108.少女二人は止まる事を知りません
フランワージュ、マーシェリ、メニメニの三人は、契約を建前として無理やり俺に隷属させられた。
そして彼女らは今、キャロラインと同じように蒼褪めた表情で共に控えている。
「……」
……四人ともこの世の終わりのような顔をしているが、まあいいか。
あいつらの件はこれで終わりだ。
気を取り直した俺は、身を乗り出して足元の神官長に声を掛けた。
「おい」
「ははぁ! 何でございましょう!!!」
こいつの傷は既に治してある。だって凄く従順になったからね。
「お前の名は?」
「はい! ジャスティリオスと申します!!!」
こいつの見た目はおっさんで、禿げ上がった頭の頂きにはピンク色の毛が一本だけ逆立っている。
「……」
……完全に名前負けしてるね……
「ジャスティリオス、お前に聞きたいことがある」
「ははっ! 私が知る限りの事は全てお答えいたします!!!」
「ぺリアムドは来たか?」
「……ぺリアムド、でございますか……?」
何故その名が出たのかジャスティリオスは不思議がっていた。
「そうだ、ぺリアムドだ。俺はまだ会ったことはないが、キャロラインから話は聞いている。あいつも誓約したんだろう?」
「はい。昨日の晩、お披露目にと私のところへやって参りました」
「連れていた誓約者は誰だ?」
「ドミナンテとか言う中年の男でして、只ならぬ覇気を纏っておりました」
やはり来てやがったな。
「お前から見て、二人はどのように映った? 忌憚のない率直な意見が聞きたい」
ぺリアムドがどんな奴かさっぱり分からないからな。
情報を収集しておかねば。
「はい。ぺリアムドはフェレーアンの庭が始まって以来の天才児でございます。既に高位精霊の枠組みを超えており、大精霊と言っても過言ではありません。そしてぺリアムドと誓約を交わしたドミナンテ。この男も私が見た今までの誓約者の中では群を抜いております。その二人が手を組んだ今、次代の精霊王に最も近いのはぺリアムドと言っても過言ではないでしょう」
「……」
……ジャスティリオスの奴、べた褒めじゃねえかよ……
「あっ! もちろんトモカズ様の足元にはまったく及びませんですハイ!」
「……おべっかはいらねえよ……それで、ぺリアムドは何の精霊だ?」
ジャスティリオスは至極真っ当な顔で俺を見た。
「……」
……四つん這いでそんな顔をされてもなぁ……
「……これは内密なのですが、あの者は多重属性の精霊でございます……」
「……多重属性……? 二つ以上の属性を持ってるってことか?」
「左様でございます。ぺリアムドは複数の属性が混ざり合って生まれた、この精霊界でも稀有な存在でございます」
……ナニソレ……
「……因みに何の属性を幾つ持ってるんだ……?」
「はい。四つの属性にございます」
「なんだと! そんなにあるのか!?」
「はい。火属性と花属性、それから座標属性と、あと一つは私でも知らされてはおりません」
「……」
……火属性と花属性は分かる……でも座標属性って何なの?
……そんなの乙女精霊サーガでは無かった属性なんですけど……
……それに一つだけ分からないって、どういうことなのよ……
「ここまで多彩な属性を持つ精霊は、この精霊界でも聞いたことが有りません」
「……」
……ぺリアムドが手強い相手だという事は分かった。
……これは厄介だな……
俺は前傾姿勢になると、あの有名な彫刻家ロダンの作、考える人のポーズを取って思案に耽った。
「主様」
不意にセラーラが言葉を掛けてくる。
「ん? どうした」
「主様がお考えになっている間、私とピアはもう一仕事してまいります」
次いでピアが、精霊たちに向かって言い放った。
「皆様方。旦那様の思索を邪魔しないように、静かにしていてくださいませ」
……何だこいつら……何をするんだ?
俺が怪しんだ次の瞬間、彼女たちの全身が仄かに輝き始める。
「……」
……ま、まさか……
嫌な予感は的中した。
俺の心労を鼻で笑うかのように、ハート形の紋様が二人の額に浮き出てきたのだ。
「……」
何故にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?
なぜに覚醒状態を発動させる!!?
もう全て片付いたはずだよね!!!
「これから主様が下された命令を実行してまいります」
「直ぐに終わらせますので、ここでお待ちになってくださいませ」
なんだよ俺の命令って!!!
わざわざ覚醒状態を発動させてまでやる事なのかっ!!?
「ちょっ! 待てっ!!!」
慌てて二人を呼び止めるが、セラーラとピアはもの凄い速さで大広間から飛び出していき、俺の声が届くことはなかった。
「……」
……あいつらぁああああああああああああああああああああああ……
……一度ならず二度までも……いや、これで三度目だ……
「大概にしろ!!!」
俺の怒声が大広間の隅々にまで飛んでいく。
その所為で、ジャスティリオスを始めとした全ての精霊たちが、俯いて大量の冷や汗を流した。
「……」
……いかん……血圧が上がる、血圧が……
……俺よ、冷静になるのだ……冷静に……
「……はぁー、ふぅー……」
深く深呼吸をした俺は、何とか気持ちを落ち着かせる。
「……」
……幸いここには虹の花がある……
……キャロラインが十数本も束で持ってきたから、覚醒状態後の休眠状態は回避できる……
「……」
……それよりもあいつらの行動だ……
……いったい何をしに行ったんだ……?
……すっげえ怖いぞ……
「……」
……どうしようか……二人を追うべきなのか……?
「……」
……いや、直ぐ戻って来ると言っていたから、ここはあいつらを信じるか……
俺は少しの間、彼女たちの帰りを恐々としながら待つのであった。
程なくして、セラーラとピアは戻って来た。
そこで計ったかのように覚醒状態が終了する。
俺は即座に虹の花を使って二人を目覚めさせた。
「……」
……どれだけ世話を焼かせりゃ済むんだよ……
「主様、ありがとうございます」
「旦那様、目覚めさせていただき感謝いたします」
気持ちよく目を覚ました二人は礼を述べてくる。
「……」
……そんなのどうでもいいよ……
「……お前たちは何しに行ったんだ……? ……覚醒状態を使ってまでやらなきゃいけない事だったのか……?」
俺の言葉に彼女たちは笑顔を浮かべると、自信満々に口を開いた。
「何を仰られますか。私たちは主様の御命令を遂行してきたまでです」
「十二分な成果です。旦那様のご期待に添えられたとわたくしは確信しております」
「……」
……だからその命令って何なんだよ……
「主様。どうぞ外へ出て確認をお願いします」
「旦那様が満足されることは間違いありません。表へ出てお確かめくださいませ」
二人が神殿から出るよう促してくる。
「……」
……確かめろって何をだよ……
「……」
……一人で見るのは怖い……
俺はおもむろに椅子から立つと、精霊たちに言い放った。
「……全員、付いて来い……」
「皆の者! トモカズ様の下知が下った!!!」
ジャスティリオスの号令に、精霊たちが統率された軍隊の様な動きで即座に立ち上がる。
「ではトモカズ様! 参りましょう!!!」
「……ああ、そうだな……」
俺はみんなを引き連れて、足取り重く神殿の外へと向かった。
「……な、な、何なんだ……これは……」
神殿の外に出た瞬間、俺は唖然としてしまった。
地は抉れ、高台は消失し、至る所から黒い煙が上がっていたのだ。
俺の目を楽しませてくれた花畑は灰燼と化しており、今やまともな花は一本も存在していなかった。
それは丘から見渡せる景色、全てである。
この様子だと、フェレーアンの庭全土が同じようになっていると推測できた。
「……私の庭が……私の庭がぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
ジャスティリオスの悲痛な叫びが響き渡った。
「夢だ……これは悪い夢なんだ!!!」
奴は膝から崩れ落ち、地獄のような光景に虚ろな目を向け呆然とする。
「……あの美しいフェレーアンの庭が……」
「……酷い……酷すぎるぅううううううううっ!!!」
「……こんなことがあっていいの……?」
「いやぁあああああああ!!! 返して! 返してよっ!!! 私の美しいお花畑をっ!!!」
「……この暴虐の限りを尽くした所業……血も涙もないよ!!!」
精霊たちもこの惨劇に衝撃を受けていた。
ある者は非道な行為に泣き叫び、ある者はショックのあまり気を失い、誰もが悲嘆に暮れている。
「……」
……地獄絵図だ……
「主様、どうでしょうか。ご満足していただけましたでしょうか?」
「……」
俺は拳を握ってわなわなと震えた。
「旦那様のご様子、どうやらお気に召された様です」
「それは嬉しいです。頑張った甲斐がありましたね、ピア」
「はいセラーラさん。旦那様の喜ぶ姿を拝謁できて、わたくしも嬉しく存じます」
セラーラとピアは自分たちの取った行動に胸を張っている。
「……」
ドヤ顔すんじゃねえええええええええええええええええええええええええ!!!
それに俺は満足してねえし、お気にも召してもねえよ!!!




