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107.無慈悲な契約

 大広間は静寂に包まれていた。

 そんな静かな空間の中で、俺の声だけが響き渡る。


「どうした、さっさと出て来いよ。フランワージュ、マーシェリ、メニメニ」


 精霊たちは誰しも(こうべ)を垂れており、ぶるぶると体を震わせていた。


「……」


 ……出て来るわけがないか。


 あいつらも他の精霊と同様、セラーラとピアに散々甚振られたはずだ。

 名乗り出れば、先ほど以上の拷問をされると思ってるところだろう。


 そりゃあ、だんまりを決め込むわな。


「おい、そこの祭服を着ているお前」


 指名されたその精霊は、俯いたまま体を大きくビクつかせた。


「そうだよ、お前だよ」

「……わ、わ、わ、私に何か……?」


 精霊は恐る恐る(おもて)を上げる。


 こいつは見覚えがあるぞ。

 確か最初に攻撃を仕掛けた五人の神官の内の一人だ。


「主様に御言葉を掛けられたら直ぐに立ち上がりなさい」 


 セラーラの底冷えした声が神官に恐怖を与える。


「はひゃい!!!」


 奴はすぐさま背筋をピンと伸ばして直立不動の態勢を取った。


「フランワージュ、マーシェリ、メニメニとやらを、即座に主様の前へ連れてくるのです」

「ひゃい!!!」


 神官は直ぐに飛び立つと、精霊たちの頭上をぐるぐると徘徊して三人を探した。






 下手人は直ぐに見つかった。

 彼女たちは神官の手によって俺の前に引っ立てられる。


「……」

「……」

「……」


 三人の少女は震えながら身を寄せ合っていた。


「よう、さっきは随分と世話になったな」


 俺の言葉にセラーラの美しい眉がピクリと反応する。


「主様、世話になったとは如何様な意味で?」

「まあな、ある事を強要されたんだよ」


 ピアの瞳が妖しく光った。


「それはどのような事でしょうか? 差し支えなければ教えてくださいませ」


 俺は三人を見る。


「お前ら言ってやれよ」


 彼女たちの目は泳いでおり、唇は紫色に変色しガチガチと歯を鳴らしていた。


「さあ、恥ずかしがらずに言ってくださいませ」


 ピアは優しく言葉を掛けて、話し易い雰囲気を作り出す。


「……」

「……」

「……」


 それでも三人は目を逸らして縮み上がっていた。


――ブシュッ――


 刹那、メニメニの右腕が宙を舞う。


「ギャアぁあアああァああアアアあああああ゛ああああアアアア゛っっっ!!?」


 ピアの手刀が彼女の腕を切断したのだ。


「メニメニ!!?」

「痛いなのォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおオォオォオオオオ!!!」


 のたうち回るメニメニをマーシェリが支える。


「しっかりして!!!」


 次いでフランワージュが彼女の患部に手を当てた。

 そこから光の粒子が放出され、メニメニの出血を止めていく。


「……」


 ……へえ……フランワージュは治癒魔術みたいなのが使えるのか……


 俺が感心していると、ピアが微笑み口を開いた。


「その結束、とても美しいです。どうかそのまま口を割らずにいてくださいませ。そうしたらわたくしは、あなた様方を刻み続けられて、その美しい姿が何度も何度も拝見できます」


 ……流石はピア……常軌を逸してるよ……


「では、次は足を斬り飛ばさせていただきます」

「待ってっ!!! 言うから待ってくださいっ!!!」」


 目の前の狂気にフランワージュは耐えられなくなった。


「それは残念です……」


 お預けを食らったピアは表情を曇らせる。

 しかし直ぐに気を取り直すと、三人に優しく問いかけた。


「それで、どのようなことを旦那様に強要したのでしょうか?」

「……」

 

 ゴクリと生唾を飲んだフランワージュは勇気を振り絞って答える。

  

「……ど、ど、ど、土下座です……」


 瞬間、セラーラとピアから爆発的に殺意が噴出した。


 それは瞬時に大広間を覆いつくし、この場にいる全ての者を恐怖のどん底へと叩き落す。


「……」


 ……フランワージュたち、泣いてるよ……しかも三人ともお漏らししてる……


「……」


 ……精霊たちなんて完全にオブジェと化してる……目を付けられるのが嫌なんだろうね。誰も微動だにしねえ……


「……」


 ……神官長は大量の汗を流してるし……キャロラインでさえビビって一ミリも動いていない……


「……」


 ……ついでに言うと、俺もここから逃げ出したい……


「……主様……それは本当の事なのですか……?」

「……あ、ああ……本当だ」

「……旦那様……その話、詳しくお聞かせくださいませ……」


 ……お前ら凄い威圧感だよ……


「……三人がキャロラインを技の練習台にするって言ったから、それを免除してもらうために俺が土下座をして場を収めた。キャロラインは波風を立てて欲しくなかったみたいでな、あいつの意向に沿った結果だ」


 セラーラとピアの瞳から光が消えた。


「……信じられません……まさかこれほどの低能がこの世に存在したとは……主様、どうかこのセラーラめにお言い付け下さい……あの者たちに永遠の苦しみを与えろと……」

「……旦那様……御三方には死ですら優しい処置です……わたくしが持てる全ての技術を費やして終わる事のない苦痛を与えて差し上げます……どうか許可を下さいませ……」


 ……これはいかん……すべてを滅ぼしかねない勢いだ……


「待つんだお前たち。俺に考えがあるから少し黙ってろ」

「……しかし主様……」

「……旦那様、それでは……」

「厳命だ」


 語気を強めた俺の言葉に二人はしぶしぶ引き下がる。


「……はい……」

「……畏まりました……」


 大人しくしててくれよ。


「……」


 ……さあてと、本題に入るぞ。


「それではフランワージュ、マーシェリ、メニメニ。俺の言う事をよく聞け」


 三人の顔は涙やら鼻水やらでくちゃくちゃになっており、既に死を覚悟しているようであった。


「お前らの態度次第では見逃してやる」


 俺はチャンスを与えることにした。


「……」

「……」

「……」


 予期せぬ言葉に三人はきょとんとしており、これと言って反応は見えない。

 

 救いの言葉が出るとは思ってなかったんだろうね。


「なりません!!! 主様!!! 」

「旦那様!!! どうかお考え直し下さいませ!!!」


 一方で、セラーラとピアは血相を変えて異を唱えた。


「セラーラ、ピア。俺は黙ってろと言ったはずだ」


 先ほどよりも強い口調で二人を制す。


「……失礼いたしました、主様……」

「……申し訳ございません、旦那様……」


 もう突っかかって来るんじゃねえぞ。


「いいか、フランワージュ、マーシェリ、メニメニ。もう一度言う。態度を改めるなら、お前たちの今までの行為を水に流してやってもいい」


 その言葉で彼女たちは我へと返り、死に物狂いで救いを求める。


「改めますっ!!! 反省してますっ!!! 私たちが馬鹿でしたっ!!!」

「ダメなところがあれば何なりと言ってください!!! いくらでも直しますっ!!!」

「もうあんなことはしないの!!! あなたにも服従を誓うの!!!」


 思った通りの反応だな。


「キャロライン、前に出ろ」


 唐突に振られたキャロラインは、おどおどしながら俺を見た。


「どうした、早くあいつらの前に行け」

「……う、うん……」


 彼女は渋い顔を見せると足取り重く三人の前まで歩いていく。


「これからキャロラインに誠意を見せるんだ。それが伝わるか伝わらないかでお前たちの未来は決まる」

「……」

「……」

「……」


 こいつらもセラーラとピアに嫌というほど拷問されたからな。

 これ以上の体罰は不要だ。


「なんだ、誠意を見せないのか?」


 途端、三人は堰を切ったかのように謝りだした。


「許してください!!! 許してください!!! 許してください!!! 許してください!!! 許してください!!! 許してください!!!」

「申し訳ありませんでした!!! 申し訳ありませんでした!!!申し訳ありませんでした!!! 申し訳ありませんでした!!! 申し訳ありませんでした!!!申し訳ありませんでした!!!」

「ごめんなさいなの!!! ごめんなさいなの!!! ごめんなさいなの!!! ごめんなさいなの!!! ごめんなさいなの!!! ごめんなさいなの!!!」


 三人は一心不乱に謝罪の言葉を連呼する。


「……」


 必死だな。

 自分の命が掛かってるんだから、そりゃそうか。


「キャロライン、どうする?」


 彼女はドン引きしながらも口を開いた。


「……もういい……」

「だ、そうだ。そこまでだ」


 俺が止めたことで、彼女たちの顔が明るくなる。


「それでは!!?」

「私たちは助かるのですかっ!!?」

「許して欲しいのっ!!!」


 三人が三人とも希望に満ちた表情をしていた。

 

「ああ、だが最後に俺が言う条件を飲んだらな」


 ここからが本番だよ。


「お前たち三人は俺と契約しろ」


 その言葉にフランワージュは訝しんだ。


「……け、契約、ですか……?」

「そうだ、契約だ」


 人間と精霊が契約出来ることは知っている。

 だったら俺との契約も何ら問題はないはずだ。


「契約内容は簡単だ。契約の破棄などを含めたすべての権限を俺に寄越せ。要は奴隷になれって事だ」

「!!?」

「!!?」

「!!?」


 三人の顔が一瞬で凍り付く。


「……」


 以前、デウストは悪魔との契約で対価を捧げていた。

 おそらくは互いに要望を出して、擦り合わせた結果が契約の内容になるのだろう。


 魔神の時は詐欺みたいな感じだったけど、デウストが慌てていたから、あれはイレギュラーなんだろうな。

 

「これを受ければお前たちを見逃してやる。だが拒否すれば反省の色なしと見て、更なる苦痛と死が待っている。さあ選べ。契約するか、しないのかを」


 もしかしたら、精霊との契約と悪魔との契約は違うかもしれない。

 しかしそんなことは俺の知ったこっちゃない。

 契約できなければ三人はお終いだ。


「どうする。ここで人生を終わらせるか、俺の奴隷となって生きながらえるか、今すぐ答えを出せ」


 俺が取った行動に、セラーラとピアは美しくも邪悪な笑みを浮かべた。


「なるほど、そう言うことでしたか主様。これでゴミどもを飼い殺しに出来ますね」

「流石は旦那様です。いつでも呼び出して拷問を行う……素晴らしいお考えです」


 いやいやいや、そこまでは考えてねえよ。

 こいつらの思考は本当に危ないな。


「さっさと決めろ。決めなければこの話はなかった事にするぞ」


 後がない三人は、泣く泣く首を縦に振った。


「……け、契約じまじゅ……」

「……う゛っう゛っう゛っ……ひっぐ……うう゛っ」

「……え゛ぇぇぇん゛……」


 身から出た錆だ。同情なんて一切しないよ。


「……」


 さてと、次はこいつだな。


「キャロライン」


 いきなり呼ばれたキャロラインは咄嗟に俺を見る。


「お前はセラーラたちに鍛え直してもらう」

「えっ!!?」


 キャロラインの顔から、さーっと血の気が引いていった。


「え、じゃない。お前は弱い、弱すぎる。それは力の事を言ってるんじゃない。心の事を言っているんだ。さらに言うと怠け癖もある。そこら辺を徹底的に鍛えてもらう」


 そこでセラーラが厳しい顔つきをしながら口を挟んできた。


「主様に土下座をさせるなどもってのほかです。しかも黙って見ていただなんて、妹として失格です。これは教育が必要です。覚悟してください、キャロライン」


 次にピアが笑顔で言い放つ。


「今のキャロラインさんは心構えがなっておりません。あなた様は旦那様の娘となったのですから、それに恥じぬような行動を取ってくださいませ。そこのところをわたくしが心を鬼にして指導させていただきます」


 成り行きだが、キャロラインは俺の娘となった。

 少し違うが、大まかに言い表すと七人目の乙女精霊だ。

 俺の乙女精霊ならば、強く、正しく、優しく、美しくなければならない。

 

「……そ、そんな……」


 キャロラインは三人の精霊と同様に、絶望に打ちひしがれるのであった。






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