーラが異を唱えた。


「なぜだ?」

「本格的に反乱を起こせば、領都にいる騎士や兵士と戦わねばなりません。そうなれば、多くの者が命を落とすことになるでしょう。主様は無用な血を望んではいません」


 ゼクトは負けじと言い返す。


「それは甘い考えだ。平和を手にするには、多少の血が流れるのは覚悟しなければならない」


 そうだぞセラーラ、ゼクトの言う通りだ。

 世の中そんなに甘くはないよ。


「あなたは一体何を見てきたのですか?」


 ところがセラーラは、確固たる意志を持って言葉を紡いだ。


「それを可能にできるのが主様なのです。今まで主様が実施した行動を目の当たりにして、まだ分かりませんか?」

「……」


 ゼクトは黙って俺を見る。


「……」


 おいおいゼクト……言い負かされんじゃねえぞ……


「……そうだな……俺も出来る事なら無駄な血は見たくない……トモカズ、お前に任せた」


 ゼクトぉ!!! 引き下がるの早くね!!?

 それに無血で領主どもを倒すなんて絶対に無理だから!!!


 そこで俺は気付く。

 全員の期待に満ちた眼差しに……


「……」


 ……お前らぁあああああああああああああああああああああああああああ……


 無理な物は無理なんだって!!!


――バァン――


 とその時、勢いよく扉が開けられた。

 入って来たのはエメラルドグリーンの髪色の美少女である。


「ご主人様! お客さんが来ました!」

「アプリコット。作法がなっていませんよ」

「……ごめんなさい、セラーラお姉ちゃん……」


 しゅんとするアプリコットに、セラーラは困り顔を浮かべながらも優しく言葉を掛けた。


「まったくもう、仕方がない子ですね……それで、お客さんとは誰ですか?」

 

 姉の態度でアプリコットは許されたと悟り、朗らかに答える。


「はい! グラハム・フィンゴールさんです!」


 その名を聞いた俺とユージスの表情が強張った。


「……トモカズ様……グラハムさんは一体何をしに来たのでしょうか……?」


 ……それは俺が聞きたい……


「主様。グラハムは大物です。無視するわけにはいきません」

「……ああ、分かってるよ……」


 奴は中立の立場だ。

 敵でも味方でもない、お互い干渉無しの関係を、商人ギルド委員会議で約束している。


 ……それが今になってどうしたんだ……?


「トモカズぅ。あなたはグラハムと話をしてちょうだいぃ。こっちはこっちで色々と考えておくからぁ」


 ミスティスの言葉に皆が首肯する。


「……分かった……ちょっと行ってくる……」


 俺は渋々ながらも腰を上げ、アプリコットと共に会議室を後にした。


 ……どんな話を持ちかけて来るのか怖いんですけど……


「……」


 ……本音を言うと、会いたくねえ……






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